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フラグ

「本当の本当にわからないの?」

「わからないんだなあ、これが」

「そっか……」


 再三の追求の末、ようやく彩菜は納得してくれた。


「才能ないのかな、俺」

「それはないわ。あの風の強さ、私の時より強かったもの」


 強風は能力ではないのか。

 ほとばしるパトスのようなものかね。


「明らかに反応していたのに……。やっぱり、戻したからじゃない?」


 しまった。追求が剣抜けた疑惑に戻ってきてしまった。


「そ、そういえば、能力には無形のものもあるんだよな! そっちの可能性はないかな?」

「……どうかしら、無形といっても第三者が見た場合の話であって、本人たちにはイメージがあるみたいだし。例えばルーシャスは長方形、ドアといった“形”にしないといけない」


 それに使う前から能力自体は理解できたってと付け加える。


「能力を伸ばす、拡張するのはその後の訓練が大事だけど、何の能力かわからないって話は聞いたことないわね」


 むしろ、抜きかけたから変なのかなと呟く。

 いくら否定しても聞き入れてくれる気配が微塵もしない。


「まあ、そこら辺は追々どうにかするとして、そろそろ部屋に案内してくれないか?」

「こっちの気も知らないで能天気に……。いいわ。苦労するのは隆治だしね」


 呆れられてしまったようだ。


「カード貸して」

「彩菜が持ってるだろ?」


 ルーシャスから受け取っていたはずだが。


「白銀の方よ」

「あ、そっちね」


 ポケットから白銀のカードを取り出して渡す。

 剥き出しにしないのと彩菜に怒られる。

 うーん、正論。硬かったから気が回らなかった。

 改めて見る。折れてる様子はない。


「いやはや、申し訳ない」

「まったく、大事な物なんだからね」

「返す言葉もございません」


 彩菜は白銀のカードをジッと見つめる。

 ルーシャスも白のカードにやっていたが、目を凝らせば何か見えるのだろうか。

 試しにやってみる。


(やっぱり、何も書いてないよな)


 家でもじっくりと観察したのだ。今更、新発見なぞ期待できないか。


「……ただのカードね」

「そりゃ、まあ」


 彩菜の観察結果も同じだったようだ。


「黒いカードがこれになったのよね?」


 頷く。


「電話でも言ったけど、彩菜がやってたのを参考に力を注ぐみたいなことしたら……こうなっちゃった」


 彩菜は頭痛がすると言わんばかりに額を抑え、


「こうなっちゃったじゃないわよ。思ってたのと違う……というか、思ってた以上に変なことしてくれたわね」

「いやー、申し訳ないっす」


 そもそも、送り先を間違えたのが問題だと思うんですがね。とは言えない。

 彩菜には世話になってるし、顔も知らない人の失敗を揶揄するのも忍びない。


「……ごめんなさい。元はと言えばこちらのミスが原因だもの。隆治は悪くないわ」

「わからないものを変にイジッたのは事実だし」


 お互いに謝罪しあっても仕方がないので話を変える。


「それより、白銀の意味を教えてくれよ。クラスを指すみたいだけど、一番上は金色なんだろ?」


 彩菜のカードの色が金だったため、一番上のクラスはそうなのだろう。そして、黒が二番目。

 彩菜のリアクションから一番上のクラスの色だと思ってたが、どうにも違うようなので気になっていた。

 彩菜は目ざといわねと睨みながら、


「白銀は……知らない」

「……はい?」


 彩菜はむくれる。


「聞いたことないのよ、白銀のカードなんて。学園には10年近くいるけど、そんな話は噂ですら聞いたことがない」


 金色を超える幻のカードがあるみたいな噂はあったらしいが、白銀ではなくて無色透明だったと。


「だから、普段は違うクラスに成りすましてるって」

「……どっからどう見ても色あるよな、これ」

「むしろ、眩しいくらい」


 白銀のカードは薄暗い部屋の中ながら煌々と輝いている。


「っていうか発光してない?」

「流石にそれはないだろ。寝た時も気にならなかったし」

「……隆治って人間?」

「生まれてこの方人間として生きてきました」


 疑問が多すぎて彩菜が大胆な方向に考えをシフトさせ始める。


「実はリュウですとか言われたらスッキリするんだけど」

「美しい言うといて自分もリュウですは恥ずかしすぎる」

「それもそうね。じゃあ、第三の種族とか」

「別に良いけど、ややこしい世界になっちゃうぞ」


 第三がいるなら四も五もありえるし。


「世界は広いから……」

「世界そのものが多いぐらいだしな」

「実際、リュウノクニみたいな隣の世界は一つではないって説もあるからね」

「マジかよ」

「リュウノクニもナカツノクニもわからない人にはわからない。だから、私たちが知覚できない世界があっても不思議ではないでしょ」


 そう言われたらある方が自然に感じる。


「まあ、気にしたところで意味ないけどね」

「夢があって良いことじゃんか。俺はわくわくしてくる」

「知覚すらできないのよ」

「あるかもしれない。可能性は希望だぜ」

「ポジティブね」

「よく言われる」


 悲観的になるのが苦手なのかもしれない。

 失ったものを数えるのは苦しいし。


「リュウを美しいなんて言う人だものね……」


 彩菜はクスリと笑う。


「あーあ、こんなカード一枚に躍起になってるのがバカみたい」

「いやいや、これも青春だろ。後から振り返ると良い思い出になるよ」

「ふふっ、なら良いわね」


 よしと彩菜は扉へと歩き出す。


「部屋に案内するわ。カードは……学園長にでも聞きましょう」

「学園長かあ」


 どんな人だろう。学園が学園だから一癖も二癖もありそうだが。


「今は分校の方に行ってるから帰ってくるのは来週かしら」


 とりあえず渡しておくわと金色のカードを手渡される。


「貴方のカードよ。白銀とか意味わからないし、きっと一番上のクラスが相応しいはず。嫌なら変えるけど」


 一瞬悩む。

 学生は現場組だ。その中でも最高位となれば前線に出ることになるだろう。

 リュウを間近で見られるのはメリットだが、殺さなければならないハメになるかもしれない。

 俺の不安を感じたのか彩菜は、


「大丈夫よ。創立以来リュウを本当の意味で殺したことはほとんどないから」

「本体はやってないってことか?」


 リュウは完全に顕現するまで時間がかかり、その前段階として力だけが先に現れると。

 それを倒しても戻されるだけで死ぬわけではないらしい。


「仮に本体をやったとしてもリュウは死なないの」

「死なない? 不死ってことなのか?」

「正確には属リュウは、ね。詳しい話は授業でやるけど、一般的なリュウは死んでもリュウオウの力として戻るだけなの」


 そして、時間が経てばまたリュウオウからリュウが現れる。


「だから、リュウオウなら殺せる」


 でもリュウオウが完全に顕現するなどほとんどない。

 だから、大丈夫だと言う。


「完全に顕現することなんて数百年に一度あるかどうかの珍事よ」

「……すっごく不安」

「ふふっ、ポジティブなんじゃなかったの?」

「うーん、ネガティブというか経験則というか」


 そういった星の下にいると冬馬に言われたことがある。


「その時はその時よ。今考えても意味ーー」


 部屋から出た瞬間だった。

 けたたましいサイレンが学園中に響き渡る。


『エマージェンシー、エマージェンシー。リュウオウが接近中、リュウオウが接近中』


 思わず見合わせた彩菜の顔は、とてもじゃないが本人には見せられない程間抜けなものだった。


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