目が覚めました
誰かに頭を撫でられている。優しい手つき。ゆっくりと目を開く。
「んん……、……っ!」
知らない天井。身体が重い。ここ、何処だろう。ボーっとしていたら突如、目の前に人の顔が現れた。
「起きたか」
今までで見たことがないほどの美形。黒に近い濃紺色の髪に輝くような黄金の瞳。外国人のように彫りが深くて顔が整っている。作り物めいた完成された美。額から生えている一本の角。そう、角が生えているんだ、この男の人には。
叫びそうになったが喉が詰まって声が出なかった。離れようとしたら体が動かなかった。何をされるか分からない恐怖。動けないから逃げられない。美形の男は少しの間じっと鈴を見てから、立ち上がった。
「少し待ってろ」
ポンポンと頭を優しく触れて部屋を出た。
(いい人……なの?)
状況が分からず混乱する。体が動かせないから目だけで辺りを窺う。肌触りの良いふかふかのベッドに寝ているみたい。統一感のあるスッキリとした部屋。あの国ではなさそう。それだけでもすごい安心感がある。
「入るぞ」
暫くして、扉が開いてさっきの男の人が入ってきた。
「ちょっと陛下ぁ! 乙女の部屋に断りもなく入るなんて非常識よぉ。ノックを知らないのぉ?」
「早く診ろ」
「んもう! 分かっているわよ」
男の人に続いて女の人……いや、オネエさんが入ってきた。
(え? 陛下? 陛下って言った?)
オネエさんは持っていたトレーをサイドテーブルに置いて椅子に座った。オネエさんも美形だ。一瞬女と見間違えたもん。喉仏が見えたから男って気づいたほどだ。それほど違和感が全然ない。
「おはよぉ~、よく眠っていたわねぇ。体起こせる?」
頬を手の甲で軽く撫でられた。なんか、大人の女の人って感じがしてドキドキする。口を開けたがやっぱり声が出なかったので首を振ることで答える。そしたら、背中に手を差し込んで支えながら上体を起こしてくれた。背中にクッションを差し込まれた。このオネエさん、優しい。
「ほォら、水を飲んで。ゆゥっくりでいいわよぉ」
コップを口元に当ててゆっくりと傾けられる。コクコクと水を飲む。おいしい。一杯飲み終わったらほぅっと息を吐く。
「全部飲めたわね。エライエライ。じゃあ名前を教えて?」
「……ぃん、コホン。近江鈴です」
「そう、リンちゃんねぇ。かァわいい名前じゃない。アタシはねぇーー」
「早く診ろ」
「ああん、せっかちねぇ。じゃあリンちゃん、ちょォっと体を診るからまた横にしてもいいかしらぁ」
会話中も頭や頬を頻りに撫でられる。大きいけどスベスベしててキレイな手だ。
返答する前に体を支えられて横になる。オネエさんはお医者さんなのか。
「そのまま体の力を抜いてぇ楽にしていててねぇ」
頭とお腹の上に手を乗せられた。手が触れている部分から暖かい何かが流れ込んできた。だんだんと体全体に巡ってポカポカと暖かくなってきた。
「ん~……うんうん、大丈夫そうねぇ。外傷も殆ど綺麗に消えたしぃ。い〜いィリンちゃん、リンちゃんがこれからやることはじゃんじゃん食べてたァ~っぷり休むことよぉ。美味しいものをたァくさん食べてね!」
「は、はい」
「リンちゃんお腹空いている? ご飯食べられる? 随分長く眠っていたから最初は軽く食べれるものを用意させるわねぇ。じゃあアタシはこれで退出するけど何か不調が出たりしたら遠慮なく言ってねン。あ、コレ渡しとくわね。じゃァねぇ~」
ポンっと頭の横に何かを置いてオネエさんは出て行った。鈴が一言も言葉を発する暇もないほどの怒涛の勢いだった。
何を置いたんだろうと顔を横にして見る。そこには青い何かがあった。なんだろう、コレ。
「スライムだ」
鈴が思案気な顔をしていたのに気付いたのか陛下が教えてくれた。いつの間にかにベッド近くの椅子に座っていた。陛下はその青い物体、スライムを持ち上げて鈴のお腹の上に乗せる。そして鈴の手を取ってスライムに触らせる。
「わっ! プニプニ……これがスライム」
撫でたり摘まんだりしていたらプルンっとスライムが震えた。
「えっ!? 生きてる?」
「スライムだからな」
触りながらジィーっと見つめる。目とか口とかは見えない。ないのかもしれない。なんか……可愛い。
「やっと笑ったな」
「え」
フッと笑って頭を撫でられた。超絶美形の麗しい微笑みを間近で見てしまった鈴はノックアウトした。顔はトマトのように真っ赤っかになってしまった。顔を隠そうにもまだ身体が思うように動かせないから隠せない。結果赤い顔のまま目を伏せることしか出来なかった。