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 専門科目はちんぷんかんぷんだった。

 基礎知識がないのもあるが、そもそもレベルが高い。

 研究職に就く人向けなのではないだろうか。

 ペーパーテストはないらしいので落第はないが……。


「疲れた……」


 ぼーっとするのも暇なので理解しようと試みるもあえなく撃沈。疲労だけが残った。

 今まで学問に真剣に取り組んでこなかった事実が浮き彫りになった。


(頭良い人って凄いなあ)


 世の専門家達に改めて敬意を。

 俺には無理だ。歯車として現場で体動かすから上手く使ってくれ。


「隆治」


 早々と降参を決め込んだ俺を彩菜が呼ぶ。

 怒りは落ち着いたようだ。平静に見える。


「ついてきなさい」


 慣れたパターン。


「はーい」


 俺に断る権利はないし、断る気もない。

 大人しくついていく。


「やけに素直じゃない」

「いつも素直だよ」

「そうかしら」


 あ、まだ怒ってた。

 これはあの日のことを揶揄している。


(ガン無視しちゃったからなあ)

「こーんなに苦労するのは何でだろうね。隆治が素直なら問題なんか起きないのに」

「は、はははっ」


 笑って誤魔化すことしかできない。

 事実、彩菜にも迷惑がかかっているのだろう。


「……もうしませんって言葉が聞きたいんだけど?」

「あー」


 視線をあさって方向へと向ける。

 彩菜はため息をつき、


「わかってるわよ。覚悟はしてたし」


 まさか初日からやってくれるとは思わなかったけど、と続ける。


「リュウを美しいとかいう人だもの」

「悪い……」


 バツが悪い。


「言葉より誠意が欲しいわ」

「その心は?」

「改めることはできないんでしょ? なら、他のことで私の機嫌を取りなさい」


 そう言って柔らかく笑う。

 彩菜への借りが毎秒増えていく身だ。利子分ぐらいは返せるよう努力しよう。


「頑張るよ」

「期待しないで待ってるわ。見るからにエスコートとか苦手そうだし」

「見た目で判断しないでもらいたい」

「へえ、経験豊富なの?」

「……黙秘権を行使する」

「ふふっ、なにそれ」


 見栄を張りたい時があるのだ。


「授業はどうだった?」

「専門科目は諦めた。俺は現場で生きる」

「最初はどうしてもね。やっていけば少しずつわかるようになるわ」

「えー、本当に?」


 疑わしい。

 彩菜は苦笑する。


「本当よ。リュウや能力について知ることは生存率にも繋がる。頭の片隅に入れておくだけでも役に立つ、かも」


 彩菜は難しい顔をする。


「隆治、金色のリュウオウが来た時のことだけど」

「お、おう」


 怒られそうなので身構える。


「貴方は何を感じた?」


 しかし、彩菜の問いは酷く抽象的だった。


「感じたって……」

「リュウオウは何のために学園に来たのかしら」


『見極めるため』


 しれっと後ろをついてくるセツの言葉を思い出す。

 金色のリュウオウを眼前に見据えた時、確かにそのような印象を得た。

 だが、そうなると……。


(何を見極めようとしてたのか)


 肝心な部分がわからない。

 人を? 今更? キッカケがあったはず。


(…………俺、じゃないよな)


 今までの学園になく、あの日あったもの。

 間違いなく俺はその一人だった。


「攻撃は、してこなかったもんな」

「それよ。確かに金色のリュウオウは人に友好的だと言われているわ。だからこそ、むざむざ学園への接近を許した」


 金色のリュウオウについての資料は多くないと言う。

 ただ、いつの時代であれ礼を持って接するようにと。


「金色のリュウオウは天秤である」


 急にセツが声をかけてきた。

 彩菜は怪訝な表情でセツを見る。


「天秤? 何か知ってるの?」


 セツは答えない。

 彩菜はもう一度繰り返す。だが、やはりセツは口を開かない。

 このままでは空気が悪くなってしまう。


「セツ、天秤ってのは誰が言ってたんだ?」


 彩菜が横でセツと呟く。

 当然、俺がつけた名なので知るはずもない。そりゃ、困惑するわな。


「…………そう、聞いています」


 歯切れが悪い。

 確信はないのか? その割には断言するようだったが。

 疑問に思う俺とは違い、彩菜は納得したとばかりに頷いた。


「信じるわ。学園長の娘である、貴方が言うのなら」

「学園長の娘?」


 セツを見る。


「はい、学園長は私の父に当たります」


 セツの言い回しに引っかかりを感じる。

 素直に受け取って良いのだろうか。

 とはいえ短い付き合いだが、セツは嘘をつくのが苦手に見える。

 答えられない時は黙ってしまう。なので、根本から疑う必要はないだろう。


(……家庭の話に首を突っ込むのは良くないな)


 世の家庭、その全てが順風満帆でないことぐらい知っている。

 穿って見るのも良くないが。


「天秤……。学園に変化の兆しがあったってこと?」


 彩菜はブツブツと呟き、考えを巡らせる。

 そして、程なくして俺の顔を見やる。


「剣を抜きし者……」

「抜いてません」


 訂正しておく。


「隆治が兆し? でも抜かなかった」

「抜けなかった、ね」


 彩菜は俺の話を聞く気はないらしい。

 射抜くような強い目で、


「貴方はあの時、能力を使ったわね」


 彩菜の問いは、


「やーはー! 遅いで自分らー!」


 部屋から飛び出してきた茶色の髪をした男子生徒によってかき消された。

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