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情報収集 その2


________***


「なんか…濃い。みんなキャラが濃いね」


エキドナが少しやつれ気味に言葉を零す。

サイコパス、ヤンデレ、お馬鹿フラグクラッシャー。

あれ? 乙女ゲームって何だったっけ??(←せん妄)


「いやはや、皆サマぱっと見はまともで魅力的なイケメンキャラなのですが本性が斜め上ですぞ〜。でもそこが良いのでありますっ!」


「いやわからん。……そういえばサン様…『イーサン王子』はどんな感じなの? あと『イーサンルート』の悪役令嬢ってひょっとしてステラ?」


「その通り!! 婚約者の『ステラ・ロバーツ』が悪役令嬢としてヒロインに立ちはだかるのであります!! そしてゲームの『イーサン王子』は…ズバリ、『ヘタレかまってちゃんキャラ』でござる!!」


「あ、生理的に一番無理なタイプだ…」


思わずドン引く。

前世で身近に居たからだ。


「まぁまぁドナ氏ぃ。ですがイーサン王子はプレイヤーからは断トツの人気キャラでありましたぞ!! 主にダメンズ好きに!!」


「納得」


思わず真顔で頷く。

恐らく、需要と供給が一致したのだろう。

…蛇足だが看護師にダメンズ好きが多いのは結構マジ話である。

少なくとも看護女子大及び元職場の友人や先輩・後輩の一部でダメンズに尽くして世話を焼いている人達がいた。

なんでも『つい面倒を見てしまう』『気付いたらアレコレ全部やってしまう』…らしい。

エキドナの前世の友人達だけかもしれないが。


「さらにクールな出来る男風イケメンの見た目に反して中身はヘタレで照れ屋、かつ女子力が高い……これらのギャップ故にファンの間では『影のヒロイン』と呼ばれていたのでござる!またBL界隈では『理想の(うけ)』の名をほしいままにして「その情報は遠慮願いたいかな?」


よく知るイーサンのBL事情とか切実に知りたくない。


(あーでも確かに前からサン様って乙男(オトメン)っぽいよなとは思ってたわ…)


温和で誠実な性格、細やかな気配り、面倒見の良さ、センスある紅茶とお菓子のセレクト、動物に好かれる優しい心…。

自分よりも女子力高そうである。

しかもちゃっかりディ○ニープリンセスの条件をほぼ満たしているのではなかろうか。…………性別以外は。

いや元より本物の王子(プリンス)だけれども。


(だからステラと並ぶとほのぼのおっとりな雰囲気が大変よくお似合いで……もはや女子会に見えたんだ…)


「ちなみに『イーサンルート』に入るとどんな感じなの?」


「それはですな…」


エキドナの素朴な疑問に、セレスティアの眼鏡がキラーンと光を放つ。


「ゲームの『イーサン王子』と『ステラ』は『リアム王子』と『エキドナ』の二人とは違ってそれなりに良好な関係を築いておりますが、何気にお互い依存状態でもあるのであります! ですから『イーサン王子』がヒロインといい雰囲気になったその時っ! 『ステラ』は無自覚にヒロインをお嬢様らしく牽制しまする!! 例えばこのようにッ!!」


〜〜〜〜〜〜


『あらご機嫌よう』


『ステラ様…ッ!』


『この間は(わたくし)の婚約者の相手をして下さってありがとうございました。お陰様で彼も楽しかったと仰っておりましたわ』


『いえ、楽しんで頂けて良かったです』


『そうそう。…実はサン様は甘いものがお好きなんですの。私と二人でお茶する時によく召し上がられてますわ。うふふふっ♪』


〜〜〜〜〜〜


「怖い怖い怖いそしてマウンティングしてるぅぅぅッ!!」


あまりの恐怖に叫ぶエキドナであった。

けれどもセレスティアは構わず説明を続ける。


「もしくはのほほんとした対応でイーサン王子との交流を妨害しますぞ!!」


〜〜〜〜〜〜


タタタッ…

(大変っ 急がなきゃ遅れちゃうわ!)


前方から人影が…


『! ステラ様!!』


『あらあらこんにちは。貴女はいつもお元気そうで何よりですわ』


『ありがとうございます…』


(困ったわ。イーサン様との約束に間に合わなくなっちゃう!)


『そうですわ見て下さいませこのネックレス。子どもの頃にサン様から頂いたものですの♡』


『ッ…! 素敵な、ネックレスですね。あのすみません、あたし今急い『"ステラはやっぱり星のイメージだし似合うな" と仰って下さって。サン様は昔から誰に対しても優しいお方ですわね。貴女もそう思いません事? 』


〜〜〜〜〜〜


「だから怖いってッ!! いるよねそういう女の子!! 何でこの子の手口だけやけに三次元(リアル)なのッ!?」


「…以上のように『イーサンルート』における悪役令嬢『ステラ』は良家のお嬢様らしい陰湿な嫌がらせと言いますか牽制をするのでござる。見事にプレイヤーをイラつかせるタイプの悪役令嬢でありましたなぁ〜」


「でしょうね…」


げっそりした表情でエキドナが答える。


(というか怖い。怖過ぎる。おっとり天然気味なステラにそんな一面があったとは)


むしろステラが自身(エキドナ)と敵対と言うよりは悪役令嬢(みかたサイド)であった事が本当に良かったと思う今日この頃です。日記。


「ちなみ『イーサンルート』のハッピーエンド…すなわち『イーサン王子』がヒロインを選んだ場合は、プロローグでサラッと "その後ステラ・ロバーツは別の貴公子と婚約した" という情報が乗せられておりますゆえ死なないみたいですぞ」


「そっか良かった…………けど、相手乗り換えるの早くね?」


「恐らく悪役令嬢の中では一番強かでありますっ!!」


「うわぁ…強い…」


予想以上にステラはエキドナ達よりも上手な悪役令嬢だったらしい。

いやいやさっきまでのイーサンとの依存状態とやらはどうした。


「…ねぇ、『エキドナ』の方はどんな妨害するの?」


「陰口や集団で詰ったり脅したり、物を隠したり壊したり、目の前で攻略キャラとわざとくっついたり…ひたすらベッタベタな嫌がらせをし続けますぞー!! そして終盤ではそれらを断罪されるであります!!」


「そっか〜…」




一つだけ理解した。

多分このゲーム、(エキドナ)の扱いが特に酷い。




「ちなみにゲームにおける『ニール』と『セレスティア』は従兄妹(いとこ)同士兼幼馴染でありまして『セレスティア』がずっと一途に片想いをしているのでござる。ちなみにワタクシはニールにそんな感情を抱いておりませぬぞ。一応家族愛くらいならありますが」


セレスティアの言葉にエキドナは再び思考を切り替えて頷く。


「うん見てたらわかるよ。私も似たような感じだし」


そう、エキドナもフィンレーとリアムに対して肉親としての愛情ならあるが恋愛対象としての感情は一切ない。

思いながらエキドナがニヤリと笑う。


「むしろアレだね。もしフィンかリー様がヒロインだろうと誰だろうと結ばれた場合…ノリノリで披露宴の余興に参加出来るくらいだよ。歌に演奏、踊り、演劇…ギャグが強ければ何でも来いだね!」


「えぇ〜ワタクシみんなで出るアレ嫌でありますぅ…」


「え? なんか面白くない? 堂々とみんなで馬鹿騒ぎ出来る感じがさ」


「それはドナ氏だけでござる」


「そっかぁ。じゃあティア氏とは将来一緒に余興出来ないんだね…」


「それならニールを巻き込めば無問題(モーマンタイ)!」


「なるほど!」


エキドナはセレスティアとズレた会話を続けながら一旦本題に戻った。


「ちなみに『ニールルート』だとティア氏もヒロインに嫌がらせをするの?」


「嫌がらせらしい嫌がらせは致しませんぬがゲームの『セレスティア』はヒロインがニールといい雰囲気になった際に『お願いっ 彼を取らないで…!』と懇願するタイプの悪役令嬢であります」


「うわーやり辛いヤツだ! しかもめっちゃジワジワ罪悪感湧くヤツじゃん!!」


「それなでござる。しかも『ニール』とヒロインの交流を異様なまでに黙って見つめまする。二人が会話をするシーンでは三秒に一回の割合で『……』と不安そうに見つめるのであります」「いや多くね!?」


「あまりに多過ぎたのでストップウォッチで測っちゃったでござるぅ…。それとゲームでは唯一ヒロインと交流を深めてお友達になれる悪役令嬢でもありまする。だから例え『ニールルート』でニールと結ばれようが結ばれなかろうが、ヒロイン次第で『セレスティア』と友情を築いて親友になれますぞ」


「あ"ぁ〜…相手がニールだもんね…。そーゆー救いでもないとやってらんないでしょ…」


言いながらエキドナは思わず大きく脱力するのだった。


「こんな感じで『ニールルート』は比較的平和(←?)に終わるであります。他の悪役令嬢の中には駄々っ子のようにヒロインに絡むキャラも居りまするし」


「……ねぇ、悪役令嬢って相手にすると疲れる子が多いの気の所為?」


「悪役令嬢とはそういうものでござるよドナ氏ぃ」


「そっか〜…。なんか悪役令嬢の中では『エキドナ』が一番扱いやすい気がしてきた…。わかりやすい嫌がらせをして断罪されるまでの流れがいっそ清々しいわ」


「そうでありますな〜。……なのに攻略キャラが難易度No.2の『リアム王子』とNo.3の『フィンレー』である事が実に詐欺めいているであります!」


「確かに…」


天敵(ライバル)はチョロいのにヒーローが最終関門(ラスボス)とかどんな乙女ゲームだよ。

あれ? 乙ゲーってこんなだったっけ??(←錯乱)


「あとですな、他の攻略キャラ二人は「ちょっと待って」


続けて教えようとしてくれるセレスティアをエキドナは敢えて止めた。


「その前にさ…その二人のルートって死人出るの?」


「ウウム…今のところ出るとしたらやはり『リアムルート』と『フィンレールート』のドナ氏でありましょうな。『リアムルート』では最悪ヒロインも死にまするし」


「結局私に死亡フラグ集中してるのか…。なら残りの二人は学園で会った時でいいや。流石に『エキドナ』は絡まないだろうし…。何より、私の頭がキャパオーバー…」


「オオゥ、ドナ氏ぃグラグラしておりますぞ〜」


前世とか乙女ゲームとか悪役令嬢とか、キャラが濃過ぎる弟達の将来とか。

情報量が多い。

エキドナの頭の中はもうグワングワンだ。

そのままソファーの背もたれにドサッと全身を預けて長く息を吐く。


「ふーー…。とにかく、学園に入学した時はヒロインを守らなきゃって事だねぇ…。あのエセキラキラ王子のリー様にうっかり惚れちゃって死亡フラグとか気の毒過ぎる」


ゲームの設定云々に関しては未だに実感が湧かないが、とにかく相手はあのリアムである。

相変わらずリアムは表面上の付き合いだけの人間に対して、昔と変わらずにこにこ笑顔で人当たり良く対応している。

でもその中身は……なんだろ、サイコパスかと言われると違う気はするけど私にもよくわからなくなってきた。←


あれこれ疲れた頭で考え事をしては迷走するエキドナに、セレスティアが真剣な声で言った。


「……もしかしたら、『隠しキャラルート』も死人が出るかもしれませぬ」


「『隠しキャラルート』?」


思わず反芻しながら身体を起こすエキドナにセレスティアは改めて身体ごとエキドナの方を向いて……流暢に早口で説明し始めるのだった。


「ワタクシとしてはキャラクターは少ない方が良きなのですが少ないものでも五〜六人であります。乙女ゲームは周回プレイ必須なのですが、共通ルートが長いゲームだとどんなにシナリオがよくても三人くらい攻略すると飽きてしまうでござる。スキップ機能があってもそれすら面倒でして。ですから七人もいるこの『乙恋(おとこい)』はフルコンプは中々難しかったのでありまする」


「ごめんちょっと待って早い。早い上に専門用語が多くて付いて行けない。えーーっと…色々よくわかんなかったけど、とりあえず『フルコンプ』って何?」


「『フルコンプリート』の略でござる」


「あ、察し」


結局他の専門用語はよくわからなかったが、要するにセレスティアは『フルコンプ』…ゲームのキャラクター及びルートを全てプレイしていないらしい。

そのためバッドエンド率が高い『リアムルート』と『フィンレールート』におけるエキドナの死亡フラグを回避する方法がわからずまた先程説明しようとしたキャラ二人分の情報は曖昧にしか覚えていない、さらに隠しキャラも誰かわからない状態だそうだ。


「元々BLの新刊制作及びネタ収集目的でありましたから…力になれず申し訳ないであります」


「いやいや全然。ここが乙ゲーの世界で私が死亡フラグ立ってる悪役令嬢なのを知れただけ丸儲けだよ。ありがとね」


「とりあえずヒロインが『イーサンルート』か『ニールルート』を選んで下されば良いのでござるが…」


「……ニールはともかく、何でサン様?」


確かに『イーサンルート』では死人が出ていないし、ステラだってなんだかんだで別の人と婚約出来ているから平和だろう。しかし二人をよく知るエキドナとしてはやはりイーサンとステラの二人で幸せになってほしいと思うのだ。


「ゲームの『イーサン王子』はキャラの中で一番攻略し易いのであります。惚れっぽい典型的チョロインですぞ」


「…………」


まさかの新事実にエキドナは思わず天井を見上げて黄昏た。


(……ステラ、これから大変だなぁ。例えサン様と言えども仮に浮気してステラを泣かせたりしたら怒…いやステラは強か令嬢だからそこは大丈夫なのか。むしろこっちが流れ弾を喰らわないか心配しなきゃなのか…? アレェ??)


斜め上な衝撃事実の数々にまたもや迷走し始めるエキドナであった。

だから情報量が多い。


「それにしてもドナ氏はバッチリ攻略キャラ四人と接触出来ておりますな…。ゲーム未プレイでそれはすごいであります!!」


セレスティアの言葉にエキドナは天井を見ていた顔を戻す。

気持ちキリッとしたドヤ顔で言ってのけるのだった。


「ス○ンド使いはス○ンド使いに引かれ「ドナ氏っ シィッ! であります。言ってみたかっただけなんでしょうが」


著作権を心配したセレスティアによって遮られるのであった。


「女子でジ○ジョネタなんて珍しいでござるな〜」


「死ぬ直前でハマってたからねぇ。有名な作品なのはずっと前から知ってたけど、ある日興味本意でp○xiv見たら沼にハマった」


「二次創作物は宝の山ですからな〜。ちなみにジ○ジョの推しキャラはどなたで? ワタクシは花○院で「DI○様一択で」


「即答でありますか」


「p○xivの作品見てたら『この人テンション高くて面白いな〜』って。あとはカー○様とかワ○ウも好き。面白い」


「ホホウ、ドナ氏ぃ…………中々善き趣味をお持ちですな!! 色々語り明かしましょうぞ!!」


「ハイ喜んでェ!!(飲み屋の店員風)」


こうして二人は前世オタトークで盛り上がりまくり、気付けば朝を迎えていたのであったとさ。


(注:エミリー、リベラ伯爵夫妻及び使用人がオルティス夫妻に『泊まる』と連絡してくれたそうです)


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