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ファンタジー:ダウナー勇者とツンデレデレ魔王


「――ここが、魔王の住むしr」


「遅い!!!!!!!!!!!」


 怒られた。

 禍々しい巨城の正面、厳つい両開きの門の前で、仁王立ちしてる謎のお姉さんに。


「……だれ?」


「魔王に決まってるじゃない!!」


「……そっかぁ」


 まさか標的が外で待ち構えてるだなんて思ってもみなかったから、ちょっと面食らってしまう。

 人類と絶賛敵対中の魔族、その頂点に君臨する王、勇者たるわたしが討伐する使命を帯びたその相手。なるほど確かに、目の前のお姉さんの頭には一対の立派な巻角が生えていて、黒く禍々しいマントと相まっていかにも悪くて強そうな雰囲気を漂わせてはいる。昏く紅い瞳も、最高位の魔族の特徴に合致するし。


 ……何故か腰に手を当てて怒ってるみたいだけど。いやまぁ、彼女の部下や幹部たちを何人も倒してきたわたしが目の前にいるんだから、怒るのも当たり前と言えば当たり前……な、はず。「遅い!!!!!!!!!!!」だなんて第一声、きっと聞き間違いだ。そうそう、そうに違いない。


「勇者メイ!!!」


「あ、はい」


「来るのが遅い!!!!!!!」


「スイマセン」


 聞き間違いじゃなかったらしい。

 つまりなんだ。この魔王――マリー・ファルド・ストラテジアは、勇者(わたし)がここに辿り着くのが遅いと怒ってるわけだ。


 ……なんでぇ?


 向こうからすればわたしの行為は侵攻なわけなんだから、むしろ遅い方が良いのでは?


「あんたが故郷の村を出てからもう4年以上経ってるのよ!?」


「そー……ですね、はい」


 なんで知って……別におかしくはないか。敵の動向だからね。しかも勇者の。


「あんたが生まれてからあたしに会いに来るまで、19年と10か月21日6時間42分もかかってるのよ!?!?!?!?」


 いやそれはおかしい。

 何でそんな事まで把握してるの?わたしよりわたしの生まれに詳しいじゃん。


「……あの、随分と詳しくご存じなようで……」


「当り前じゃない。あたしは魔王。自身を脅かす勇者(そんざい)が生まれれば、その瞬間にそれを察知する」


 何それ知らない。

 いや、よしんばそうだったとしてだよ?あたしがおぎゃーしてからずーっと時間計ってるのはおかしくない?分刻みで気にする必要はなくない??

 ……ってな具合に混乱してるわたしを置き去りに、魔王はまるでこっちが悪いみたいな態度でぶつくさ文句を言ってくる。


「あたしはねぇ、あんたが成長して旅に出る日を心待ちにしてたっていうのに……あんたときたら、やる気が有るのか無いのかあっちへフラフラこっちへフラフラ。なんっで真っ直ぐあたしのところに来ないのよ……!」


「……いやあの、直行しても絶対勝てないし……なんかこう、経験を積んだり、いい感じの武器とか探したり、ですねぇ……」


「どうせ何やったって勝てないんだから早く会いに来なさいよ!!!」


「スイマセン」


 好き勝手めちゃくちゃなことを言われてるのに、何故だろう。この強気なお姉さんには逆らえる気がしない――いやいやいや、わたし勇者、こいつ魔王。勇者、魔王、倒す。戦う前から気持ちで負けちゃダメだ。わたしはやるぞわたしはやるぞ。


「……まあ良いわ」


 深呼吸して臨戦態勢に入れば、魔王も感化されてか、口の端を吊り上げて見せた。こちらを見下すような、自分の優位を信じて疑わないような、そんな笑み。


「フフッ……あたしはね、ずっと待ってたのよ。魔王(あたし)を殺し得る力を持った勇者(あんた)を捻じ伏せ、叩き潰し、愛玩奴隷にしてやる日をね……!」


 そう言って彼女が懐から取り出したのは、ごっつい革製の首輪。黒ずんでいて見るからに禍々しい、付けたら絶対ろくなことにならなそうなシロモノ。


 胸をいっぱいに張った自信満々な姿から、つい想像してしまう。

 鍛えた魔法も剣技も通用せず、ぼこぼこにされて、地に這いつくばって。身動きも取れないわたしの首に、ソレが嵌められる瞬間を。きっとあの魔王は、嗜虐的な笑みを浮かべるんだろう。見た事もないはずのその顔が、何故か克明に思い浮かんで――って、だめだめっ。なに最初っから負ける想像なんてしてるの、わたしっ。


「や、やれるもんならやってみろーっ。その首輪を奪い取って、あんたをわたしの奴隷にしてやるからっ……!」


 自分を奮い立たせて、目いっぱい強気な態度で睨み付ける。

 だというのに、わたしより頭一つは高いその瞳は、まるで意に介さないようにこちらを見下ろしていて。ずくんって、どこか体の奥の方が疼いた気がした。


「──フン、ヒトメス風情が生意気ね。でもそれでこそ、理解(わか)らせ甲斐があるってものよっ……!」


 見下すような物言いに、何故だか心の深いところがきゅんと啼く。体も心も、ひどく彼女に気圧されているような、だというのに、それが嫌ではない感覚。

 だけど、それでも、負けられない。わたしは勇者メイ。人類を救う使命を帯びた者。わたしは、わたしは────!






 ────負けましたぁ……♡


 ぼっこぼこにされて、屈服させられて。最後には、自ら望んで首輪を嵌めて。わたしは魔王マリー様の愛玩奴隷として、幸せに生きていくことになりました。


 人類?何か知らないうちに滅んでた。

 でもそんなことより。


「──ほら、メイ。どうして欲しいのか、ちゃんと口に出して御覧なさい?」


「……マリー様、今日も生意気なメイを、その……可愛がってください……♡」


 死ぬまでマリー様に可愛がってもらう方が、ずーっとずーっと大事なこと。


 そうだよね?マリー様♡


 次回、夜のコンビニ:ツンデレデレ店長とダウナーバイト大学生

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