25話 卑劣な簒奪者②
メナスがダナモラナムから持ち帰ったのは労ってやれるような成果では無かった。
残念だ。
メナスがダナモラナムに到着した時にはアダマンタイトタートルは討伐されてしまった後だったという事だ。
しかも、実際に討伐されたのはアダマンタイトタートルではなく、オリハルコンタートルだったという。
オリハルコンタートルに恐れをなして逃げ帰ってきたのであれば、厳しい折檻をせねばならないところだったが、獲物が居ないでは労うことも叱ることもできようはずもなかった。
残念だ。
幸いにしてその間に父上がワイバーン討伐の功績でルイスを王位に任ずる、などという事は無かったわけだが、相変わらずあちらの方が一歩先を行っている事は変わりがない。
今回の件で無為に時間も浪費してしまった。
何か逆転の手を打つ必要があった。
「カール達を呼べ」
私の怒りを孕んだ声に小間使いが慌てて出て行った。
しばらくして扉が開いた。
「カール以下ダルトー、リケル、参上致しました」
「遅いっ! 貴様らがこのような腑抜けた体たらくだから、簡単な作戦すら失敗するのだ! 分かっているのか!」
バンッ!と机が音を立てる。
私とてこんな事はやりたくはないが、弛んだ部下の指導もまた王族の務めなのだ。
「「「はっ、申し訳ありません」」」
「カール! 貴様はオリハルコンタートル討伐作戦の間、一体何をしていた! 聞けば、貴様、その歳にもなって未だ童貞らしいではないか! 大方メナスに鼻の下を伸ばしておったのだろう!」
「申し訳ありませんっ!」
バァンッ!
「申し訳ありませんだと!? 貴様ぁ! オリハルコンタートルを討伐出来ておれば、ワイバーンより遥かに大きい手柄だったのだ! 父上も私の王位継承を認めて下さっただろう。何故だ! 何故失敗した!」
バンバァン!
「畏れながら、ダナモラナムに到着した時にはもう」
バァァァァンッ!!
「違う! 貴様らがメナスに色目を使ってチンタラしておったからだ! この責任は全て貴様らにある! 必ず責任を取ってもらうぞ!」
「はっ」
こんなものでいいだろう。
いくら此奴らが腑抜けのくせに、美人と見ればすぐに盛りだす愚か者だと言っても、自らの失態を挽回するチャンスくらいは与えてやらねばなるまい。
王となるものには寛容さが必要なのである。
オリハルコンタートルを討伐出来なかった以上、一刻も早く成果を上げねばならなかった。
間もなく領主会議がはじまる。
王位継承者の発表を行うには絶好の機会だ。
その上、城内では今回の会議で何か大きな発表があると噂が立っている。
このままでは卑怯者のルイスに王座を奪われてしまう。
本当に一刻の猶予も無い状況だった。
ふと、ダナモラナム出発前にメナスがこぼしていた言葉を思い出した。
「そうか、私は何を遠回りな事ばかり考えておったのだ。余計な事などせず、今すぐにドラゴンを討てば良いではないか」
今日は頭が特に冴えている。
そうだ。
近場にすぐに倒せるドラゴンがいるではないか。
「よし。では貴様ら3名には今回の失態を挽回するチャンスを与えてやろう」
「「「はっ」」」
「アーツクライク迷宮に挑み、20層にいるというグランドドラゴンを討伐してまいれ。もちろんメナスも行かせるが、傷一つ付けさせることは許さん」
「お、お言葉ではありますが、リュース様、ダンジョンのドラゴンはそれまでの階層の攻略も必要になり、外のドラゴン討伐よりも遥かに難易度が」
バァァァァンッ!
「貴様、今後に及んで尻込みとは。せっかく私がチャンスを与えてやっているというのに、どこまで腑抜けておるのだ!!」
バァァァァンッ!
「難しいというなら、それをなんとかするのが騎士の役目であろうが! 時間も無いのだ。今から討伐の準備をして、いますぐ出発せよ!」
「なっ!」
「リュ、リュース様は我らに死ねとお命じですか!?」
カールだけでなく、後ろの名前も知らんボンクラまでが口答えを始めた。
我が騎士団はどこまで弛んでいるのだ。
私が王となった暁には大幅な改革が必要だろう。
「私が部下に死ねなどと言うはずがないだろう。ドラゴンを討伐して来いと言っておるのだ。…………。分かったら、さっさと行けぇ!」
バァァァァンッ!!
カール達がすごすごと出て行った。
奴らは私の寛容さに甘え切ってしまっていて、もうダメだな。
この作戦が済んだら取り替え時かもしれぬと考えていると入れ替わるようにメナスが入ってきた。
相変わらず色気のある女だ。
「メナスよ。よく戻った。無事アダマンタイトタートルを討伐せしめた暁には私自ら、其方を労ってやろうと思っておったのだが、残念であったな」
私手ずからじっくりと労ってやるつもりだったのだから、メナスもさぞ残念に思っている事だろう。
「リュース様の手を煩わせるなど、畏れ多くて私などには勿体無く存じますわ」
どうもメナスの表情が固い。
あの腑抜け共のせいで作戦が失敗したのだというのに、きっと自分のせいだと背負い込んでいるのだろう。
「ふふん、そう畏まらんでもよい。今回の作戦失敗は其方のせいではないのだからな」
一部では私は上司として厳しすぎると言われてしまっているようだが、本人の責任にない事を叱責するような事は決して無い。
信賞必罰をもって部下にあたることこそが上司としての心得であり、私が王になった時にも取り入れるべきだと考えている方針だ。
「だがしかし、状況が悪くなったのは確かだ。父上にまだ動きは無いが、まもなく領主会議も始まる。今年は何かしらの大きな発表があると噂も流れている。会議が始まる前に! 何としても手柄を上げねばならん!」
メナスはまだ申し訳の無さそうな顔をしている。
カール達と違い、責任感の強い女だ。
なれば、メナスについては罰ではなく、賞による動機付けをしてやらねばなるまい。
「もはや手段は選んでいられん。メナスよ、前衛には騎士達を付ける。準備も整わぬような状況で悪いが、私の為に、ドラゴンを討ってくれんか?」
あえて『私の為に』を強調してやった。
こうしてやれば、罰としての命令では無く、私に感謝して作戦に臨んでくれることだろう。
それに、メナスは女としても私からの頼みは断れないはずだ。
女心を弄ぶような真似をして心苦しくはあるが、見事ドラゴンを討って戻った際には、今度こそ満足のいく労いをじっくりとしてやろう。
「リュース様の御意のままに」
殊勝な返事だ。
果報を楽しみに待つとしよう。
△ ▼ △ ▼
メナスは戻らなかった。
それどころか、末弟であるレオンは部下がダンジョンでメナスに遭遇し、メナスに襲われたなどと言い始めた。
このようなタイミングで都合よくダンジョンで部下同士が遭遇などするはずが無い。
私にドラゴン討伐の目処が付いた事をどこかで嗅ぎつけたレオンがそれを阻止する為、暗殺者を仕向けたに違いない。
ルイスだけでなく、心優しい弟だと思っていたレオンまでがこのような悪辣な手段を取ってくるとは。
王の椅子というものはここまで人の心を狂わせてしまうものなのだろうか。
流石に事態を重く見た父上が息子達の召集を命じた。
私だけでなく、父上も領主達との会談で忙しい中、このような下らない時間を取らされるとは。
ルイスとレオンには然るべく鉄槌を下さねばなるまい。
「皆、忙しい中呼び立ててすまぬな。今日はあまり時間は無いが非公式の集まり故、忌憚無く意見を述べよ」
父上がいつもの優しい声色で開会を宣言した。
「はっ、ではさっそく本題を。今回の件については中立である私、ルイスから状況説明を致します」
「頼む」
「まず、リュース兄上の申し出です。先般の父上からのドラゴン討伐の指示に従い、新たに迎え入れた魔術師メナスを中心に兄上の護衛騎士であるカール、ダルトー、リケルの4名にアーツクライク迷宮20層のグランドドラゴン討伐を指示、該当日の前日から潜入し、翌日も継続して攻略を進めているはずだったとの事です。いかがですか?兄上」
「あぁ、相違ない」
今となってはルイスも簡単には信じられない。
何が中立だ。
ルイスとレオンが既に裏で手を結んでいるということもありえるのだ。
下らない策にはかからぬよう、注意せねばならない。
「では次に、レオンからの申し出です。以前よりレオン主導で動かしていた冒険者を主体とした王国全体の戦力増強の一環として、冒険者活動をさせていたレオンの護衛騎士、及び側近のクレイ、ヴァイス、リエリィの3名が金級冒険者試験の試験官を行う事になり、受験者である銀級冒険者2名と共にアーツクライク迷宮に潜入。該当日朝より潜入し、同日朝、15階層にて兄上の部隊のメナスと遭遇。ここまで、問題ないか? レオン」
「はい。間違いありません」
いけしゃあしゃあとレオンが言い放つ。
さっそく矛盾が生じているではないか。
「待て。今の話では、朝にダンジョンに潜り始めたのにその朝のうちに15階層まで行ったという事になるではないか、そのようなことがある訳がない! 父上、レオンは言葉を偽っておりますぞ」
「まぁ待て、話は最後まで聞くものだぞ、リュース」
これ以上何を聞く必要があろうかとは思うが、ひとまずは全てを聞こうと父上が言う。
まぁ、構わぬか。
私にはやましいところなど微塵も無いのだ。
堂々と受けて立とうではないか。
「続けます。メナスと遭遇したものの、現場にはメナスが下手人と見られるカール、ダルトー、リケルの重傷体が放置されており、それを問い質したところ、メナスから攻撃を受け、それに応戦。レオンの部下達が重傷を負い、更にメナス側の援軍が現れるも、受験者である銀級冒険者の奮戦によりこれを撃退。ここまでです。レオン、良いか?」
「ありがとうございます。兄上。状況についてはそれで大丈夫です。ですが、そこに付け加えさせて頂きたい情報があります」
「申してみよ」
「メナスが自身の正体は色欲の魔人メナスティニエであると自白したとの事です。混乱を招かないように、なるだけ内密にすべき情報かと思い、一旦は伏せさせて頂きました」
「なんと……」
父上が目を丸くしておられる。
このような見え透いた嘘に惑わされるなど……、やはり父上は耄碌してしまわれた。
話を大きくすれば嘘を誤魔化しやすくなるとでも考えたのだろうが。
なんとしてもこの悪辣なレオンと、卑怯者のルイスから王位を、国を守らねば。
「更に、援軍に現れた男も、強欲の魔人ウィルディマーノだったとも、先の銀級冒険者が申告しています。今は金級冒険者になりましたが」
「上位魔人が2体もか。やはり状況は逼迫しておるようだな」
「父上、何を納得しておられるのですか。上位魔人が同時に2体も現れたなど、嘘を吐くにしてももう少しマシな嘘を吐いてはどうなのだ、レオンよ。その冒険者とやらも私の部下を襲わせる為に雇った暗殺者に違いありません」
このままではレオンの奸言に父上が流されてしまうと危惧し、真実を伝える。
「そんなことはしていません! 兄上、今回のボクの部下の行動は冒険者ギルドとも連携を取って行っています。彼ら受験者の経歴についてもギルドに問い合わせてもらえれば、潔白が証明されます」
「ならば、冒険者ギルド丸ごとグルだということではないか! 父上、騙されてはいけません。レオンは王位欲しさに目が眩み、方々に手を回し、私の部下を暗殺したのです!」
「では、リュースよ、そのメナスという者の身分を証明するものは何かあるか?」
まさか、父上は私を疑っておられるのか?
正しいのは私だというのに、なぜそのような証明のしようの無いものを証明せよと仰せになるのか。
「彼女は私の戦力募集の布令を受け登城し、私自ら採用を行った優秀な魔術師です。断じて魔人などではございません!」
真実をただただ心を込めて伝えるのみだ。
「リュースよ、そうではない。その者の経歴などは分かるのかと聞いておる」
「仮にそのようなものがあったとしても、レオンのようにいくらでもでっち上げられましょう。そのようなものより、父上、私の目を見て下さい! 真実を語る者がどちらなのか、その目でご判断下さい!」
「分かった。もうよい。では逆にレオンよ。そのメナスが魔人であった事を証明できるものは何かあるか?」
父上はチラリと私を見て、矛先をレオンに変えられた。
出来ればもっとしっかりと私の目を見て、真実を語る私を認めて欲しかったが、ひとまずは納得頂けただろうか。
「いくつかはありますが、客観的視点での証明というと難しいかもしれません。ただ、ボクの側近であり、親友であるクレイは色欲の魔人の呪いに当てられ、今も苦しんでいます。クレイなら父上も何度もお会いになって頂いていますから、彼の姿を見て頂ければ信じて頂けるかと思います」
「あのクレイか?」
「はい。呪いの影響で今は拘束状態で治療を受けています」
「ふむ…………。後で見舞いに行く」
父上の顔が痛々しく歪む。
何を企んでいるかは知らないが、見舞いに行ったところで下らない三文芝居でも見せられるのであろう。
「父上、親友というのなれば、私の幼少の頃よりの友であるカールも此度の暗殺によって命を落としています。断じて許せぬ事態です」
「あぁ、そうであったな。クレイもカールもか。オルスドにも詫びねばならんな……」
オルスドとは彼らの父であり、長く王国騎士団長を勤める者だ。
何かと口煩い為、私はあまり快く思ってはいないが、父上は重用し続けている。
「そうであった! となれば、レオン、お前は部下に兄弟殺しを命じたというのか! なんと、何と言う悪辣なっ!」
ここに来て驚愕の事実に気付いてしまう。
だが、兄である私を陥れようと企んでいるのだ。
部下に兄殺しを命じるくらいは訳もないことなのだろう。
「そんなっ! そんな事が出来るわけが無いです! たとえボクがそう命じたとしても、カールさんをあんなに慕っていたクレイがそんな事をするわけがないじゃないか! いくら兄上でも、それはーー」
「いくら側近とはいえ、部下が兄弟のことをどう思っているかなど知っているはずがないであろう。レオンよ、また尻尾を出したな! 下らぬお涙頂戴は止めて罪を認めよ!」
「兄上!」
「そこまでだ。もう良い。ルイス、リュースと共に下がりなさい。私はレオンに話がある」
「はっ」
父上は疲れた顔で私に退室を促した。
この後、レオンには断罪が下され、その後の処分についての話があるのだろう。
ルイスが扉を開けて私を急かすが、悠々と立ち上がり、未だ負け犬のように私を睨み続けるレオンを見下ろして鼻で笑ってやった。
悪くない気分だ。
△ ▼ △ ▼
自室に戻った私は次の手を考えていた。
レオンの方は愚かな行為で自滅してくれたが、ルイスの方はそうはいくまい。
悪知恵が働き、よく舌の回るルイスの事だ。
もしかすると今回の一件も初めからルイスの仕込んだ策で、浅慮なレオンはまんまとその口車に乗せられただけなのではないか、とさえ思う。
ルイスからすれば、暗殺が成功しようと、失敗しようと邪魔になる2人のうちどちらかを確実に消す事が出来るのだ。
いや、暗殺を成功させた上で、それを告発すれば、2人まとめて消すことも可能か。
なんと恐ろしい事を考えるのだ。
あの何を考えているか知れない弟は。
恐ろしいルイスの計画に気付き、背筋に悪寒が走った。
恐ろしい上にドラゴン討伐のこのレースにおいてもリードを許してしまっている。
如何ともし難い。
し難いが……、まずは時間だ。
時間が足りない。
長雨で多くの領主が遅参した為、遅れに遅れた領主会議も明日に開催が決定した。
もし、明日の会議の場で王位継承者の発表があった場合はレオンの不正による妨害があったせいで正しく評価がなされていないと抗議するしかない。
そうだ。
本来ならばもう今頃には私の手元にはドラゴン討伐の証明たる魔晶石があり、明日の会議で私が次期王の指名を受けるはずだったのだ。
おのれ、ルイスめ。
そう考えると奴はレオンを使い的確に妨害を成し遂げたと言えるか。
だが、ワイバーン討伐以降、ルイス陣営には目立った動きがない。
あのルイスの雇った元冒険者は腕は健在らしいが、60を超える高齢だという。
ワイバーンは落とせても、ドラゴンは落とせないと見て良いだろう。
大丈夫だ。
時間はまだある。
メナスを失ってしまったのは痛かったが、戦力はまた募れば良いのだ。
そう、メナスか。
あれは惜しい事をした。
ルイスは討伐ではなく、撃退と言っていたか。
だが、もし生きているのならば、私の元へ戻ってきているだろう。
奴らの姑息な方便か。
死なせてしまうくらいならいっそ妾にでもしてやっておればよかった。
その日はもはや公務を行う気も起きず、予定していた会談は取り止めることにした。
翌日の領主会議は朝から恙無く執り行われ、最後の議題も今し方決着がついた。
いつもならば最後に父上が閉会を宣言して終了の流れなのだが、どうにも父上はまだ何かの発表の準備をしている。
まずいな。
ルイスめはいつも通りの読めん無表情で座っておるが、内示が出ている故の余裕の表情か?
それとも昨日の話の結果でレオンが廃籍にでもなることになったか?
戦々恐々とする私とは無関係に父上の口上が始まった。
「皆の者、長時間の会議ご苦労であった。この度も実りの多い集いであったと思う。だが、今回はもう一つ、重大な知らせがある」
ゴクリと喉が鳴った。
「これを良い知らせと呼ぶべきか、悪い知らせと呼ぶべきかは非常に難しい問題であり、本来、この知らせはもっと早くにするべきであったのやも知れぬ。しかし、その悪い面を世に知らせれば無用な災いを招くであろうことから長く発表を控えておった次第だ」
なんだ?
父上は一体何の話をされているのか、ルイスの件とレオンの件、両方の発表を行うつもりであろうか?
「皆には長らく隠し立てをする形となってしまった事を詫びさせて貰う」
頭は下げず、瞼を閉じて一拍を置いた後、話が続いた。
「本題に移ろう。その話とは、レオンの適性についての話である。6年前の適性検査の結果、レオンの適性は[王]であったと皆には伝えた。しかし、実際はそうではなかった」
場がザワザワとし始める。
本当に父上は一体何の話をされているのだ。
まさか、私にすらも知らされておらぬ話なのか?
「レオンの適性は[勇者]であった。これは我が国に救世の英雄が誕生した事と同時に魔王の誕生を意味する。近頃の魔物共の活性化を見るに、もはや疑いようのない事であると判断した」
勇者だと?
あの悪辣な暗殺を企てるようなレオンが?
とても信じられるような話ではない。
「今はまだ魔物共が騒いでいるという程度の影響であるが、いずれ魔物の大群と魔人共を率いた魔王がこの大陸に攻めてくることになるであろう。その時、レオンと我らアーツクライク王国が先頭に立ち、奴らの侵攻を阻まねばならんのだ!」
罪人と成り下がったレオンを体よく処分するための作り話にしては規模が大き過ぎる。
それに平和主義の父上がやたらと戦力強化を推進していたのはこの為か。
だが、レオンか……
「この事は今年の大陸同盟会議にて同盟諸国にも伝え、全人類の総力をもってあたれるよう説得するつもりだ。そして我が精強なる騎士団よ、各地を治める貴族、騎士諸君よ、存分にその役目を果たし、王国の勇猛を知らしめてみせよ!」
「「「はっ!」」」
「実際の戦端はまだ開かれてはおらぬが、その日に向け、各々にて戦力強化を図り、いつでも動けるよう常在戦場のつもりであたるように。以上だ」
父上の言葉が終わり、会議が終了するも、皆それぞれに自分の出来る事を考え、急いで国元へ走る者、部下に指示を出す者、領主間の連携を取ろうと動く者、城内が慌ただしくなった。
会議での重大な発表というのがルイスの王位決定では無かったのは幸いだったが、レオンについては断罪どころか英雄に祭り上げられてしまった。
これでは大切な部下を失った私がただ一人馬鹿を見た結果ではないか。
勇者だなどと……
300年前にすでに魔王は勇者に討たれているのだ。
同一の存在ではないとはいえ、300年も前の古い武器や戦術で討たれるような輩だ。
今の優れた兵であたれば勇者などと大層な神輿を担がずとも軽く蹴散らせように。
人類は日々進歩しているのだ。
皆は勇者だ魔王だと浮き足立っているが、やはりそんなことは些末な話だ。
私は余所見をせず、王位を守る事を考えるべきだろう。
それがひいては国を守ることになるのだから。
それからも私はドラゴンを倒せる人材の募集に力を入れた。
だが、他の領主達も戦力の囲い込みを始めたようで、なかなか思うように事が進む事はなかった。
それでも、メナスに比べれば小粒な者達ではあったが、募集に集まった者や他の貴族から接収した者達に数度ドラゴン討伐を行わせたが悉く失敗に終わった。
これだけやって未だ成果を出せないとは、やはりルイスやレオンが陰から妨害行動を行なっているとしか思えない。
どうしようもない卑怯者達だ。
まずはこの卑怯者達を無力化しないことにはどうにもならない。
そう歯噛みをしていた時だった。
レオンがドラゴン討伐に成功したという知らせが入った。