レオン
「会長」
「どうした、円野」
彩菜が口を挟む。
剣呑な雰囲気が場を包む……。
「まずは自己紹介では」
(……えー)
真剣な表情で言うことか、それ。
確かに名前すら知らないけど。
「せやせや。挨拶は大事やで」
テオも彩菜の意見に乗る。
キメ顔でシリアスな雰囲気を作っていた会長は天を仰ぎ、一つ息を吐く。
「俺はレオン・デ・イーストン。レオンとでも呼んでくれ」
「ちなみにイーストン家は知る人ぞ知る名家やで」
所謂お貴族様やと何故かテオが自慢げに語る。
「優秀な人材を多数輩出しとってな。その中でもレオはーー」
そこで言葉を区切る。
どうしたものかと待っていると、
「なあ、レオン」
「……なんだ。言いたいことがあるなら早く話せ」
「むっちゃ盛るか、ちょびっと盛るか……どっちが「盛るな!」
立ち上がり、テオの背中にビンタをかますレオン。
「いったーい。暴力はあかんで、暴力は。コンプラ気をつけていこう」
「今すぐ口を閉じるか、黒焦げになるか、どっちか選べば」
レオンは槍状の雷をテオへと向ける。
「…………(お口チャック)」
ジェスチャーで沈黙を告げてくるテオを端へと追いやり、改めて俺へと向き直る。
「それで……取り繕うのも馬鹿らしいな。柳瀬、君はあの日、金色のリュウオウを守った……そうだろう?」
「……守る必要なんかありましたか?」
「必要はない。が、君の能力はリュウオウを守るように展開された」
あの時、左手が妙に熱くなり、掲げたところ俺と金色のリュウオウを囲む形で無色透明の壁が現れた。
「視認はできなかったが、全ての攻撃がリュウオウに届くことなく、霧散した。状況的に君しかありえない」
「待って。リュウオウの力ってことは? リュウオウは能力と似た力を持っているでしょ」
彩菜が問う。
リュウオウはってことは、通常のリュウ達は能力を持っていないのか。
「可能性は零ではないが、力の性質が違った」
「レオンが言うなら違うんやろな。あるとすれば、金色のリュウオウは二つ以上能力を持ってる、とかやろか」
「それでも本質は変わらない。能力は魂に基づく、それはリュウも変わらない。」
「例外なんていくらでもありそうやけど」
レオンは頷き、
「だからこそ、直接尋ねている。違うと言うのなら根本的に考えを改めないといけない。金色のリュウオウ対策のためにも答えが必要だ」
真っ当な言い分だった。
むしろ、はぐらかそうとしている俺の方が不審だ。
彩菜も同じ考えに達したのか押し黙る。
「それを踏まえて答えて欲しい。あれは、君の能力か?」
観念するしかなかった。
「俺もちゃんと理解してるわけではないです。何となくで使ったので」
「つまり」
「はい、俺の能力です」
「金色のリュウオウを庇った?」
「……騒ぎを大きくしたくなかったからです」
下手に誤魔化すのは良くないと判断し、思ったことをそのまま言う。
「ほう。それはどういう意味だ」
「金色のリュウオウに殺意はなかった」
「防衛線を突破し、襲撃を仕掛けておいてか」
「やる気なら今こうしていることはなかったかと」
「ふん、それには同意しておこう。だが、事と次第によっては大惨事になったのは……」
「その可能性はあったかと」
金色のリュウオウが何を確認しに来たのかわからない。
しかし、視線を交わした俺には金色のリュウオウの覚悟も伝わってきた。
「金色のリュウオウの判断基準がわからない限り、気まぐれに襲いかかってくる前提で対策を練らなければならない」
一番確実なのは殺す事だとレオンは言う。
「やー、無理やろ。あれは規格外やん。触らぬ神に祟りなし」
「黙ってろ」
凄まれ、テオはズコズコと引き下がる。
「聞きたいのは、再び金色のリュウオウが襲撃してきた時、君はーー柳瀬隆治は邪魔をするのかということだ」
「俺は……」
答えに困る。
素直に話すしかない。わかってはいるが……。
目の前に座るレオンの瞳には強い意志が見て取れる。
「庇い立ては明確な利敵行為だ」
「そう、ですね」
「だからこそ、はっきりしてもらおう。何故、庇った」
「…………」
金色のリュウオウと人が争うのが嫌だったから。
あの美しい存在に傷をつけたくなかったから。
壊したら……お終いだから。
「……金色のリュウオウが罪のない人を傷つけたのであれば……俺は止めません。けど、そうでないのなら止めます」
「ふん、罪のない、か」
眉を顰めたレオンは後ろにある窓へと近づき、外を眺めながら、
「なら、俺たちは皆罪人だ」
「えっ」
「俺はそう思っている。故に、君は金色のリュウオウを庇い続けることになる」
「い、いやいや、それは流石に無茶苦茶じゃ!」
腰を浮かし、抗議しようとするもテオが間に入り込む。
「はいはーい、落ち着いてな。喧嘩は御法度、やるなら訓練場で」
テオは飄々としながら、
「でも、僕も会長と同意見や。罪とかどうとか、人間の驕り高ぶりの権化やんけ」
「それは……」
「まあ、彩菜ちゃんの顔を立てたいとか、身の安全のためとか、色々考えた結果なんやろうけどな。はっきりと言った方がええで? よっぽどなことでもなければ殺しはせーへんから」
物騒なことをさも当たり前のように言う。
だが、彩菜もレオンも反応しない。
必要があれば実行することを暗に示していた。
「…………」
どうしたものかとセツを見る。セツも俺の方を見ていた。
「隆治さんの思うままに」
本当に彼女は何なのだろうか。
ただ美しいものを見たいがために来たのに、それ以外のことが多すぎる。
「あーもう!」
乱暴に頭を掻きむしり、
「だって、美しかったじゃん!? あれだけ美しいものとか見たことないっての! 戦う姿だって良いかも知れないけど、優雅に華麗にあって欲しい! 人と争うとかしないで欲しい! 無遠慮な攻撃とかナンセンス! ふー、最高でした! お疲れ様です!」
気持ちを吐き出す。
幾分かすっきりした。
彩菜との約束は破ってしまったが、致し方ないた許してくれるはず。
「もうね、妥協点よ妥協点。罪のない人をうんたらとかさ。俺の気に触らなかったら守るよ、守りたいよ。俺は俺の大事なものを守れたら十分ってタイプ。そう思うと守る能力なのは行幸っすわ」
「ぶふっ!」
言い終わると同時にテオが吹き出す。
「ふ、ふふふっ、あははっ、自分死んだで! やばっ、ふふっ、突っついたら爆発しおった! くくくっ、ええやんええやん! 取り繕っても碌なことあらへんて」
死んだらしい。
やっぱ、建前は必要だったか……。
いや、もうどうにもならなかったって。
言い切った分、スッキリはしたし。
(やるってんなら全力で抗うだけだ)
半ばヤケクソで覚悟を決める。
一方、俺の独白の間、顔色一つ変えなかったレオンは俺の目を見据え、
「覚悟を見せてみろ」
それだけ言って部屋を出ていくのであった。




