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入学式と…


________***


イーサン及びステラによる誘導のお陰で、エキドナ達は時間に余裕を持って会場へ着く事が出来た。

イーサン達にお礼を言って一旦別れ、各々着席する。

周りをさりげなく見渡しながら、エキドナは声を潜めて左隣に座るセレスティアに声を掛けるのだった。


「…ねぇティア氏、やっぱり『ヒロイン』は居ない感じ?」


エキドナの声にセレスティアも顔をこちらに向けて答える。


「イエスですぞドナ氏。転生者(ワタクシたち)という存在(バグ)で早めの登場もあり得ると思いましたが…やはりゲームのシナリオ通り七月頃に転入するっぽいですな」


そう。

この世界は『乙女に恋は欠かせません! 〜七人のシュヴァリエ〜』通称『乙恋(おとこい)』の世界でありエキドナとセレスティアは各々の攻略キャラルートにおける悪役令嬢なのだが……肝心の『ヒロイン』がまだ不在なのだ。

以前セレスティアに教えて貰った情報によると…なんでも庶民出身のヒロインは、ある日急に男爵令嬢になったため色々諸事情で入学式には間に合わず…途中から転入する設定らしい。


「にしてもこの世界、色んな意味でワケワカメでござる。まず第一に今の『転生者(ワタクシたち)』とゲームの『エキドナ』『セレスティア』とは……容姿や声に少し誤差が生じてるであります」


「あぁ、前話してたやつね。明らかに前世(むかし)と同じ顔と声だよなとは思ってたんだよね〜。でも目と髪の色とか身長とかは…? まぁとにかく、当分ヒロインが出て来ないのは気楽で助かるんだけれども…」


「二人共っ そろそろサン様の番だよ」


エキドナの右隣に座っているフィンレーに声を掛けられたので内緒話を一旦止めて二人は正面を向き直した。

丁度学園長式辞が終わったようだ。

(注:先生の話は聞きましょう)


そして学園長と入れ替わるように講演台に立つのは我らがヒロイ……んじゃなくて、先程お世話になったイーサン・イグレシアスである。

イーサンが今期の新生徒会長として、在学生代表の歓迎挨拶を行うのだ。


エキドナは学園に入学するまでの間イーサンやステラと定期的に手紙のやり取りをしていたのだが、イーサンからの手紙によると…


『本当はリアムの方が向いてるからリアムに生徒会長をやってほしかったんだ。だけど本人から "上に立つ者の立場を知るいい機会だから" と言われてな…。あいつの言う事も納得出来るし父上とも相談した上で、この一年間だけは俺が生徒会長を務めさせて貰う事になった』


だそうな。

余談だがセレスティア曰く、ゲームにおける一年時の生徒会長はリアムだったらしい。


「きゃーっ イーサン王子よ!!」


「知的な雰囲気が素敵!」


「イーサン様〜!!」


イーサンの登場に周囲に居る一部の女子生徒が騒ぎ始めた。

予想外の反応でイーサンも少し動揺した様子だったが…エキドナ達の方を見て固まり、フッ…と微笑む。


その優しい微笑みで歓声がより大きくなってしまうもののそこは貴族の子息と令嬢。

イーサンがわざとらしく咳払いを一つすると辺りが少しずつ静かになる。

その僅かな瞬間を見計らい、イーサンが穏やかな声で「春の花が咲き始め、温かい日差しが…」と挨拶を始めるのであった。




「…以上を持ちまして、歓迎の挨拶とさせて頂きます」


無事挨拶を終えたイーサンが新入生からの拍手に包まれながらその場を後にする。

もちろんエキドナ達もこの時めちゃくちゃ拍手した。


「サン様、噛まず原稿の忘れ物もせずで良かったねぇ…」(注:小声で会話しております)


「一ヶ月前から準備して練習したんだって。努力家だよねぇ」


「いやはやドナ氏もフィン殿も、完全に保護者目線でありますな〜」


オルティス姉弟(きょうだい)のしみじみほのぼのとした会話をセレスティアが突っ込む。


「…ところで姉さま、そのうちわ何?」


訝しげにフィンレーが見ているのはエキドナがさっきまで両手に持っていた二枚の派手なうちわ。

キラキラしたファーで縁取られたそのうちわには大きく文字が書かれている。


『サン様』『笑って☆』


「万一サン様が緊張し過ぎて喋れなくなった時のために作っておいたの! ねーティア氏」


「コンサート会場へ行くノリで作りましたぞ! こちらは使いませんでしたが用意したでござる!!」


『サン様マジ』『ヒロイン♂』


「……うん。まずコンサートでもそんな派手なうちわは使わないよね? 結果オーライだったから良かったけど、ティアの分はこれからも出さないでおこうか…」


「「「「キャアアァァァッ!!!!」」」」


「「「!!?」」」


「おっリアムの出番かーッ!」


周囲の地響きのような悲鳴に三人は驚き、セレスティアの隣りで爆睡していたニールが目を覚ます。


挨拶を終えたイーサンと交代して…今度は新入生代表挨拶なのだ。

もちろん代表は首席のリアム・イグレシアス。

同じ王族のイーサンも生徒から人気が高いようだが…やはり幼少からこの国の王位継承権第一位であり『天才王子』と評され続けたリアムの人気は言わずもがなである。

いやアイドルのコンサートか。


スッ…


「「「「!!! …………」」」」


しかし流石は天才(チート)王子。

片手を静かに上げて即座に悲鳴レベルの歓声を黙らせた。その光景は、むしろ絶対君主による軽い制圧状態だ。


「本日は私達のために、このような盛大な式を挙行して頂き…」


そして静まり帰った状況にも一切動じずスラスラと挨拶を始めるのであった。

ちなみに先刻の挨拶でイーサンは原稿を見ながらしていたが、リアムは一切手元を見ずに行なっている。

当たり前のように全て暗唱しているのだ。


「リアム様、文章昨日の夜考えたって言ってたよ…」


「……うん、らしいっちゃらしいよねあの人は…」


「清々しいほどに天才(チート)キャラでありますな!」


安定のリアムでオルティス姉弟は遠い目をして見守るのであった。


(ほんとこの人だけは敵に回したくないよね…。とうとうジャクソン公爵家を潰したし)


実は学園に入学するまでのこの数年間で…ヤツは本当にやって退けたのだ。

リアムの背後(バック)で暗躍し、長年リアム達を苦しめ続けて来たあのジャクソン公爵家を……潰した。有言実行したのだ。

具体的に何があったか話したいところだけれど、説明すると本一冊出来そうなくらい長い話かもしれないので別の機会で詳説願いたい。

数年前の事を思い返していると、リアムの挨拶も終わったのでフィンレー達と共に気持ち温かな拍手を送る。

(注:挨拶くらい聞いてあげて…)

絶対要らないと思いつつ『リー様 がんばれ』と書かれた小さな横断幕も作っておいたけど、やっぱり要らなかったようだ。




そして無事入学式が終わりクラス分けも確認して本日はお開きとなった。

エキドナはリアム、フィンレー、セレスティア、ニール…つまりみんなと同じクラスだ。

この学園は三年間ずっとクラスが変わらないそうなので結構嬉しい。


「いよいよ明日からですね〜! 席も自由みたいだし、姉さまの隣に座ろっと♪」


「フィンレー、貴方は(エキドナ)じゃなくて他の友人達の所へ行った方がいいんじゃかな?」


「大丈夫ですよリアム様! 友人達の所にはたまに顔出して話せたらいいので! というか、リアム様こそ他のご友人の元へ行かれてはー?」


「残念ながらドナの隣を離れた途端、女子生徒に囲まれるからね…」


「あぁ…その苦労はちょっと、いえ結構わかります…」


「なーなー! それよりこの後どうする!? 剣の試合するかーッ!?」


「ニールはまずケリー子爵邸から届いた荷物の整理じゃないか? 今日から寮生活が始まるんだぞ?」


「やべぇすっかり忘れてたぜ! ありがとなイーサンッ!!」


「どう致しましてだな…」


「ニールっ『様』付け忘れてるから!! せめて人前ではリアム様とサン様には『様』付けと敬語をちゃんとしてよね!!?」


後方では男子ズが賑やかに会話をしている。

そしてその前を歩く女子ズもきゃっきゃっと楽しげに寮へ向かって足を運んでいた。


「これからはドナやティアとも一緒に過ごせるなんて嬉しいですわ〜♪」


「ステラ様さえ良ければお昼もご一緒しましょうぞ!」


「まぁ素敵!」


「いいねーステラも来てくれるなら楽しそっ…


ドッッックン


「……!!」


目を見開き顔が強張り、指先が僅かにカタカタ…と震え始める。呼吸が徐々に浅くなって行くのを感じた。

エキドナは誰にも気付かれぬよう降ろした両手を強く握り締めこの状態を押し殺しながら…セレスティアにコソッと声を掛ける。


「…ごめんティア氏、ちょっと、お手洗い行ってくる」


「オヤオヤ了解でござる! …ですがドナ氏まだ場所を知らないのでは?」


「へーきへーきっ…ついでに、探索してくるよっ!」


「あっドナ! なら(わたくし)が…」


ステラの声が聞こえなかったのか、エキドナはセレスティア達六人を置いて無言でその場を小走りで去って行くのだった。


「…どうかしたの?」


「イエイエ! ちょっとした野暮用でございまするリアム王子!」


「ふぅん。…フィンレー、貴方には後で聞こうと思っていた事だけど」


「何でしょう?」


「ここ数年…ドナは時々、あんな風に姿を消すようになったよね。本当に何か思い当たる事はないの?」


「……?? いえ、姉さまに聞くといつも『散歩』とか『一人でぼ〜っとしていた』って言ってますけど…」


「…そうなんだ」










「はぁっ……っ……はぁっ……」


ドッッックン


思わず胸元の服を握り締める。

段々息が荒くなる中、つい考えてしまう。

暗い気持ちになる。


(やっぱり頻度が上がって来てるなぁ…。何でだろう。何で、治らないんだろう…)


とにかく人気がない場所へ…校舎の裏側へと、エキドナは人目から逃げるようにふらつく足を無理矢理動かして急ぐのだった…。


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