001 訪問者
やっと物語が始まりました。
主人公、アーサーは野生児設定。
そんな彼が都会に出て、俺なんかやっちゃいました、という展開にしたいな~、
なんて思っちょります。
そこは血の臭いに満ちていた。
といっても緊張感などはどこにもない。
風が木々を通り抜けると、柔らかな春の山の香りが、季節を告げてくれる。
そんなのどかな雰囲気の中で男は、いや、男というには幼さが残る少年はナイフを突き立てた。
「精が出るな、アーサー」
「兄さん、こんなとこまでどうしたんだい?」
アーサーと呼ばれた少年は、突然声をかけられても驚くこともなく、ナイフを動かし続ける。
「やっぱり気づかれていたか。少しは驚かそうと思ったのにな」
「兄さんがこんな山の中まで来た事自体、驚きだよ。この小屋に来たのは、兄さんがはじめてじゃないかな」
「そうだろうな。ふもとの村から三日だぞ、三日。何度遭難するかと思ったか」
「大げさだろう。兄さんだって猟師の真似事くらいできるんだから、こんな山なんて庭も同然でしょ」
「そうは言っても、俺が普段狩りで入る山は、こんな険しくないからな」
「俺もじっちゃんの小屋がなければ、もうちょっと麓ふもとに近い場所に住んだだろうけどね」
「そういえば爺おきなはまだ帰ってこないのか」
「あぁ、三年前にもっと良い鉱脈を探してくる、と言ってそれっきりだ」
そして「こんなものか」とナイフを下ろした。
「今日の獲物も見事だな」
「まあね。多分普通のイノシシだったんだろうけど、ダンジョンから出てきた魔物の魔石を拾い食いして、魔物化したみたい。でもおかげで肉がたっぷりとれる」
「しかもほとんど傷もないじゃないか。また一撃で倒したのか?」
「あぁ、通り道に8時間も張り込んだからね。木の上に潜んで下を通りかかった時に、上からズドン、とね」
「延髄を一撃でって、たぶんこいつはやられたことすら気づかなかっただろうな」
内臓を抜き、皮をはぎ終わったアーサーは、ナイフについた血を雑巾で脱ぎながら、笑顔で答える。
「これがけっこう便利なんだよ。最近狩りではこればっか」
そう言って手に取ったのは、異様な剣だった。
「なんだそりゃ、刃がないじゃないか」
「分類でいうと刺突剣ってところかな」
「刺突剣ってレイピアとかだろ。あれはもっと細いよな」
「狩り用だからね。乱暴に使っても折れ曲がったりしないよう、太目に作ってある」
「この太さはもう鉄棍だろう」
「まあ重さも武器だからね」
「いや、それって狩りに使う武器じゃないだろ。普通、狩りは弓を何本も撃ち込んで、弱ってきたところをしとめるもんだ」
「それじゃあ皮はボロボロになっちゃうし、下手に内蔵傷つけたらおいしく食べられないじゃん」
「その前に、狩りは距離を取って安全に行うものだ」
「でも安全だよ。木の上からこいつで首の後ろを貫けば、反撃なんてされることないから」
そんな言葉に兄はやれやれ、といった調子で苦笑いした。
「で、今日は何の用事なんだい」
「あぁ、忘れる所だったよ。親父が呼んでる。頼みたいことがあるようだ」
アーサーは、ウゲェと苦い顔をしたがそんな弟を兄は微笑ましく思うのだった。
一応、いろいろな設定があるのですが、それは徐々に物語が進むことでわかってくるかと…。
それまでどうぞお付き合いいただけると嬉しいです。
どっかのタイミングで設定をまとめられたらいいな~なんて思っていますが。