成果
「抜いたでしょ」
「抜いてない」
「抜いた!」
「剣、台座、刺さってる」
リュウ殺しの大剣を睨む。
お前のせいで面倒くさいことになったじゃないか。
脳内に響いていた声はすっかり聞こえなくなった。
状況から察するに大剣の声だったのだろう。
ごちゃごちゃうるさかったから聞き流していたが、リュウを殺せとか物騒なこと言うし、勝手に抜けようとするから台座に深く刺してやった。
前より強く刺さっているはずだ。ざまーみろ。
「ところで彩菜さんや。台座に近づくと物騒な声が聞こえるって噂とかある?」
「は? 心霊現象? 話逸らさないでよ」
不信感バリバリな彩菜の態度に、声が聞こえる者はいなかった。または誰にも言わなかったようだ。
まあ、抜かれていないのだから、いたとしても俺と同じで拒否したのだろう。
「あれ、本当に最古のリュウ殺し?」
「文献が残ってる限りではね。もっと昔からリュウはいたのだから正確には違うわ。ーーだから、話を逸らさないでって!」
「多分、そんな良い物じゃないと思うよ。勘だけどね、あくまで勘」
「絶対何かあったでしょ。……ふん、能力を強制的に開花させる物よ。碌な物じゃないわ」
意外だった。
「崇め奉る人達もいるし、便利な道具と見なす人もいる。なら、物騒だと思う人もいるに決まってるじゃない」
表情で考えていることを読まれたのか、彩菜は仏頂面で語る。
「だって、どの能力もリュウを殺すことに繋がるのよ? 正義心なんかより恨み辛みとかの方がよっぽど納得できるわ」
貴方もそうでしょと言いたげな目で見てくる。
「正義心で動ける人もいるとは思うけど、こいつはどうにも信用ならないな。蛇に這われるような感覚も受けたし」
「それは、私も少しあった。身体をいじられてる感じ。正直、気持ち悪かったわ」
全く感じない人の方が多いけどねとは彩菜談。
「力の強い人にその傾向があるかも。わざわざ聞いたりしないから一部しか知らないけど」
「感応性が高い、とかなのかな?」
「思い込みが強いだけかもよ」
「それは嫌だなあ」
「会ってみればわかるけど、力の強い人ほど変わった人が多いわよ」
「じゃあ、俺の力は最弱クラスだな。常識人だし」
「戯言は無視するとして」
酷い。
人畜無害な子との評価を受けてきたのに。
「この際、大剣のことは良いわ。何にせよ、台座にあるわけだし」
「抜いてないからな」
まだ言うかと睨まれる。
フェイントかもしれないから認めるわけにはいかないのだ。
「こまかーいことは置いといて、能力は何?」
「…………」
己の手のひらを見つめる。
触る前と何一つ変わりないように見える。
「力の規模も大事だけど、能力の種類は多岐にわたる。それ次第で育成プランも進路も変わるわ」
言いながら指先に炎を灯す。
「私の力は炎の柱。剣に纏わしたり、飛ばしたりも出来るけど形状は柱。決して炎を好きに操れるわけではない」
「そうだったのか」
確かに思い返してみれば炎の剣というより、炎の鞘をつけた剣の方が近いかもしれない。
「ルーシャスのゲートも必ず長方形で開かなければならないし、大きさも制限がある。中には無形な物もあるけど、大抵は形が決められていることが多いわ」
能力を理解する上で形は切っても切れない関係なのだと彩菜は言う。
珍しい人だと虎など動物の形に固定されるらしい。
「縁が深い物になりがちだけど、これもまた推測の域をでないし、例外も少なくない」
「穏やかな人に戦う能力が発現するみたいにか」
「ええ。だから、何の能力であろうとおかしくない。話してみて」
最後は諭す様に言ってくる。
どうやら、俺がためらっていると考えたみたいだ。
俺は自重気味に笑い、首を振る。
「彩菜、俺が言い出せなかった理由はそんな簡単な物じゃないんだ」
「……どういうこと?」
「…………絶対に引かないって約束してくれ」
「ひ、引く?」
想定外の言葉だったのか彩菜は困惑しながらも、
「わ、わかったわ。絶対に引かない」
真剣な面持ちで約束してくれた。
俺はありがとうと感謝の言葉を口にし、己の体に起きていることを告げる。
「ーー能力、開花しなかったかも」
サムズアップとキメ顔は忘れずに。
「はあ?」
彩菜の視線が急転直下、氷河期へと突入するのだった。




