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異能力者達の午後  作者: ゆーろ
6/32

ホット・ライン・アップル

ほんへほんへほんへほん!

0:ーーホット・ライン・アップルーー




0:登場キャラ



阿久間:女


妹乃:男


白橋:男


水瀬:女





0:放課後 教室



0:妹乃が教室に入ると乱雑に重ねられた机の上に阿久間が座っている



妹乃:「やぁ、阿久間さん」



阿久間:「やあ妹乃くん、本当に来てくれたんだね」



妹乃:「随分と汚したねぇ、殺風景な教室が子供が喜びそうなアスレチックになってる」



阿久間:「ああそうだとも。簡易的な作りだったけれど、案外良いものだろう?古典的な黒板消し落としからコンセントで作ったなんちゃって電線、画鋲地獄に不安定に重ねられた机と椅子。ミッションインポッシブルの体験コーナーさ」



妹乃:「こんなものわざわざ作る意味はあるのかな」



阿久間:「ないさ。ただもしかしたら、もしかしたらもしかしたら何かの手違いでこの罠で妹乃くんが死ぬかもしれないと思ったんだ」



妹乃:「見くびられたものだね、こう見えて運動神経はいい方だよ」



0:妹乃は罠を跳ねるように避けながら阿久間に近づく



阿久間:「ふふ、分からないじゃないか。どれほどの小さな確率でも「もしかしたら」があるなら結果はその時が来るまでわからない」



妹乃:「もしかしたら。が無いって言ってるのさ、この世にはあるよ、絶対が」



0:妹乃は軽やかな足取りで阿久間の前に立つ



妹乃:「到着っと、ほら。言ったろ?もしかしたら。がない事もあるんだって」



阿久間:「結果論だとも。今日は来てくれてありがとう、妹乃くん」



妹乃:「で、僕をここに呼んだのは」



阿久間:「質問ですっ!

阿久間:縦25メートル、横16.5メートル。水深1.3メートルの標準的なプールに水を張ります

阿久間:話は変わってここに一瓶の劇薬があります。これは手で触れても、口に含んでも大きな危険を伴うものです。それをプールに一滴垂らした場合、果たしてそれは毒薬の海になるのでしょうか?」



妹乃:「放課後の教室に呼び出し、年頃の男の子なら皆告白のひとつくらいあると期待するだろうに、酷い仕打ちだね、阿久間さん」



阿久間:「ふむ、そっちの方が良かったかな?」



妹乃:「boo。まさか」



阿久間:「だろうとも。それで。君の答えは?」



妹乃:「なるわけないだろう」



阿久間:「だろうね。一応理由を聞こうか、分かりきっているけれど」



妹乃:「知ってるとは思うけれど、劇薬ってのは作用が激しく、使い方を誤ると生命に関わるものの事を言うんだよ

妹乃:一般的な25メートルプールに一滴垂らした所で、それはほんのちょっと、それこそミクロ単位毒に近付いただけの「口に含んでもなんら問題ない水」さ



妹乃:それよか塩酸の方がよっぽど毒性が強いだろうね」



阿久間:「確かにそうだね。でもほら

阿久間:この垂らした一滴の箇所だけは猛毒液に変わると思わない?」



妹乃:「あー、頭の中で勝手に掻き混ぜた事にしてたけど・・・もしかして引っ掛けかい?しょうもない、二度とやらないでくれ」



阿久間:「何も言ってない。今妹乃くんが言った通り、私は掻き混ぜた、とも掻き混ぜてない、とも言ってないのだから、私が怒られる道理も、貴方が苛立つ道理もないじゃないか」



妹乃:「飲むまで分からないっていうオチかな。シュレディンガーの猫も箱の中で鳴いてるだろうね」



阿久間:「ふふ、存外面白いものだよ、あれも」



妹乃:「あ、そ」



阿久間:「プールに張った水は大衆、乃至ないし世界全体だとするなら、毒は、君自身だ。良い例えだと思わないかい?」



妹乃:「酷い女だ、阿久間 累という人間は」



阿久間:「ふふ、いいじゃないか。私と君の仲だ」



妹乃:「はぁ〜やだやだ、僕は未来ある高校生だと言うのに」



阿久間:「君はそんなに良い子じゃないよ」



妹乃:「意地悪だね」



阿久間:「そうだね。私は、あくま だから」



0:場面転換



0:教室



白橋:(N)「俺の名前は白橋。ここは放課後の教室。さらに目の前には独りの女子。こんな如何にも空間で唐突に話は始まる」



水瀬:「バシ〜、バシバシ〜」



白橋:(N)「このバシバシ言ってるのは水瀬 。どこかの弾みで俺は水瀬にバシ。と呼ばれている。決して何かを叩いている擬音を再現している訳では無い」



水瀬:「ラプラスの悪魔って知ってる?」



白橋:(N)「聞いたことくらいはある。だが名前しか知らない」



水瀬:「昨日動画サイトで見てさ」



白橋:(N)「ラプラスの悪魔・・・悪魔というくらいなのだから、ソロモン的なあれだろうか」



水瀬:「ぶっぶー、違います。例えば」



0:水瀬は手に持った鉛筆を床に落とす



水瀬:「こうやって今落とした鉛筆が床に着地するまでの時間は簡単に言えば鉛筆の重量と、床との距離から計算できるよね」



白橋:(N)「落とされた鉛筆の芯が折れた、鉛筆に対する思いやりというものがない」



水瀬:「ありゃりゃ」



白橋:(N)「もう少し申し訳なさそうにしたらどうなのだろう」



水瀬:「で、鉛筆の事細かな重量と床までの正確な距離、その計算式さえ初めから分かっていたら落とす前から結果はわかるでしょ?」



白橋:(N)「鉛筆が床に落ちるまでの時間がという事だろうか」



水瀬:「そうそう、だからこの世に存在するあらゆる数字と、莫大な量の計算式を全て掌握したら未来の全てを計算出来てもおかしくはないっていうのがラプラスの悪魔なんだって」



白橋:(N)「恐らくこれを聞いたことのある人間が誰もが思ってたであろう事を俺は復唱する。「そんな無茶な〜!」はい。」



水瀬:「って、思うでしょ?でもここからが面白いところだよ、バシ」



白橋:(N)「彼女は芯の折れた鉛筆の先端を弄りながら話し始める」



水瀬:「鉛筆にとっての死ってなんだと思う」



白橋:(N)「気が狂ってしまったのだろうか」



水瀬:「いやいや、別に変な話じゃないよ?」



白橋:(N)「変な話だぞ」



水瀬:「私達人間もさ、死って色々定義があるじゃない?シンプルに心臓が止まった時、とか。心臓が止まってからも脳はしばらく動いているし脳が完全に機能を止めてから、とか

水瀬:某有名漫画では人に忘れ去られた時とか、生きがいを失った時とか、本当に多種多様な解釈がある」



白橋:(N)「彼女は変わっている。いつも小難しい哲学的な話をしては話がしっちゃかめっちゃかになり、結局話は纏まらずに終わる」



水瀬:「なら鉛筆にとって死ってなんだろう。私たちから見た鉛筆の死は芯がすり減って使えなくなってからだと思う」



白橋:(N)「だがそんな彼女の話も慣れれば不愉快なものではない。なにより独りでずっと喋っていてくれるのだから楽というものだ」



水瀬:「でもそれはあくまで私たちから見た鉛筆くんの死。芸能人とかだったら干されたりした時にも同じような言い方をするじゃない?

水瀬:他者評価の中での死は需要と供給の世界の物にとって需要の枯渇は死を意味するもの」



白橋:(N)「よくもまぁこんな言葉がポンポンと出てくるものだ。そのせいか普段から独り言が尽きない水瀬である」



水瀬:「でも鉛筆くんから見た死はまた別のものだと思うの、持ち主の手を離れた時、とか。私は鉛筆になったことがないから分からないけど」



白橋:(N)「なぜ鉛筆に意思がある前提で話が進んでいくんだろう」



水瀬:「私達が鉛筆くんの価値基準を測れないように、鉛筆くんも私たちの価値基準を図ることは出来ない。もしかしたら自分がHB芯であることすら知らないかもしれない」



白橋:(N)「確かにそれはそうだ。鉛筆に意思があるという大大大前提を踏まえて鉛筆にとって芯の規格というのは人間で言う血液型なのだろうか、それとも肌の色なのだろうか」



水瀬:「だからさ、きっと悪魔さんから見た私達の死って言うのがあって、私達の知らない価値基準があって

水瀬:それが私達の言葉で言う「数」に収まっているだけなのかもしれない、いや最もこの場合は全然収まりきってないけどね」



白橋:「国によって言語が全く異なるようなものなのだろうか。彼女はきっと馬鹿ではないが、この言葉を悩まず飲み込むには、きっと馬鹿でないといけない」



0:場面転換



妹乃:「じゃあ、君は文字通り神話に出てくるような悪魔で、僕に力をくれるって話かい?」



阿久間:「正確には違う。君、私が未来人だって言ったら信じてくれるだろうか」



妹乃:「証拠があるなら信じる他ないけど、真実ってのは嘘か本当か分からない所にあるうちがいちばん面白いんだ。野暮なことはせず真偽のつかないその話を信じることにするよ」



阿久間:「妹乃くんはいつもそうだ。面白い事が何より好きだね。

阿久間:だ、か、ら。九年後の九月十一日に君は自分の快楽欲求に従ってニューヨークで同時爆破テロを引き起こす事になる。その後誰もが知る世界的凶悪犯罪者として名を残しているよ」



妹乃:「ネタバレかい?」



阿久間:「いいやいいや。私が未来人であることを真偽のつかない仮定の話とするならこれは有り得る可能性の話になるだろう」



妹乃:「それもそうだ。それで、その君の世界線からしたら未来の凶悪犯罪者になんの話をしに来たんだい?今君が僕にそう話した事によって変わる未来少なからずありそうなものだけど」



阿久間:「そうだねぇ。世の中はあらゆる可能性の続きがある。もしかしたら君がさっき、私が作った子供仕掛けの罠で死んでいた世界もどこかに必ずある、かも、しれない」



妹乃:「うん、そもそも僕が生まれてなかった世界の九年後の九月十一日はさぞ平和なんだろうね」



阿久間:「どうだろうね。未来に起こる大きな出来事は変わらない、因果律というものも存在すると言うし、妹乃くんと近しい思考を持った人間がなにかしていてもおかしくないだろう?」



妹乃:「アリストテレス説だね、世界の様々な要因はそのまた原因に繋がり最後は一つに繋がる。どうやら人はそれを神と呼んでいるらしいけど」



阿久間:「人間はかくも賢い生き物さ。誰かも言ったろう、神は死んだ、と」



妹乃:「それにとって変わったのが悪魔だって言いたいのかな」



阿久間:「人が悪魔であるという説は昔からある。そしてそれは恐らく間違いではない」



妹乃:「君は何者なんだい?」



阿久間:「私はね、学者なんだ。未来の。しかも超偉い」



妹乃:「教科書に乗るくらい?」



阿久間:「今だと紙幣になるくらい」



妹乃:「そりゃ凄いや、いい経験したな。仮にこの先、それこそ途方もない未来かもしれない文明開化が進んだ先で、仮にどんな偉業を成し遂げたら野口、樋口、諭吉と肩を並べられるのかな」



阿久間:「ふふ、何年先かも分からない未来で、私はこう呼ばれている」



0:場面転換



水瀬:「ーーラプラスの悪魔。

水瀬:それがもし仮に実在するとしたら、その人は未来を変える力も持ってるのかな」



白橋:(N)「どうだろうか。ゲームのように数字で全ての運動を決めるシステムなら、自在に組み換えは出来るだろう

白橋:世にはこの世界がゲームであるという説すらあると言うし」



水瀬:「シュミレーション説だっけ、あれも面白いよね〜

水瀬:なんだっけ、多重人格の人間の下に意思が何個もあればその人の中で見えてる世界が二つ以上になるのと同じで

水瀬:私達の世界もシュミレーションにシュミレーションを重ねた意思の連続だってやつ」



白橋:(N)「パラレルワールドにも似たものを感じるがどうだろう、未来を変えるというより、新しい可能性の先が生まれる。という表現の方が正しいように感じる」



水瀬:「確かにそうだね、変えられた未来と変えられてない未来の区別は結局私達には分からないわけだし、全ての「数」を掌握した悪魔さんならその可能性の分だけ全て見れてるってことになるのかな」



白橋:(N)「もしそうなれば世界なんてちっぽけでつまらないものになってしまうのだろう」



水瀬:「でもそうなると悪魔さん自身も数になるのかな?だとしたらタイムスリップとかも出来るのかな、駒を動かすみたいな感覚で」



白橋:(N)「科学的技術が追いつくなら可能なのだろうが、現在の科学では未来に行くことは出来ても過去には行けない。というのが定説になっている」



水瀬:「でももし数のシュミレーションだとしたらゲームのセーブポイントと同じようにここから体験するとか出来るかもよ?

水瀬:悪魔さんには悪魔さんの価値基準があるから私達では想像もつかない簡単な方法があるかもしれない」



白橋:(N)「確かに、ゲーム中に存在するノンプレイキャラクターは、セーブやロード。プレイアブルキャラクターの存在を疑うことはしないだろう。これもゲームの中の人間に意思があればの話なのだが」



水瀬:「自立思考のAIの技術が進めば分かるんじゃないかな。私達だって自分の意思が本当に自分のモノの意思なのかも分からないわけだし」



白橋:(N)「と言っても、自分の意思じゃない証明も出来ない訳だが。これを言うとブーイングが飛んできそうなのでやめておこう」



0:場面転換



妹乃:「へぇ、そりゃまた、面白いあだ名を付けられたものだね」



阿久間:「だろう?だから全部知っているのさ、君が昨日「女は男を殴って許される世界が気に食わない」と女を殴りつけてみたのも、一昨日食べたハンバーグが半生で、全く手をつけずに食い逃げした事も、昨晩トイレットペーパーが切れていて用を足すのに一苦労したのも」



妹乃:「これは訴えてもいいのかな?」



阿久間:「それは困る、司法は強いからね」



妹乃:「未来人も法律は怖いのかい、拍子抜けだね。因みにラプラスの悪魔さんから観測して、さっきのしょうもない罠で僕が死んじゃったのは確率的にどのくらいなんだい?」



阿久間:「残念ながら0%だった。どの時間軸でも君は生き残ったよ、凄い凄い」



妹乃:「なぁんだ、言った通りじゃないか。もしかしたらは無いって。ラプラスの悪魔そのものを否定するような結果が出せて僕は幸せだよ」



阿久間:「ふふ、私も嬉しい。未知の事があるっていうのは嬉しいものなんだね」



妹乃:「0%でも結果的に引いた後の結果が100%になるわけだから悪魔の世界も結果論主義なわけだ」



阿久間:「だからこそ、私は私の知らない世界を心から見たくなった」



妹乃:「君を殺せって?」



阿久間:「そんなつまらない話じゃない。そんなことしても漠然と残る可能性の上を君達がなぞって行くだけだ」



妹乃:「じゃあなんだい」



阿久間:「ラプラスの悪魔はシュミレーション試行で何度も確率を計算し、実行に移すことができるの。例えばこの世界の起源に戻って初めの人間に細工をする」



妹乃:「進化論に水を差そうって言うのかい、はは。面白いね」



阿久間:「適応していく生き物なんだよ、人間は。私達の幾度に渡る試行錯誤がなされていなければ君らはまだ猿だ。

阿久間:これから632京9兆1299億4212万8288回繰り越しの時間軸で、ようやく日本で言うところの江戸時代と同時期の文明が明ける。数にするとこんな感じだ」



妹乃:「そりゃあ、ありがたいことだ。それで、君はこのプールにどんな劇薬を垂らしにきたんだい?」



0:場面転換



白橋:(N)「この女、また変な話をし始めた」



水瀬:「私達の脳みそって全体の10%以下しか使われてないらしいじゃない」



白橋:(N)「アインシュタインの話だろう。「人間の潜在能力は10%しか引き出せていない」という言葉が始まりらしいが」



水瀬:「これって全部使えたらスーパーヒーローとかになれるのかな?」



白橋:(N)「水瀬 咲は変わっている。

白橋:いつもこんななんの得にもならない話を真剣に一人で話している

白橋:聞いているのは俺一人で、さながら観客のようだ。だが、そんな世界が俺は嫌いじゃなかった」



0:場面転換



0:廊下を歩きながら話す二人



妹乃:「ーーーこれは・・・なんだい?」



阿久間:「私の思考シュミレーションと同じ類の解放率を君に捧げた」



妹乃:「君のとどう違うのさ」



阿久間:「私は「思考」して「計算」する事で結果を選ぶことが出来る。



阿久間:そして君は「試行」して「実行」する事。それで望む結果を選ぶことが出来る」



妹乃:「つまり僕は、ラプラスの悪魔にも匹敵する力を得た。という事でいいのかな」



阿久間:「ふふ。

阿久間:ああ、そうだとも、そしてーーー」



妹乃:(被せて)「は、はは。はははっ!凄い!凄い!凄いや!」



阿久間:「おやおや」



妹乃:「見ただろう阿久間さん!僕が今「そう弄った」だけでロシア中東がさっきまでの統治形態を大きく変えた!



妹乃:自治州まである、言語は変わっていないようだけれど・・・中央政府へのヘイトは高い。内戦間近のような緊迫状態だ、は、ははは」



阿久間:「はしゃぐね、妹乃くん」



妹乃:「は、はは、分かってたことだろう、阿久間さん」



阿久間:「さて、今の君はあらゆる可能性を垣間見て、実行する計算力を手に入れたわけだが」



妹乃:「僕がどうするのか楽しみだって顔だけれど。

妹乃:どうせ分かっているんだろう?お得意の計算でさぁ」



阿久間:「ああ。君は、本当にいい素材だ」



妹乃:「本当に君はつまらないね。」



阿久間:「そうかな。私は楽しいよ」



0:妹乃は教室に足を踏ま入れる



黄橋:(N)「改めて、俺の名前は白橋。そしてここは放課後の教室。さらに目の前には独りの女子。こんな如何にも空間で唐突に二人の男女が乱入してきた、そして話はここから始まる」



水瀬:「・・・?誰ですか?」



妹乃:「あぁ、何十回目かのこんにちはだ、水瀬さん。僕は妹乃 明」



白橋:(N)「隣の女性は何もする様子はなく妹乃と名乗る男が水瀬の手を掴みやはりニヤニヤと笑っている」



水瀬:「はぁ。そこの方は?」



阿久間:「私はいいよ。どうせすぐ忘れるからね」



妹乃:「しかしこうして何度あっても、君は変わらずこの時間に、この場所で一人で居るんだね」



0:一瞬の沈黙



水瀬:「へ?」



妹乃:「うーん、うーん。白橋くんって言うの?彼」



水瀬:「バシ?うん、そーだよ」



妹乃:「どうもこんにちはバシくん」



白橋:(N)「こんにちは」



妹乃:「彼はなんて?」



水瀬:「え、いや、聞いた通りこんにちは。って返してましたよ」



妹乃:「そっかそっか。じゃあ次の質問いいかな」



水瀬:「?はい」



妹乃:「きみ、その体で生まれて何年経った?」



白橋:(N)「俺の世界ではいつも水瀬が独りで俺に話しかけてくる。俺はそれを聞いて相槌を返す」



水瀬:「・・・?何言ってるんですか」



白橋:(N)「俺からしたらこの狭い教室の、この時間の、水瀬との会話だけが世界の全てだった」



妹乃:「水瀬みなせ さき。八年前、親からの過度な虐待により両親を殺害。その後叫び声を聞いて駆けつけた当時の友人、白橋しらばし とおるも錯乱し殺害。その後精神に異常をきたし自分の中に黄橋 透という人格・・・いや、この場合はイマジナリーフレンドが正しいかな。これを作った、と」



白橋:(N)「だが俺はそんな世界が、嫌いじゃなかった」



水瀬:「ーー何言ってるんですか?お母さんとお父さんなら家で私の帰りを待ってくれてますしバシだってすぐ横に居ます、変な冗談はーー」



妹乃:「嘘つけぇ。何億回も挨拶したって言ったろ?何回見間違いと聞き間違いじゃないかと思って周回したと思ってるのさ」



水瀬:「辞めてください、怒りますよ」



妹乃:「怒ればぁ?怒ったところで君が実母実父と幼馴染を刺し殺したのに変わりはないんだし、ねぇ?バシくん。」



白橋:(N)「・・・」



妹乃:「まぁ、水瀬さんの頭の中にいるんじゃ会話のしようもないけれど」



水瀬:「・・・」



妹乃:「おっと、黙っちゃった」



阿久間:「あまり女子を虐めるものじゃないよ、妹乃くん」



妹乃:「いやぁ何回やっても飽きないね」



水瀬:「ーーです」



妹乃:「ん?」



0:水瀬は清々しい笑顔で妹乃に顔を向け、その顔色のまま話し始める



水瀬:「はい。そうです。私が殺しました」



妹乃:「ーーこれはこれは、はは、初めて見るパターンだな」



水瀬:「でも私には私の中でバシが居る。引き取ってくれた義母も居る。なので、それで十分です」



阿久間:「はは。壊れてるというより壊れてるフリをして自衛していたのだろうね。ああ、その方が嫌な事を思い出さず済むというものだ」



水瀬:「何をしに来たのかはまったくもって分からないし理解したくもないので出てって欲しいな

水瀬:えぇうん、嫌いです。気持ち悪いです。不愉快です」



阿久間:「ぷっ、言われてるよ妹乃くん」



妹乃:「・・・別に僕も煽る為だけに通い詰めたわけじゃないんだよ、水瀬さん」



水瀬:「なんでしょう。これ以上あまり貴方と話したくないんだけど。」



妹乃:「嫌われたね、こりゃ」



阿久間:「ああ。世の女性は恐らく全員君のことが嫌いだよ、私以外はね」



妹乃:「ひゅー、ありがたい」



水瀬:「早く、してくれませんか、私、こう見えて今キレそうです」



妹乃:「もうキレてるよ。

妹乃:彼、白橋くん、生き返らせてみたくない?」



0:間



水瀬:「は?」



妹乃:「試して見たくなったんだ、彼ほどの自立した思考を持った意識内人格も珍しい。だからもし、彼を実体化させることが出来たら。どうかな」



水瀬:「・・・」



白橋:(N)「酷な質問である。悪魔の誘いとはこのような事をいうのだろう。実態を持った白橋は果たしてこれまで通りの水瀬の中に存在する白橋なのか

白橋:それとも次自分の目の前に現れるのは自らの手で殺める以前の白橋なのか

白橋:はたまた全く別の人格を持った白橋なのか

白橋:唐突に現れた妹乃 明という男に対する不信感は拭えないが、彼の言葉は何故かただの嘘の一言で片付けられない。ねちっこく絡みつき、嫌という程重苦しい」



妹乃:「まぁ、勿論君が嫌だと言ってもやってしまうんだけどね」



水瀬:「・・・なら」



妹乃:「?」



水瀬:「もしそんなことが出来るなら、世界自体変えませんか?」



妹乃:「・・・」



水瀬:「思念を実体に出来るんですよね、なら思念の影響を強く受けた世界に作り替えることも出来ると思うんだ、うん。思うんだ、私」



妹乃:「はは、できるのかな、僕に」



阿久間:「世界の概念構造を変換するという事なら、確かに可能だよ。そして君は32分55秒後にそれを実行する」



妹乃:「やっぱり君がいると面白くないね。攻略本は読まない主義なんだ」



阿久間:「ふむ。それで、どうするんだい?」



妹乃:「ーーあぁ、もちろんいいよ。だってどうしようも無く面白そうだ。どんな世界が良いとか、リクエストあるかい?」



水瀬:「・・・皆がヒーローになれるような、そんな世界がいいなぁ」



白橋:(N)「水瀬 咲には愛がない。愛がない理由を知らない。

白橋:親から虐待を受け、ただ一人の友人を自らの手で殺害した彼女は思った

白橋:何かが足りなかったのだと

白橋:それは金だったり、地位だったり、知識だったり、愛だったりもすると考えた

白橋:彼女が出した結論は、自分を助けてくれるような力あるヒーローがこの世に溢れればいいと言う、そんな利己的な考えだったのだが

白橋:別に俺は止めもしなかった

白橋:ただただ、興味がなかった。もう俺の嫌いじゃなかった世界が終わる事に変わりはないようだから」



妹乃:「いいね。試してみよっか」



白橋:(N)「ほらな。だからもう、次来るであろう世界の事を、俺は嫌い続けるんだろうと思う」



0:時間経過



妹乃:「やぁ。どうやら途方もない時間が過ぎたみたいだね。

妹乃:誰もがヒーローになるにはやはり僕や阿久間さんのように脳の解放率を引き上げるしかない。そして人類は新たな火を得た

妹乃:創造主を冒涜するような行為。そのためのトリガーを、僕は聖書に因んで「林檎を食す事」とした



妹乃:どうだろう。かなりロマンチックじゃないかな」



0:間



0:場面転換



0:何処ともしれない場所



阿久間:「やあ。妹乃くん」



妹乃:「阿久間さんかぁ、随分と久しぶりな気がするけれど、阿久間さんの中ではまだ五分程度しか過ぎていないのかな」



阿久間:「うん。しかし真っ暗だ。ここは始めてだとも」



妹乃:「そうだね、確かに。ここで会うのは初めてだ」



阿久間:「おや。いつの間にか器用になっちゃって」



妹乃:「うん、歳だけで言ったら神様よりも生きたんじゃないかなァ僕」



阿久間:「そうかそうか。神は死んだね」



妹乃:「は。よく言うよ」



阿久間:「ふんふん。凄いじゃないか。まだ見ていないが、計算するに最終発展具合で言えば前回の2000年前後。規模はユーラシア大陸程度かな

阿久間:賢いじゃないか、無理の無い範囲で無理の無い数のテコ入れに成功、するだろうね」



妹乃:「本当につまらないね。阿久間さんは」



阿久間:「だが言ったように、全ての可能性におけるターニングポイント、特異点とでも言うのか。人類史に残る激動は何らかの形で同等の結果が残る

阿久間:行き着く先は大差ないと思うよ」



妹乃:「いいのさ、ちょっとした映画を見に行く気分で行くからね。少しでも見応えがあって、面白ければそれでいいんだ」



阿久間:「そうかい。で、それがヒーローになる為の「種」のようなものだね?」



0:妹乃は林檎を掌で投げ遊ぶ



妹乃:「ああ。僕が一番手間取って、一番面白いと思ったものだ。当てていいよ」



阿久間:「…ふぅん。概念、或いは現象。か」



妹乃:「本当に凄いな、阿久間さんは

妹乃:うん。正解。例えば「死」という概念があり現象がある。その結果を、一切のプロセスも原因も無しに引き出す。いや、借りるとでも言うのかな



妹乃:現象と、現実の理論値を破綻寸前まで擦り合わせる。これが僕の結論だ。何点かな」



阿久間:「ああ。満点だ」



妹乃:「こりゃどうも。」



阿久間:妹乃 明にとって、全ての事象に対する選択肢はたった二つだ



妹乃:「さあ。僕はそろそろ行くよ」



阿久間:面白いか、否か。ただそれだけ



妹乃:「そうだ、最後にひとつ試したいことがあったんだ」



阿久間:だから彼は、どうやら世界にナイフを突き立てたらしい



妹乃:「君を殺すことにした。今、ここで」



阿久間:「無駄だよ。私は無限の「数」であり、即ち無数の観測者であり、ゲームの盤上からは外れた存在だ。生命活動を止めるという意味でなら勿論可能だが、それは瞬間的なものに過ぎない」



妹乃:「だろうね。あれだよ、僕の映画鑑賞を始めるに至っての記念だ。」



阿久間:「ふふ。そう言うと思った。やはり私は君が好きだよ、妹乃くん」



妹乃:「そ。僕からしたら世界で唯一嫌いな人間が君だよ、阿久間さん

妹乃:これからは観測者に徹するといい。全く関係のない世界から、覗き見るだけの。

妹乃:ここは、僕の客席だ」



阿久間:「うん、やはりいい素材だ」



妹乃:「いいや。僕は君みたいに計算して物事を見る事が出来ないけれど、人を見る目はあるつもりだ

妹乃:退屈しているだろう。辟易しているだろう。可能性という名前の、ただの確率に」



阿久間:「はは。ああ、酷く、つまらない」



0:妹乃は阿久間の喉にナイフを突き立てる



妹乃:「だからもう喋らなくていいんだ。何度も同じ事を喋るのも、飽きたろ」



阿久間:ーーーー。



妹乃:「ご覧。悪魔も、ナイフで刺されれば死ぬんだ」



0:間



水瀬:(N)「人類の原罪は、林檎を食したことだと言う」



白橋:「・・・」



妹乃:「おはよう、バシくん。いや、今はカルビス・ラングナーって言った方がいいのかな」



白橋:「なんだそれ」



水瀬:(N)「この世は腐っていると彼は言った」



妹乃:「やっぱり思念のみを身体にする事は難しくてね、他人の体を頂戴するしか無かったんだ。どうかな、人は火を吹いて空を飛べるようになった。さながらマーベルヒーローだ。文字通り皆がヒーローになれる世界じゃないかな」



白橋:「水瀬はどこだ」



妹乃:「さぁ?元の体が残ってるのは僕だけだから。誰かの体に残ったか、消えたか。僕の知るところじゃないね」



水瀬:(N)「金に溺れる者。性に貪欲な者。人に依存する者。目を背ける者。他人を蹴落とす者」



白橋:「…妹乃 明。俺は別にお前を憎んではいない」



妹乃:「そうなの?てっきり怒り沸騰中かと」



白橋:「ただ、やっぱりあの狭い世界が俺の全てだったから、それを壊したお前も、お前が図工の時間に作る粘土みたいにこねくり回したこの世界も嫌いだ」



水瀬:(N)「だからどうやら彼は、世界にナイフを突き立てたらしい」



妹乃:「はは」



白橋:「ついでに言うならお前のそのニヤケ面も大嫌いだ」



妹乃:「ならどうするの?」



水瀬:(N)「純粋な悪意」



白橋:「そのムカつくニヤケ顔、いつか吠え面かかせてやる」



妹乃:「はは。楽しみにしてるよ」



0:妹乃は林檎をひとつ齧る



水瀬:(N)「一番最初の罪。端的に言うのであればそれが「林檎」だった」


ほんへほんへほんへほん!

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