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再び


________***



キンッ カンッ!


金属音が辺りに響く。

ここはリアム達王族が住う寮そばの広場。

『この場所なら他の生徒の目もないから』という事で、朝の鍛錬にも使われている場所だ。

エキドナは現在、リアムと剣の鍛錬をしていた。


先程までフランシス・エブリンの双子コンビとその父親であるリード宰相の悲劇について話を聞いていたエキドナだが、イーサンは生徒会の仕事、フィンレーは友人との約束…と各々用事でその場を後にした。

本来なら副会長になる予定のリアムもイーサンと同行するはずだったのだが、


『そうかフィンも用事が! ならリアム、今日は生徒会に参加しなくてもいいからドナと一緒に…!』


などと言いながらイーサンがリアムを置いて去ってしまったのだ。

そのまま現地解散しても良かったのだが、リアムに予定を聞かれて流れで一緒に鍛錬する事になった。

何気に二人きりはだいぶ久しぶりかもしれない。



カンッ! カァァンッ …ガッ!!



剣をぶつけ合い、弾き、いなし、突き、(かわ)し、回り込み、(ひるがえ)し…


二人の剣技はニールが最近放課後に通っている騎士志願者のための特別訓練の…訓練兵や講師が見ても感嘆の声を上げるだろう。


ヒュンッ 


エキドナは身体が小さい故に力は劣るがメンバー随一のスピードと身軽さ、そしてその場に即した柔軟な動きで、


ザッ…


リアムは恵まれた体格とフィンレーに負けず劣らずな力とスピード、さらに相手の動きを観察しパターン化する事で動きを予測して対応する稀有(けう)な頭脳を使って…、


長い年月と共にエキドナとリアムの間には圧倒的な体格差が生まれたが、それでも各々の長所を活かして善戦している。


「はぁぁっ!!!」


ガァァン!!!


勇ましい声と共にエキドナが長剣を振り上げリアムに打つける。リアムはそれを剣で受け止めるのだった。


「……らしくないね。いつもより剣捌きが荒いし乱れている」


カンッ!!


リアムが冷静な声でそう指摘しながら剣を弾き返す。


「…やぁっ!!」


エキドナは何も答えずまた切り掛かって来るが、リアムは攻撃を素早く避け言葉を続けるのだった。


「そもそも普段なら双剣を使う貴女が敢えて長剣で勝負したいなんて……」


ダッ!


言いながら攻撃の構えをしてエキドナに向かう。


「実は気にしてたの!? エブリンにされた事!」


「ウグッ!」


「うわっ危なっ…!!」


リアムの余計な一言で酷く動揺したエキドナが態勢を崩し転びそうになる。

そんなエキドナをリアムも面食らいながら攻撃を無理矢理中断してエキドナの身体を自身の方へ引くのだった。


ドサッ!


「「……」」


なんとかお互いに怪我をしなくて済んだが、攻撃をギリギリで止めたためリアムもバランスを崩して二人で地面に倒れ込んだ。

しかし未だリアムに抱えられ受け止められているエキドナはそれどころではないらしい。

プルプルと小刻みに震えている。


「ドナ…?」


リアムの問い掛けにエキドナが勢いよく顔を上げた。その表情は動作の勢いに反して弱気である。


「なっ なななな何で敢えてそこを指摘するかなぁ!? せっかくこっちは必死で忘れようと…!!!」


「やっぱり引きずっていたのか…」


そう。

エブリンにキスされ、森へ逃げ、昼食休憩から戻った後は普段通りの冷静で落ち着いた態度を貫き通したエキドナだったが…。



実を言えば、ファーストキスを女の子に奪われたのが軽くショックだったので掻き乱された精神を落ち着かせるために剣でストレス発散を試みていたのである!!



前世の思春期・成人期はだいぶ男を避けまくった人生だったのでキスの経験なんてあるはずがない。

別段ファーストキスに夢を持っていなかったが、今現在言葉に出来ない複雑な気持ちがエキドナにはあった。


しかしそんなエキドナとは対照的にリアムは理解に苦しむような……不思議そうな顔をする。


「そこまで気にするものかな? 僕にはよくわからない」


「うん、まぁ…貴方ほんとに興味なさそうだもんね。そういう事絡みに」


そう、リアムは恋愛絡みが…いやむしろ恋愛感情自体がイマイチよく理解出来ないらしい。

以前、『気になる娘いないの!?』と尋ねまくっていたら素っ気なく言われてしまったのだ。

だがしかし、その返答を聞いた時はちょっと納得してしまった。そもそもこの人…感情そのものが周りより希薄みたいだし。

とは言っても感情が "希薄" なのと "無い" のとでは似ているようで全く違う代物(シロモノ)なのだけど。


「ドナも似たようなものでは?」


「似てるけど微妙に違うよ…?」


リアムの問い掛けにエキドナの表情がより複雑なものになる。

ちなみにエキドナ自身は恋愛感情を持つ事自体可能だが、自分の意思で恋愛しないタイプである。

言葉通りの意味で表面上はリアムと似ているが根本的なものが全く違うのだ。

こう見えて前世の幼少期からギリ思春期辺りまではちゃんと誰かを恋愛的な意味で好きになれた。

…今は、そんな風に誰かを想うなんて出来そうにないけれど。


「気持ちの問題だよね。アレは」


「? …そうなんだ」


隠す気ゼロでずーーんと凹んでいるエキドナにリアムは構わず身体を起こして立ち上がる。

ついでと言わんばかりにエキドナもひょいと持ち上げられ立たされるのだった。


「同性にキスされたのが嫌だったって事?」


「うーーんそうと言えばそうなるかなぁ…? いや別に大事に取っておいた訳でも何でもないんだけどさ。何をウジウジ悩んでるんだろう私は…はははは」


「ふぅん…」


リアムは少し納得した風に呟くとエキドナの乱れたプラチナブロンドの髪を手で整えて……何故かもう片方の手を顎に添えてエキドナの顔を持ち上げた。

キョトンとしたエキドナに構わず静かに顔が近付く。

綺麗なサファイアの目がエキドナの眼下に、

そして……



「……!!?」


気付いた時には手遅れだった。

全ての動きがスローモーションで、信じられなくて。




リアムから…………キス、されたと認識するのに、かなり時間が掛かった。

それも唇にだ。




「!! ふっ…」


咄嗟に離れようと顔を後ろに引いたのに、いつの間にか髪に触れていた手が後頭部を優しく、けれどもしっかり包み込むように固定されていて動く事が出来ない。

そうしている間にも何度か、柔らかい唇を重ねられ……また静かに離されるのだった。





未だ顔と頭を手で添えられた状態でエキドナが目を見開いてリアムを見つめる。


「…え、あ、……な、なっなんでっ…!!?」


もはやプチパニック状態だ。

なんとか声を絞り出して問い掛ける事に成功した。

対するリアムはいつも通りどこか淡々とした…しかしながら本人もよく把握出来ていないような、不思議そうな顔をしていた。

……なんか取り乱しているこっちが馬鹿馬鹿しくなって来た。


「…………消毒?」


パァンッ!!!


乾いた音がその場に響いた。

無駄なオブジェがない広場だから余計に音が響く。


「い"っ…!」


エキドナからの想定外の攻撃でリアムが自身の頬を押さえて怯む。

その瞬間にエキドナは一気にリアムの手から離れて距離を取るのだった。

強張り震えた……けれど僅かに怒りを孕んだ冷たい声で、エキドナはリアムを睨み言い放つのだった。


「…リー様、それは、"私達の関係" の範疇を、超えてると思う」



リアムの返事も聞かないまま、エキドナは無言で素早く自身の手荷物だけを取ってその場を後にする。





「っ……本気で叩いたな、あのチビ…」


赤くなった頬を手の甲で押さえた…リアムの不機嫌そうな声だけが残ったのであった。




________***


「「……」」


ツーーン


翌日の登校中にて。

エキドナはリアムと険悪までは行かないが距離を置いて視線を合わせようとしない。

そんな二人を見たイーサンが心配そうにリアムに声を掛けるのだった。


「……リアム、その頬はどうしたんだ? 随分赤くなって…しかもドナにハンカチを渡されて…?」


朝会った際にリアムが頬に何の手当てもしていない事に気付いたエキドナがかなり不服そうに…けれど無言で近くの水道まで行ってハンカチを濡らし、リアムに手渡したのである。


「待てわかったぞ」


先程の二人のやり取りを思い返しつつ、イーサンはハッとした表情になる。

そして今度は弟を嗜めるように言うのだった。


「…リアム、ドナに "また" 嫌がらせをして怒らせたんだな。いつ・何をやらかしたのかは知らないが早く謝っときなさ「イーサンウザい」


がーーん


「ちょっとリアム様!! "また" 姉さまに嫌がらせして怒らせて自業自得なのにサン様に当たるのはなしです!!」


「おい待て何このやり取り。日常なの? リアムがドナに嫌がらせして怒られて謝るまでがセットの日常的なやり取りなのこれ? しかもそれを周りも察知してるの? どんだけ仲良いんだよお前ら」


「うわっフラン!!?」


「げ、どっから湧いて来たの…?」


急なフランシスの登場にイーサンは驚愕しフィンレーは本気で引いている。


「何だよ(ゴキ)が出たみてーなリアクションは〜。傷付くじゃねーか」


「フランったらあんまりお友達に好かれてないみたいね♡」


「「「出たーーーーッ!!!!」」」


「お前に至ってはバケモノ扱いじゃねーか」


どこからともなく現れたエブリンにイーサンとフィンレー…更にエキドナも加わって恐怖で叫ぶのだった。


「あら心外だわ〜。可愛い女の子が居る所に私が居るのは花畑に蝶が居るのと同じなの♡♡」


「どんな理屈だよ」


バケモノ扱いされているにも関わらずエブリンはにこにこと楽しそうである。

そんな双子の姉に対してフランシスも呆れ気味だ。


「あら? 隠れてるドナちゃんも小動物みたいで可愛いわね♡ こっちに出ておいで〜♡♡」


「……」


エキドナの目線を合わせてエブリンはその場で屈み笑顔で手を振るが、当のエキドナはフィンレーの背に隠れたまま出てくる気配はない。


「来る訳ないでしょ。エブリン嬢」


昨日のやり取りを根に持っているフィンレーはピリッと警戒態勢だ。


「……はぁ…」


フィンレーの背に隠れたままエキドナは密かにため息を吐く。


(忘れてた…。リー様の昨日の奇行もかなり気になるし問い詰めたいけど……まずはエブリンをどうにかしなきゃだった〜…)


彼女に翻弄される一日は、まだ始まったばかりだ。


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