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嫌がる事は


________***



『あの二人(注:フランシスとエブリン)は前々からドナに近付こうとしていてな。だから接近させないために俺達で手を回してお互いの情報が出来るだけ漏れないようにしていたんだ』



先日イーサンに言われた言葉である。

これを最初聞いた時、エキドナは一応納得しつつも割と内心では『そこまでしなくても良くね?』と思っていた。


だがしかし、朝からエブリンに絡まれ僅か半日で……その言葉の真意を理解する事になる。


「やだ〜♡ 一緒のクラスだったのね♡ 気付かなかったわ♡♡」


実はフランシスだけでなくエブリンまで同じクラスだったのだが、この子は授業中でも隙あらば素早くナチュラルに立ち回って近付いて来るから割と怖い。

流石に同性相手にここまで熱烈な(??)アプローチを受けた事がなかったため、エキドナはひたすら困惑しているのだ。


いっそ相手が男なら良かった。


男なら情け容赦なくぶった斬れるし、その後相手がどうなろうと心底興味がない。どうでもいい。

でも女の子が相手だと……正直エキドナにとってかなり分が悪いのである。

女の子は男ほど筋肉量的な意味で身体が丈夫じゃないから、バイオレンスな力技などの強硬手段に出る事が困難過ぎる…ッ!!


しかも…


「ねぇドナちゃ〜ん…♡」


豊満な身体を惜しげもなくエキドナの腕に絡ませて甘えて来た。

ちなみに今は家庭科の時間なので男女別の授業である。

女子生徒は皆お淑やかに刺繍中だ。←


「……」


作業中のエキドナはとりあえずエブリンをガン無視して絡まれている手で刺繍枠を持ち、もう片方の手で黙々と刺繍を続けている。

そんな塩対応のエキドナに、構わずエブリンが耳元で悪戯っぽく囁くのだった。


「一緒に授業サボって保健室のベッドで遊ばなぁい?」


「!!? …ってあぶなっ」


危うく自身の指に針をブッ刺すところだった。



さらにまた別の授業中では、


カサッ


「?」


後ろから小さく畳んだ紙切れが回って来た。


(ティア氏…?)


エキドナの真後ろにはセレスティアが座っているはずだ。

なので気にせずその場で紙を開く。


「!!?」


声を出さなかった自分を褒めて欲しい。


だって、


『ぜひ放課後は私の部屋に遊びに来て仲良くしましょう? 大丈夫…痛くしないわ♡♡』


(いやいや誘い方露骨過ぎィッ!!! ご丁寧にキスマークまで付いてるし…って個室で何する気なのこの子ぉぉッ!?)


静かに…だが勢いよく後方を振り返ると、


「「「……」」」


困惑気味のセレスティアの両サイドに、フランシスとエブリンが座ってニコニコしていたのだった。

ただ面白そうに傍観するフランシスの隣の隣でエブリンがぱちんとウインクするのでエキドナは素早く視線を前方へと戻す。

ティア氏巻き込んでマジでごめんッ!!!


(それ以前に…いつの間に両サイドの女の子達と席を入れ替わったのぉ!!?)


しばらく後ろが怖過ぎて振り返れないエキドナであった。

手の震えが止まらない。






そんな恐怖の絡みが、いくら何でも続き過ぎたので……昼食時。


「エブリン」


「あらぁドナちゃん♡ 貴女から声を掛けてくれるなんて嬉しいわ♡♡」


頬を染め幸せそうに微笑むエブリンは、持ち前の色気も伴ってものすごく愛らしく魅力的だと思う。

だがしかし、エキドナはこの時決意していた。


その笑顔を……自らの手で壊す決意を。


「エブリン。この際だからハッキリ言うね」


「どうしたの? 畏まっちゃって…?」


真っ直ぐに見つめ言葉を続けるエキドナに、エブリンも本気さが伝わって来たのか表情が変わる。

そんなエブリンを見ながら…エキドナは静かに頭を下げた。


「ごめんなさい。私は女の子を恋愛対象として好きにはなれません」


「……!!」


エキドナの真剣な声に乗せた本心を聞いて、今度はエブリンがその唐紅(からくれない)の目を見開き絶句する番であった。


「おーっ 直球勝負に出たな〜!」


「ドナらしいね」


「まぁ、断るしかないよな…」


二人のやり取りを見守っているフランシス、リアム、イーサンが遠巻きに見守っていた。

すると同じく見守っていたフィンレーが訝しげにフランシスに突っ込みを入れる。


「…そもそも何でフランもこっち側で見守ってるの。あ、わかったやっと姉さまの事は諦めてくれたんだね良かった☆」


「すっげぇ早口で一人結論づけたな。けど残念ながらドナには長期戦で挑むつもりで〜す☆」


軽い笑顔で決めポーズをするフランシスにフィンレーの顔が歪む。


「うっわマジでしつこい。…でも、流石にエブリン嬢の方は諦めたよね? あれだけ思いっ切り振られちゃったら、さ」


再び姉とエブリンのやり取りへとフィンレーが視線を戻した瞬間……フランシスは一人ニヤッと薄笑いを浮かべるのだった。



(元々は私の最初の拒否の仕方が曖昧だったから相手もアタックしちゃうんだ。だから…)


そう考えながら意図して傷付けた罪悪感からつい俯いていた顔を上げてエブリンを見る。

が、予想外な事にエブリンは普段と変わらないにこにこ笑顔でエキドナを見ていた。傷付いている様子は全くない。


「嫌よ♡」


「えっ?」


エブリンの返答にエキドナは自身の耳を疑う。

けれどエブリンは少し不満げに、ズイッと身体ごとエキドナに一気に近付いて指を突き出すのだった。


「まず第一に、ドナちゃんは女の子を恋愛対象として見た事があるかしら? 本気で付き合おうって思った事があるのかしら? 『恋愛対象は異性であるべき』とか勝手に一般論を自分に当てはめて真面目に考えた事ないんじゃない??」


「え、うん、まぁ……確かに…」


エブリンのあまりの気迫にエキドナが押され始める。


「そんなの勿体ないわ!! 新しい自分に出会えるかもしれないのに…怖がらずにチャレンジすればより素敵な選択肢が増えるかもしれないじゃない!!」


「…!!」


ドーンと胸を張り加速するエブリンの熱弁にエキドナが目を見開き息を呑んだ。


「自分の可能性を自ら狭めるなんてダメよ!! 色んな女の子に出会って、色んな恋の形を知りましょう!!?」


「……」


より大きく増していくエブリンの熱量に、エキドナは俯き考え込む動作をし始める。



「おい大丈夫かアレ。なんだかドナがエブリンのペースに呑まれている気がするんだが」


「同性相手だとドナは全体的に甘いね…」


「まぁ相手がエブリンってのもデケーけどな〜。アイツ俺みたいに同時に色んな女の子と付き合わねーけど、狙った相手は彼氏居ようが婚約者居ようがお構いなくアタックかけて奪いやがるから」


「その噂ほんとだったの!? だからステラ様やティアには無反応なのに姉さまに迫りまくってたの!!? だから『フランよりもタチが悪い』ってみんな言ってたのッ!!? って、やっぱり姉さま危ないじゃん!!」


四人の会話が忙しなくなっていると…エキドナがまた顔を上げてエブリンを真っ直ぐに見る。

その顔は心なしかキリッとした表情だった。


「ありがとう。貴重な意見参考になったよ」


「まぁ!!」



「「ええええぇぇぇッ!!!?」」


「イーサンもフィンレーもうるさい」


「あはははははッ!! 素直過ぎだろ超ウケる〜!」


あっさり納得したエキドナにイーサンとフィンレーが叫びリアムが文句を言い、フランシスが腹を抱えて爆笑するのだった。


「と言っても、それが貴女の求愛(?)を受け入れた訳ではなく…「わかってくれたらいいのよ♡ やっぱり頭の柔らかい子なのね… "ここ" と同じように♡♡」


「きゃあっ!?」


「あら♡ 結構あるのね? E…F寄りのEだわ♡♡」


「…!!」


余りのショックで身体が硬直し、エキドナは声なき悲鳴をあげた。



無理もない。


だって今度はエブリンに…がっつり胸を触られているのだ。両手で鷲掴みだ。


「もしかしてそのケープボレロは胸を隠すため? 健気でいじらしくて可愛い〜♡ 背がちっちゃくて巨乳なんて女として最高じゃなっ…


エブリンの声が消える。

彼女の足が地面とサヨナラをしたからだ。



この時、エキドナの頭は完全に冷え切っていた。

否、絶対零度だった。




『人が嫌がる事はしない』


子どもでもわかる常識だろう。

そして…………それは男も女も関係ねぇよ。





ダァンッ!!!!





「いっ一本背負い!」

「なんて見事な一本背負いッ!!」

「スゲェ一本背負いナマで見るの初めてだ!!」


綺麗に一本背負いが決まったので思わずフィンレー・イーサン・フランシスが興奮気味に声を上げる。


「……」


エブリンはチーンと失神しているようだ。



「……」


まるで汚物でも見るような冷たい目でエキドナがそんなエブリンを見下ろす。

無意識だろうが汚れを落とすように彼女に触れた自身の両手をぱんっぱんっ…と叩いている。

そして次の瞬間ハッと正気に戻り……一気に顔が真っ青になって目を見開くのだった。

勢いよくその場から崩れ落ちる。




女人(にょにん)に手を出してしまったぁぁぁッ!!!!」






「なぁイーサン様よ〜。ドナって意外と感情豊かだよな。よく見たらスゲェ百面相でウケる」


「うむ、実はコロコロ表情が変わるから見てて可愛いなと…いやいやいや目の前で自分の姉をぶん投げられて笑ってる場合じゃないだろッ!!?」


「ノリ突っ込みかよ。アンタだって投げた瞬間めっちゃ褒めてたじゃねーか。つーか今回の場合は百パーエブリンが悪いんじゃねぇの?」


「……そうだな」


「もしもしっ大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!?」


エキドナは慌てて肩をバシバシ叩きエブリンの反応を見るも応答がない。

そのまま冷静な表情で自身の頬をエブリンの口元まで移動し、同時に彼女の手首に触れた。


「ダメだ意識ない! 呼吸と脈はあるし痙攣(けいれん)麻痺(まひ)はないから一時的な意識障害…? とにかく保健室へ…って重ぉ!!」


「…やけにあの子手慣れてねーか?」


「ドナは昔から付け焼き刃程度に医術の勉強をしているらしいよ」


「ほー、それはそれは…」


フランシスとリアムの会話を他所にエキドナは涙目になりながら慌ててお姫様抱っこでエブリンを運ぼうとする。

しかし体格的に運びきれず崩れる。


するとずっとステラやセレスティアと一緒に見守っていた(状況をよくわかっていない)ニールがエキドナ達の元へ駆け寄り軽々とエブリンを抱えた。


「よっしゃ任せろッ!!」


「待ってニール! 怪我人にファイヤーマンズ・キャリーは不味いって!」


((((『ファイヤー…え、何て???))))


「『ファイヤーマンズ・キャリー』はプロレスやレスリングで使う技の名称だよ」


「今ニールがやってる肩に乗せて抱える動作の事です!!」注:別名『お米さま抱っこ』


「なに普通に解説してんだお前ら。怖えーよ」


すっかりアーノルドから武術を叩き込まれたリアムとフィンレーが『ファイヤーマンズ・キャリー』の解説を担い、そんな二人にフランシスがまぁまぁドン引くのであった。


「横抱きでいいから!」


「『横抱き』ってこうかッ!?」


そう言うとニールは片手でエブリンの首と胴体を支え、もう片方の手で太ももと膝下を支え始める。


「それは赤ちゃん抱っこするやつ…もういいやそれで運んで!!」


こうしてうっかり背負い投げをしてエブリンを失神させてしまったエキドナは、ニールの協力の元大慌てで保健室へと急ぐのだった。


なお、保健室までの道中で散々…


「なーなーッ!! 『イー』ってなんの事だッ!!?」


「「「「「「「……」」」」」」」


エブリンを抱えたままニールが悪意皆無で質問しまくり一同の空気が即行で気不味くなった。特にエキドナが。


「なー! ドナ「忘れて」


冷え切った声がその場に響く。


「…忘れられないなら、私が殴って忘れさせてあげるよ」


淡々と脅迫するエキドナは珍しく笑顔だ。…貼り付けたような笑顔で、額には青筋が立っている。

イーサンが慌ててニールの口を塞いだ。


「あぁそうそう」


先程とは違う意味で沈黙が続く中、再びエキドナの冷たい声が響く。

徐々にドスの効いた声になっているのは気のせいだろうか。



「みんなもさっきの幻聴なんて覚えてないよね? …ね"ぇ??」



周囲を見渡すエキドナの特徴的な金の目はビキィと見開いている。瞳孔も完全に開いている。

……あの目は、間違いない。





人殺しの目だ。





「「「「「「「ナンノコトダッタカナー」」」」」」」


((((((もうそっとして置いてあげよう…。気の毒だし殺される))))))


イーサン、フィンレー、リアム、フランシス、ステラ、セレスティア。

当事者のエキドナ、よくわかっていないニール、そして失神しているエブリンを除く個性豊かな六人の意見が合致した…奇跡の瞬間であった。


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