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あれから…


________***


あれから七年…(注:某おつかい番組風)


大きく、歴史ある立派な正門をくぐる。

桜並木の元で賑やかに談笑する者、声を掛ける者、掛けられる者、一人黙々と歩く者……。

様々な人達が居るが、みな新入生として新生活に期待で胸を弾ませ輝いている。



そんな中、明るい周囲の空気に似合わず死んだ目でお葬式状態の令嬢がただ一人。



「女学院希望してたのにぃぃ……ッ!!!」



くぅっ と悔し涙が出そうになり、右腕で目元を覆い下を向いた。


彼女の名はエキドナ・オルティス。

我が国ウェルストル王国の名家の一つ、オルティス侯爵家の令嬢であり、この国の王子…厳密には未来の国王の婚約者でもある。

そして…………男嫌いだ。



________***


八歳の時に前世の記憶を思い出し、あれから七年の月日が経過した。


血の滲むような(?)『リハビリ』でフィンレーとリアムと…辛うじてイーサン、ニールは平気なのだが、やはり男嫌いのエキドナにとって一番苦手な "若い男" …男子生徒が多数居る…否、むしろ男女比なら男子の割合が多いここ聖サーアリット学園は軽く処刑場である。

周りを見たら男、男、男…。

ストレスで心が擦り減るそして死ぬ。


(……だから両親にも周囲の友人達にも…『女学院行きたいです!!』って散々アピールして来たのに…!)


ついでに破滅フラグも回避出来るし(←オマケ感覚)


「仕方がないんじゃないかな? ドナは王子(ぼく)の婚約者だから別々という訳にも行かないよ」


未だお葬式なエキドナの肩に手を置き、とてもキラキラしたいい笑顔で声を掛けるのは婚約者でこの国の王子であるリアム・イグレシアスだ。

太陽色のふわふわした髪、サファイアの目に笑顔と典型的王子様なヴィジュアルは健在だが背も伸び声変わりもしてすっかり男性らしくなった。

わかってはいたが女性陣に大モテである。

見た目 "は" 良いから。


「いやリー様が徹底的に根回しして私を学園送りにしたからじゃないっ…この悪魔!! 鬼畜(オニ)!!」


「ふふっ 『悪魔』はキラキラネームの "エキドナ" の事じゃないか。それに何より…………貴女のその嫌がる顔が見たくて頑張ったんだから」ニヤァ…


「やっぱり悪魔じゃんかこの性悪ドSッ!!!」


「照れるな」


「褒めてないッ!!」


リアムはとても楽しげにニヤァ…と黒い笑みを向けている。

エキドナは怒りに任せてリアムの肩を掴んで揺らすが、体格差で思ったより揺れていないから余計に怒りが増すだけだった。


「…にしても、入学確定を教えた時の貴女の顔と言ったら…ふふっ」


「ちょっ! 思い出し笑いはやめてよ恥ずかしいッ!」



そう。

『女学院バンザイ!! 女学院へレッツゴーッ!!!』と意気揚々と計画を立てていたのだが、話を聞いていたリアムが私へのちょっかい? …いいやもはやマジな嫌がらせで、知らないうちに上手く両親達を説き伏せて学園への手続きまで全て済ませてしまったのだ。


言い訳させてくれ。


行く気ゼロだった聖サーアリット学園の入学手続きが……まさか、三年も前から予約可能だったなんて知らなかったのだ。しかも保護者や婚約者が本人の代理で手続き出来る事も。


今から三年前。

気付いた時にはオルティス侯爵邸にリアムがやって来て『エキドナ・オルティス 聖サーアリット学園入学手続き完了』と書かれた用紙をヒラヒラ見せながら、


『これからもよろしくね、ドナ』


と笑顔で言われた。



この瞬間ッ!

エキドナはショックで固まり悟った!!



王族のリアムが代理で手続きを行なっているので権力的に簡単には取り消せない。両親とも既に話はついたらしいし、私の立場では…せいぜい婚約破棄したら取り消しが出来るかどうかのレベルだ。

かといって今リアムと婚約破棄すると、まだ結婚適齢期で婚姻に十分間に合ってしまう年齢なので別の男を充てがわれかねない。というか、地位や財産目当ての男が侯爵令嬢の私と接触するための口実を与えてしまう。

しかしだからといって今の段階で家を出て独立するのはリスクが高過ぎる。まだ自立して生きるための準備が十分に出来ていない。

例え上辺だけでも学歴があった方が後々有利だろうし、何より世間的に独身で生活するには年齢と性別がまだ足枷になる。



つまり…

今の私は女学院ではなく共学の聖サーアリット学園に入学するしかないのだ。



この(かん)、僅か二秒!!

一気に自身の状況を本能で悟り理解したエキドナであったッ!!


そして、


『リアムこの野郎ぉぉぉッ!!!』


あまりにも耐えがたい絶望と怒りで、エキドナはリアムを投げ飛ばしたのであった。

(注:なお友人間ではこの事件を "リアムの暗躍・エキドナの逆襲事件" と呼んでいるそうな)



普段なら筋肉量的に自身より身体が大きいリアムを投げ飛ばすなんて不可能だけど、怒りによるパワーってすごいな。

完全に "火事場の馬鹿力" だったわ。その後腕が痺れて丸一日動かなかったもん。←

そして相手は一国の王子だが私に一切の後悔はない。

……まぁ、ヤツは普通に受け身を取ってけろっとしてたんだけどさぁ…!!

いかんまた殺意湧いて来た。

…いっけな〜い☆ 殺意殺意(包丁×3)


「大丈夫だよ姉さま!! 僕がず〜っと一緒に居てあげるから!!」


そう言いながら、(エキドナ)の背をとうに超えたフィンレーが笑顔で横からぎゅうっ! とエキドナに抱き着く。

一つ年下の弟(注:訳あって実は養子だが)のフィンレー・オルティスは早生まれなので学年が繰り上がり今ではエキドナとリアムの同級生になった。

唯一エキドナとお揃いであるプラチナブロンドの髪は今では肩に当たりそうなくらいに伸び、しかし顔は相変わらず中性的な美少年顔のまま。

男子の中では背が低い方らしく、今でもたまにだが女の子に間違えられる時がある。

というか、多分私よりもドレスが似合いそうな可愛い顔をした男の子だ。

…流石に声変わりしたので、声自体はがっつり中性イケメン風の男の声に変わっているのだが。


弟に抱き付かれながらもエキドナは少し呆れつつ冷静に嗜める。


「…フィン〜。気持ちは有り難いけど、(わたし)の事は気にせず学園生活を楽しむんだよ?」


「もちろんわかってるよ」


「あ、フィンレー君おはよう! 相変わらず姉君と仲が良いね〜」


「あっ テオ君! それにオーガストも久しぶり〜! 後でまた話そうね〜!」


「うん話そ〜!」


「おー」


たまたますぐ横を通ったらしいフィンレーのお友達が声を掛けフィンレーも笑顔で手を振り答える。姉に抱き付いた体勢のままで。


「…ね! 友達も出来てるし大丈夫でしょ?」


「うん。そうだね…」


生き生きとした笑顔で言ってのけるフィンレーに対してエキドナは顔を若干引くつかせ諦め気味に答える。

このように、弟のフィンレーは大きくなっても相変わらず天使のままだ。加えて先程の『テオ君』や『オーガスト』君のようなリアム達以外の同性の友人も複数人出来ており姉としては色々ホッとした。

もちろん女の子にもかなりモテモテなので、勝手に鼻高々になっている。

だがしかし、ちょっと(?)(わたし)にベッタリなのが目下の悩みどころ。

その所為なのか未だに婚約者もガールフレンドも居ない状況である。そこに関しては心配だ…。


(兄弟の子守り失敗するのこれで二回目なんだけど…。え? 私子育ての才能ないのかなぁ?)


ごめん可愛い弟よほんとごめん。

守りたかったこの癒し。

でも大丈夫、貴方が真っ当に生きられるようお姉ちゃん出来るだけ貴方に関わらないようにするから…


「…さま、姉さま〜?」


コツン


額に何か当たる感触があるので見上げると、


「? ……わっちょっと! 近い!!」


フィンレーが自身の額に額をくっつけて覗き込んでいたのだ。

ラベンダーの瞳と天使のように可愛い顔が目の前にあって大慌てで彼の胸を両手で押すが、体格差でエキドナがフィンレーから後ろに下がる形になった。近過ぎてドギマギするし顔が少し熱い。


「ふふっ 照れてる姉さまも可愛いー♡」


「!! ……あぁっもうっ。姉さまをからかわないの!!」


羞恥と気不味さを誤魔化すためぺちんッ と両手でフィンレーの頬を押さえる。

それでも弟は変らずに『にこ〜♡』とエキドナを見ながら笑っている。

そんな表情にエキドナも軽く睨み返しつつ、ぐぬぬ…と悔しそうなテンパった顔をするのであった。



(くっ… かわいいなコンチクショウッ!!)

注:結局ただのブラコン



「はいそこまでー。ドナを返して貰うよ」


冷めた声でリアムがエキドナの腕を軽く掴んでフィンレーから離した。


「リー様」


「相変わらずフィンレーには甘いよねドナも。僕が婚約者だって事忘れないでよ?」


「うん、もちろん」


リアムの言葉にエキドナもにこっと微笑むのだった。


(『偽の』…って意味でね!)


婚約締結からはや十年、そして偽の婚約関係にリスタートしてからはや七年。

リアムとはすっかり相棒やパートナーのような関係になった。友達的な意味で。


「…でも、この構図のせいですっかり『王子と弟を独り占めする嫌な女』みたいな噂が一部の女子生徒間で出ているよね」


「あぁ知ってたの? たま〜に悪口とか脅迫チックな手紙来てるけど見てみる?」


「それは面白そうだけど…気にしてないの?」

「全然?」シラっ


「即答」


「好きに言わせておけば良いよ。交流ない人が言う事なんだし」


「こういう所は妙に逞しいよね…」


「……あとアレだわ。むしろ的を得ているというか言い返せない内容が多くて…。一周回って申し訳なくなってきた感じ。わざわざ手紙を用意して届けてる労力も含めて」


ははは、とつい複雑そうに乾いた笑いをする。


「ふっ…相変わらず変なところズレてるよね貴方は。逆にどんな内容か気になってきたな」


「……元はと言えばフィンが婚約者作らないで人前で(わたし)にべったりなのが、いや、リー様でも悪口言われまくってるか…。ところでさ、リー様もそろそろ本腰入れたら?」


コソッ と周囲に聞かれないよう注意しながらリアムに近付き囁いた。リアムはキョトン不思議そうな顔をしている。


「何が?」


「本命のお妃候補! 誰か気になる子は居ないの? …まぁ無理にとは、言わないけど……」


話を振ってはなんだが、将来お気楽な独身貴族予定のエキドナとは違いリアムは一国の王になる。それは実質確定事項だ。

だから彼のそんな未来に対する重圧や複雑な心境を改めて気にして、徐々に歯切れが悪く声が小さくなってしまったのである。


「……」


エキドナの言葉にリアムは俯き少し考える仕草をする。そして顔を上げて微笑んだ。


「…今はまだこのままでいいかなって思ってるよ。時が来れば僕も覚悟しなければいけないからね。ただ…」


その笑顔は寂しげで、


「ただ?」


話を振ったのはエキドナだが心配そうに見守る。


「今はまだ間近で貴女達 姉弟(きょうだい)の観察をするのがおもしろ、いや笑える…………一緒に居たいからね!!」


イケメェェェェン!! なキラキラオーラを放ちながら爽やかで甘い笑みを浮かべるのだった。

いやさっきの寂しそうな笑顔どこ行った。


「心の声ダダ漏れじゃないの…。ここまで来るといっそ清々しいわ」


呆れるエキドナを他所に遠巻きで見ていた令嬢達がリアムの笑顔に『ほぅ…』と頬を染め見惚れてしまっている。

中身はただの腹黒ドSなのに騙されちゃって、お気の毒に…。


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