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反面


________***


生徒会室に戻ったエキドナは、まず化学の勉強に協力してくれたフィンレーとリアムに改めてお礼を言った後…先刻のクラークとのやり取りについて事後報告した。

みんな事の成り行きを気にしていたらしく着席するエキドナの周りを囲むようにして話を聞いている。もはや謝罪会見だ。


「__結構ガチ切れしちゃったから明日も絶対絡まれるだろうし……何なら、その、『反抗的な態度を取った』って他の教員に訴えるかもしれない」


言いながらエキドナは次第に俯き畏縮する。

自分のした行動で周囲に迷惑を掛ける事に内心不安を感じているのだ。


すると静かに話を聞いていたリアムが冷静な顔で微笑む。


「話を聞いた限りではクラーク・アイビンも貴女に対して行き過ぎた行動をしているから彼が貴女を訴える可能性は低いよ」


リアムの意見にステラも賛同する。


「リアム様の仰るとおりですわ。『見せしめ』も酷いですし何より…手を掴んで怒鳴るなんて、そんな恐ろしい…!」


良家の子女たるステラには刺激が強過ぎたらしい。イーサンの傍らで寄り添い身震いしている。


「ステラ…」


「大丈夫だぞ、ステラ」


エキドナの申し訳なさそうな声と一緒にイーサンが怖がっているステラを支えるように彼女の肩に触れる。


「あっあの〜ごめんなさい単なる疑問なんだけど…!」


居心地が悪そうに明るい声で挙手をしそんな空気を打ち破ったのは……エブリンだ。

エキドナが遠慮がちに微笑んで応える。


「なぁに? エブリン」


「『カベドン』って何かしら??」


「『壁ドン』?」


思わぬ質問にエキドナは金の目をぱちくりさせるがエブリンの…………むしろほぼ全員が頭上にクエスチョンマークを浮かべてエキドナを見つめるのだった。

先程の説明の中で『激しめの壁ドンを食らった』と言ったのだがもしかすると…。


「…もしかして、『壁ドン』って単語ない感じ?」


「そのようですなぁドナ氏」


近くにいたセレスティアとひそひそ小声で囁き合う。

しかしいきなり内緒話をしたのが不味かったのだろうか。

フィンレーがハッとして一気に顔を青ざめるのだった。


「まさか姉さま殴られて…!?」


「落ち着けフィンっ明らかに殴られた形跡ねーだろうが! どっから持って来たその(ブツ)!!」


フランシスが制止する中でゴクリと唾を飲み姉を心配するフィンレーの両手に抱えられるのは大きくてゴツい斧。

それで相手(クラーク)の頭をカチ割る気か。


「向こうのオブジェから…」


「あー…あの甲冑(かっちゅう)の…ってだから危ねぇっつーの。さっさと戻して来い」


不満そうにけれどもフィンレーは大人しく部屋の隅にある年季の入った甲冑の元へ斧を返すのであった。


「で? 結局『カベドン』って何??」


「よもやチャラ男のフランシス殿さえ知らないとはっ でも了解でありまぁす!! 教えて差し上げましょうぞ……イーサン王子とリアム王子で!!!」


「って俺ぇぇ!!?」


「断る」


唐突なセレスティアの無茶振りでイーサンが驚きリアムが即拒否する。


「良いではありませぬか〜!! 危ない事は何もないですぞ!!」


「貴女が発言している時点で全て危険ですから」


セレスティアは足掻くがリアムの容赦ない。

冷たく無慈悲に拒絶し続けるのであった。


「ちぇっ…ではどうしまするか…『リー×サン』がダメなら『フィン×サン』…或いはニールがこの場におりませぬし『フラ×サン』……」


セレスティアがぶつぶつ呟き思考する度に男子ズがザッ、ザッと引いた顔で後ずさりする。

ひたすら名前を挙げられているイーサンに至っては恐怖で激しく震えており、先程慰めていたはずのステラに逆に慰められていた。


「……ティア氏、私達で実演した方が早いと思うよ」


「ファ!? しかしこの千載一遇のチャンスを逃す訳には…!!」


「いやいやみんなの警戒心MAXだから」


結局そのままエキドナが攻め、セレスティアが受けで『壁ドン』を実演して疑問解決に貢献したのであった。

…壁ドンって、やる側も結構恥ずかしいのね。




「ヤバい姉さまカッコ良すぎる〜。でも途中で照れてた実は照れてた。ヤバい可愛いヤバい…」


「重症じゃねーかフィン…」


「『張り切り過ぎて空回りする受け』…!! これは実に良き!! 新しいネタをゲットしたでござる!!」


「良かったねティア氏…」





________***


「「!!」」


次の日。

運悪く学園内を移動中にエキドナはクラークとばったり会ってしまった。


「…こんにちはクラーク先生」


気不味さを感じながらもエキドナは出来る限り笑顔で挨拶をする。


「……」


クラークは挨拶をガン無視。

どころか『フンッ』って感じでわざとそっぽを向いてスタスタと歩き去ったのであった。

こいつ大人げねぇ…ッ!!








しかしその後他の人達からクラークの近況を聞かされる事となる。


「ドナに切れられて指摘された事結構刺さってたみたいだぜ〜。俺がクラーク先生に書類渡しに行った時、ドナの様子をめっちゃ聞かれたもん」


昼食中、飄々とした態度でエキドナに伝えるのはフランシスだ。

一緒に食事をするイーサンもそれに続く。


「あぁ。実は俺も先刻クラーク先生に偶然会ったのだが…『オルティス嬢は大丈夫か?』『恐怖で泣いていないか?』と色々質問攻めにあった」


「多分あの感じは…プライド高くて謝れないけど『怒鳴ったりして怖がらせた。申し訳ない』って反省してる感じだったぜ」


「何そのツンデレ。いらんわ」


エキドナがつい脊髄反射でバッサリぶった斬る。


「やっぱ男相手だと容赦ねぇなー」


フランシスは気にも止めずけらけら笑って楽しそうだ。


「私も会った時に質問されたわ〜。『泣いてるドナちゃんを私が色々慰めたから貴方の出番はありません♡』って言っちゃった♡♡」


「何事実を捏造してるのエブリーーンッ!!?」





さらに放課後ではセレスティアの呼び掛けにより一旦人気のない空き教室で少し会話をしたのだった。


「皆サマが居る中で伝えられなかったのですが、何気にゲームにおける『クラーク先生』は常識人の部類でありますぞ〜」


「え"、アレが?」


昨日の今日でクラークの悪い面ばかりを見ているエキドナが大真面目に聞き返した。


「イエスイエス。時代遅れな亭主関白ヤローですし全体的に偉そうな態度ではありますが、その反面責任感が強くて時には『俺について来い!』とリーダーシップを発揮する面倒見のいい先生キャラでもあるでござる。知らない生徒も多いですが、悩みを抱える生徒を対象に割と親身に相談相手をしてくれるらしいですぞ」


「!!……そうなんだ…」


「まぁ基本プライドが高いので自分の非は理屈をこねて認めず絶対謝罪しないタイプでありますし何なら『自分を貫くのが正義』だと思い込んでおりまする。女性への理想が高く『淑女はこうあるべき!』とかネチネチ求めますし…」


「待って今のでイメージがマイナスに戻ったわ」




ただ、みんなから見た『クラーク・アイビン』という一人の人間像を知って冷静に客観視出来た気がする。

言い合いになった時…結局私は私で前世の私情を挟んでいたところがあった。お互い様か。



(今度会う時一言謝った方がいいかな…? ゔーーん、でもあの手のタイプは謝ったら謝ったで『ほら見ろ!』みたいな態度取って言動とか要求が悪化しそう…そんな対応を私はスルー出来るだろうか…)








エキドナがクラークとの和解の道を探っていたほぼ同時刻にて、クラークは同じ教員であり上司でもあるハーパー先生と自身の研究室で会話をしていた。


実は数ヶ月前から…ハーパーには『夫が自分を見てくれない』という悩みを密かに抱えており、ずっとクラークに話を聞いて貰っていたのだ。


「繰り返し言ってますがハーパー先生は素晴らしい女性ですから何も心配入りませんよ」


そう断言して励ますクラークの姿は男らしく頼もしい説得力がある。


「…えぇ、いつも支えて下さりありがとうございます。クラーク先生」


するとずっとか弱そうに俯いていたハーパーの白い手が……クラークの大きな手に重なるのだった。


「もっと早く、クラーク先生と出会えたら良かったのに…」


そう甘く囁くハーパーの声は艶やかで大人の女性の色気がある。


「ハーパー先生…」




クラークは驚いたように呟き、そして


スッ



無言で彼女の手から自身の手を抜き取るのだった。


「!!」


「申し訳ありませんが、私は貴女の事を上司として尊敬していても女性として見る事はありません。…ヒル伯爵との不仲が原因で精神的に不安定なんですよ。保健室までお送りしましょう」


言いながら立ち上がり即座にハーパーをエスコートしようとする。

そんなクラークを見て正気に戻ったのかハーパーは少々取り乱すのであった。


「……あ、あら嫌だわ(わたくし)ったら。でも保健室だなんて大袈裟です。大丈夫ですわクラーク先生、今夜にでも胸の内を夫に手紙で伝える事にしますわ」


「えぇ、そうなされたら宜しいかと。研究室までお送りしなくても大丈夫ですか?」


「ありがとうございます。ですがこれ以上クラーク先生のお手を煩わせる訳にはいけませんから」




「ご機嫌よう」


そう言い残してハーパーはクラークの研究室から退出した。



…………しかしその表情は先程の上品で淑やかな微笑みは消え失せ、クラークに拒否された事への怒りと屈辱で歪んでいる。

そのままカツカツと廊下に音が響くのも構わず歩き出すのだった。


「何よ! 私のサポートがなければ一人で仕事も出来ない半人前のひよっこ教師の癖に……ッ!!」


怒りのまま足を進め…………ふとピタリ、と止まるのだった。

そこには不気味にニヤッと口角を上げる女がただ一人。


「……あぁそうだわ。上司として教師として、この際はっきり教えて差し上げた方がいいわね。お互いの『立場』の差を…」


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