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奴隷になりました

なんだか体が痛くて目が覚めた。今何時だろう。眠気眼で辺りを見渡して気づいた。


「そうだ、私、異世界に来たんだった……あれ?」


部屋の様子がおかしい。おかしいっていうか何もない。文字通り、部屋の中には何も置かれていなかった。

昨日はちゃんとベッドで横になって眠った。そこまでは記憶にある。なのに起きたら床の上に寝ていた。……また床の上。そりゃあ体が痛むよね。


案内された部屋は客室だった。寝る前にチラッと部屋は見渡した。そのときはテーブルや椅子、ベッド、チェスト等の家具が確かに置いてあった。なのに今いる部屋は家具が一つもない。あるのは扉が一つだけ。窓すらついていなかった。


またどういう状況なの。


「一先ずこの部屋から出てみるか。……勝手に出ていい、よね?」


扉の前まで近づき取っ手に手をかける。


ーガチャガチャ


「鍵がかかっているか……」


再び部屋を見渡す。といっても何もないけどね。取り敢えず手当たり次第壁を探ってみる。隠し扉とかないかな~。ていうか窓すらないって。どんな目的でこんな部屋作ったの。物置とかかな。


「何にもないか……う~ん、あっ、何か持ち物とか……あった」


制服のポケットを探る。入っていたのはスマホにハンカチ、ペン。


「良かった、スマホがある。電源は……ダメか」


圏外だろうからインターネットは使えないってそこは期待していなかったけど電源が入らないとは思わなかった。学校ではあまりスマホを操作しないから充電はまだ持っていると考えていたけど、ダメだった。使えないのは異世界だから?

今何時か、時間ぐらいは知りたかったな。いや、日本とこの世界とで時間の流れが同じかは分からないけど。窓もないから朝なのか昼なのかも分からない。

う~ん、どうしよう。もうやれることが思いつかない。完全に詰んだ。それにこっちの世界に来てから何も食べていないからお腹すいた。


ーガチャ、バタン


唐突に扉が開いた音が聞こえた。振り返ると扉の先に姫咲さんと王子様が立っていた。


「姫咲さん」

「うっわぁ~ホントに何もない部屋ねぇ。アヤこんな部屋に長居したくないからさっさと済ませちゃいましょう」

「ひ、姫咲さん……?」


嘲笑を浮かべながら部屋に入ってくる。なんだろう、すごく嫌な感じがする。背中に冷や汗がつたう。


「アヤの願いでね、君を奴隷にすることにした」

「……っえ」

「これは父上の許可も取っているから正式なものだよ」


……奴隷。奴隷って何。どういうこと。許可って、姫咲さんの願いが私を奴隷にすることだなんて。意味が分からない。だって姫咲さんとは昨日初めて会った。学校では一度も接点はなかったのだから。


「奴隷って、っどういうことですか!」

「そのままの意味よおブスちゃん。じゃ、あとヨロシク~」


二人が部屋を出ると同時に新たに男の人が二人入ってきた。それすら今の鈴には気に留まらず、姫咲さんのもとへ詰め寄ろうとした。


「待って、待ってよ。説明して。姫咲さん!」

「おっとー、お前は今から俺たちと遊ぶんだよ」


扉に向かって駆けると男の一人に腕を掴まれた。すぐ後にもう片方の腕ももう一人の男に掴まれた。両腕を掴まえられて体を押さえられ足が止まり前傾の姿勢になった。


「姫咲さん、待って」

「うるさいわよ!」


パシンと高い音が鳴った。何が起こったのか分からず、しばし頭が真っ白になった。

じわじわと熱を帯びる左頬に、打たれたのだとようやく理解した。


「……ぇ」

「いいわ、親切なアヤが仕方なーく教えてあげる」


綾は打たれたまま固まっている放心状態の鈴の耳に唇を近付けて囁いた。


「聖女は二人もいらないと思わない? だからアヤが聖女の役割を打って出たってワケ。でも、アヤが聖女として活躍するのにあんたは働かずにのうのうと暮らしているっていうのは許せない。だからあんたには奴隷として有効活用させてあげられるように王子サマに提案しといてあげたのよ。アヤって優しい~」


姫咲さんの言葉は半分以上頭に入ってこなかった。それでも、必死に頭を働かせたが奴隷にする意図が分からない。なんでそこで奴隷となるのか。


「だ、だからってなんで奴隷に」

「それはね、あんたがアヤより胸が大きいからよ」


このとき綾の顔には表情が何一つ表れていなかった。だがそれを目にした者はいなかった。

胸が、大きい。それだけで、たったそれだけのことで姫咲さんは人を奴隷にするの?


「そんな、ことで……そんなことで私を奴隷に……?」

「そんなこと? アヤにとっては大事なことなのよ!」


小さく、だが剣のある声で言い詰める。先程までの喜楽な様子は鳴りを潜め、一転して憤怒の形相に変わった。

それも一瞬だけですぐに笑顔を顔に作った。


「でもまあ、あんたが奴隷ってことはもう決定事項だから。じゃあねー♪」


今度こそ、姫咲さんは王子様を連れ立って部屋を出て行った。無情にも扉は目の前で重々しく閉じていった。

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