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りんごカードと騎士

タイトル「唐揚げ」削りました。


…オナクナリニナラレマシタ…

 言葉を咀嚼し、反芻を繰り返し、消化しきるまで少し時間がかかった。 


「何で…?どういうことよ?」


 んっ…んっ…んっ…んっ…という、微かな声が聞こえた。長台詞に喉が渇いたせいか、人があまりの衝撃にひどく狼狽えているというのに、何か飲んでやがったのだ。非常に腹が立った。


「ちょっと!どういうことなのか説明していただけませんか?いつ頃何で死んだんですか私は⁉︎飲むのはそのあとでも良くないですか⁉︎」 


 言い終わって急に思い出す。今日18時から「紅の騎士ピックアップガチャ」が始まるので、アップルギフトカードを買いにコンビニに行っていた筈なのだ。ちょうど小腹も空いていたので、唐揚げなんかも買った気がする。一体あれはどうなったのか。


「りんごカード!私のりんごカードと唐揚げ!どこいったのあれ!命かけてるのに!」


んっ…んっ…んっ…んっ…んっ…

 まだ飲んでやがる。500mlペットボトルならもう半分以上飲み干してるかもしれない。 ほんとむかつくくらいうまそうに飲んでるから、こっちまで喉が渇いてきた。何か飲みたい。


「…はーっ」


 ようやく飲み終わったらしく、大きく息を吐く。わからないことに答えるのが仕事なんじゃなかったのか。さぼり過ぎじゃねえか!


「りんごカード…申し訳ないのですが、エリュシオンではスマートフォン自体使用不可となっておりますので、そういったもののお取り寄せはできかねます。インターネットに類似したことは可能なのですが、ご遺族様とのご連絡が可能になってしまいますと、混乱を招いてしまいますので。


 唐揚げでしたら、そちらのカラーボックスの上にございます取り寄せ機にご注文いただければいつでもお取り寄せいただけます。どうぞご活用ください。」


 カラーボックスの方に目をやり顔をしかめた。取り寄せ機ってもしかして、あの手垢にまみれた古い木箱のことなのか。どういうシステムか知らんが、あれに欲しいものを注文すると食べ物でも何でも取り寄せられると。 しかし汚い。手垢でてらてらと黒光りしてて正直触りたくない。あんなものに入ってくる食品など衛生的に問題ありそうとしか思えない。


「やだ。」


「何かご不満でも?」


「だって何かきったないし。こんなのに入ってくる食べ物とか怖くて食べたくないよ」


「確かに若干年季が入ってはいますね…わかりました交換いたしましょう。お待ちいただく間、ベッド右側のモニターで動画でもお楽しみくださいませ。」


「動画?」


「例えばこんな動画はいかがでしょう?」


 サイドテーブルの上にあるモニターのスイッチが入ったらしく、相変わらず黒い画面ながらうっすらと光が灯った。「入力切換」という文字と、1から5までの数字が黄緑色に光る。


 「1」の左側にあったポインタが「3」まで降り、表示が消えると細長い黄色い長方形が現れた。「紅の騎士ピックアップガチャ」の画面だった。長方形の下部にご丁寧に「神水晶を3つ消費して召喚」という青いボタンまである。


 どうやらスピーカーの向こうから遠隔操作出来るようだ。召喚のボタンにポインタが移動し、長方形の中がファンファーレと共に渦巻き、光が溢れた。


「…俺を呼び出したのはお前か?」


 生前どうしてもどうしても欲しくて、得られなかった男が目の前に現れた。真紅の軍服。耳の高さでひとつに纏められた黒髪。長いまつ毛に縁取られたアメジスト色の瞳と、形のいい唇に浮かんだ不敵な笑み。右手に光るサーベル。「紅の騎士」その人だった。


 サポート枠で見せた華麗な技の数々とその強さ、容姿の美しさに憧れ、ガチャを回してば落胆のため息を何度吐いたことだろう。その彼が今、目の前にいる。思ってたより甲高い声を携えて。


「いかがでしょう?お気に召しましたか?」


「意外に声が高…」


「ここに俺の働き場はあるのか?なぜこの女は横になっている。具合でも悪いのか?それとも俺を誘っているのか?」


 私の答えを遮って「紅の騎士」が答えた。そういえばサポート枠の彼は殆ど何も喋らなかったような気がした。とても寡黙な人柄という設定だった筈だ。


 言われて急いでベッドから起き上がる。モニターの乗っているサイドテーブルはキャスター付きで自由にむきがかえられるようだった。モニターを逆向きにし、ベッドの向かいにあるソファの真ん中に座った。


「この人が召喚できたってことは、このモニターであのゲームができるってこと?」


「申し訳ございませんがそれぱ無理です。ゲームに参加するなど、生者の世界に少しでも影響を及ぼすような行為は禁止されておりますので」


「ゲームとは何だ。俺はいつも斬るか斬られるかの命のやり取りの中に身を置いている。次の働き場はどこだ?早く俺に人を斬らせろ」


 よう喋る男だった。しかも耳障りなほどに高い声で。解釈違いも甚だしいとはこのことだった。中の人との会話にいちいち口を挟んでくる赤い服の男に苛立ちを覚えはじめる。


「せっかく召喚できてもゲーム出来なきゃ意味ないじゃん。何でこんな…」


「お気に召すかと思いまして。どうしても欲しいキャラだと伺ったものですから、早速スタッフに動画を用意させました」


「たとえ意味が分からなくても依頼があれば人を斬る。人斬りとはそういう仕事だ。意味は後からわかる場合もある。俺の仕事によって時代が動いた後に」


「いいからあんたは黙って!」


「面白い。黙らせたいなら俺を斬ることだ。俺はいつでも受けて立つぞ。真剣勝負と行くか。」

 ソファの肘掛けにポケットがあり、リモコンが半分顔を出していることに気づく。「電源」と書かれた赤いボタンを押し、派手な軍服のお喋り野郎は消えた。リモコンを覚えていてよかった。「電源」の文字を忘れていなくて本当によかった。大体人斬りって何だよ。騎士じゃなかったのかよ。


「気にいる訳がないでしょう?単なる変なやつになってるじゃない」


「申し訳ございません。ゲームの配信前にこちらに来たスタッフばかりで製作しましたので、実際のキャラと若干違ってしまったようです」


「だいぶ違うわよ。それになんなのあのキンキン声は」


「仮の声です。実際の声優さんがまだ存命中なものですから。」


 言われて自分が死んだことを思い出す。いつ頃死んだのかとか、死因もまだ知らないままだった。中の人が続けて言った。


「どうしてもお気に召さないのであれば、こちらに呼び寄せることも可能ですが、いかがなさいま」


「やめて。絶対にやめて。てかもう2度とこんなことしなくていいから。」


食い気味に叫んだ。こんなくだらないことで赤の他人を殺すとかほんと冗談じゃない。


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