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撃沈


________***


フランシスの不器用な本心を聞いたエキドナ達は以前より態度が軟化し、フランシスとも友人としてある程度は普通に交流するようになった。

それが、フランシスの "エキドナを落とす" ための作戦とも知らずに……。



まぁ撃沈しまくっているのだが。



〜Take 1〜


「ホホウ! あのチャラ男割とマシだったでありますか!」


「あまり良い噂を聞きませんしサン様に『近付かない方が良い』と言われてましたから…少し意外ですわ」


「うんそんな感じでこれから多少は関わる事になりそうだけど、二人が嫌だったらすぐに言ってね〜」


先日のフランシスとの交流をセレスティアやステラに説明しながら、エキドナが女子寮の正面玄関のドアノブを回して引く。


ガチャ


「よっ☆ 相変わらず綺麗だなド」バタン


「「「……」」」


「今日は裏の扉から出よっか♡」


「ちょっ待て待て待ってくれよ!」


フランシスが慌てた様子でドアを開けようとする。


が、全体重を掛けて踏ん張りドアを閉めようとするエキドナの妨害によりほんの僅かな隙間しか開けられていなかった。


「おはようそしてさよなら永遠に」


「朝から冷たいねハニー…てかアンタ見かけによらず力強いなッ!!」


「なんで朝から貴方の顔を拝まなきゃいけないのかな? 意味わかんないんだけど」


「俺だけじゃねーから! リアムやフィンも居るし!!」


「え、そうなの?」


言いながらエキドナがパッと扉を離れる。

すると勢いよく開き、フランシスと……少し離れた位置にリアム達が待っていた。


「おはよ〜姉さま!」


ひとまず三人が外へ出るとフィンレーが笑顔で駆け寄り抱き着く。


「おはよ〜。何これどういう事? いつもの場所で待ち合わせじゃないの??」


いつもなら……学園から寮へ帰る途中にある分かれ道で毎朝待ち合わせをしていた。

だから今迄わざわざ女子寮まで迎えに来られた事がなく初めてなのだ。

エキドナの疑問にリアムが答える。


「始めはいつもの場所に行こうとしたんだけど、途中でフランシスを見つけてね。『女子寮の前まで行く』と言ってきかなかったから僕達も同行したんだ」


「なるほど」


「ぜー はー…朝っぱらから運動したぜ…」


「運動不足じゃない?」


エキドナがリアムの説明に納得しつつ、両手で膝をつきお疲れ気味なフランシスに冷めた声で指摘する。


「んな訳ねーだろ。…まぁ、アンタらの麗しい姿を見れただけで疲れも吹っ飛ぶけどな☆」


「!」


『チャラーン☆』と音がしそうな決めポーズを取りながらどこからともなく真っ赤な薔薇を取り出してエキドナに手渡すのだった。

エキドナは驚きとフランシスのナチュラルな勢いに負けてつい薔薇を受け取る。


「さぁステラ様も…」


手品の如くまた薔薇を取り出したフランシスがエキドナの後ろにいたステラにも手渡そうとした。


ザッ


「「……」」


するとイーサンがまるでステラを守るように前に二人の間に立ち塞がり、困惑気味にフランシスを見つめる。


「…セレスティア嬢だっけ? これからよろし「シャラップ!! リア充爆ぜろッ!!!」


フランシスは素早く標的を切り替えたがニールの背に隠れたセレスティアからガッツリ拒否されてしまった。

猫の威嚇ばりに激おこである。

(注:ただしニールは状況をよくわかっていない)


「…俺なんかしたっけ?」


「はいはいティア氏は私と一緒に向こう行こうね〜」


呆然と…心なしが持ったままの薔薇もヘニョンと頭が下がって凹むフランシスを他所にエキドナが未だ警戒態勢のセレスティアを自身の方へと保護する。

結局フランシスが薔薇をプレゼント出来たのはエキドナのみであった。


「姉さま、その薔薇どうするの…?」


不安げなフィンレーの問い掛けにエキドナは答えず一旦リアムの方を向いた。

そして尋ねる。


「ねぇリー様。薔薇って動物の餌にしても大丈夫だっけ?」


「無農薬なら問題ないけどその薔薇は農薬がかかってる可能性が高いからやめた方がいいよ」


「そっか了解。教えてくれてありがとう」


「ひでぇなオイッ!! 人のプレゼントを家畜の餌にしようとしてたのかよ!!?」



〜Take 2(次の日)〜


「んだよ〜俺達友達だろ〜? 改めて仲良くしようぜ!」


フランシスは負けず『友情』を盾にエキドナを熱心に呼びかけている。

そんな彼にエキドナが心なしか意を決した表情をして振り返った。


「あのさ、勘違いしてほしくないから言うけど」


「なになに? ツンデレみたいに可愛い言い方しちゃって♡」


「黙れ口を糸で縫い付けて喋れなくしてやろうか」


「言い方こっっわ!!!」


不愉快と言わんばかりに若干眉を寄せた無表情で淡々と悪態をつく。

そんな姿が余計狂気めいて見えるのだった。

フランシスの反応をスルーしつつエキドナは冷静に続ける。


「……フラン、貴方は(恐らく客観的に見ると一部の人間からは)魅力的な男性だと思うよ?」


「「!!?」」「……」


エキドナのフランシスに対する予想外な評価にフィンレーとイーサンが激しく動揺し、リアムが沈黙した。


「おっ? 嬉しい事言ってくれるね〜! 何やっと俺に「ただ、」


「? おぅ?」


フランシスの言葉を遮ったエキドナは、自身の胸に手を当て金の目を輝かせてから堂々と宣言するのだった。


「ただ私は貴方の存在云々ではなくそれ以前に…… お と こ が き ら い …なだけなんで!!」ドナァァァ


「そこ胸張って言う事じゃねぇぇぇッ!!! むしろどの箇所に威張れる要素あったの!!? 結局あいも変わらず完全拒否じゃねぇか!!!!」



〜Take 5(また別の日)〜


フランシスは見事に完全拒否されたため痺れを切らしてエキドナに再び口説き続けていた。

『お友達から作戦? そんなもん知るかッ!!』な開き直りっぷりである。


「そのつぶらな瞳に長いまつ毛! 惚れ惚れするぜ…!!」


「待って『つぶらな瞳』って私の目が小粒って事!?」


「違えぇぇぇッ!!!」


口説き文句にギョッとし本気で驚くエキドナとそれを突っ込むフランシス。

そこにはただの漫才しか存在していない。


(注: なおつぶらな瞳の語源は "粒" ではなく "(つぶ)ら"。つまり『ぱっちりおめめ』とフランシスは言いたかった)



〜Take …(数えるの飽きた)〜


ガシィ!!


今度は逃げないよう、フランシスはエキドナの小さな手を両手でガッチリ掴んで拘束しその場で跪いて本気(ガチ)で口説き始める。


「今日も美人だなエキドナ。なぁ『冷艶清美(れいえんせいび)』って言葉知ってるか? 『白い花や雪のように冷ややかで美しい様子』もしくは『冷ややかで清く美しい様子』って意味だ。まさにアンタに相応しい言葉だと俺はおも…………待ってお願い口説き文句聞かなくてもいいからせめてこっち向いて、あっちのスズメばっか見ないで」


片手をフランシスの両手でがっつり拘束されてしまいその場から離れたくても離れる事が出来ないエキドナは、甘い言葉を囁くフランシスの存在を丸ごと無視して桜の木の枝で戯れているスズメ達の平和な光景を眺め一人勝手にほわっ…と癒されているのであった。


「あ、無駄な雑音終わった? 離して下さい」


「いやアンタ見た目以上に冷た過ぎだろッ!? 前言撤回っ 雪の方がまだ温もり感じるわ!!!」


エキドナの一貫したある意味辛辣で冷酷過ぎる対応に今迄そんな女性を見た事がなかった(注:あってももう少しマシな反応をされるはずの)フランシスは本気で衝撃を受ける。

そのままエキドナの手を離して四つ足をついて力尽き項垂れるのであった。


「……すげぇ。ここまで女にコケにされたのは初めてだぜ…。逆に燃えるわ…」


「わぁ鬱陶しい☆ そのまま火葬されれば?」


「今『死ね』って言ったッ!? 今軽い口調でオブラートに俺の事『死ね』って言ったよなこの子!!!」


「こだまでしょうか いいえ、誰でも」


「どゆ事!? それどーゆー意味で言ったの!!? アンタに "こだま" とかオカルトワードを何か含んだ感じで呟かれると怖えーんだけどぉぉぉ!!!」



そう、

女好きチャラ男の意地を掛け、作戦を変更したり中断したりしてまでフランシスは口説き続けたのだが。

男嫌い故に男のやる気をへし折る方面で(素で天然気味なのも手伝って)ある意味百戦錬磨なエキドナに(ことごと)く敗れたのであるッ!!!

儚い命だった…。



「エ〜○〜♪」


「ティアどうしたの? 突然歌い出して」


「イエイエお気になさらず! 転生者(なかま)としてドナ氏が振ったネタを遠くから拾って援護しているのでござる!!」


「姉さまの? ふぅん…??」


セレスティアの奇行にフィンレーは首を傾げてただただ不思議がる。


「うふふっ フランシス君とドナったらすっかり仲良しですわね〜」


「ステラ…あれは『仲良し』と言っていいものなのか? 明らかにドナのペースにフランが振り回されてるようにしか見えないんだが」


「ドナはしっかりしてるようでかなり抜けてるからね…。フランも大変だ」


「ドナはフランシスとのショーブに勝ったのかッ!?」


「フルボッコで圧勝ですぞニール!!」


「すげぇなドナッ 流石は俺のマブダチだぜ!!」


遠巻きでステラ達が各々言いたい放題言って二人を見守るのであった。

するとイーサンがリアムの方へチラッと見てアイコンタクトを取る。リアムもそれに気付いた。


「リアム…ドナは予想以上にフランを上手く(かわ)していると思う。思うのだがな…」


言いながら向こうで賑やかにやり取りをしているエキドナとフランシスをもう一度見るが、その表情は不安で曇っていた。

兄の言葉にリアムも僅かに険しい顔で頷く。


「うん。このままあの二人の距離が近いのは……ドナが危ないね」




その日の放課後、リアムとイーサンがフランシスとフィンレーを言いくるめたらしく上手く撒いて…現在エキドナは二人に呼び出され人払いが済まされた一室に居た。


「ドナ。フランとはもう関わらないで」


「あぁ、そうした方が良い」


リアムとイーサンの表情は真剣そのものだ。


「二人がそこまで言うのならもちろん。…それにしてもフランは余程の要注意人物って事ですか?」


「…正確には要注意人物はフランじゃない」


「そうだ。フランは複数の女性と同時に交際するようなやつではあるが、そうじゃない」


(『複数で同時』は完全アウトだと思うんですけど)


エキドナは突っ込みたかったが、二人がかなり真面目に話している雰囲気だったので心の中だけに留める。

そんなエキドナにリアムはサファイアのような青い目を向けながら……真剣な声色で断言するのであった。




「貴女がフランと関わる事で、"彼の姉" が貴女に目をつけた時が危険なんだ」



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