賑やかなやり取り
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見た目 "は" キラキラ王子なリアムだが…その中身はあいも変わらず腹黒ドSである。
この歳になっても未だ私やフィンレーへの嫌がらせをやめない。
特に私への嫌がらせなんかは…詳しくは後述するが、私のある見た目に関するイジりも含めてかなり悪質で苦手な虫や幽霊を……流石に昔のように虫片手に追いかけ回したりはしないのだけれども、
〜〜〜〜〜〜
『知ってるドナ? 夜中に王宮で死んだ女性の霊が彷徨ってるらしくて具体的には…』
『アゲハチョウの幼虫って色鮮やかだよね。あれはね…』
こ・う・い・う!!!
聞けば叫んで逃げたくなるような内容をがっちり身体を抱き締めて逃げないように固定した上で耳元で囁き続けるんだよもぉぉぉッ!!!
しかも喋ってる時のリアムはかなりイキイキしてて楽しそうだし!!
やだこのサディスト!!
『リー様っ 私Mじゃないから嬉しくないし楽しくないんだよッ!!?』
『わかってるよそれくらい。だからこそ虐めがいがあって面白いんじゃないか』ニヤァ…
『うわやだリー様き…ムグっ』
『その言葉は言わない約束だよ』
『ムムムンムムムムム 、ムム!!(いつ約束したの、いつ!!)』
『あはははっ』
〜〜〜〜〜〜
こんな感じで、リアムの嫌がらせは悪い意味でレベルアップしてしまったのだ…!
誰かぁ!! どっかのドMな令嬢さーん!!
このドS王子を貰って下さいお願いしますッ!!!
お陰様で今のリアムは幽霊と虫への知識が専門家を超えるレベルで詳しいらしい…。
いやいや努力の方向性おかしいからッ!!
(しかもこの人は何で今でも素手で虫を掴めるの? 平気っぽいのは薄々わかってたけどそれでいいのかロイヤルプリンス)
前にすぐそばで虫を掴んで内部の解説をする嫌がらせを食らった事を思い出し、一気に途方に暮れるエキドナであった。
そして追い討ちを掛けるように、リアムはエキドナの見た目に関するもう一つの嫌がらせを行うのだ。それは…
「周りの男が大き過ぎて嫌…」
回想から現在に戻りついハァ〜と大きくため息を吐く。
男率が高い故に体格差で周囲からの圧迫感がすごいのだ。それだけで押し潰されそうである。
「ドナは背が低過ぎるからね」
ご丁寧に手で自身とエキドナの背丈を測る動作をしながらリアムが容赦なく指摘する。そんなリアムの言動にエキドナは無言・ジト目で彼を見る。
「……」
そう。
数年前、小柄だった前世とは違い『大柄な父親に似て高身長になれるのでは!?』とだいぶ期待していたのだが…。
結論から言うと、たいして大きくなれなかったのである。
流石に前世よりは伸びた、伸びている。
その事実に気付いた時はもうルンルンだった。
だがしかし、この世界の平均身長は前世より遥かに高かったのである。
この世界の平均身長は男性が176センチ、女性は162センチくらいだ。
対してエキドナの身長は…………156センチ。
言い逃れ出来ないチビさ加減である。
なお172センチと平均より低めなフィンレーを除いて、他の人達は平均以上ある。
リアムは180、イーサンは184、ニールは188…。
見上げてばかりで首が痛い。
あと色々複雑な気持ちになる。
「…仕方ない。背が低い事を気にするドナのために今度 特注品のシークレットブーツをプレゼントしてあげ……ハッ、ごめん背が低過ぎてシークレットブーツでも限界があるみたいだ。背が低過ぎて」
「ねぇなに可哀想な目で私を見てるの? なんで申し訳なさそうな顔してるの? 『背が低い』どんだけ連呼しなきゃ気が済まないの? とりあえず貴方ムカつく…って頭をポンポンするなぁッ!!」
エキドナが身長を気にしているのはよく知っている癖に、敢えて人のコンプレックスを何度も抉っては反応を楽しむリアムは安定のドSである。
というか、陰湿さもさる事ながら偽の婚約者同士としての付き合いが長い所為なのか徐々に遠慮がなくなってる気がする。
そしてポンポンする手の動作…決して少女マンガに出てくるような甘い胸キュンソフトタッチではない。
手つきとリズムが手毬のそれだ。
♪まるたけえびすにおしおいけ〜♪
と、人の頭でドリブルを続けるリアムの後方から懐かしい声が響いた。
「入学早々何をやってるんだリアム…」
「イーサン」
「!! サン様っ!」
「わぁ! サン様お久しぶりです!!」
「久しぶりだなドナ、フィン!」
「うふふっ♪ いつも仲良しですわね」
「ステラだ〜〜!! 久しぶり〜!!!」
冬季休暇以来のイーサンとステラの登場にフィンレーとエキドナがそれぞれに抱き付いて喜びハシャギ始める。
年上組の二人はエキドナ達より一足先に学園に入学していたので一つ上の新二年生である。
「イーサン、こんな所で油を売ってていいの?」
「まぁそうなんだが。さっきそこで『迷子』を見つけたからな」
「『迷子』? …何やってんのさニール、ティア」
リアムの言葉にイーサンが答えフィンレーが呆れる。
フィンレーの視線の先…イーサンの後ろに立つのは友人のニールとセレスティアだ。
「いやはや、二人して寝坊してしまいお恥ずかしいでござる」
「ティアをおぶって学園まで走って来たぜッ!!」
「遅いなとは思ってたけど…って家から学園までだいぶ距離あるよねっ!!?」
三人の賑やかなやり取りを他所にイーサンがじっ…とエキドナを何か言いたげに見つめる。
「? どうかされましたか、サン様」
「!! えっと、その……大丈夫だぞドナ。背が低い女の子は…あの……か、可愛くて、良いと思う」
先程のエキドナとリアムのやり取りを聞いていたのだろう。
照れながらもフォローするイーサンは相変わらず優しい人である。
加えて異母弟のリアムより高い身長や父親である国王譲りの端正な目鼻立ちと王妃譲りの紺色の髪と目から、前よりもぐっとクールでカッコいい感じになっている。
そしてゲームの『イーサン王子』はダメンズキラーに大人気な『ヘタレ構ってちゃんキャラ』だったそうだがその面影も見当たらない。
…いやちょっと優柔不断でヘタレっぽいとこはあるけどそれは優しいからであって…!
あとアレだ。リアムやフィンレー達のストッパーやってたから構ってちゃんになる余裕なかったんじゃないかなぁ…。
子育て忙しくて自分の身の回りに余裕がなくなるお母さんか。
「そうですわドナ、小さくて可愛いです♡」
「サン様、ステラ…ありがとうございます」
そしてステラも平均より背は高めだけど、昔と変わらない水色っぽい銀色の髪と目、お団子のツーサイドアップが特徴の美少女である。目が幸せです好き。
「時にドナ太くん。さっきまたリアム王子に虐められてましたかな?」
「そうなんだよティアえも〜ん! またリアム王子に虐められたよ〜」
セレスティアの振りにエキドナもすかさずノリノリで駆け寄る。
ちなみにセレスティアの身長は平均くらいだ。
「相変わらずですなドナ太くん。ですが無問題! …こういう時はぁ〜☆『リー×サン…
バシッ シュッ…ボッ
「ノ"オ"オ"オ"ォォォッッ!!!!」
ム○クの叫びポーズでセレスティアが悲鳴をあげた。
セレスティアがBL本(注:『サファイア王子のラピスラズリ』シリーズ)を取り出した瞬間…リアムが奪い、どこからか取り出したマッチで火を付け燃やしたのだ。
「……いい加減にしてくれませんかリベラ嬢。何故性懲りもなく僕とイーサンをネタにした本なんかを書き続けるのですか」
リアムが引きつった笑みで問い掛ける。
無慈悲な対応をされたためか、セレスティアは顔を両手で覆い俯きながら釈明し始めるのだった。
「うっ ヒック…ですからキャラの名前は『ザッカリー』と『ネイサン』で全然違うでありますぅ…ウグゥ… "たまたま" 王族異母兄弟モノで愛称が被っただけではありませぬかぁ〜…あぁぁ折角の新刊が…我が子がぁ〜」
「……その "たまたま" 被っている所為で僕がイーサンと一緒に居るだけで複数の令嬢達から遠巻きに見られたり悲鳴を上げられたりするのですよ。あと嘘泣きをしても無駄ですから」
「ちぇっバレておりましたか。…お言葉ですが、普通にロイヤルファミリーなイケメン王子ブラザーズが並べば淑女が注目し悲鳴を上げても別におかしな事ではないでござりまする」
「では令嬢達が口々にする『リー×サン』とは一体何の事でしょうか? それから貴女の指す『淑女』というのはリベラ嬢に加担する者達の事でしょうか? 」
「ハテハテ貴方様から離れた場所に居た令嬢方は確かに『リー×サン』と申したでありますか? 状況証拠だけならなんとも」
「…本当に、随分と口だけはよく回るようで」
バチバチバチ…
静かだが激しい電流がリアムとセレスティアの間に走り舌戦に熱が入る。
こうして数年前から、BL作家のセレスティアとモデル(にされた)リアムによる肖像権を巡った不毛な争いが勃発しているのだった。
ちなみに今のところ確実な証拠を手に入れられず、更にセレスティアによるギリギリの言い逃げでリアムの訴えはうやむやにされているのだが。
「まぁまぁリー様」
「……ドナ」
「ドナ氏ぃ〜」
宥めるような声でエキドナがリアムの肩に手を置く。
そして、
「『ザッカリー』と『ネイサン』じゃ決定打に欠けると思うな!!」
ガッツポーズで力強く宣言するのだった。
「っ…。前から思っていたけど、何故ドナはこの件だけはリベラ嬢の肩を持つのかな? 貴女にそういう趣味はないはずだよね?」
「確かにそういう趣味はないけど、唯一リー様の嫌がらせ案件になれるのがこれしかなかったからねっ!」
「……そう」
諦め気味にリアムが遠い目をして肩を落とす。
現在のところドS王子リアムが唯一弱る(?)のがこのBL案件のみなので普通にセレスティアの肩を持つエキドナであった。
結局「もうすぐ入学式が始まるぞ、こっちだ急ごう!」というイーサンの声掛けでリアムとセレスティアは一旦休戦し、エキドナ達は大急ぎで入学式の会場へ向かうのだった。