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顧問への対策


________***


あれからと言うもののクラークはエキドナに対して難癖をつけ続け、そんな彼にエキドナも適度にスルーするというやり取りが繰り返されていた。

余談だがクラークは学園で貴重な若い男性…しかもイケメン教師なので女子生徒からの人気は絶大だ。

そのため悪い意味で絡まれてるだけなのに、エキドナはまた一部の女子生徒から顰蹙(ひんしゅく)を買う羽目になっていた。


どうしろと(白目)




「…なぁドナの婚約者様よー、"干渉" するか? 必要あれば俺もエブリンも手ェ貸すぜ?」


ここ生徒会室にて各々業務を行う中、フランシスが書類を渡しながらコソッと内緒話をするようにリアムに問い掛けた。

どうやらクラークの対応が教師の立場として不適切だと判断したらしい。

しかしリアムは軽く首を横に振るしかなかった。


「…気になるところだけど、事前にドナから『手出し無用』と言われているんだ。だから今はしない」


「ふーんお前も大変だな。にしてもクラーク先生って基本女子生徒への対応厳しい方だけど、ドナには特に当たりがキツい気ぃすんだよなぁ……おーいドナちょっといいか?」


言いながらフランシスが片手を上げてエキドナを呼ぶ。


「ん? なにー?」


ステラの手伝いをしていたらしいエキドナが作業を中断して二人の元へやって来た。


「ドナってさー最近クラーク先生からの当たり厳しいじゃん。実際大丈夫なん?」


「……あー、アレね…」


フランシスからの指摘にエキドナは乾笑いをしながら視線を二人から別の方へと変えて言葉を濁す。遠い目をして若干黄昏れている風である。


「クラーク先生って価値観超古風なのは一部で知られてるからさー、あんま無理しなくてもいいんだぜ? なんなら俺達が裏からちょ〜っと手ぇ加えてもいいし」


「え? いらないよこの程度で」


そう断言するエキドナの表情はめちゃくちゃ冷めていた。


「おっ おう。…でもこのままずっと続くのも不味くねぇかー?」


「いやむしろこの程度の事で介入されて大袈裟にされた方が不味いんだけど…」


エキドナはやや困った表情をしているがその口ぶりはかなり軽い。

クラークの存在が厄介な事には変わりないだろうが、どうやら彼女の中では本当に『この程度』の部類らしい。


「……」


予想外の反応でフランシスは言葉を失う。

リアムに至っては多少把握していたのか二人の会話を見守りつつさっさと仕事を再開していた。


(確かに当事者がこんなに平然とされてちゃ、横槍を入れらんねぇな…)


そんな事を考えフランシスはガックリと肩を落としながら、


「…逞しいな」


と言うしか出来ないのであった。


「でも本当にいいの姉さま!? クラーク先生の事、放っておいて! ずっと意味不明な事言われてるんでしょ…?」


フランシスとエキドナの話が聞こえたらしいフィンレーが勢いよく輪に加わるがエキドナは変わらず落ち着いている。

弟に教えるように、淡々と説明するのだった。


「あぁいう(たぐい)の人間は本気で相手をしても時間と労力のムダだよ? 何か原因が…例えば『喧嘩した』とか『誤解されている』とか明らかな理由があれば和解可能かもしれないけど、あの反応は "生理的に無理" ってタイプの拒絶の仕方だよ。こっちがどう対応しようとも全部ハズレ。むしろ相手を刺激するだけ」


「そんなっ理不尽だよ…」


綺麗なラベンダーの目を大きく開いたかと思えば俯き、悲しそうな表情をする。

ショックを受けているのだろう。


(なんて純粋な…………優しい子)


そんな風に弟の姿を穏やかに見つめながら……また、冷めた感情がエキドナの中で垣間見えるのだった。


(……大人になれば、なるほど、理不尽な事を沢山知っていくものだよ)


「フィン」


エキドナは温和に微笑みフィンレーに向かって軽く手招きをした。


「?」


不思議そうな顔をしながらも素直に姉の目線に合わせて顔を近付ける弟の頭に、エキドナが手を静かに伸ばす。


(ねぇ、フィン。世の中こういう陰湿で理不尽な事の方が多いんだよ?)


「……!!」


自身と揃いのプラチナブロンドを持つ頭を……優しく撫でるのだった。


「…ありがとね、心配してくれて」


「…ね、姉さまっ…!!」



普段の隙あらば姉にくっ付いているシスコンはどこへ行ったのか。



その面影が消え失せるくらいに、フィンレーは激しく動揺し硬直するのだった。

ボボボッと一気に真っ赤に染まった顔のまま、下手に動く事も出来ずに低い姿勢でドギマギするしかない。

けれどもエキドナはそれさえも微笑ましそうに、愛おしそうに、金の目を細めて大切な家族をマイペースに見つめていた。




「…………ナニコレ」


いつの間にか姉弟(ふたり)の世界化しているエキドナ達を指差しながら、フランシスが引き気味に尋ねる。

リアムは呆れを隠す気皆無で解説するのだった。


「普段の振る舞いとの落差が大きいだろうけど、結局ドナもブラコンなんだよ。…はぁ、だからいつまで経ってもフィンレーが姉離れしないんだ」


そんなリアム達のやり取りを無視しているエキドナは、やり取りに気付いていないフィンレーの肩に手を置き今度はにっこりと明るく笑うのだった。


「それに大丈夫! こういうのは時間の経過と共に解決するから!!」


「……そう、なの?」


「人間の感情って、余程の事がない限り同じ感情を維持するのは難しいんだよ。例えば『やる気』だって長続きしないでしょ? だから、理不尽でくだらない理由から来る嫌悪感情なんて、あんまり続かないよ」


なお、これはエキドナの前世の実体験だったりする。


中学・高校(注:大学は関わる機会自体かなり少なかったので除外)で自身を嫌い、悪態を吐いていた人達に対して出来るだけ物理的な距離を取った。

授業等で関わらなければいけない場合も最低限の…相手の振る舞いに動じずけれども周囲と変わらない対応を貫いた。

その結果として……最終的には皆自身への嫌悪感が薄れたらしく、あちらから普通に声を掛けたり…むしろ親しげに接して来る人さえ居た。


まるで "何も無かった" かのように。


ハッキリ言ってエキドナ自身はそういう人種をそれなりに軽蔑している。

だがしかし、こういう都合の良い人間は一定数存在するのが現状だ。

だからクラーク・アイビンという人間もそういう類の人間なのかもしれない。


「……!!」


エキドナの発言にフィンレーは一瞬言葉を失い…そして感嘆するのであった。


「なんかさ、姉さまって時々すごく大人な事言うよねぇ…。物事の真理が見えてるって感じ」


「ふふっ それはありがとう?」


「何で疑問系??」


「あの〜一つ宜しいですかな?」



挙手して恐る恐る申し出るのは……セレスティアだ。

というか、気付けばこの部屋に居る者全員がエキドナとフィンレーの会話を見守っていたようだった。


「あ!? ごめんうるさかったね…!!」


エキドナは焦って謝罪するが、皆


「いえいえ〜♪」

「気にするな…」

「もっと話してドナちゃん♡」


と寛容的であった。


するとセレスティアが椅子から立ち上がりながら眼鏡をクイっと上げ、まるで推理ショーを始めるが如く理知的に口を開く。


「ワタクシが思うに……クラーク先生がドナ氏に敵対心剥き出しなのには理由があると思いまする」


「えっ…ティア氏、何か知っているの?」


今迄の流れを覆す発言で周囲も軽く騒つくのだった。

視線が自身に集中しているのも構わず、セレスティアの眼鏡がキラーンッと輝きながらエキドナへと足を運んで推理を続ける。


「そう。この展開に見覚えがあるでござる…。クラーク先生とドナ氏、果たして登場人物はそれだけでありますか?? 二人の間に立つ人間こそが本命……!」


ドォォーン! とエキドナに指を刺し決めポーズを取りながら…セレスティアが宣言するのだった。


「すなわちっ!! クラーク先生はドナ氏を『恋敵』として憎しみ、嫌がらせしているように見えるであります!!!」


「え?『恋敵』…? クラーク先生が恋してる相手って??」


するとエキドナはハッと目を見開いてゆっくり信じられないとばかりに……クラークと自身の "間に立つ人間" …。

つまりクラークのお気に入り生徒であるリアムとフィンレーを見つめるのだった。


「まさか…ッ!!」


「リベラ嬢の無意味な妄想だね」


「まぁ! クラーク先生ったら私と同類なの♡」


「違うと言ってるのですが、」


「そっか〜通りで浮いた話がなく硬派と…」


「フランは悪ノリしてるんだよね。怒るよ?」


「サーセンしたッ!!」


リアムが圧を強めたのでフランシスが即座に頭を下げた。

セレスティアが作った余計な火種をリアムが確実に消していく。


「ね、姉さま…?」


「もちろん冗談だよフィン〜! だって女性のヒル先生には笑顔で…って待てよ、単に恋敵じゃないから笑顔だったとか? 世界は広いからなぁ…」


「すでに飲み込まれてるじゃないか…。ドナ、戻っておいで」


未だにクラークのBL疑惑が晴れず考え込むエキドナをリアムが軽く肩を掴んで揺さぶるのだった。



「ティア、実際のところはどうなんですの?」


「ただのワタクシの願望でござるステラ様〜☆」


「そうですか〜」


「だろうな」


「えぇ〜残念。先生とはいいお友達になれるかもって思ったのにぃ…」


「う、うむ…エブリンもお気の毒に…?」


ステラ、セレスティア、エブリンの女子ズに混ざって会話をするのはイーサンだ。

普通にハーレム状態であるにも関わらず、どこからどう見ても不思議と女子会にしか見えない。

むしろ馴染み過ぎてフランシス達にさえ気付かれていない辺り彼には才能があるだろう。

……女子力の。



「ごめんごめん、ちょっとテンパった…。あっそうだ」


エキドナはふと先程話そうとしていた話題に変える。


「もしかしたら先生への下手な刺激になるかもしれないけどさ……今回の件は丁度いい機会だと思って化学の勉強にもう少し力を入れてみるよ。万一点数が上がってクラーク先生の態度も緩和されるなら儲けものだし」


「なるほどね。確かにドナは成績のバランスがあまり良くないから丁度いいね」


成績優秀なメンバーが集う生徒会の中で、エキドナは成績は科目によって得点にムラがありトータルで中の上レベル。

というのも学園に入学してからも関係なく、武術の鍛錬を最優先しているので周囲より勉強時間がかなり短いのだ。

だからこそ……裏を返せばそれだけ伸び代があるとも取れるだろう。


「僕も教えるよ姉さま!!」


フィンレーが嬉しそうに協力を申し出る。


「ありがとう助かるよ」


「じゃあ僕も教えようか「「結構です」」


リアムの申し出にオルティス姉弟(きょうだい)が素っ気なく即答するのだった。


「だってリー様、教える段階のレベルが高過ぎて逆に混乱するもの」


「というか貴方の場合わざと混乱させようと意地悪するでしょ! 信用出来ません!!」


「……」


今迄の言動の所為ではあるがここまでガッツリ姉弟に拒否された事にリアムは言葉を失う。

そんなリアムにフランシスが背後からぽんっ…とまるで慰めるように肩に手を置くのだった。


「…俺が代わりに泣いてやろうか?」


「要らない」


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