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心が折れました

「話し合いは終わったか?」


姫咲さんが退室した後、暫し放心状態だった鈴は男の一言で現実に戻った。どれだけ放心していたのか、定かではないがその間も腕は掴まれたままだった。

忘れていたわけではない。でも、今気付いた。気付いてしまった。どんな状態かを。この部屋の中には鈴と見知らぬ男が二人しかいない状況だということを。


「んじゃ、始めよっか~」


三人の呼吸する音しか聞こえない密室に男の声が大きく聞こえる。恐る恐る顔を振り向かせると下卑た笑みを浮かべる二人の男に見下ろされている。


「っいや」


離れようと体を捻じるが両腕を男の力で掴まれていて離れられない。


「今更抵抗? もう手遅れだよ」

「可哀そうに、俺たちが慰めてやるよ」


嘲りを含んだ声が聞こえる。嫌な予感しかしなくって、心臓の音が掴まれた腕から伝って男たちに聞こえるんじゃないかというぐらい大きく鳴る。それでも何とか離れようと必死に抵抗する。


「嫌、離してっ……っきゃ!」


床に思い切り倒された。勢い良く飛ばされてじくじくと背中が痛む。


「ちゃんと抑えてとけよ」

「分かったから早くヤれ」


二人が話している隙をついて部屋を出ようと痛む背中に耐えながら扉に向かう。取っ手に手を掛けた瞬間その手を掴まれた。


「逃げんじゃねぇよ」

「いったん大人しくさせとくか」


加減もなく殴られる。蹲って痛みに呻いているなか、さらに蹴られる。二人がかりで甚振られて鈴は抵抗することを封じられた。指一つ動かせなくなり、痛みに呻くしか出来なくなった。


意識が朦朧とするなか制服を裂く音がした。その音がどこか遠くに聞こえた。



 ☆ ★ ☆



それからは地獄だった。


殴られ、蹴られ、叩かれ、嬲られ、虐められ、辱められ、甚振られ……。


姫咲さんも騎士さんも魔術師さんも文官さんもメイドさんも。

いろんな人が、多くの人が立ち代わり入れ替わり部屋にやってくる。

奴隷は体のいいストレスの捌け口だと気付いたのは何時だっただろうか。


もう何日経ったのか分からない。随分長い時間が経ったように感じる。誰かが来たら無理やり起こされて、いつの間にか意識が遠のいて気絶するの繰り返し。


制服はビリビリに破られて、今はボロボロの布を着させられている。


死なせないためか定期的に食事を用意される。気付いたら部屋の中に置かれていた。でも痛みで動けなくて、口に無理やり詰め入れられる。


体も清潔に保たせるためか水をぶっかけられる。初めて見る魔法がこれとか嬉しくない。こんな状況でなかったら魔法に興奮しただろうけど、なんの感慨も湧かなかった。それより、痣だらけのボロボロの身体では水を掛けられるだけで痛かった。


悲しくて苦しくて辛くて……。

何も出来なくて、何もやれなくて、何も変えられなかった。


頭がぼんやりして何も考えれない。目が霞んで誰にやられているのか見えない。体が動かせなくて抵抗できない。生きる気力はとうに尽きて、蹂躙されるために生かされている。


いつまで続くんだろう。この地獄は……。



 ☆ ★ ☆



ードォォーーン


遠くで音がしたと同時に建物が揺れた。


外がざわついている。この部屋は防音なのかよっぽど大きな音じゃない限り音一つ聞こえてこない。だから、珍しいなと、他人事のように思った。


その後も音が続く。花火かな。魔法で作ったのなら綺麗だろうな、なんて取り留めもないことが頭に浮かんでは消える。私には関係ないことだから、と。


一際大きな音と揺れがした。咄嗟に目を瞑る。

パラパラと粉塵が降り落ちる。揺れが収まって目を開けると月が見えた。


久しぶりに空を、外を見た。それだけで何故だか泣きそうになった。


月を背に空から何かが近づいてくる。その何かはこの何もない部屋に降り立った。小さく息を呑む音が聞こえた。


「っ、これは……」


思わず出た声だろうか僅かに聞こえた呟きだったが綺麗な声だった。低音で心地よくていつまでも聴いていたくなる声。誰だろうか。でも目がぼやけているから輪郭がぼんやりにしか見えない。


この王宮の惨事もこの人がやったのかな。私の願い、叶えてくれないかな。


私は最後の力は振り絞って、顔を上げた。相手の目があるだろう場所を見つめる。


「ぉ、願い、ます。私ぉ、殺、て」


喉が掠れて聞き取りにくい声だっただろうけどこれが全力だった。そして、口角を上げて笑みを浮かべた。


傍から見れば酷く醜い有り様だろう。ボロボロな身体で笑顔がきちんと作れているか分からない。それでも鈴はこの瞬間この刻、とても晴れやかな気持ちだった。ようやく、終われると。


はじめまして、さようなら。名前も顔も知らない人。貴方が誰かは知らないけれど、貴方は私の救世主。こんな汚いものを見せてごめんなさい。こんな私を殺させてごめんなさい。


体に力が入らなくて頭が下がる。目が開けていられなくなって瞼を閉じる。

そうして鈴の意識は暗闇に落ちていった。

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