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ケツァル・コアトル~太陽になる男~  作者: AU
第一章 北方攻略編
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第八話 忠犬少女ポチ②

 



  まだ朝日が昇る数刻前に俺は目覚める。自然とこの時間に目が覚めるようになっていた俺は、眠気眼を擦りながらも勢いよく布団を蹴り上げた。比較的温暖な気候の続く帝国とは言え、流石に深夜や明朝は少し冷える。こうでもして体を無理矢理起こさなければやってられないのだ。




  とは言え、昨日は散々な一日だった。俺はぼんやりした頭の中で昨日の風呂での出来事を回想する。

  まさか風呂を女に覗かれていたとは。それ以上にあいつの口ぶり、日常生活を全て監視していた風でもあった。そんなの仮に相手が女じゃないとしても初めての体験だ。美少女だからほんとにギリギリ嫌悪感は湧かずに済んでいるが、刺激的な体験であることには変わりない。




  「女は何を考えているのかわからん。お前の母さんもな」とオヤジはよく言っていたけれど、あんな出来事があった手前、余計に女という生き物がわからなくなってしまった。アンデルセンのような直情的な『男』はどれだけ関わりやすい存在なのか改めて実感する。

  しかも、今日はあの女と一緒に特訓だったか…いや、流石に昨日の今日でそれはしんどいな…と独りごちるも、結局のところ力の乏しい今の俺には選択権が無い。仕方が無いので体をベッドから放り出して活動を始めることにした。




  俺は毎朝何故か、サイドテーブルにキッチリと置いてある着替えに手を伸ばす。

  すると、思いもよらぬことに俺の右手は柔肌に触れた。…嫌な予感に、全身を悪寒が駆けずり回る。




  「おはようございます義兄様(おにいさま)。こちら着替えです」




  「っ!おはようじゃねぇのよ!!なんでお前ここにいるんだ!!」




  嫌な予感は的中だった。ベッドの横、サイドテーブルが本来あるべき場所には、昨日風呂場で出会ったポチが立っている。




  「私は義兄様の下僕の様なものです。義兄様を起こしに来るのは当然、お着替えもお手伝いします」




  「て、手伝わなくてもいいから!一人で出来るもん!てか、昨日からなんでそんなグイグイ来るのさ!?今までそんなこと無かったじゃん!」




  「陰ながら、悟られることなく義兄様方をサポートすることが私の役目であると、その昔お父様に言いつけられました。ですが、昨晩私のことは知られてしまいましたので、これからは公にサポート致します。もしご迷惑であれば言ってください。自害します」




  「おにいさま()って…お前他の人達にもその呼称使ってんの?マジで…?

  …いやまぁそんな奴も…いるか???朝から心臓に悪いけど、別にお前がどんな呼称を使おうが勝手だもんな。…とりあえずありがとう。後、自害はしないで。絶対に。さいっこうに寝覚め悪いから」




  マジか。これまで異様に良い接待を受けているなぁと思っていたのだが、それもこれも全てコイツがやってくれていたんだ。

  朝起きると着替えが揃えて置いてあるのも、部屋に戻ると必ず掃除やベッドメイキングがされているのも、何故か食事が他より豪勢なのも、貸切の風呂が毎晩ピッカピカなのも、後は起きたら包帯が傷に巻いてあったりもしたな…あれも全部…




  …おいおい冗談きついぞ!マジでコイツが全部やってたの!?もうストーカーじゃないか!暇かよ!何で!?何がコイツをそこまでつき動かしているんだ!?




  「……や、はぁもういいや何でも…とにかくお前も今日から特訓に参加するんだろ?早く準備してきなよ」




  見るとポチは部屋着と言うよりも肌着に近い格好だ。それでも清潔感は高く、洗練された格好に見えるのだが、流石にこのまま特訓に行く格好では無いだろう。

  しかし、俺にそう言われたポチは珍しく哀調を帯びた表情になって、手をむぐつかせながら上目遣いで俺の事を見上げる。




  「シュン…」




  「ま、また、シュン…」




  「…いえ、何と呼ばれてもいいとは申しましたが…()()と言うのは少し、嫌です」




  赤面しながらポチはそう呟く。俺はその素振りに何だか、ちょっとキュンとしてしまった。そりゃ年頃の、何なら俺より歳の若そうな女の子だ。お前ってぶっきらぼうに言われるのは嫌、か…。

  それに、何だかんだで俺の身の回りの世話を一週間の間全てこなしてくれていたのだ。その点に関しては感謝しなければならないし、ある程度の要望であれば俺ものむ義理がある。変態であることに変わりないのだけども、恩があることも間違いない。




  「…あ〜わかったよ。ポチだったよな?これからはそう呼ぶわ。でもその代わりって言ったらあれだけど、ポチも俺に敬語使うのはやめてくれよな。ちょっとむず痒いんだ。

  あ、後もうお世話も大丈夫だから!俺こう見えて結構一人でなんでも出来るように育てて貰ってるからさ!俺の為に時間使うぐらいなら自分の為に使ってくれな!!」




  何だかんだで美少女が自分の部屋にいるという事実を再確認した俺は早口にポチをまくし立てる。ただ、今の俺の言葉は全て本音だ。




  確かにコイツはおかしな奴だけど、それ以上に同じ帝国の兵士で、今日から特訓を共にする仲間である。アンデルセン程フランクな感じになれとは言わないが、いつまでも敬語で接されるとこっちもたじろいでしまうのが自然だろう。

  そんな思惑もあり、少し柔らかい対応にして欲しい。と、お願いしたつもりだったのだが、対するポチは口を噤んだまま、やや驚いた表情を浮かべて動かなくなってしまった。




  頬を汗が伝う。…逆鱗を踏んでしまったのか…?




  「お、おい。俺なんかまずいこと言っちゃったか?そうだったら謝るからさ、なんか喋ってくれよ。さっきみたいに…」




  「フフン」




  「今度はフフン…」




  ポチは俺の言葉に趣の異なる態度で応じる。




  「いえ、不機嫌になっている訳ではありません。大兄様と同じことを仰るので少し驚いてしまったんです。

  でも、確かに聞き届けました。すぐには通常の話言葉に出来ないとは思いますが、頑張りますね。ハルト」




  続けて、朗らかな表情になったポチは俺に向けてそう言った。

  え、なんかもうよくわからない感情なんだけど…変態だけど妹属性があって、検診的で純粋で、逆に本当の妹だったらこんな気持ちにならないんだけどな。




  「お、おう。大兄様ってのはよくわかんねぇけど、そんな感じで頼むわ。…んじゃまた後でな」




  無理に気丈に振舞った俺の言葉にやんわりと笑みを浮かべたポチは、「はい」とか細い声で応じた後、音も立てずに部屋を出ていくのであった。




  ~~~~~~~~~~~~~~~~




  いつもの中庭で、いつも通り俺の特訓は始まる。いつもと違うのは相手がアンデルセンだけでは無くポチもいること。

  しかしそのポチにすら俺は手も足も出ない。




  よく鍛えられた基礎戦闘術とその応用と言った形のアンデルセン。それとはまた別のベクトルでポチは強く、身体能力とその速度にものを言わせているタイプだ。

  かと言って雑な動きでは無く、全ての動きがスピーディーかつ洗練されており流麗そのもの。木刀の一振り一振りが目にも止まらぬ速さで打ち出される。その上、空中を駆けるように攻撃をいなし続けるその姿はリズム良く舞踏をしている様で、どこか目を奪われる美しさも垣間見えた。




  「義兄様…じゃなくて、ハルトは強いですね。ここ一週間遠目から見ていても思いましたが、成長速度が段違いです。きっとセンスがあるのでしょう。とても数日前に戦闘を習い始めた人間とは思えない」




  なんてことをスラスラと言われるものだから俺の自尊心はズタズタだ。




  「どの口が言ってんだよ…俺はまだポチにすら一太刀も浴びせられてねぇじゃんか」




  結局、俺が憎まれ口を叩いてしまうのも無理は無いだろう。だが、それでもポチは俺を賞賛することをやめない。




  「はい。私は生まれた時から剣術の指南を受けていますから、流石に一朝一夕で追いつかれては困ります。でも、純粋な徒手空拳なら後一月と数日もあればどうなるかわからないですよ」


 


  「おう!あれだ、ハルトは確かに筋が良いぞ!まぁ荒削りな部分はあるけどな!

  なぁポチ、改善点を教えてやりな!」




  昨日裸を見られている。というかほとんど俺と一緒にいる手前、一挙手一投足を監視されていたに近いというのに全く気にする素振りを見せないアンデルセンは、ポチの肩をポンポン叩きながら陽気にそう言った。




  「ムカッ。気安く触らないで下さいアンデルセン」




  「ハッハッハッ!お前俺には厳しいな!なぁあれよ、ハルトみたいに接してくれってば!ちょっと寂しくなっちゃうぜ俺は〜」




  ポチはそんなアンデルセンに心底嫌そうな顔を向けて手を払い除ける。

  なんだあれか。コイツ、アンデルセンのことは全然気に入ってないのか。誰彼構わず滅私奉公致します、みたいな感じかと思ってたがそんなことも無いらしい。




  むむ、やっぱりポチのことがよくわからなくなってきたな。どうしてこんな子が俺の事だけ特別気に入ってくれているのだろうか?どうもそこだけは不自然なんだよな。アンデルセンの方が性格も技術も良いと思うんだが。まぁほんとに、オヤジの言ってた通り女の考えていることはわからんってやつか。




  「でも、そうですね。アンデルセンの言うことも一理あるかもしれません。確かにハルトの攻撃は大振りなものが目立ちます。アンデルセンと修行してたのでアンデルセンのせいですね。

  まず殴打は力みすぎです。肩の力はグッと抜いて肘から打ち出すように。関節は無いものと、いえ、寧ろ関節が複数個存在するようなイメージをして下さい。その方が鞭のようにしなる、それでいて威力と速度の高い攻撃になります。

  足捌きもやや雑です。踏み込みは申し分無いのですが、踏み込んだ次の手がコンマ数秒遅い。常にどの方向にも動き出せるように膝と踵に意識を集中させて下さい。前と後ろのステップも勿論大事なのですが、ハルトに足りていないのは横の動きです。それが出来れば自ずと上下の動きにも対応出来るかと。

  後、剣術はセンスの問題ですね。ハルトは剣を扱うよりも徒手空拳の方が圧倒的に得意に見えるのでそっちを極めていくのが堅い判断だと思います。得物を持った動きはどうしても考えることが多くなってしまうので、慣れが重要ですから…明日からは剣術指導の時間を少し短くしましょう。


  現状私の所感は以上になります」



 

  「う、うぉぉ。すげぇ……アンデルセンとは違って言語化がクソうまい…、!」




  な、なんという的確な指導…!四六時中監視していたからってのもあるかもしれないが、まさかここまで分析されているとは。




  俺は不思議と自信が湧いてきた。自分の思いもよらぬ部分を懇切丁寧に教えてくれるこのスタイル。別段アンデルセンが悪い訳では無いのだが、アイツは口下手な上、根性論でどうにかしようとする部分がある多い。実戦経験が大事なのは間違いないとしても、時にはこうやって至らない点を伝えてくれた方が早く成長出来るのも自明のことだ。何と言うか、これなら出来る感じがする。

  俺は「そうだろう!やっぱり俺の言う通りだったな!」と上機嫌なアンデルセンを他所にポチへの評価を改めるのであった。




  「てなわけでだ!あれだな、これからはわからんことがあったらポチに色々と教わるといい!俺が教えられるのは基礎的な部分だけだ。それをどう自分のものにしていくか、応用していくかはそう、ポチの方が得意分野だろ!」




  「当たり前です。あなたと一緒にしないで下さい。でも、ここまでハルトが動けているのは他ならぬあなたのお陰でしょうから、妹として、ある程度の感謝はしましょう」




  妹じゃあないけどね。まぁ何はともあれ僥倖だ。こんな優秀な教師役の人間と相性がいいのは偶然の産物。こっから俺の能力の使い方などなど、様々なことを教わっていこうじゃないか。




  「そういえば、嫌だったらいいんだけど、ポチも当然神格者なんだろ?一体どんな能力を持ってるんだ?一応一緒に修行していく訳でさ、俺ちょっと気になるんだよな」




  「ワオ。流石はハルト、見抜いていましたか。

  その通りです。私は神格者。そして司る神は『時の神』。能力は『時間跳躍』になります」




  「時…ってこりゃまた随分と大物が出てきたなぁ。しかも跳躍か。あんま想像つかないんだけど時間跳躍って言うとどうゆうことが出来るわけ?」




  「ムム…説明が少し難しいのですが…」




  ここから、丁寧過ぎるポチの長々とした説明が始まった。要約するとこうだ。




  ポチの時間跳躍はその名の通り『指定した()()時間を飛び越える能力』。能力範囲は自分と触れている物体のみ。つまりは、五秒と指定すれば、次の瞬間には五秒先の未来へ瞬間移動のようなことが可能だということになる。その五秒間の間に能力使用者が感じること。例えば空が明るいなとか、風が冷たいなとか、何ならその間に受けるはずだった攻撃だとか、それら全てを一切合切飛び越えることが出来る。

  脳内で想像可能な範囲の時間指定しか出来ない為、最大で飛び越えられるのは良くて十数秒。しかし理論上「一年」と時間指定すれば一年分その瞬間に歳をとることも可能だ。勿論その一年で経験するはずだったあらゆることは無かったことになるのだが。




  最初この説明を聞いた時、俺は「単なる瞬間移動能力か」とも思った。瞬間移動ってのも十分以上に凄いことなのだが、再生とか、俺の屍人浄化能力のようなものと比べればやや簡素なものに見える。しかしすぐにそうでは無いと気付く。実際この能力は深く考えれば考える程恐ろしい能力なのである。




  例えば、仮に今いる地点から敵の首に剣先を当てるまでの時間が三秒だと算出出来て、その上で能力を使用した時、よーいドンの次の瞬間には首を剣で貫かれているということになるのだから…それは最早チートの領域じゃあないだろうか?一体一の戦いであれば負ける未来を想像出来ない。




  当然、強力な能力故の弱点もあることにはある。




  一つは使い所の難しさ。

  時間跳躍は跳躍後「先程指定した時間が現実時間で過ぎるまでは再使用できない」とのこと。だから、五秒間時間を飛び越えたならその後五秒は能力を使うことが出来なくなってしまう。連続使用が出来ない以上、もし飛び越えた先で敵の総攻撃を受けるなんてことがあればひとたまりもないんだろう。多対一の場面で有効活用が難しい理由はこの制約があるからだそうだ。




  そして二つ目は圧倒的にセンスに左右される能力だという点。

  センスと言うのは時間を測るセンスのこと。先程の例を用いると、現在地から敵の首へ剣先を当てるまでの時間が三秒であるのにも関わらず、四秒と指定してしまうと敵をすり抜けて返り討ちにあってしまう。逆に短く二秒と指定したなら敵に攻撃へ対処する隙を与えることになり能力を使用した意味が無い。一秒のミスが命取りになるような実力者同士の戦いであれば、尚のことこの弱点は顕著に現れるだろう。それに実戦では『三秒』とかキリのいい時間であるとは限らないのだ。コンマ数秒単位、或いは更に細かい時間を正確に測るセンスが必要不可欠になってくる。




  そんな能力の弱点に関してポチは 「私はそのセンスがあった様で、ある程度上手く使いこなせますが、同じ能力だった父上とは比べ物になりません。私はまだ奇襲にしかこの能力を有効に使えない。連続する戦闘では未熟者です」と言っていた。が、それだけでも十二分に凄いだろう。そう俺は感心する。




  だって考えてみて欲しい。普通コンマ数秒のズレも無く敵との距離を測れるだろうか?調子が悪く動きが鈍る日だってあるはず。いつでも「この距離なら何秒だな」という訳にはいかないはずだ。

  桁外れの時間センス。そして並々ならぬ努力で自分の速度を理解することがどれ程のものかは皆目見当もつかないが、想像を絶する鍛錬を生まれてから積み続けたことは武術を習い始めて数日の俺でもわかった。さては天才だなオメー。




  「そりゃそうだ!ポチはマジモンの天才さ!あれだぜ、このままいけば十数年後には天帝様にも匹敵するんじゃないかって言われる程のきりんじだ!」




  感心する俺を見てアンデルセンがそう言い放つ。ポチは俺やアンデルセンに褒められたのが嬉しいのかどこか所在無さげだ。




  「ウグ…なんだかむず痒い気分です。こんなに率直に褒められたことは無かったので…

  はい。でもまだまだ、私如きでは大兄様には及びませんよ」




  「如きではってそんな言い方するなよ。いや、今能力聞いて思ったけどさ、ほんとにポチはすげぇと思ったぜ?そこはちゃんと自信持った方が良いって…」




  そこまで言うと俺はふとモヤモヤした疑問が頭に再び湧き上がってくるのを感じポチを訝しむ。




  「……ポチ。もしかしてお前、天帝様のことを大兄様って呼んでんの?え、ポチってあれだよね。天帝様と同じクアウトリ家の人だよね。もしかしてだけど、天帝様が本当に兄貴だったりする?」




  「?言ってませんでしたか」




  「おま、アンデルセンみてぇなこと言うなよ。聞いてないよ俺」




  前にもポチの口から出てきた『大兄様』と言う単語。俺に対する『おにいさま』とは違って、真に意味を持っていそうなその言葉を以前はただの冗談だと思って聞き流したが、ここに来て点と点が線で繋がる。

  ポチの常人離れした戦闘センスも、アンデルセンには兄貴呼びをしないのにお兄様()とか言ってたことも、そうであるのなら全てに合点がいく。




  「まぁ正確には兄では無いのです。従兄弟と呼べば良いのでしょうか?私の父は大兄様の父君にあたる先代天帝様の弟でした。

  クアウトリ家はストイックなので、一親等二親等などを全て直系の者にするわけでは無く、長男。つまりは天帝になる者とその子供。それに加えて長男兄弟とその子供までが直系とされます。なので一応私も直系のクアウトリ家であると言えますね」




  「ほえ〜じゃあポチはお姫様じゃんか。たまげたな…俺お姫様に世話して貰ってたのかよ…。てか、それなら何で分家の戦闘部隊にいるの?一応王族ならそれらしい役割を与えられるもんじゃない?」




  そんな俺の呟きにアンデルセンがチッチッとムカつく顔で指を振る。




  「ハルト〜さっきもポチがあぁ言ってたろ?クアウトリ家ってのはな、すっごいスパルタなとこなのさ。直系であれ、次期天帝であれ、まずはクアウトリの戦士隊。あれだ!通称『鷲の団』に所属して実戦経験を積むことになってるんだよ。あれだぜ?お前がこの前会った天帝様だって昔はそこに所属してたんだぜ?」




  「…ほ、ほほう」




  なるほどな。今までは気にもならなかったが、クアウトリ家の構造もだいぶ見えてきたぞ。何であれ、今まで知らなかった情報を知れるってのは嬉しいことだ。




  しかし、それでも何でポチの様なお姫様が俺の世話ばかりしていたんだろうと疑問に思う。経験を積む為に部隊に所属しているのはわかるとしても、忠臣とも言えるような立ち位置で俺に付き纏っているのは意図がわからない。まさか惚れられているのか?こんな俺に?とそんな淡い期待をしつつ率直な質問をポチに投げかけたのだが、当の本人は少し間を開けて




  「義兄様ですので」




  と、答えの出ない回答で茶を濁した。




  まぁいいか。答えが仮に期待通りのものだったとしても、これ以上聞くのは野暮ってものだ。そのぐらいは俺でもわかる。

  初対面の人に理由も無く好かれるのも悪い気分じゃないなと俺はそう思うのであった。




  そんなこんなで、帝国での修行の日々はやや朗らかなものに様変わりする。

  気付いた時には既に数週間の時が過ぎており、北方への出立の日が近付いていた。





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