閑話〜オルティス家の遊び(フィンレー視点)〜
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ある日のオルティス家にて、
「エキドナ、じゃあいくわよ〜」
「はーいお母様」
お母さまのかけ声に、姉さまも遠くから答える。
それを合図に僕はリア…妹のアンジェリアの方を見る。
僕と同じ色の目を持つ妹も、僕のし線に答えてうなずいた。
僕とリアは同時にひょこっとソファーの背もたれから顔を出す。
「どっちがアンジェでしょ〜か?」
お母さまの問いかけに姉さまが考えこむしぐさをして、
「うーん…あっちの方が顔小さいから右で!」
と答えるのだった。
上手くいった事に思わず笑ってしまう。
「出てきていいわよ〜」
「「じゃーん!!」」
「ああぁぁ遠近法…ッ!」
ソファーから出てきた僕とリアの姿を見て、姉さまは『ガクゥッ!!』といきおいよくその場でくずれ落ちる。
そんな姉さまの姿を、お母さまとリアの三人で見つめて笑うのだった。
「やったねおにいさま!」
「作戦勝ちだねリア!」
リアとハイタッチをして喜びを分かち合う。
僕が小さな妹より数歩後ろに下がって顔を出す事で姉さまの目をあざむいたのだ。
げんざい、僕は母・姉・妹の四人でゲームをしている。
僕とリアは……本当は兄妹じゃなくていとこなんだけど…オルティス家特有の見た目を受けついだらしくて、お母さまと同じ白っぽい金色のかみやうす紫色の目、そして顔がよく似ている。
だから遠くから見えるか見えないかギリギリの距りまではなれて、どちらが僕かリアかを当てるゲームがわが家のいっぱいある遊びの一つなのだ。
「今度はフィンが当てる番ね」
「がんばります!」
お母さまの声に答えながら姉さまと場所を交代する。
「では……どっちが姉さまでしょ〜かっ?」
ばーーん
僕達、三姉弟でゆい一お父さまに似て僕やアンジェリアとは顔がちがう姉さまは、リボンみたいにむすんだかみの毛をほどいた頭の後ろの部分……僕達とおそろいの金色のかみで勝負に出る。
もちろん頭の後ろの方が顔よりもずっとむずかしい。
それから当たり前だけど、僕とアンジェリアの後ろ姿で当てるゲームもある。
ちなみにこの間お父さまが僕達を遠くからさびしそうに見ていたので、お父さまが参加する場合は目元以外を全てかくして姉さまと金眼だけ見せてどちらか当てて遊ぶゲームを作ったんだ。
「うーーん…左です!」
「ピンポーン」
僕は目が良いみたいでけっこう当てられる。
特に姉さまなら何回でも当てられるんだ!!
…この後もお母さまはわが家のおじいちゃんしつじのカルロスに呼ばれるまで、四人でおにごっこをしたりおままごとをしたりして遊んだ。
今は姉さまとリアの三人で絵をかいて遊んでいる。リアが姉さまに「絵をかきたい」とおねだりしたのだ。
エミリーに用意してもらった大きな紙を三人で寝転んでかき始めた。
「おねえさまっ わんちゃんとねこちゃんかいて〜!」
「いいよ〜。…じゃあこれはオマケね」
「おはなだ〜!」
すらすらと流れるように姉さまが犬やねこ、そしてまわりにいろんな色のお花をかく。
「アンジェ、おねえさまのかくえだいすきー! すっっごくじょうずだもん。ガラスみたい!」
「ガラス?」
「ガラスみたいにきれーだからすき!!」
リアの言葉に僕もうなずく。
姉さまは昔から絵が本当に上手い。
今かいてるカンタンな絵も上手だけど、前に姉さまのスケッチブックを見せてもらった絵なんて…リアの言う通り "ガラス" みたいだった。
お花や空、猫……絵かき屋さんになれるんじゃないかなって思うくらい上手だった。
使っているのは色鉛筆だけなのに、すき通っててて細かくて、すごくきれい。そしてどこかあったかくて…優しい。
そういえば最近はティアさん(←セレスティア様からそうよんでいいと言われた)の本の…『さし絵』…だったっけ? も少し手つだう事になったらしい。
『人を描くのは苦手だから景色とかお花の部分だけ』と言ってるけど十分すごいと思う。
「…ふふっ そんな嬉しい事を言ってくれるアンジェがお姉様も大好き〜♡」
「きゃー♡」
姉さまが笑顔でリアに軽くのしかかってリアが笑っている。
すると、
「フハハハハ…二度と出られまい…ッ!!」
「きゃは〜〜ッ!!」
姉さまが悪者っぽいしゃべり方と表情でぎゅうっとだきしめ、リアはゲラゲラわらって手足をバタバタした。すごく楽しそうだ。
(お父さまにぶんぶん回してもらう遊びもすきだもんな。…僕もすきだけど)
「ねーおねえさま〜♡」
こつん
「ん〜?」
ひとしきり遊んだ後、姉さまの下からぬけ出したリアが姉さまのおでこと自分のおでこをくっつけて姉さまの首にだき着いている。
(いいなぁ…)
リアは末っ子だからかなり甘え上手だ。
姉さまになついていて今みたいにすぐ甘える。僕の事も兄として、したってくれてるみたいだけど…姉さまほどではないと思う。
『おにいさまアレとってー!』
とか
『みえないよ〜だっこー!』
とか
『あまったクッキーはアンジェがたべる!』
とか。
……たまになめられてる気さえする。
まぁそんなリア相手におかしをゆずってあげたりケンカしたりしてるんだけど。
だってそんなリアでも、僕にとってはナマイキな…でもかわいい妹だから。
僕が部屋にとじこもっていた時だって、使用人を通して絵とかお花とかをくれるやさしい子だから。
後から知ったけど、あの時のリアは僕がびょうきになってねこんでると思っていたらしい。
「おねえさまだっこして〜♡」
「もちろんいいよ〜♡」
あと姉さまはリアにすっごく甘い。
というか、僕が弟だからちがうだけで女の子にはみんな甘い。
ほら、さっそくリアとお話ししながら姉さまデレデレしてとけてるし。
「……」
ついぶすーっとした顔で見ていたから姉さまも気付いたみたい。
リアをだっこしたまま…少しこまった顔で笑いながら手まねきをした。
「どうしたのフィン。そんなにムクれちゃって」
「……」
姉さまの元まで近付いた僕に、言いながら頭をやさしくなでてくれる。
……いつもまわりの人をよく見てるな、よく気付くなって思う。
(姉さまは大人だなぁ…)
「…僕もおでこくっつけてほしい」
思いながら正直にお願いしてみた。
「…こう?」
そしたら、姉さまはリアを一旦おろして…そのままおでこを僕のおでこにこつんとくっつけたのだ。
おどろきもせずまよいもしない姉さまの行動に、思わず固まって顔が少しだけあつくなる。
(ちっ近い…!)
「ふふっ」
姉さまがびっくりする僕を見てくすくす笑いはじめた。
「……」
僕はだまったまま姉さまを見つめる。
…この、やさしい笑顔が好きだ。
やさしい目が大好きだ。
でも最近は、リアム様やサン様、ステラ様、ニール、ティアさん…たくさんの人達と関わるようになってから、僕と姉さまだけでいっしょにいる時間が、少しずつ、少しずつへっている。
『エキドナと一緒に居たいと思う人が、それだけ増えてるって事でしょ』
前にリアム様がそう言ってた。
…あの人、すぐ僕と姉さま、それにサン様にもいじわるするからきらいだけど…ものすごく頭が良いし、ものすごく大人っぽくてすごいんだ。
剣だって僕の方がセンパイだったのにすぐ強くなったし。
そんなところがすっごくくやしい。
やっぱりリアム様きらい。
前に、『大人になったら家を出て一人で生きる』と言った姉さま。
『女学院に行く』と言った姉さま。
お父さまとお母さまは、姉さまが女学院に行く事をそこまで強く反対していない。
だからこのままだと本当に…将来別々の学校で、はなれて生活するのかもしれない。
本音を言えば…………さみしい。
行ってほしくない。
姉さまとずっといっしょにいたい。
あとリアム様とはわかれてほしい。(注:婚約解消という意味です)
だから、つい、
ぱっと両手で姉さまの顔をつかまえて、ほっぺたにキスをした。
…ほっぺたやわらかいなぁ。
「!!? えっ えっ!!?」
バッ!! と姉さまが僕の肩をつかんではなれる。
今度は姉さまがびっくりする番だった。
えへへっと笑いながら姉さまの方を見る。
「お父さまのマネー♡」
「…! なっ」
「大好きだよ姉さま!!」
「……はぁ、もう。…私も大好きだよ〜!」
(姉さま、ちょっとヤケになってる)
言いながらだきしめてくれる姉さまに僕も笑顔でだきしめ返す。
結局、「いいな〜アンジェも〜!!」ってリアがうらやましがったから、しばらくそのまま三人でくっついて過ごした。
……姉さまとこんな時間を過ごせるのも、もう少しなのかなぁ…。