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ファンタジー:ダウナー竜騎兵とツンデレデレワイバーン


「──追うよ、マリィ!」


「ぎゃぅっ!!」


 王都外縁の森を目下に、空を駆ける。


 ほんの三十分足らず前にわたしたち竜騎隊に言い渡された任務は、王都付近で凶暴化したワイバーンたちの掃討。わたしを含め即応できた三組で、五頭のワイバーンと交戦した。


「待て、一人で先行するな──」


 臨時の分隊長が後ろで何か言ってるけど、生憎止まっている余裕はない。

 頭の中の地図の通りなら、ワイバーンたちの逃走先には小さな村があったはず。規模的に、空からの襲撃に耐えられるような設備があるかは怪しいところだ。だから逃がすわけには行かない。ここで全部駆除する。

 例え他二人の騎竜──ワイバーンが疲弊して、追い付けないとしても。


「マリィ、悪いけどもーちょい頑張ってねぇっ」


「ぎゃうぅっ……!」


 連戦を強いること、野生種とはいえ何頭も同族を殺させること。その辺を謝りながら、マリィの赤い鱗を撫でる。その間にも彼女はほぼトップスピードで飛び続けていて、強風がゴーグル越しに顔を叩く。


 既に三頭は討伐済み。で、逃げるのは残り二頭。追い縋るわたしたちに業を煮やしたのか、そのうちの一頭──マリィと同じ火のワイバーンが急旋回しこちらを睨んできた。


「──マリィっ!」


 予兆を読み取り、即座に名前を呼ぶ。これだけで意図を察してくれたマリィと、向かい合う火のワイバーンがブレスを放射したのはほぼ同時だった。


「────ッッ!!」


 火を噴きながらの声無き咆哮が、マリィの背中越しに伝わってくる。なに食ってるのかも分かんない野生種と、良いもの食べて訓練も沢山してるマリィとでは基本スペックが違う。同種のブレス対決なら、まず負けることはない。


「いっけぇっ!」


 ほんの五秒もかからずに、マリィの火は相手の火を押し返し、そのままワイバーンの体に直撃。火のワイバーンって言ったって、別に燃えないわけじゃない。外からの強力な火炎には成す術もなく、火達磨になってそのまま落下していった。


「残り一頭っ」


 ……なんだけど、その一頭は風のワイバーン。ワイバーン種の中でも飛行速度はピカイチで、このほんの一瞬のあいだに距離を大きく引き離されてしまっていた。ブレスはもう射程外、いやそれでも、まだやりようはあるっ。


「マリィ、やるよーっ!」


「ぎゃうっ!」


 もう一度マリィに声をかけ、右腕に装着したクロスボウを標的へと真っ直ぐに向けた。マリィがブレスを吹いているあいだに、矢は既に番えてある。ただの一矢だけじゃ、ワイバーンを落とすには足りないけど。でも、わたしとマリィの力が合わされば。



「──『射火(しゃっか)』!」


「──ゴァッッ!」



 矢が射出された瞬間に、小さく凝縮された火のブレスがそれを追う。塗り込められた竜油──マリィの体液から抽出したもの──がその火を纏い、更には矢羽根に仕込んでいた少量の指向性火薬が発破して。赤い一矢は急激に速度を増して標的へと迫っていった。


「──ぐぎゃっ!?」


 逃げ切れると思っていたんだろう風のワイバーンは、右の翼に火の矢を受けて飛行能力を失い、藻搔きながら地上へと落下して行った。


 これがわたしたちの奥の手……の一つ、『射火(しゃっか)』。


 威力ではブレスに劣るけど、ワイバーンの火を纏わせた矢を高速で射出できる。魔法で命中精度と射程も補正してあるから、このくらいの距離ならなんとか当てられた。


 騎兵と騎竜の息がぴったり合ってないといけなくて、一応、現役の火の竜騎兵ではわたしたちにしかできないすごぉい技だったりする。そもそも火の竜騎兵自体がほとんどいないけど。火のワイバーンは気性が荒くて、打ち解けるのが難しいからねぇ。


 まぁとにかくこれで、任務は完了。


「ナイス、マリィ。お疲れ様」


「ぎゃう」


 首の辺りを撫でながら労いの言葉をかけるけど、当のマリィは鼻を鳴らして一声言うだけ。顔もプイっとそっぽを向いていて、相変わらず素っ気ないというか、素直じゃないというか。


「……ま、いいや。帰ろっか」


「ぎゃう」




 ◆ ◆ ◆




 んで、まぁ怒られたよね。


 結果的に討伐できたから良いものの……独断専行に、燃え落ちたワイバーンのせいで危うく森に火が付くところだったって。いや、その辺もちゃんと自分で消火したんだけどね?消火魔法は火の竜騎兵の必須技能だし。


 わたしとマリィ、なぜか竜騎隊の中で問題児扱いされてるんだよねぇ……昔マリィをイジメようとした他のワイバーンを二人でちょぉーっとボコったり、非番の日は星空酒場で二人で飲んだりしてるだけなのにねぇ。屋外だし、ちゃんと店主にも許可貰ってるし、何なら他のお客さんたちにも人気なんだぞー、わたしたち。


 ……て、いうのはまぁ飲み込んで。今日も適当に「ハイ。スイマセン。イゴキヲツケマス」とか頭を下げておく。貴重な火の竜騎兵とはいえ、所詮わたしたちはただのイチ部隊員。今日みたいに功績自体は結構上げてるから、そうそう首にはならないけど。かと言って表立って偉い人に逆らえるほどの立場でもない。

 幸い今回は、減給とかもなかったし、良しとしましょーか。


「ね、マリィ」


「ぎゃぅ」


 そんなわけでひとしきりお叱りを受けたのち、二人してのっそのっそ家に戻る。本来ならワイバーンであるマリィは竜小屋にいなきゃなんだけど、それだとわたしが寂しいので、二人で寝泊まりする用の小屋を宿舎の近くに建ててる。これの許可貰うのも大変だったなぁ。


「ちなみに今回の件、二日以内に追加褒賞が出ると見たね」


「ぎゃぅ」


「逃走した二頭の予測航路がはっきり出れば、村を守るためって言い分も認められるだろうし。そしたらわたしたちは、二人で村人全員を救った英雄だー」


「ぎゃぅ」


 マリィの鋭い眼付きが、あんた馬鹿なのって言ってる。呆れたように鼻をふんって鳴らされた。ふふふ、良いのかなぁそんな態度でー?


「……と、いうわけで。今日はそれを見越して、ちょっとお高いお肉でも買ってこようと思うんですが」


「ぎゃうっぎゃうっ!」


 わたしの言葉を受けて、途端にマリィの目の色が変わった。

 顔をこっちに寄せて、ぎゃうぎゃう興奮したように鳴いている。


「がははー肉が欲しいかーそうかそうかーわたしもだーっ」


 二人で何のお肉が良いか相談しながら、家への道を歩いていく。夕日が照らすマリィの姿はとても綺麗で、彼女とこうして全部を共にできることが、竜騎兵としての何よりの幸せだと思えた。

 きっとマリィも、同じように思ってくれてるはず。意地っ張りだから、聞いてもふんって鼻を鳴らすだけだろうけどね。



 次回、ファンタジー:新米ツンデレデレ冒険者と迷い込んだ禁足地で拾ったダウナー触手モンスター

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