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六人目


________***


五月に入り、学園生活にもだいぶ慣れて来た今日この頃…エキドナとセレスティアは生徒会室に居た。

他に人目がないのをいい事にテーブルに各々頬杖をつきグデ〜ッとだらけながら会話している。


「改めて思い返しますとゲーム内では『リアム王子』が生徒会長だったのに『イーサン王子』に代わっているでござる。ワタクシ『セレスティア』も "広報" なんて役職貰ってなかったはずですぞ」


「なんかゲームとはどんどん設定? がズレてるみたいだね〜。まぁティア氏が広報になってるのはティア氏の文才が認められたからじゃない?」


エキドナの言葉にセレスティアがちっちっち、と指を振りながら答える。


「ノンノンドナ氏ぃ。ワタクシが予測するに……放課後の時間を拘束する事でBL創作を邪魔する目的が見えるであります」


「え? …あっ! な、なるほど…。なんかごめん…?」


「イエイエ目の前にモデルがわんさか居る俺得な状況ですのでネタ収集として割り切るでござる!! そしてその情熱をそのまま深夜に…ッ!」


「夜はちゃんと寝ようね!?」


そんな賑やかなやり取りをしながらセレスティアは白紙にスラスラとイラストを描き始める。

ゲームにおける生徒会内の相関図のようだ。

流石文章だけでなくBL本の挿絵(注:人物)も担当しているだけあって描き慣れており、男子の完成度がめちゃくちゃ高い。

反面、私達女子はみんな緩いタッチで描かれていた。それはそれで可愛いから好きな絵だ。

…というかヒロインのイラスト初めて見たけどゆるふわパーマのミディアムヘアなのね。


「ゲームのシナリオを踏まえるなら恐らく『ヒロイン』も学園に転入後、生徒会のお手伝いとして参加しまする。そしてまず最初にチョロインの『イーサン王子』が惚れて『ステラ』が闇落ちし、ヒロインが『リアム王子』や『フィンレー』に手を出して『エキドナ』が立ち塞がり…」


説明する中で次々と紙に加えられるハートの矢印とウネウネ(注:多分敵対の意)の矢印を見てエキドナは思わず顔をしかめるのだった。


「うわぁ何この地獄絵図。サークルだったら秒で崩壊してるでしょ」


ガチャ


「あれ? 姉さま達何を書いてるの?」


グシャア!!


扉が開いてフィンレーが入って来たので反射で目の前にある紙を片手で握り潰して球状にする。

そして少し後退りをし……セレスティアに向かって軽く投げるのだった。


「ティア氏っヘイ!!」


ポーイ


「ホァッ!?」


動揺しながらセレスティアが両手で紙のボールを受け取る。


「ヘイ パス ミー!」


「ヘーイ☆」


「いい歳して何屋内でキャッチボールしてるのさ二人共…」


その後エキドナの意図を察してノリノリで投げ返したセレスティアのお陰で、フィンレーに紙の中身を見られずに済んだのであった。

まぁまぁ呆れられたけど。









「待たせたな。では始めようか」


新生徒会長のイーサンの掛け声で各々頷いて職務を開始する。


ここで生徒会役員メンバーを紹介しよう。

副会長にはリアムとステラの二人が就任し、フランシスは会計、エブリンは書記、フィンレーは庶務、そしてセレスティアは広報に就任した。

さらに議長には…しばらく議会の予定がないので生徒会の活動をお休みし、騎士志願者の特別訓練に参加しているエキドナとフィンレーの一つ年上の従兄(いとこ)、ギャビン・ホークアイが就任している。


ちなみにエキドナは補助・補佐係……要するに雑用係だ。

全体を見渡して一番手が足りていない人のお手伝いをするのが主な仕事。

そして今後サボる可能性大であるフランシスとエブリンの双子が脱走した際に捕獲もしくは業務の穴埋めを担うのがもう一つの仕事である。

なおニールも力仕事メインでエキドナ同様に補助・補佐係に就任しているが本日はギャビンと同じく特別訓練に行っているので席を外していた。



「イーサン王子! 『生徒会通信』が完成したであります!」


「ありがとう……うむ、いいんじゃないか? 寄附金の項目も数字の抜けがないし他も細やかでよく出来ている」


素早く目を通し、イーサンが微笑んで原稿を手渡す。

セレスティアが制作した『生徒会通信』とは、学園の一カ月のスケジュールや生徒からの要望について、達成された業務内容についてなど……月に一度発行して学園内に貼り出す、前世で言う学校新聞のようなものらしい。


「ありがとうございまする!! では早速」


「お待ち下さい。僕にも確認を」


そう言って貼り付けた笑顔で手を出すのはリアムだ。


「…生徒会長のイーサン王子がオッケーしたのですからこのまま事務へ提出しても宜しいと思いまするが?」


「随分勿体ぶりますね。僕には見せられない物でも書いているのですか?」


「……」


一瞬抵抗するもリアムから発する圧力に負けたのであろう、セレスティアが無言で渋々原稿を渡す。


パラッ


手にした原稿をリアムは冷静に一通り視認し不備がないか再度確認する。そして最後の一番小さい欄……連載小説に目を通すのだった。





〜〜〜〜〜〜


『兄上、探していた資料が見つかりました』


スッと静かに資料を差し出すのは副会長である弟だ。


『!! ありがとう、無いと思ってずっと探してたんだ』


『……別にたまたま目に入っただけなので』


感謝の気持ちを込めてお礼を言うと副会長は冷めた声でそう言い切る。

だが、そっぽを向くその整った顔は心なしか僅かに赤く…


〜〜〜〜〜〜


「却下」ビリィィッ


「オゥ!! ノオオオォォッ!!!」


目の前で仕上げたばかりの原稿を真っ二つに破られてセレスティアが悲鳴を上げる。

対するリアムはもはや死人レベルで冷え切った目をしてその場で崩れ落ちたセレスティアを見下ろすのだった。


「…確認して正解でしたよ。生徒会通信を(けが)すのはやめて下さい」


「酷いでありますぅ〜っ!! アレはただの男同士の熱い友情物語でして」


「絶対違いますよね。途中からフィンレーとフランも登場して何故か決闘に発展していますし」


「……マジですか」


「えっ!!? なになに俺も登場してんのー!?」


リアムから明かされた真実でフィンレーは引きつった顔で固まり、まだ事情をよく知らないフランシスが面白そうに破かれた新聞を手に取り読もうとする。


「読んでもいいけど絶対後悔すると思うよ。…イーサンもこんな物に提出許可を出さないでくれ」


「え!? あれは友情青春物語ではないのか!!?」


どうやらBLとバレないようセレスティアはギリギリ友情モノに見えるような書き方をしたらしい。

彼女の策略に見事嵌まったイーサンが素っ頓狂な声を出す。


「…この、馬鹿イーサンが」


そんな兄にリアムは本気で呆れて悪態を吐くしかなかった。

こうして広報のセレスティアが作成する『生徒会通信』が、今後リアムの検閲を経て事務に提出される事が義務付けられたのは割とすぐの話である。



またしばらくして、



ガガガガガガッ!!!



「うっわ何あの二人こわ〜…」


フランシスがドン引きして見ているのはリアムとフィンレーだ。

リアムは通常運転でまるでハイテク機械の如く大量の書類を捌いている。

一方それに根性で食い付くのはフィンレー。

実はこの数年間でリアムから嫌がらせを受けまくり実力差を見せつけられまくり……で反骨精神が付いており、未だにリアムをライバル視して事あるごとに勝負を挑んでいるのだ。


「今度は負けませんからねリアム様!!」


キッと意志の強そうなラベンダーの目でリアムを睨む。


「楽しみだね」


睨まれているリアムはどこ吹く風だ。

多分、ヤツはこの状態さえ楽しんでいる。

フィンレーを揶揄って遊んでいる。


「待て待て二人共っ! その二人分の書類は最終的にほぼ俺に回って来る事を忘れないでくれぇぇ!!」


「書類の山に殺される…ッ!!」と顔を青ざめ悲鳴を上げるのは生徒会長のイーサンだ。

二人の勝負に巻き込まれて大変お気の毒である。


「イーサンが遅過ぎるんだよ。見たところ目標の三割も行ってないし口よりも手と頭を動かしたら?」


対するリアムは手厳しい。

イーサンに見向きもせず冷たく突き放しながらその手は確実に新たな書類の山を作り上げていた。


余談だがリアムはそのチートさをたまに他者にも求める悪癖があるのだ。

ここ数年で学んだリアムの一面である。

過去にエキドナも記憶力の悪さをかなりキツく指摘され、同レベルを求められ、いかに『瞬間記憶は誰でも出来るものじゃない』事を懇々と説明した時期があった。

……そんな事も、あったなぁ…(遠い目)


つい頭の中で『♪い〜つの こと〜だか〜♪』と呑気なBGMが流れるけれど、このままではイーサンが死にそうだ。


なのでエキドナなりに助け舟を出す事にした。


ガタッと椅子から立ち上がり目当ての書類を十数枚ほど手に取る。


「先生の印鑑が必要な書類を渡しに行ってくる。他にもあったらついでに持って行くからちょうだい」


「あっマジ? じゃあこの辺も頼んでいい? …う〜ん、でも量多いしまた後ででいいか」


「構わないよフラン」


「いや女の子に重いもん持たす訳にはいかねーからさ! つー事で俺と一緒に「フィン、量多いからちょっと手伝ってくれる?」


「うん行く! 僕が一緒に行くよ!!」


フランシスの申し出をエキドナはスルーして弟に声を掛けるのであった。

姉に声を掛けられたフィンレーは嬉々としてその場を立ち上がる。


(フィンが不在になるからこれで不毛な争いは一旦中断でしょ)


「じゃあその間にイーサンの書類のチェックをするか」


「ひぇっ…」


(あ、誘う相手間違えたかも)


リアムの目が光りイーサンが怯えた声を上げる。

そんなイーサンに再び助け舟を出したのはフランシスであった。


「あー…リアムもドナ達について行ってやったら? 息抜きも大事だと思うし……そもそもこの辺の書類、提出期限まだ先で余裕あるからよぉ」


「……わかった」


フランシスの申し出にリアムが若干不服気味だが頷いた。

恐らくエキドナの狙いをフランシス同様に察したのだと思われる。

フィンレーはリアムも一緒な事に不満そうな表情をしているが、これでイーサンの方は一旦休憩に入ったり二人が居ないうちに自分のペースで書類を仕上げたり色々出来るだろう。

ちなみに仕上げた書類の束を見る限り現時点ではリアムがフィンレーを圧勝している。

でもフィンレーだってこの短時間ですごい量だ。

うちの子すごい。(←ブラコン)

あとさりげなくエブリンがリアムとフィンレーの丁度真ん中くらいの量を捌き終えていたのには驚かされた。


「ありがとうっ ありがとう…!!」


「アンタも苦労してるな…」


「「「……」」」


心なしか涙声でお礼を言っている様子のイーサンとフォローしているフランシスの声を他所に、エキドナ達三人は無言でその場を後にして顧問の居る研究室へと足を運ぶのであった。




________***


コンコンコン、


代表でリアムがノックをする。


「どうぞ」


若い男性の声で返事が帰ってきたのでそのまま扉を開けて研究室に入るのであった。


「「「失礼します」」」


「あぁ、リアム王子とフィンレーですか。どのようなご用件で?」


少し近寄りがたい雰囲気を持つ男性が、フィンレーとリアムの姿を確認するや否やにこやかに微笑んで歓迎する。



クラーク・アイビン


この世界……『乙女に恋は欠かせません!〜七人のシュヴァリエ〜』に登場する六人目の攻略対象キャラクターだ。



エキドナは先日セレスティアから六人目の攻略キャラについて情報を教えて貰っていた。

ゲームのシナリオでは無関係でも、この世界で生きている限り何らかの接触を持つ危険がある事をフランシスとエブリンを通して学び反省したからである。


目の前に居る人物は国の教育機関の官僚を輩出した事もあるアイビン子爵家の後継息子らしい。

セレスティア曰く子爵家当主になる前にここ聖サーアリット学園の教員研修を数年受けるのが、この一族の慣例だそうだ。


年齢は二十歳で担当教科は化学。

そして生徒会の顧問でもある。

深い森を連想させる深緑色の胸下まで伸ばした髪を後ろで一つに束ねた、セレスティアさえ知らない隠しキャラを除けば攻略対象キャラの中で最も長い髪が特徴の人物だ。

顔立ちはイーサン寄りのクールで男らしい雰囲気のイケメンだがそこはかとなくロイヤルオーラが滲み出ているイーサンに比べ……何というか『若様』っぽい和な雰囲気である。

見た感じでは硬派な印象を与える。

見た感じでは。


そんな事を思い返しながら、クラークの深緑色の目と視線がぶつかった。

二人の背で見えなかったのだろうエキドナの姿を確認したクラークは、一瞬目を見開いたかと思えば…本気で迷惑そうに顔を歪めるのだった。

嫌そうな声が辺りに響く。



「…………なんだ、お前も居るのか」



そう。

エキドナは……なんか初っ端からこの教師にめちゃくちゃ嫌われているのだ。


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