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10話 生意気なコイツ

 グレナさんの家で夜まで話し合った。

 内容はリディアの冒険者としての道をどう支援するかという話が1つ、もう1つは俺達が長年見て見ぬ振りをしてきたある話題だ。




 話し合いの結果、リディアに18歳までの2年半で冒険者として出来る限りの教育を詰め込む事になった。


 これからまず半年、俺達夫婦の元で見習いとしてメイルシュッツ周りで冒険者の基礎を教える。


 その後、更に1年俺達の実際の仕事に同行させ、パーティメンバーとして経験を積ませる。


 そこから更に1年、独り立ちさせて活動を見守る。

 新たにパーティを組む事になるか、ソロ冒険者としてやっていくことになるかは分からないが、そこでやっていけそうだと俺達が判断したら、旅を許可する。という流れだ。


 もちろんリディアの頑張り次第ではこの研修期間は長くも短くもなる。

 永遠に卒業しないで欲しいという思いも無いでは無い。


 かつての仲間達の事を忘れたわけではない。

 リディアの教育の為に俺達が休業するのは最初の半年だけだ。

 俺達は戦い続けなければならない。




 昨日、リディア育成計画に粗方目処が立った頃、スオーがおかしな事を言い出した。


 このスオーという少年が下心でリディアに近づいた不埒者では無いという事は分かったのだが、未だ何か得体の知れない感じがして、俺は信用していない。

 グレナさんも、リディアも、アリアさえもすっかり良い子じゃないか、という感じなので、尚更俺だけは警戒を続けねばと使命感を感じる。


 そのスオーが言うには、俺とアリアには『混魂(こんこん)の呪い』という呪いが掛かっているらしい。

 曰く、お互いの魂が徐々に混じり合っていく呪いで、お互いが触れ合う程、より魂が混ざってしまうらしい。

 そして、混ざってしまった魂は引き離すと苦痛が発生し、無理に引き剥がすと死に至るらしい。


 これもまた信用するには困難な話だが、スオーは[鑑定]という適性検査のような技能を使う事ができ、その[鑑定]で呪いが掛かっているのが分かったのだと言う。

 アレは確か、なんとかという神様の力を借りて行う儀式だったはずで、人間なんかに、しかもこんな子供なんかに易々と扱えるスキルのはずが無い。


 だが、俺達にはその呪いに心当たりがあった。

 あってしまったのだ。

 詳細を思い出すことは心が張り裂けそうになるほどの痛みを覚悟しなければならないので、なるべく思い出したくはないが、そう、その心当たりとは俺達[虹色ボルケーノ]が終わった日だ。




 あの日、ダンジョンの奥で俺達は魔人に遭遇した。

 いるはずが無い、情報に無い、入ってきた形跡もない、どんな言い訳をしても事実として俺達はあの魔人に遭遇した。

 全く歯が立たないどころの話では無かった。

 仲間の半数は目の前で死んでいった。

 俺達は完全におもちゃにされた。

 なんとか生き残った俺達も遊び感覚で何かしらの呪いを掛けられた。

 その呪いはとんでもなく高度な呪いらしく、教会の解呪や、手に入る解呪系のアイテムを片っ端から試してみたが、解けるどころか弱まる気配も無かった。


 日に日に見た目が豚に変わっていったダルハイトは自分で自分が分からなくなっていき、俺達に迷惑を掛ける前にと手紙だけを残していなくなった。

 最初はなんとも無かったミーナはある日味を感じなくなり、次ににおいが分からなくなった。

 そして音が聞こえづらくなって来た頃には簡単な薬草採取くらいの仕事しかしていなかったはずだが、ある日仕事から帰ってこなかった。


 アイツらに比べたら、俺達の受けた呪いなんて進行も遅い上に、効果は逆に幸せを感じているくらいの笑っちまう呪いだ。

 ただ、アイツらの無念を忘れた日は無い。

 仇を取るとは言えずとも、せめて一矢報いてやるまでは死んでも死にきれねぇ。

 そんな思いで、俺達はいつかあの時のようにあり得ないほどの奇跡であの魔人に行き合うんじゃないかとずっと冒険者を続けている。




 話が逸れたが、俺達はリディアにもグレナさんにも話していなかった呪いの事を言い当てたスオーの言葉を信じ、ある程度詳細がわかると言う彼の言葉に従って対策を話し合った。


 既にかなり魂が混ざってしまっている俺とアリアを完全に引き離すのは最早(もはや)危険だ。

 だが、なるべく進行を遅らせるにはこれからは可能な限り2人は離れていた方が良いという結論になった。

 なるほど、そんな事をしなきゃならないとはアイツらに匹敵する酷い呪いだと思った。


 スオーの話を聞いた後、俺達夫婦が異常にくっついているのは呪いのせいだったのかと、グレナさんとリディアから納得された。

 2人とも妙に納得顔をするが、全然違う。

 呪いのせいで四六時中くっついているように思われているが、呪いという意味では、少しの間くらい手を離す事なんてどうってことはないのだ。

 アリアとくっついていたいのは実は呪いを受けるよりもずっと前からお互いが持っていた感情で、結婚してからは歯止めが効かなくなった。

 つまり、素だ。

 それを話したところ、すっかり呆れられてしまった。




 まずは俺とアリアがどのくらいの時間、あるいは距離を離れていられるのか、テストしてみる必要がある。

 ということで、手を離して1分。


「あぁっ、アリア」


「グスッ、ラウエルぅ」


 俺達は引き離された戯曲の恋人の様相だった。

 たった1分でこんなに心が張り裂けそうで辛い気持ちになるとは、なんて恐ろしい呪いだろうか。

 本当にこんな酷い呪いをくれやがった魔人はクソクソクソだっ!


「ふむ。平気そうだね。ラウエル、あんたは明日、街外で仕事だ。アリア、あんたは私に付き合いな」


 俺達の一体どこを見てそう判断したのか、グレナさんが一方的に決めてしまった。

 その後も全く平気ではない俺が悲鳴を上げてもグレナさんは取り合ってくれなかった。




 そんなわけで今はその辛く苦しい話し合いの翌日の朝だ。


「えー、それでは本日はー、ん、んー、外へ出て、や、薬草採集を行うっ」


 手持ち無沙汰の右手をワキワキさせつつ、今すぐアリアを探しに行きたい気持ちを抑え込み、目の前のリディアとスオーに注意事項を伝える。


「や、薬草採集は薬師が自力でっっつ! 行う者も居るがが、採集可能場所がき、危険な場合も多いので、冒険者にっ! 依頼される事がッ! 多いッ!」


「父さん、大丈夫?」


「だっ、大丈夫だッ!」


 アリアがいない焦燥感で上手く喋れない。

 だが、なんとかコツを掴んできた。

 勢いとパワーで言葉を押し出せば、なんとか喋れそうだ。


「薬師の弟子であるスオーはもちろんッ! 経験しておくべきだッ! リディアもッ! 冒険者の仕事の中でッ! 最も簡単なものの1つだッ! やり方を見ておきなさいッ!」


「「はい」」


「採集予定地はっ! 街から出て約30分っ! テミトルスの森のっ! 手前の平原だ! 街の外ではあるが! 魔物はほぼ出ない!」


 少し力を緩めても喋れるようになってきた。


「だが! 油断は禁物だ! 街から出れば、何が起きるかわからない! 俺から離れるな!」


「「はい」」


 今回のグレナさんからの課題、もとい、依頼はサーモギー草とベームレード草をそれぞれ1袋だ。

 サーモギー草は平原中何処にでも生えている野草なので問題は無い。

 問題はもう一方のベームレード草だが、これは森の際などの少し日当たりの悪い場所に生息する野草なので、ある程度森に近付く必要がある。


 自分で言った通り油断は禁物ではあるが、この周辺の平原には魔物は殆ど発生しないし、したとしても弱い魔物だ。

 平原ならば見通しも効くので、俺から離れ過ぎない限りは殆ど危険は無い。

 問題は森だ。

 森の中はそれなりのモンスターが生息しているし、視界が悪く、突然の襲撃を受ける事がある。


 基本的には森の中にさえ入らなければ、平原と危険度は大差ない。

 だが、ここ最近はどうも魔物共の動きがおかしい。あちこちで異常発生や、生息地の変化が見られているらしい。

 それだけは懸念事項だ。

 しっかり森側に注意を払おうと思う。


 とはいっても、今回の仕事は一般的には駆け出しの鉄級冒険者が請ける仕事だ。

 森から少し嫌な気配はするが、アリアが居なくても銀級冒険者である俺にとっては朝飯前の仕事だ。


 まとめて言うと、呪い対策で本調子じゃない俺でも出来る仕事かつ、リディアの冒険者としての教育と、スオーの薬師見習いの仕事の教育をいっぺんにやってこいというグレナさんの指示である。




「まずは! 仕事の受注だ! 冒険者ギルドへ行くぞ!」


 ギルドへの道中に冒険者について解説していく。


「リディアには話してやったことがあったと思うが! 今回はほとんど身内からの頼み事みたいなものだが、グレナさんが正式にギルドに俺への指名依頼を発注してくれている! 当然、依頼料から達成報酬の間で冒険者ギルドがマージンを取る訳だから! 報酬だけを見れば、ギルドを通さず直接やりとりをした方が良い!」


 焦燥感は治ったわけじゃないが、なんとかマシな喋り方が出来るようになってきた。


「だが! 冒険者は報酬も大事だが、ある程度ギルドからの評価も気にしなければならない。ギルドから一定の評価を得られれば、冒険者としての等級が上がる。逆に評価が悪ければ下がることもある。等級が上がるとより難易度の高い依頼を請け負うことが出来るようになる。もちろん、その方が報酬も良くなる。だから、グレナさんはわざわざギルドを通して依頼を出してくれているわけだ」


 まだ声が張り気味だが、普通に喋れるようになってきた。

 リディアは真剣に、スオーはふんふんと興味深そうに聞いている。


「駆け出しは鉄級から始まって、一端の冒険者と言われるようになる頃には銅級に上がる。その中で実力と実績があると見做されれば銀級に上がれる。ま、硬貨と一緒だな。その先も上に金級、白金級と続く。メイルシュッツくらいの街なら銀級が何人か居るもんだ。逆に金級は1人居るかどうかだが、王都まで行けば金級も2桁はいる。白金級は本当に居るのかどうか、噂くらいしか聞いた事が無いな」


「ラウエルさんは何級なんですか?」


「銀級だよ。実力は街でも指折りって言われてるんだから!」


 俺が答えるより早く、リディアが自慢げに胸を反らした。


「そうだな。銀級だ。だが、銀級として実績もかなり残してはいるが、おそらく俺では金級にはなれない」


 リディアが驚いたように振り向く。


「アリアもおそらく無理だろう。悔しいとも思うが、金級に上がれるヤツは何というか、元が違う。一般人がどれだけ努力を重ねても手が届かない。俺達とは次元が違う。そういう連中だ」


 2人が気まずそうな雰囲気を出している。


「別に俺もアリアも気にしちゃいない。やれる仕事を精一杯やればいいんだ。金級の仕事も鉄級の仕事も困ってる人がいるから回ってきた仕事だ。誠実にきっちりこなせば依頼者は喜んでくれる。そこには上も下も無いのさ」


「そうだね! 私もそう思う」


「へぇー、ラウエルさんも仕事には誠実なんですね。少し見直しました」


 ウチの娘の素直さに比べてコイツはと睨みつける。


「見直す前はどうだったってんだ」


「初対面で人をぶん殴るくせに奥さんと手を繋いでないと泣いちゃうどうしようもない人ですかね」


「ぐっ」


 コイツめ!


「ま、まぁそんなわけで、どの等級でも仕事はキッチリこなさなきゃいけないワケだが、リディアが世界を旅したいと思うなら、最低でも銅級、出来れば銀級を目指さなきゃならない。

 鉄級じゃあ、いつまで経っても素材採集か街の周りの仕事くらいしか出来ない。

 銅級になれば他の街への護衛依頼は請けられるが、それなりの人数を揃えるか、銀級や金級のオマケで付いていくことになる。

 無理だとは言わないが、自分の行きたいところへ行くには自分も冒険者のくせに他に護衛を雇わなきゃ危ない、なんて恥ずかしい状況だな」


「それは確かに恥ずかしいね……」


「銀級ともなれば、自分が行きたいところへ行くくらいは1人でどうとでもなる。護衛依頼は護る相手がいる以上、流石に1人でって訳にはいかないがな。っと、着いたな。昇級の詳しい条件はまたおいおい教えてやる」


 説明がちょうど良いところで冒険者ギルドに到着した。




 ギルドのドアを開けると受付カウンターの向こうから見慣れた厳つい顔のおっさんがこっちを見ていた。

 カウンターに進み話しかける。


「今日もバントスか。仕事の受注に来た。指名依頼が来ているはずだ」


 バントスは目を丸くしたまま動かない。


「おい、バントス。仕事中だ。働け」


「お? おぅ? あぁ、すまねぇ。まさか……な。あの[色ボケ]がついに解散とはな……。ま、こんな仕事だ。深くは聞かねぇよ」


 バントスが気遣わしそうな表情で手元の依頼書類を漁り始める。


「おい、誰が解散だ。俺とアリアは変わらずラブラブだ。変な勘違いするんじゃねぇよ。ちょっとワケ有りでしばらく別行動なだけだ」


「そうか……。まぁ、しばらくは[虹色ボルケーノ]のままで処理しといてやるよ。えぇと、今日はグレナさんからの薬草採取の依頼か。ま、まぁ銀級とはいえ、久々のソロだもんな。こんなところからだな」


 手慣れた手付きで依頼書に何やら記入しこちらに回してくる。

 突っ込みながらも俺の体もいつもの癖で流れるようにサインを書き込み書類を返す。


「バントス、だから俺達は別れてなんかーー」


「あー、いやいい、いい。皆まで言うな。そりゃあれだけベタベタだったんだ。すぐには認められねぇさ。俺だって信じられねぇ。ほい、ほいっと。はい、依頼完了だ」


 書類にドンドンと判を叩き、行って来なと手をプラプラさせる。

 そのまま後ろから依頼受注の流れを見学していたリディアに伏目気味に視線を向けた。


「リディアちゃんも気を強く持つんだぞ。頑張んな。」


 そう言ってカウンターの奥の衝立裏に消えていってしまった。

 奥からどよめきが聞こえてきた。


「「「……」」」


「アイツはバカなんだよ」


 気にするなと2人に振り返って言った。


「いつもお二人がバカやってるせいじゃないですかね」


 コイツめ!

 俺は無視してギルドの設備の使い方の説明を始めた。




「この葉っぱがギザギザしてるのがサーモギー草だ。ま、この辺なら何処でも年中生えてるから覚えておくといい。根っこは要らないから、見えている部分だけ(むし)ってどんどん袋に詰めていけ。今回の依頼はかなりの量だから、集めながらテミトルスの森の方に進もう。周辺の警戒は俺がしておくから、今回はリディアも採集に専念していいぞ」


 俺達は街を出てすぐのところで薬草の採集を始めた。

 グレナさんの要求である1袋というのは大人用のリュックサック1つ分くらいの量だ。

 そこら中に生えているとはいえ、草で埋めるにはかなり大変な量だ。

 移動と採集を同時進行で進めることにした。


 あと5分も歩けばベームレード草の生え始める辺りまでサーモギー草を毟りながら進むと袋はもうパンパンになった。

 太陽はもうすぐ天辺になるだろうか。


「はぁっはぁっ、こ、これは大変ね。腰と腕がもう、だめ」


「はぁっはぁっ、そ、そうだね。僕ももう、手に力が入らないや」


「なんだ2人とも、まだ半分だぞ。そんなんじゃ冒険者はやっていけないぞ」


「父さんは歩いてるだけじゃない。まだ半分あるなんて無理よー」


「僕は今回以降は依頼を出す側ですからっ」


「まったく。冒険者なら誰でも通る道だ。だがまぁ、ここらで一旦休憩だな。森に近付いてしまう前に昼飯にしよう。」


 座り込んでリュックから水袋とサンドイッチの包みを取り出す。このサンドイッチは朝からアリアとリディアが作ってくれたものだ。

 なぜかスオーのリュックからも同じ物が出てくる。


「おい、なんでお前もリディアの手作りサンドを持ってるんだ。」


「え? 集合した時に目の前で受け取ってましたけど、見てませんでした?」


「あの時は父さん、壊れてたから……」


 アリアと離れた後、倒れ込んでいた時か。


「いや、そんなことは聞いていない。なんでお前がリディアからソレを貰えるのかを聞いている」


「父さん、スオーは本来、鑑定の技能のことは人に言っちゃいけないのにわざわざ教えてくれたんだよ? お昼ご飯くらいじゃお礼にもならないけど、父さんも感謝しないとバチが当たるよ?」


「ぐっ」


「もぐもぐ、うん、美味しい。リディアは料理得意なんだね」


「サ、サンドイッチくらい誰が作っても、お、美味しく出来るわよ」


「そうかな。ありがとうね」


 リディアが顔を真っ赤にしている。

 コイツめぇぇ!




 軽く休んだ後、活動を再開した。


「さて、もうすぐその辺りからベームレード草が生えるエリアになるが、そこは森が近い。滅多には無いが、森からは魔物が飛び出して来ることがあるから、近付き過ぎないように注意しろ」


「「はい」」


「では、採集開始だ」


 俺は2人がかがみ込んで薬草採集をしている位置を確認しながら、森との間を位置取って警戒を続ける。


 しばらく順調に採集が続き、ベームレード草の袋も粗方詰まったところで森の中から枝が折れる音と草の掻き分ける音が聞こえてきた。


「2人ともっ! 下がれっ!」


 声を上げて腰から剣を抜き放つ。

 2人との距離に気を付けながら俺も森から少し離れる。

 木々の隙間を縫うように4つの影が飛び出してきた。


「ゴブリンかっ!」


 少し前に嫌というほど倒した魔物だ。


「ギギャギャグゥゥ!」


 お互いに牽制の暇も無く、4体が一気に踊りかかってきた。


「父さんっっ!」


「大丈夫だ! もっと離れてろ!」


 声を張り上げながら一番前の1体の棍棒を剣で左に弾き上げ、体勢を崩させる。

 ガラ空きになった腹に前蹴りを叩き込み、後続の一体ごと吹き飛ばす。

 その間に残りの2体が左右に回り込んで来て大ぶりの棍棒と何かの骨を振るってくる。

 2体同時の攻撃を前蹴りの反動をそのままバックステップに変え、大きくかわす。


 大丈夫だ。

 こんな街近くのエリアでゴブリンが出るとは思っていなかったが、ゴブリンなら4体でも時間をかければ勝てる。

 いつもなら俺が前で時間を稼いでいればその間にアリアが魔法で処理してくれる。

 いつもと違うのは、アリアなら1、2体抜けられたところで適当にあしらえるが、今日は丸腰の子供が2人だ。

 1体たりとも通すわけにはいかない。


 空振りした2体が追い縋りながらまたしても左右から同時に得物を振り上げる。


「連携がなってねぇよ!」


 振り上がった腕を潜り抜けるようにあえて2体の真ん中に体を捻り込む。

 ゴブリンたちの攻撃はお互いの体が邪魔をして俺には届かない。

 飛び込んだ勢いを利用して左のゴブリンを左下から掬いあげるように斬りつける。

 右のゴブリンに組み付かれる前に再度離脱する。


「まずは1匹」


「父さん、すごい」


 最初に蹴り飛ばしたゴブリン達も体勢を立て直し、横一列に並んで一瞬睨み合う。

 スオーも褒めてくれていいんだぞと口の端を上げていると真ん中のゴブリンが叫んだ。


「ギギャギャギャギャグゥ!」


 左右2体が同時に走り出し、少し遅れて真ん中が走り出す。

 左右のゴブリン2体がさらに左右に展開しながら俺の横を通り抜ける。

 まずいっ!


「させるかよっ!」


 後ろの子供達を狙いやがった。

 抜けたゴブリンを狙えば真ん中のゴブリンに背を晒すことになる。

 晒すことにはなるがっ! 

 真ん中のゴブリンの攻撃はもらう覚悟で振り返り、背中から2体のゴブリンの首を刎ねる。

 2体目の首を刎ねた瞬間に背中にドゴッと衝撃を受けた。

 痛みに息が押し出されるが何とか堪えて踏みとどまり、力任せに剣を背後に振り回す。


「ガァっ!」


 棍棒で受けられたが、気合いで振り切り、ゴブリンとの距離を取る。


 バキバキッザザッ!

 なんとかあともう1体と気張った瞬間、横手からさっきのゴブリン達より更に大きな枝と草の音がして、森から大男の人影が飛び出してきた。


「ブルルゴゴゥゥゥ!」


「なっ、オークだと」


 首から上が豚、体は猪っぽい毛皮の人型、体躯は大柄な人間1.5人分はある大型の魔物だ。

 手にはどこかで手に入れたのかボロボロに刃こぼれした剣を握っている。

 アリアが居ても、2人がかりで1体を相手にする強い魔物だ。

 アリアはいないし、背中に痛手を負い、子供達を守りながら相手にできる魔物では無い。


 なんとか撤退をとゴブリンとオークを牽制しながら、子供達の方に視線をやったとき、更なる絶望が飛び出してきた。


 バキバキバキバキザザザザッッ


「「「ブルルゴゴゥゥゥ!」」」


 ゴブリンを警戒して離れさせた子供達の横手の森から更に3体のオークが飛び出してきたのだった。


 ここまで読んで頂きまして、ありがとうございます。

 お楽しみ頂けたでしょうか。

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 次話もご期待下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読ませていただきました。 主人公が出てくるのは冒頭だけで、あとは次々と出てくる登場人物の視点で物語が進んでいくんですね。 それぞれ1~2話くらいですが、そのキャラの性格や生い立ち的…
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