金色のリュウオウ
いつの間にか背後に現れた少女。
彼女の浮世離れした容姿は、
「美しい」
彩菜よりもリュウのそれと似ており、神秘的な雰囲気と少しの孤独を感じる。
「…………」
(しまった)
少女は困惑していた。
第一声が美しいだったからだろうか。
確かに健全なコミュニケーションとは言えない。心から漏れ出た声ではあるが。
脳内は自由であれど口に出す言葉には責任が生まれる。
気をつけよう。
「えーーーっと」
どうにかして軌道修正せねば。
(挨拶ーー美しいーーそれともリアクションをーー美しいーー美しい……はっ!?)
思考が纏まらない。
おかしい。気でも触れたのか?
美しいセンサーが反応し続けている。
これじゃあ、どこからどう見てもヤバい奴ですやん。
「よっこらせ!」
「っ!?!?」
柱に頭突きをかます。
力一杯やったため無茶苦茶痛い。が、血は出ていないのでセーフ。
よし、落ちついた(センサーが壊れた)。
「俺は柳瀬隆治。君は?」
挨拶するも少女は手を胸に抱き、対角に距離をとっていた。
不信感を抱かせてしまったらしい。
爽やかを意識したけど、チャラくなってしまっただろうか。
「リュウのこと詳しいんだね」
「…………」
だーめだ、こりゃ。
第一声の大事さを身に沁みて感じる。
諦め、改めて空を見上げる。
水の蓋はそれは壮大で、幻想的な光景だが、今は金色のリュウオウが気になるため惹かれない。
月明かりも途絶え、人工的な光が辺りを照らしているのも気分が盛り下がる。
「やられてないよな……」
「それはありえません」
少女が否定する。
独り言に返答はしてくれるのか。
「金色のリュウオウはナカツノクニに姿を現した最初のリュウ。その身を傷つけた者すらいない」
「……へえ、いいねえ」
ますます見てみたくなった。
彩菜の反応からも動くはずのないリュウオウだったに違いない。
「何を持って今、動き出したのか」
「…………」
少女は答えない。答えを持ち合わせていないのだろうか。
「…………見極めるため」
ふと少女は呟いた。
先ほどまでの断言した物言いとは違い、推量なのだろうか力はない。
(見極める、か。このタイミングで何が見極められるんだろう)
悠久に近い時を生きる獣が。
(まあ、何歳か知らないけど)
基礎的な知識すらないし。
「おっ」
不意に上空に気配を感じた。
遅れて再び警報が鳴り響く。
『リュウオウ襲来、リュウオウ襲来。各自己が出来る最良を。繰り返しますーー』
繰り返される文言の中、
「あ、あああああっ!」
生徒たちの悲鳴が響く。
外界から守るための水の要塞は、
「そ、んな……!」
その身を金色のリュウオウの前に剥き出しにしたのだから。
まるで、彼の者を迎え入れるかの様に。
「金色のリュウオウ……」
少女は切なげにリュウオウを見やる。
その異名に相応しい黄金のリュウ。
「美しい……美しいな……」
言葉が漏れる。
作り出された光は掻き消され、月の淡い光すら飲み込む生命の色。
その御体一つで星であり、生き物であった。
一見して西洋のドラゴンのように逞しく四肢、強固な顎、壮大な翼、精悍な尾だが、尾は長く、何より翼が変わっていた。
三対の翼はまるで天使の羽のようであり、また一切動いていないのだ。
浮いている。翼は飛ぶためのものではないのだ。
「見てみたいなあ」
その翼は何なのか。
どのように駆け、どのように舞うのか。
サファイアを彷彿とさせる宝石が如き瞳が見据える物は……。
「撃てー!」
力強い声と共に大小様々な能力が金色へと飛んでいく。
攻撃を開始した様だ。学園の真上に陣取られている以上、仕方がないことだが見辛くて困る。
「全然効いてない!?」
「怯むなー! 攻撃を続けろ!」
続いての攻撃には彩菜も参加していた。
飛び上がりーーよく見ると炎の柱の塊を足場にしているーー炎を纏った剣を振り下ろす。
「きゃー!?」
弾き飛ばされ、彩菜が地に落ちる。
金色が攻撃した様子はない。圧倒的な強度が成した現象か。
(今、翼が)
彩菜の攻撃が当たる寸前、一枚の翼が身体との間に滑り込んだ。
翼は攻防を担当する武器なのだろうか。
「こりゃまた絶望的だな」
人間サイドの劣勢具合に笑ってしまう。
翼は六枚ある。推定トップクラスの彩菜が一枚で防がれてしまうとなると……。
「勝ち目はありません」
少女は言い切る。
「じゃあ、どうして何もしないんだ?」
金色は防御こそすれ攻撃する素振りはない。
ジッと何かを見ているように感じる。まるで、見極めるかのように。
「見極めるって、もしかして根拠あったのかな?」
少女は答えないどころか顔も見てくれない。
いけずだなと苦笑する。
「おっと」
攻撃の流れ弾が飛んできた。
鐘含め、損傷している様子はない。
「随分頑丈に作られているんだな」
「能力の効きが悪い素材に加え、能力で補強されているから」
「ふーん」
能力全般が効きにくくなる素材があるなら、金色にダメージが通りにくい理由もそこにあるかもな。
それとは別に翼は特別性っぽいけど。
「リュウオウって皆んなあんなに硬いの?」
「硬度で金色を超えるリュウはいません」
「だよな」
あれがデフォルトならいくらなんでも勝ち目ないもの。
とはいえ、動かない金色のリュウオウに効き目のない攻撃を繰り返す人間。
彩菜だけは警戒しているのか翼を使っているが、千日手も良いところだ。
「一つ聞いても良いかな」
「…………」
無言は肯定と受け取ろう。
「何をしたら金色の君は驚いてくれるかな」
「えっ?」
予想外だったらしく間の抜けた声をあげ、キョトンとした顔を見せてくれる。
「目的はわからないけど、折角なら挨拶をしておきたいんだ。記憶に残るような、ね」
そう言って笑ってみせる。
俺からしたら警戒しないでねって意味だったのだが、少女は別の意味で受け取ったのか、
「ふふっ」
口元を緩め、小さく笑う。
年相応の可愛らしい姿だ。
「変な人」
「最近、よく言われる」
ミスター平凡(自称)なのに。
「それで、何か策はあるかな?」
少女は躊躇いがちに頷いた。




