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ケツァル・コアトル~太陽になる男~  作者: AU
第一章 北方攻略編
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第二話 決着と決心

 

 


  「なんだぁこの犬。いや狼かコレ?」




  オレンジ髪のやや大柄な男は目の前に横たわる黒い犬を見ながら独り言をこぼした。綺麗な白い制服に身を包みながらも大きく前のボタンを開けて着崩している男は、そのざっくばらんな見た目に似合わない訝しげな表情を浮かべている。その理由は、目の前の犬の形姿にあった。




  黒い犬は体の至る所を腐らせ、腐肉でぐじゅぐじゅになった肉体からは骨を覗かせている。狼かと見間違う程大柄な体躯だが、爪も牙も大部分が抜け落ちていた。話に聞いていたゾンビ犬そのものだ。しかし最も異様なのは、




  「うーんと、腐ってるようで違うなぁ。あれだ、消滅に近いかぁコレ。じゃあ間違いなくこりゃあれだな。まだまだ微弱だけど、光が宿ってる」




  犬は既に息絶えている様だが、しかしゾンビはそう簡単に死なない。日光に当てられるか、()()()()()()()でなければ殺すことが出来ない。それがゾンビ。否、現在北方に混乱をもたらしている『屍人』であるのだ。当然ながらこのゾンビ犬も同じ特性を持っているはずだが、しかしここは屋内。外が朝だからと言って消滅することは無い。




  以上を踏まえると、このゾンビ犬は『光の力』によって攻撃されたと結論付けられる。そしてその推測は間違っていない。




  このゾンビ犬はハルト達があの洞窟へ発つ前日。宿泊していた宿に侵入してきたのだが、ハルトが殴り飛ばして事なきを得た。そんな犬である。その際ハルトの力が無意識に、しかし微妙に漏れ出しており、本来撃退できるはずのないゾンビ犬を殺すに至ったのだ。




  そしてこの消滅しかけているゾンビ犬の発見は、オレンジ髪の男にとってこの上ない僥倖である。

  何を隠そうこのオレンジ髪は長い間ハルトを探し続けていたのだから。たまたま「死にかけのゾンビの様な犬がいる」という情報を聞かなければここには来ていなかった。




  「あ〜ご主人!?とりあえずこのゾンビ犬はこっちで処理しとくから大丈夫でっせ!ただ、え〜っとね、一つだけ聞きたいことがあるんすよ。

  ここに昨日泊まってた人間はどんな奴でした?あれだ、背格好は?髪の色、目の色は?後、どこへ行くとかは言ってました?」

 



  明るい口調で、しかしやや真面目そうな表情を浮かべオレンジ髪の男は宿の主人に尋ねた。




  「え、えぇ。一人は厳つい見た目の男で背丈はあんたぐらいかな。髪はやや黒みがかった金髪で、目の色は青だった。あれは地元の人間だなぁ。

  もう一人は確か170センチぐらいの青年で、綺麗な白髪と黄色い目をしていましたよ。行先はノルヴの街と言っていたような…

  正直何のためにあんな廃れたところに行くのかわかんないですけどね。ま、我々もそこまで人のことを言える身では無いんですが」




  「まぁそうですね!確かにそれはわからない。でも色々とわかったことはあります!ご協力感謝です!」




  「??」




  宿の主人の疑問などお構い無しにオレンジ髪はそそくさと建物を出ていった。これまた綺麗に整備された馬車に乗り込み向かう先は先程聞いたノルヴの街。早朝だと言うのに有り得ない程の猛スピードでその方向へ駆けていく。




  「はぁ。何だか大変なんだなぁ帝国の兵士さんは」




  既に小さくなった馬車を見送りながら、結局部屋に置き去りにされたゾンビ犬の死体を蹴り飛ばし主人はそう呟くのだった。


 


  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




  バシュッと甲高い音が弾けると共に俺の腕から血が飛び散る。感じたことの無い類の痛みに顔を歪ませながら、俺は再度敵に向かって突進していった。




  「なんなんですか君。怖いです。僕の力がこんなにも発揮されないのは初めてですよ。あぁ、怖いなぁ」




  そう言うと敵は俺の突進を軽くいなし、思いっきり腹部を蹴飛ばす。腕でガードはしたものの勢いを殺せず岸壁に背中からぶち当たり、背骨の軋む音が頭に響いた。

  それでもそこまでのダメージを感じないのはやはり俺が神格者であるからだろうか?そんなことを考えながら俺はゆっくり立ち上がり敵を睨みつける。




  オヤジを看取って数秒後、事の発端である犯人はすぐに姿を現した。

  エド。と名乗ったそいつはボロボロのハンチング帽を被ったみすぼらしい格好の男だ。口ぶりは紳士的なのだが、どこか狂気を孕んだそんな感じ。想定ではもっと好戦的な人間が出てくるはずだったがこれはこれで恐ろしい。しかしそんなエドは不思議そうな表情を浮かべたまま動こうとはしなかったのだ。




  好機と見た俺は無作為に殴りかかったのだが、呆気なく撃退され、何度かそんな展開を繰り返している。しかしやはり、優位に立っているはずのエドは疑問符を顔に浮かべたままだ。




  「何不思議そうな顔してやがる。とっとと攻撃しかけてこいよ、オヤジにやったみたいによぉ!」




  「怖いから大きな声を出さないで下さい。それに、今攻撃はしています。

  …だけど、どうも君には効果が薄いらしい。怖いですよ正直。タネは全くもって検討がつかないのだけれども、どんな力を持っているんですか?こんなことは前例がありません。すると君も神格者なのですか?にしては随分力が弱いですが」




  煮え切らない返答にムカついた俺はエドに向かって唾を吐く。オヤジを殺された怒りは収まっていないのだ。強がってでも敵に向かっていくしかない。

  だが、これといって有効手段が無いのも事実だ。『光の力』もあまり発揮出来ていない様だし、俺は腕が血だらけなのに相手にはかすり傷すら負わせられていない。怖い怖いと繰り返し呟いているものの俺が不利な状況は変わっていないのだ。今のままの状況が続けばいずれはこっちが倒れることになるだろう。何か策を練らなければ。




  (さっき感じたあの感覚をもう一度取り戻さなきゃ。あの拳に宿った力。あれがきっとオヤジの言ってた光の力なんだ。多分あの力を上手く使えればアイツにもダメージを負わせられるはず)




  何故かエドの遠隔攻撃が俺にはあまり効いていない。つまりオヤジを一瞬で殺したであろうあの手段をアイツは上手く使えていない。であるならばこのチャンスは決して逃せないだろう。俺はもう一度グッと拳に力を込めて臨戦態勢に入る。




  急に湧き上がってきた力に慣れないが、腹に、丹田の部分に溜まった力をそのまま拳へ持ってくる感じだ。ジワジワと温まってきた体。そこに宿る力を使いこなすことでこの力は真価を発揮するはず。

  今こそ、オヤジに教わった戦闘技術を使いこなせ。確実にエドは神格者で、俺よりも身体能力が高い。でも、俺も同じ神格者なんだ。だったらやりようによって勝てる可能性もあるはず。




  だがしかし、そんな期待を尻目にエドはのそりのそりと俺に近付いてきた。




  「何ですかその体に纏ったモヤモヤは。怖い。怖いなぁ。本当に怖いんですよ知らないものは。

  …でも、どうやら本気で僕を殺しに来たみたいですね…近づくのは怖いですが四の五の言っていられない。とっとと終わらせましょう」




  エドはその言葉を皮切りに大きく右腕の形を変形させる。それは正しくあの馬やさっきの俺の脚みたいな星球の形で、刺々しい柄頭は見るからに殺傷能力が高そうだ。あれに神格者の力を乗せて殴られたなら流石にひとたまりも無いだろう。言葉通りさっさと俺を始末するつもりらしい。

  けれども、こっちだってそう簡単にやられる訳にはいかないのだ。俺は攻撃への対処法を考える。




  「私の力は殺意を具象化させるものなのです。当然、殺意が高まれば私自身の肉体を変形させることも出来る。少し痛いですがやむを得ませんね。先に仕掛けてきた下郎はあなたなんだから」




  「寝言は寝て言えよ外道。何もしてねぇオヤジを先に殺したのはお前だろうが。

  それに能力を自分から明かすやつは馬鹿だってオヤジが言ってたぜ!」




  「何ですか全く。出会ったばかりだと言うのに悪い口ですね!!」




  まるで被害者のような口ぶりのエドに俺の怒りは頂点に達する。それでもエドは素知らぬ顔で突貫してきた。振り下ろす形の攻撃が迫ってくる。事前準備が功を奏して何とかすんでのところで避けれたものの、さっきまで俺の立っていた地面が大きく抉れるのが見えた。




  「ほんと何を言っているんだか…僕はただこの洞窟で寝ていただけ。そこにあなた方が勝手に入ってきたんじゃありませんか!しかも殺意に応じてオートで攻撃しているのにあなたには効果が無い様子。恐怖以外にこの感情が言い表せますか!!」




  ヒートアップしてきたのか、右腕に備えた星球による攻撃を勢い良く打ち続けるエド。幸いその攻撃は大振りな殴打なので何とか避けることは出来ていたが、それでもギリギリだ。力を溜めることは出来たのに、それを攻撃に転用する暇も無い。それどころか俺はどんどん壁際に追い詰められていった。すぐ後ろに冷たい岸壁が迫っている。

  だけど、これでいい。作戦通りだ。追い詰められた時こそ最大のチャンスがやってくる。それを全力で活かしきれ!




  「無礼な青年よ!これで終わりです!」




  (違う!今だ!)

 



  上から振り下ろされた攻撃が背後の岩壁を削る。しかしエドの星球となった右腕はそのまま壁にめり込んでほんの少しの隙が生まれた。その隙を見逃さず光を纏った拳でエドの顔面にアッパーを食らわす。エドはすんでのところで顔を傾け攻撃を流すが、右耳の部分を削り取られ体制を崩した。




  「避けたつもりか!?まだだぜ、喰らいやがれ!!」

 



  それでも俺は攻撃の手を緩めず、もう片方の拳で腹部へ打撃を加える。

  重い衝撃に耐えきれずエドは嗚咽の音を上げながら後方の岩壁まで吹き飛んでいった。




  「グゥッ!!!」




  エドにとって光の力はどうも相性が悪かったらしく、思いっきり吹き飛ばされた奴は身体を起こせずに蹲りピクリとも動こうとしない。数秒の間は呻き声をあげていたがすぐにそれすらも聞こえなくなっていた。




  どうやら神格者にも相性か何かがあるのだろう。推察するに光の力と言うのは悪人に対しての特攻があるといったところか。思っていた何倍も上手くいったが何はともあれ、これで後はトドメを指すだけだ。




  「はっ、これが俺の力…!!へへ、どうだ見たか!これが光の力だ!」




  俺は喜びのあまり前屈みになってガッツポーズを取る。オヤジの仇をとったことも勿論、それと同じぐらい自分の力で敵を討った事実が嬉しかった。

  最初は何が何だかわからなかったが、俺の力がここまでのものだったとは。というか強すぎる。一発殴っただけなのにあんなにダメージを与えられるとは思っていなかった。エドが単純に脆すぎるのだろうか。まあ見た目も屈強なそれでは無かったが、それにしても効きすぎだ…




  …いや。違う、のか?これは何か訳があるのだろうか。エドの猿芝居なのか?それとも何か別の要因があるのだろうか?そう考えてしまう程あまりにも効果的過ぎるんだ。

  それに最初の攻撃。神格者の力とは言え、あんなに顔が削れるものだろうか?仮にも神格者同士の戦いだし、俺の方が力では劣っていたはず…何だこの違和感は、




  「喜ぶのはまだ早いぞ!避けろ白いの!」




  「!?」




  誰かの言葉に反応し身体はそちらの方向を向く。しかしその時既に、目の前に身体を黒い棘で武装したエドがいた。




  「ゔうっ!」




  今度は俺が殴り飛ばされた。すぐ後ろにあった壁に激しくぶつかり、先程とは比べ物にならない痛みが身体を突き抜ける。




  「おいおい!生きてるか!?だから言ったろうが、相手は“屍人”だぞ!あれだ!お前の力があってもそう簡単に死ぬもんか!お前の力はまだ微弱なんだからよぉ!」




  続くエドの猛攻を間に入ったオレンジ髪の男がいなしながらそう叫ぶ。




  「あんた誰だ…、屍人…?いやそもそも何で俺の力を知って……」




  「話は後だ!俺が時間を稼ぐ!その間にお前はもう一度攻撃の準備をしておけ!!さっきよりも特別重たいのだ!!そう、俺の力じゃ屍人は倒せねぇからな!」

 



  両手に大きな湾曲した刀を携えたオレンジ髪は金属音を響かせる。エドはと言うと先程まで右腕だけに収まっていた異形の棘が全身に張り巡らされており、削られた顔面や腹部からは一際大きな茨の様なものが生み出されている。最早人とは呼べないレベルの化け物だ。それに対してこっちを気にかけながら対応してしまうオレンジ髪にも必然不信感が募る。




  一体コイツは誰なんだろうか。俺を護ってくれている?から味方…なんだろうけど、生憎俺は片田舎で引きこもりの様な生活を送っていた身だ。誰か知り合いがいるなんて、そんな覚えは全く無い。オヤジの知り合い?いや、その知り合いを探しにここまで来てるんだ。しかもコイツの見た目からして北方の人間では無い。衣服は所々がボロボロに破けているが、それでもわかる程の身なりの高級感はどこかの兵士を連想させる。




  「あぁ災難だ。怖い。何故こんなにも今日は来客が多いのでしょう!私が何をしたって言うのです!それにあなたは誰ですか!何故この洞窟に無傷で入ってきているのです!?」




  俺の気持ちを代弁するようにエドが声を荒げる。こんな殺人鬼と同じ意見なのは癪だが、でも本当にその通りなんだ。コイツは一体…




  「おいおいマジか!?しゃんとしてくれよ白いの!お前を助けに来たのに、お前が死んだってなったら俺は、え〜っと、あ、そうそう!おーめだま食らっちまうぜ?」




  「……いや、どこの誰だか知らねぇけど…あんた、本当に俺を助けに来てくれたのか?」




  「当たり前だ!そう、俺たち帝国はお前を血眼になって探していたんだ!」




  ……帝国。なるほど、コイツは帝国の兵士なのか…

 



  であればまだ、多少は信頼出来るのかもしれない。オヤジは俺の力が世に知れ渡った時、それを求める者が必ず現れると言っていた。だから助けてくれていると頭ではわかっていながらいまいちコイツのことを信用出来ていなかったのだ。でも、帝国なら信頼出来るとも言っていたことを俺は覚えている。




  「くそっ…わかったよ。もうそうするしか無いんだもんな。何が何だか全くわかんねぇけど、おっけー。俺はアンタをとりあえず信用することにする!」




  恐らく、力が発現した時から、事態は俺の思いもしない方向へ急進している。屍人と言うのもよくわからない。ゾンビのことだろうか。エドはゾンビであるということか?それなら光の力が効果覿面なのも頷けるのだが、そんなもの創作上の存在じゃあ無かったのかと疑問が耐えない。もしやオヤジの言っていた『黒い噂』と言うのも屍人関連のものなのだろうか?




  まぁ恐らく、これからもこういう疑問や葛藤は尽きないのだろう。だがしかし、それとは別にもう腹は決めている。何であれ何の罪もない人が殺されるこんな世界はおかしいし、少なくとも今は目の前の敵を倒さなければ。




  「よし!何とか持ち直したみてぇだな!あぁ、じゃあ構えとけよ!!」




  大声でそう叫んだオレンジ髪は大薙ぎでエドの棘や茨を振り払いながらけたたましい音の攻撃を繰り出す。対するエドも完全に目標をオレンジ髪にシフトしたようで、地中から生えた茨が次々と肉体目掛けて飛来していた。恐らく脚から地中へ潜らせていたのだろう。それでもオレンジ髪は難なくそれを避け続けていたのだが、




  「怖いぐらいに強いですね。流石に帝国の兵士だ。しかし!これならどうでしょう!!」




  「むっ!」

 



  エドの腹部からこれまでとは比べ物にならない大きさの棘。いや、棘とも呼ぶことも出来ない、先端の尖った砲撃がとてつもない勢いで放たれる。

  前方へ駆け出していたオレンジ髪にそれは直撃し、血飛沫と共に腹部を貫いた。腹部に人の身が丸々入りそうな風穴が開く。




  「!!!お、おい!大丈夫なのか!?」




  俺は思わず瞠目し声をあげる。同時にエドの茨による攻撃はオレンジ髪の身体全体を削り続け肉を散らした。だが、そんなことお構い無しにオレンジ髪はエドへ向かって走り続る。よく見ると腹に空いた大穴がぐじゅぐじゅと再生しかけているではないか。




  「大丈夫だぜ!問題ない!!」




  「問題ないって…いやもういいや、お前も神格者だってこったな!」




  腹に風穴を開けられ、身体中を茨でズタズタにされながらもカラッとした表情の男。一日にそう何度も出会えるものかと思ったが、あの世界最強と名高い帝国の兵士だ。神格者であるのも不自然じゃあない。恐らくオート?で発動するエドの能力も喰らいながら肉体を再生してここまで無傷で辿り着いたのだろう。

  そしてそんなことを考えている間にオレンジ髪はエドの背後へ回り、その肉体をガッチリ締め上げていた。




  「ぐぅっ!痛い!怖い!全くどうなっているんですかあなた方は!」




  「どうなってるも何もそう言う能力だから仕方ねぇだろ!俺の力は再生だ!肉体を再生させるのが屍人の専売特許だと思うなよ!!」




  投げやりになったエドの茨が自分を締め上げている男の体に巻き付く。その肉体に深くくい込んだ茨は今にもバラバラに身体を分解してしまいそうな雰囲気だ。それでもオレンジ髪はホールドする腕を緩めない。それどころか、先程以上にエドの意識と攻撃が背後に集中した。




  「今だ!やれ、白いの!!」




  「言うな馬鹿!わかってる!!」




  俺は力を込めて準備していた右拳を、エドの目の前で構える。さながらタックルを繰り出す前のような深い構え。だが勿論迷いは無い。アイツが作ってくれた絶好の機会。必ずここで決め切る。先程より大きい光の力をコイツにぶち込んでやる。




  オヤジ。見ていてくれ。オヤジの言う通りには出来ないかもしれないけど、絶対俺は生き抜いてみせる。そして、もう二度と誰も失わない生活を取り戻す!!




  「オラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」




  今まで溜めていた力を思い切り拳に乗せてエドの肉体をぶん殴る。パンッと肉の弾けるような音がしてエドの肉体は腹部から四散した。

  それでも喚き声を上げるあたり、流石はゾンビと言ったところだろうか。しかし、既にゾンビの再生能力ではどうにもならないレベルまで肉体は崩壊している。それどころか塵になり宙へ霧散しているのだ。どんな奴でもこの状態から生き返れることは無い。…いや、目の前にいるんだけどね、そんなやつが。




  「ぐあぁ!怖い!死ぬのは怖い!私はまだ二度目の生を堪能しきっていないと言うのに!誰も殺せていない!そうだ!二度と死にたくないと言うのに!!」




  エドは絶叫と共に後悔の念を叫び散らす。だが、そんなことは知ったこっちゃない。

 



  「人殺しが。都合よく死ぬのが怖いとか言ってんじゃあねぇぜ。…地獄でオヤジに詫びるんだな」




  「くぁぁ!なんて…酷いことを言うのですか……ッ…」




  最後の言葉を言い終わる前に、四散した肉体も光に浸食されエドは塵になって消滅した。




  目の前のオレンジ髪の男は「いいセリフだな〜」と呑気に呟いている。悠然と立つその身は衣服が破けている以外に特筆するべき部分が無い。既に腹の穴は塞がっており、ピンピンしているのが恐ろしい程だ。しかし、今回の勝利はコイツ無しには得られなかった。今は感謝すべきだろう。




  「……おい、アンタ。なんがなんだかわかんないけど、ん…助けてくれてありがとう。え〜っと、いつまでもアンタじゃダメだよな。名前を覚えたい。何て呼べばいい?」




  「む!俺はアンデルセン!帝国軍のアンデルセンだ!あぁ、助けたことなんて気にするな!あれはあれだ!俺が強い限り、俺より弱い奴は助けなきゃならないだろ?だからうん!当然のことだ!」




  「ほんとなんのこっちゃわかんないけど、助かったよ。ありがとうアンデルセン。

  それで聞きたいことがあるんだけど…いや違うわ。その前に、」




  ここ数分であまりにも非日常的な出来事が乱発しすぎていつしかそっち優先の頭になっていたが、しかし忘れてはいけないことがある。

  俺はついさっき、ここで大切な人を失ったのだ。それを弔わずに先へは進めない。




  「ほんと、俺の悪いところだな。気になることがあると直ぐにそっちに行ってしまいがちになる…」




  「?」




  忘れた訳じゃあ無い。この薄暗い空間に横たえているオヤジのことは決して忘れていた訳では無い。それでもいざ今回の事件に踏ん切りがついたと同時に、言いようのない哀調が俺を襲ってきたのだ。




  「…いや、そこに横たわっている人はさ、俺のオヤジなんだ。本当のオヤジじゃあないけど、、育ての親なんだ。さっき倒した屍人?に殺されちまった…初めて会った人によ…こんな、姿見せるのも情けないんだけど……」




  そう。オヤジは本当の父親では無い。義父でしかない血の繋がっていない関係だ。だがしかし、言っている傍から涙が込み上げてきて、上手く言葉を喋れない。

  オヤジが死んだという悲しみが遅れて俺に押し寄せた。さっきまでは怒りと決意に心を奮い立たせてどうにか立っていられたが、胸がつかえる思いに正常を保っていられない。俺はへたりこんですすり泣くことしか出来なかった。




  こんな姿を見て、目の前の男はどう思うのだろうか。初めて会った人間が目の前で急に泣き出すなんて、俺だったら何て声をかけていいかわからない。




  「いや、ごめん。こんな急に…」




  「なに、バカを言え。誰だって見知った人間が死んだら悲しむのは当たり前だろう。あれだぜ、本当の家族で無いのだとしてもそんなことは関係ない。血が繋がってなくても助け助けられる関係ならそれは家族同然だ。今は思う存分泣けよ!それが終わったら一緒に弔いに行こうぜ!」




  「!……あぁ…ありがとう。ありがとうアンデルセン。あんたには助けて貰ってばっかりだな…」




  趣の異なる言葉を述べたアンデルセンに俺は少し驚く。だが今は、柔らかい言葉で慮ってくれたことに感謝しか無い。俺の心は自然と安らいでいった…


 


  そうしてしばらく泣いた後、俺たちはオヤジの遺体を外に出した。オヤジが探していた知り合いがどこに消えたのかはわからない。洞窟の奥まで探しに行こうかと思ったがそれはアンデルセンに止められてしまった。曰く外はもう夕方に差し掛かっており、夜になると屍人が北方には跋扈するらしい。今の状態で仮に屍人と出会ってしまったらひとたまりも無いので、その件に関しては帝国が受け持つという話なのだ。


 


  この会話からわかったことはただ一つ。やはり俺の予想は正しかったということ。推測通り北方は今、屍人によって驚異に陥れられている。だが、俺にとっては尚更戦う理由が出来たところだ。そりゃ本当は平穏に生きたいけど、オヤジを目の前で殺されて、オヤジと同じように殺される人々がいるのなら、そしてそれに気付いてしまった今、件の異常事態を解決しなければ俺は俺の生き方に納得が出来ないんだ。




  「何だ白いの。お前そんなに帝国に来たかったのか?」




  オヤジをあの街の墓地に埋めながらアンデルセンはそう問いかける。




  「あぁ。大切な人を殺されておいて、俺はのうのうと暮らすなんてできないからな。連れてってくれなくても行くつもりだぜ」




  そもそもだ。俺には疑問が多すぎる。

  屍人のこと。北方の危機のこと。神格者のことに俺の力のこと。そして何より母さんのこと。オヤジの口ぶりからして母さんは俺の力を知っていた連中に殺された。そしてアンデルセンの言葉が全て本当ならば帝国は俺の力を知っていて俺のことを探していた組織だ。母さんを殺した奴のことを知っている可能性も高い。




  俺は再び帝国に行くことを決意する。オヤジを殺した屍人達を掃討する。北方の危機を救う。行く行くは目の前で誰かを失うことの無い平穏な生活を取り戻す。

  その為ならば帝国軍に入って戦うことも大して怖くは無い。




  「じゃああれだ、話は早いってやつだ!明日には帝国に向かってここを発とう!」




  「おう。案内頼むぜアンデルセン…!」




  さっきまでの不信感はどこへやら、俺とアンデルセンはすっかり意気投合し握手を交わす。この男はあまり頭の良さそうな感じでは無いが、しかしどこか信頼出来る、良い人間であることは間違いないだろう。

 



  しかしこの時の俺はまだ知る由もなかったのだ。この決意がボロボロになって砕け散ることを。そして、また目の前で大切な人を失うことを。





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