最古のリュウ殺し
「彩菜さん」
学園内だからか彩菜は制服を身に纏っていた。
大人びた雰囲気ながらも幼さの残る顔立ちなため、カッコいい服も可愛らしい服も似合う。
……制服を可愛い服にカテゴリーして良いのだろうか。
「案内ありがとう。ここからは私が引き継ぐわ」
「あ、はい。ただ、カードが」
「うん、わかってる。カードも私が対応するから」
ただの会話のはずなのに、彩菜から有無を言わさない圧力を感じる。
ルーシャスも同じなのか、少し腰が引けている。
ただ単に怖いだけの可能性もあるが。
「隆治?」
「はい!」
直立不動の姿勢をとる。
「長旅……かはわからないけど、お疲れ様。疲れてるだろうけど、もうちょっと付き合ってね」
「あ、ありがとう」
カードをひらひらと見せびらかせる彩菜。
(はいはい、ここにありますよ)
ズボンのポケットと軽く叩く。
彩菜は頷き、ルーシャスに、
「それより会長が呼んでたわよ。隆治は任せて。推薦したのは私なんだし」
「会長が? わかりました」
ルーシャスは俺へと向き直り、
「では隆治さん、僕はここで。学園生活が豊かなものになることを祈っています」
「おう、ありがとうな」
一礼するとルーシャスは小走りで去っていった。
その姿が完全に消えるのを待ってから彩菜は、
「それじゃあ行くわよ。ついてきなさい」
颯爽と歩き出す。
威圧感こそあれどルーシャスには態度が柔らかかったのに。
(怒らせることでとしたか?)
したかもしれない。
してないかもしれない。
とにかく、面倒をかけているのは事実だ。
「はーい」
なので素直について行く。
面積や外観とは違い、中身はイメージを超えるものではない。無茶苦茶綺麗ってこと以外は。
埃一つないのではなかろうか。窓などにもパッと見る限り手垢すらない。
執事やメイドでも雇っているのだろうか。
前を歩く彩菜といい、ルーシャスも良いところの子って感じがする。お手伝いの一人や二人いても不思議ではない。
ともすれば、学園にはそういった界隈のプロがいるのではなかろうか。
いるなら見てみたい。
「ここよ」
扉の前に着くが、何の部屋かプレートなどがないためわからない。
部屋の中を伺おうにも窓もない。
重厚感のある扉が聳え立っている。
首を捻っている俺を尻目に、彩菜は扉の横にあるカードリーダーに金色のカードをスライドする。
『認証』
システム音と共に低い音を立てながら扉が開く。
彩菜を見ると顎で促される。
入って良いのなら遠慮なく、
「お邪魔しまーす」
部屋の中は薄暗く、静かだった。
俺の声と靴音だけが鈍く響く。
キョロキョロと周りを見回すが、特に気になるところはない。
後ろを振り返ると彩菜が内側から扉を閉めていた。
今度はカードではなく、指紋認証のような機械に手を置いている。
「ファンタジーってよりはSFちっくだな」
扉が閉まるのを確認してから彩菜に話しかける。
「能力もそうだけど、理論はあるからね。法則を導き出し、あれこれ駆使しながら臨む現象を再現するのは変わらないわ」
「はー、頭の良い人がいたもんだ」
「別にあっちだってそうでしょ」
動いてるから利用している物もあるしねと続ける。
「私たちは利用するだけ、興味があるなら深掘りしても良い」
「俺は恩恵を受ける側で良いよ」
凄いなとは思うが、なりたいとは思わない。
高校生レベルの数学ですら苦労しているのだから。
「ほら進んで」
再び歩みを進める。
少しすると開けた空間に出る。
「…………」
眼前の光景に言葉を失う。
先ほどまでのメカチックな雰囲気は一変、神殿の最新部、祭壇かのような厳かな作り、神秘的とはこのことかと肌で理解する。
灯りは壁にかけられた松明が担い、ゆらゆらと蠢いている。視線が誘導され、最奥にある物に気づく。
「剣?」
大剣が台座に刺さっていた。
白銀の刀身が松明に照らされ、不気味に光る。
「最古のリュウ殺し」
隣に並んだ彩菜が呟く。
「学園が創立したキッカケでもある」
リュウの存在、ナカツノクニという道は知る人ぞ知る秘密であった。
様々な思惑の末、長い間、混沌を極めていたナカツノクニを纏めたのが初代学園長。
「最初の能力である初代学園長は、能力の開花を促す大剣の存在を持って交渉をかけた。ーーあくまで文献に書かれているってだけだけど」
「能力の開花……。じゃあ、俺も」
彩菜は頷く。
(本当ならいくつかの段階を踏まないといけない……。でも、貴方の可能性は)
彩菜の深刻そうな表情が気になる。
「命の危険とかはないんだよな?」
「ええ、気分が悪くなったり、倒れたりする人が稀にいるくらい」
「できれば避けたいけど、許容範囲内だな」
「大剣の柄に触れれば自然と能力が発動するわ」
「止め方は?」
「大丈夫、誰もが自然とできるから」
それとなくフラグに感じる。
彩菜から感じる妙な緊張感を含めて。
とはいえ、やらない選択肢はない。
大剣へと近づく。
『始まりの狼煙にして終わりの鍵』
ふと声が聞こえる。
……いや、脳内に響く。
「彩菜、何か言ったか?」
「何も言ってないわよ」
「……だよな」
視線を動かしながら歩く。
『光は闇を白日の下へと晒す』
やっぱり聞こえる。
だが、誰かが隠れている気配もない。
変な電波でも受信したのだろうか。
『リュウノクニに裁きを』
大剣の下へと辿り着く。
声は近づいてくる。……俺が近づいているのか?
『担い手は今ここに』
柄へと手を伸ばす。
指に絡みつく蛇のような何かに顔を顰める。
完全に掴むと全身へと広がり、強烈な風が吹き荒れる。
「な、なにこれっ!?」
彩菜が叫ぶ。
台風の目なのか、それとも発生源なのか、俺は髪や服がはためく程度。
「能力の放流なの!? だとしたら……!」
彩菜さんの目つきが鋭くなってるのですが。
もしかして、エネミー判定されてます?
『さあ、リュウを皆殺しにしようではないか!』
声はいよいよ真横にいるレベルだった。
同時に右手にも違和感、大剣を台座から抜こうと上に動き始める。
「ッ!」
彩菜の目が見開かれる。
この大剣、創立以来一度も抜けたことがないとか言わないですよね?
「誰も抜けなかった大剣が……!」
やっぱりな!
必死に抗うことで均衡を保っているが、筋肉が震えだす。長くは持たない。
『リュウの血を注げ、さすれば強大な力がーー』
「うるさいっ!」
左手で右腕を打ち付ける。
硬い音と共に台座と剣が起こしていた摩擦音が静まる。
脳内に響く声も……しない。
柄から手を離し、彩菜のところへと戻る。
強風に耐えていた体勢のまま固まっている彩菜に、
「いやー、抜けるかと思ったけどそんなことなかったわ」
「んな訳あるかあー!」
彩菜の再起動速度は天下一だよ、きっと。




