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閑話〜エキドナに嫌われた その1〜


________***


ある日の離宮の定期お茶会にて…。

そこにはリアム、イーサン、フィンレー、ステラ、ニールが集まっていた。

エキドナとセレスティアは『二人で語り合う』と言って不在である。


まぁそんなものは建前だろうが。


「フィンレー。あれからドナは…」


「えぇ! 『リー様きらい』って言ってました! ザマーミロです!!」


「……」


『我が春が来た』と言わんばかりにキラキラ生き生きしているフィンレーと対照的にリアムは珍しく沈んでいた。

まぁ無理もないだろう。



婚約者に、よりによってエキドナに『大嫌い』と言われてしまったのだから。



以前悪意ゼロのニールに便乗してカミキリムシ片手に追いかけ回す『鬼畜(オニ)ごっこ』を行い、エキドナの父アーノルドからマジな雷を落とされてからというものの流石に同じ(てつ)は踏まないリアムではあるが、



『肩に虫が…』


『え! やだ嘘!?』


『嘘だよ』



或いは、



『ドナっ 足元に虫が』


『ひっ…!』


『すぐ騙されるねドナ』



このように地味で陰湿な嫌がらせにシフトチェンジし、ひたすら楽しそうに繰り返したのである。


そもそもリアムは以前からフィンレーとエキドナのオルティス姉弟を対象(ターゲット)にちょっかいという名の嫌がらせを行なっていた。

理由は『反応が正直で珍しくて面白いから』…。

しかしながら、それでも今迄なら割合的にエキドナよりフィンレーの方が多かったのだ。


だからイーサンは、


『あぁ、女の子でしかも婚約者だし手加減してるんだな』


と思っていた。

…そう思いたかった。


しかし蓋を開けてみると実はエキドナをいじる "ネタ" …つまりからかった場合に良い反応が返ってくるネタがなかったから、今の今迄回数が少なかっただけらしい。

それが前回の鬼畜(オニ)ごっこでエキドナが極度の虫嫌いである事が露見して、味を占めたリアムのドSスイッチが完全に入ってしまったのだ。




最近ではあまりにしつこ過ぎるのでその手の絡みになるとエキドナに塩対応をされていた。

しかしとうとう…あの温和なエキドナが切れたのである。

きっかけは……そう、


『ゔっ…』


たまたまエキドナが木の根元で這っているイモムシを見つけてしまい固まっていた。(←虫を見つけるのが異様に上手い虫嫌い)

それをそばで見ていたリアムは、あろう事かエキドナ側にイモムシを軽く蹴り飛ばしたのだ。

そんなリアムの行動が……とうとうエキドナの逆鱗(げきりん)に触れた。

悲鳴を上げ数メートル先まで逃げた後…リアムをキッと睨んで、



『もうっ! なんでそんな嫌がらせをするの!! リー様なんて嫌い! 嫌い! 大っ嫌い!!!』



他の人間からの言葉ならいざ知らず、真っ直ぐな性格たるエキドナの言葉だ。

気を引くための作戦とか言葉のあやとかではなく、本当に文字通り『嫌い』と思ったから『嫌い』と言ったのだ。


まさかそこまでの怒りを買っていたと思っていなかったであろうリアムも、エキドナからの予想外の『嫌い』発言でぴしっと石化してしばらく固まっていた。

そして以後エキドナはリアムを…口も聞かなければ目も合わせず、むしろ一緒の空間に居ようともしなくなった。完全に避けられてしまっているのだ。

この状態がかれこれ二日経過していた。


「『もう知らないあの人きらい』って言ってましたよ!!」


前からリアムの事を『きらい』と公言していたフィンレーはかなり嬉しそうである。

情け容赦なく追い討ちをかける。


「へー! リアムお前ドナに嫌われたのかーッ!」


「っ…!!」グサァ!!


無邪気なニールの言葉が再びリアムを襲う__!



「あらあら…」


「……」


だがしかし、イーサンとステラはそんなリアム達のやり取りを遠目から見守るしか出来ないのであった。

何故ならリアムの自業自得過ぎてフォロー出来ないから。

普段弟想いで優しいイーサンでさえ、以前から忠告していた事もあって流石にちょっと呆れている。


「そんな事よりリアム様、いつもの勝負です! 問題です。『りゅうさん』は何でできているでしょうか!?」


嬉々とした表情でフィンレーがいつもの知識対決をリアムにふっかける。


「そんな事、か…。『硫酸』は二酸化硫黄を酸化し水と反応させる事で製造が可能。酸化の方法としては鉛室法(えんしつほう)と硝酸法があって(以下省略)」


伊達に『天才』と評されるだけはある。

僅かに凹みながらもスラスラ淀みなく回答するリアムであった。


「何で知ってるんですか〜! こっちは家の本からさがしまくって見つけたのに!!」


「こんなの初歩の初歩だよ」


ムキーッ! とした顔でリアムを見るフィンレーは本気で悔しそうだ。


(いや待て硫酸の製造なんて俺は知らないし初歩でも何でもないからな? というか、フィンは硫酸の製造方法なんて知って何をする気なんだ…!!)


ツッコみで忙しいイーサンであった。


「……」


「…リアム様? 僕への問題は?」


「! あぁ、そうだったね」


とはいえすぐ正解を答えられてもやはりリアムは本調子ではないらしい。

いつもならすぐフィンレーを追撃するのに反応がやや鈍い気がする。上の空だ。



「リアム様。ドナもきっとリアム様と仲直りしたいはずですわ」


「…ステラ嬢」


遠慮気味にステラがリアムに声を掛ける。


そう。

リアムとエキドナは甘い雰囲気こそあったりなかったりなかったりなかったりだが、少なくともお互い憎からず思う仲ではあるはずなのだ。


「私も一時期サン様とちょっと喧嘩しましたけど、今では仲良しですもの」


「二人が喧嘩をするイメージがないのですが」


意外な話にリアムも目を瞬く。

ステラもイーサンも争いを好まない人柄だ。

むしろ今迄喧嘩一つせず仲良く過ごしていそうなイメージさえある。


(つまり喧嘩に発展するほどの "何か" が起こったという事なのか)


そう考えながら二人を見る。

するとステラがにっこり微笑み、


「サン様が(わたくし)に相談一つもしないまま急に私と遊ばなくなって、隠れてリアム様やドナと仲良しになっていたから喧嘩しましたわ♡」


邪気のないとてもいい笑顔で言い切ったのだった。


「……」


まさか自身も関係していた案件だったとは思わず、当事者過ぎてリアムは返す言葉も出なかった。


「あの時は寂しかったですわ…」


「ごっ ごめんステラ! でもあの時はリアムと関わる事ばかりに頭がいっぱいになっていてだな…!」


くすんと泣く素ぶりを見せるステラにイーサンが慌てて駆け寄り謝る。

『それくらいで騙されるな』とリアムは内心呆れるが、同時に疑問も抱いた。


「どうやって仲直りしたのですか?」


リアムの言葉にステラが嬉しそうににこにこ顔を上げる。

やはり嘘泣きだったらしい。


「サン様から仲直りのプレゼントを頂きましたわ! こちらのネックレスですの♡」


シャラ…と音を立てながらステラが手に取り見せるのは、身に付けている星型のシンプルながら質の良い首飾りだ。


「私のお気に入りですわ♪」


「うん、気に入ってくれたのなら幸いだ。ステラはやっぱり星のイメージだし似合うな」


「まぁそんな、ありがとうございますサン様」


(プレゼントか…)


イーサンとステラの仲睦まじいやり取りを見ながらリアムも考える。


(思い返せば、今迄形式的な贈り物しかしていなかったな)


以前までのリアムとエキドナはあくまで親同士が決めた政略的な婚約者同士であり、更に内気で人見知りが激しかったエキドナ、他者への関心が薄かったリアム…とお互い打ち解けにくい距離感があった。

だから贈り物も必要最低の、形式ばったものだけ。

しかもほぼ人任せの人づてだ。

そういう意味では個人的な贈り物をした事がないかもしれない。


(後で何か妥当な物を探すか)


リアムなりに結論を出し、現状打開の道が見えて来たと同時ふと気付いた。


「話は変わりますが、ドナは僕達とステラ嬢との態度に随分差がありますよね」


「あら、そうでしょうか?」


「大アリだと思うぞステラ。本人は悪気があってやってる訳じゃないみたいだけどな…」


リアムの指摘にステラは可愛く小首を傾げ、イーサンは苦笑しながらも賛同した。


別段リアム達男子への対応自体キツかったり怖かったりするものではない。

ただ『男嫌い』とはっきり言うだけあってか、エキドナとステラが初対面した頃と同様にエキドナの女子と男子との各々の対応…否、リアクションが全然違うのだ。


女性や子どもの前では、あの無表情も心なしか柔らかい気がするし笑顔を見せる頻度も増える。さらに声もワントーンくらいは高い。

…なんだか全体的にキラキラしてるのだ。


対して男子相手だと無表情か…ちょっと口元が微笑んでいるくらいで素の笑顔なんてたまにしか見せない。

加えて、もともと彼女の地声自体は高い方なのだが女子相手に話している時よりは…いや声だけでなく男子相手だと全体的にテンションが低い。

あれはあれで素の対応に見えるしなんだかんだで穏やかで優しい面は変わらないけれど、ステラなど女子相手へのリアクションとの差を見てはイーサン達男子は何とも言えない複雑な気持ちになったりもするのだ。


「リアム、お前今迄ドナから満面の笑みを向けられた事はあるか?」


「……ない」


イーサンの質問に、リアムはやや複雑そうな表情で答える。


「ドナはちょっぴり恥ずかしがり屋さんのようですからね。殿方の前では緊張してしまうのかしら? うふふっ♪」


「姉さまの笑顔はレアなんです!!」ドヤァ


「やっぱり女の子かフィンみたいな家族相手にしか見せないようだな〜」


そう。

イーサンの推測通り、基本エキドナの屈託ない素の笑顔を見られるのは女子及び……男性ならアーノルドやフィンレーのような肉親のみである。



「なーなー!! そんな難しい話はいーから誰か相手してくれよーッ!!!」


「ハッ しまった静かだと思っていたらあんな所に…!!」


「ちょっ ニール、おりておいでー!! お城の木に登ったらダメだよー!! あっ ダメだよ危ないよー!!!」


リアム達四人で会話が盛り上がっている間、暇を持て余したニールはそばの木に登ってぶらぶら枝にぶら下がっていたのだ。

そんなニールをイーサンとフィンレーが真っ先に発見し、慌てて回収しようとする。




なお、肉親男性以外だと…………実はニールだけがちゃっかりエキドナの素の笑顔を剣の勝負を通じて間近で何度も見ていたりする。

しかしそんな事実をリアム達が知るはずもないのであった。


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