ガールズトーク
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エキドナはオルティス侯爵邸でフィンレー、リアム、イーサン、セレスティアの五人でのんびりお茶会をして過ごしていた。
「ではもんだいです! えん色反応のうで黄色の火が出る石は何ですかッ?」
「ナトリウム」
「もー! 何で知ってるんですかリアム様!!」
「これぐらい知ってて当然だよ」「当然じゃないよリー様」
さも当たり前のように言ってのけるリアムをエキドナが真顔で突っ込む。
(いやいやあんたまだ八歳だろ。
世の中を天才基準にされたらある意味世界が滅ぶわ)
「…じゃあこっちの番だね。フィンレーはさっき『石』という単語を使ったけど、そもそも炎色反応とは何? 説明してごらん」
「えっ!? えっと…石をもやして…その、火の色が違うから……ええと、とっとにかく! 火の色で何の石か当てるための反のうです!!」
「大きく外れてはいないけど…厳密に説明すると炎色反応はただの石ではなく、アルカリ金属やアルカリ土類金属、あとは銅の金属や塩を炎の中に入れる事で各金属原子特有の色を示す反応を言うんだ」
「?? ゲンシ?」
「さっきフィンレーは『火の色で何の石かを当てるため』と言ったね。確かに金属の定性分析に使われるし、それ以外だと遠い異国で "花火" と呼ばれる火花に色を付ける演出の着色に利用されているそうだよ」
「??? ハナ…? ……ううう、よくわかりませんがまた負けましたぁ〜!! …でもつぎです! つぎのもんだいはもっとむずかしいですから!」
「楽しみだね」
「…サン様わかりました? 私は早過ぎて全然」
「……俺も、よく…」
「イーサン王子はともかく、ドナ氏までとはどうなのでありますか」
「前世学校で習いましたぞ」と耳元でセレスティアがコソッと言うのでエキドナは乾いた笑いで誤魔化す。
(『炎色反応』…懐かしいけどもう覚えてないなー。そもそもいつ習ったっけ。中学? 高校??)
最近知った事なのだがどうやらエキドナが不在でフィンレーがリアムと一緒に居る場合、大体こんな感じで知識による対決(←?)をしているらしい。
以前からフィンレーが自主勉強を始めたのも、そもそもリアムでも解けない問題を出して『参った!』と言わせるのが目的なのだそうだが……結果は見ての通りである。
「…にしても、以前ドナ氏が言ったように確かにフィンレー殿は理系男子のようですなぁ〜。問題がほぼ理科の分野でござる」
「ほんとそれ。弟が賢い子なのは姉として誇らしい反面、この流れだと将来ゲームみたいに…いやむしろナチュラルに毒生成するとこから始めちゃいそうだよねぇ…」
「クワバラ クワバラ」
「ん? どうした何の話だ?」
フィンレーとリアムが知識対決でバトっているのを横目にエキドナとセレスティアでひそひそ話をしていたが、それに気付いたイーサンが会話に加わる。
「いえいえ内輪話でございまする。…時にイーサン王子は気になる(殿)方はいらっしゃいますか?」
「えっ!? ええ!? なっななな何故急にっ『気になる方』の話になるんだ…!!?」
唐突の話題にイーサンは赤面し目を見開く。
言葉も噛み噛みだ。
(この動揺っぷりにピュアっぷり……流石は『影のヒロイン』か…)
エキドナの中で "イーサン=ヒロイン" の方程式が着々と固定しつつあるのだった。
「単なるガールズト…ゲフンゲフン。……単なる世間話でありますよぉ〜。どうです? どのような(殿)方がタイプなのでありますか?」
(ティア氏絶対頭の中ではBLについて考えてるよな…。てかさっき『ガールズトーク』って言いかけてなかった?)
冷静に見守るエキドナを他所にセレスティアはフンスフンスと勢いよくイーサンに詰め寄る。
そんなセレスティアにイーサンも押され気味ながら答えるのだった。
「えっと…その…や、優しい…ひと」
恋バナに慣れていないのだろう。
羞恥からか視線を逸らしカァァと余計に顔を赤らめて腕で顔を隠す。
……もうこの人がゲームのヒロインでいいんじゃないかなぁ(適当)
「ホウホウ! より具体的には!?」
「ぐっ 具体的!!? えーっと…」
興奮気味に身体を前に乗り出すセレスティアに押されながらも、イーサンが戸惑い気味にチラッとエキドナの方を見やる。
視線が重なりエキドナは金の目をパチクリさせた。
(え、私が居ると何か不味いの? …大丈夫だよ〜婚約者にはチクらないから☆)
気持ち微笑んで見守る。
「…え、笑顔が可愛い子が好きだ!!!」
意を決したようにイーサンが叫んだ。
「ゔゔゔ〜何を言ってるんだ俺は…!」
今度は湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にして両手で覆っている。
…………。
もうこの人がヒロインでいいんじゃないかなぁ!!?(確信)
(制作スタッフよ、何故サン様を男にした!! …サン様がヒロインならリー様はシスコンになってフィンともすぐ恋に落ちれたのではなかろうか…ッ!! そして世界が平和に…!!!)
「ど、ドナ…?」
一瞬固まったかと思えば即座にぐぬぬぬぬ…と沈痛な面持ちで俯き頭を抱え始めるエキドナをイーサンが困惑して声を掛ける。
すると、
「…リベラ嬢、イーサンには婚約者がいるので好みの女性を調べても徒労に終わりますよ?」
「おっおいリアム…!」
イーサンの声で知識対決が中断されたのだろう、フィンレーが不思議そうに三人を眺めてリアムはにこやかに…けれど冷ややかな圧を放ちながらセレスティアに声を掛けた。
恐らくイーサンに言い寄ってると思って牽制しているだろう。
……まぁそれこそ『徒労に終わる』のだが。
イーサンも何となくわかっているようだし。
「イエイエご心配なくリアム王子! イーサン王子には婚約者がいらっしゃる事も存じておりまするし、何よりワタクシは将来独身貴族を謳歌する予定でありますから!」
「……そう、ですか」
「大丈夫だよリー様。ティア氏はそういう欲薄いからさ」
怪訝そうな顔をするリアムにエキドナもセレスティアを擁護する。
……厳密には『そういう欲 "は" 薄い』であるが。
「…まぁ、ドナがそこまで言うのなら」
リアムも渋々だが一応納得してくれたらしい。
「ワタクシも誤解を受けるような発言をしてしまいました。申し訳ありませぬ」
リアムの誤解に不快感で怒るどころかむしろそう言って謝罪するセレスティアは、やはり大人の女性だなとエキドナは思った。
「…いえ、僕も誤解したようなので」
そんなセレスティアの対応に僅かに驚きを見せながら冷静に返すリアムも相変わらず大人だ。
「それにしてもリアム王子もイーサン王子もドナ氏と大変仲が宜しいですなぁ! 弟のフィンレー殿はともかくドナ氏は男嫌いなのにすごいであります!!」
「え?」
「「「あ、」」」
イーサンからは疑問の声が、そしてエキドナ、リアム、フィンレーの三人の声が思わず重なる。
「ム? …もしや不味い事を言ってしまいましたかな??」
そんな四人の反応にセレスティアが気不味そうに言うのだった。
「えっと…? ドナ、君は『男嫌い』? なのか??」
イーサンが紺色の目を戸惑いがちにエキドナへ見やる。
しまった。
私が男嫌いである事を彼に話してないのをセレスティアに言い忘れた。