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情報収集 その1


________***


当初の予想通り、(エキドナ)は乙女ゲームにおいて『リアムルート』と『フィンレールート』でヒロインの恋を邪魔する悪役令嬢であり、バッドエンド(注:しかも高確率らしい)だと死ぬ運命にある事がわかったこの状況にて、



とりあえず引き続きセレスティアから情報を集めるのだった。



「具体的に私はどんな風に死ぬの?」


「いやはや自身の運命に対して冷静過ぎますぞドナ氏ぃ…。話が早くて助かりますが」


言いながらクイッとセレスティアは眼鏡を押し上げる。


「……とりあえず座って話しませぬか?」


「あっ そうだね〜。ごめんね立ちっぱなしにさせちゃって…」


「いえいえこちらこそ」


今迄二人はほぼ立ちっぱなしで転生だの乙女ゲームだの話し込んでいたため改めてセレスティアの部屋にあるソファーへ隣り合わせで座り…事前に用意されていた茶菓子や紅茶を手に取りながらのんびり話を再開する。

……決して人が死ぬ話をしてるようには見えないくらい平和な空気が流れていた。


「…まず『リアムルート』ではドナ氏は王子に剣で斬られて死んでしまいまする」


「あら〜…」


「相変わらず反応薄いでありますなぁ。…ですがそんなドナ氏には! まず乙ゲーにおける『リアム王子』のキャラ設定を知って頂く必要がありまする!!」


「ありがとうよろしく!」


「了解でありまぁすっ! …ズバリっ ゲームの『リアム王子』とは!! 太陽色の柔らかなくせっ毛・美しいサファイアの瞳・甘いマスクに笑顔…といかにも優しく暖かそうな見た目の王道王子様キャラに反してその正体はッ!! 無関心・無感情・冷徹無慈悲な『サイコパスキャラ』なのであります!! …例えばバッドエンドでは!!!」


〜〜〜〜〜〜


ザシュッ(ヒロイン、リアムに斬られる)


『あっ…』


バタン


『リっ…リア…ム、さま…』


激しい痛みと寒気があたしを襲う。


(あたしは…ただ、あなたの本当の笑顔が見たかっただけなの…)


遠のく意識の中で…最期にあたしが見たものは、


『……』


ただ道端の石ころか何かを見ているような、冷め切ったあの人の…………無表情だった。


〜〜〜〜〜〜


「…とこのように! 『ヒロインを殺した時の無表情はトラウマもの』と炎上と信者爆誕が多発致しまして…」


「え、リー様サイコパスなの? サイコパスってあのサイコパス?」


「いかにも」


セレスティアが頷く。


「ふぅん…」


言いながらエキドナが眉を少し寄せて小首を傾げる。


「『ふぅん…』て。ドナ氏もう少しリアクションあっても良いのではありませぬか〜?」


「うーん、だって、ねぇ…」




『サイコパス』


エキドナも前世で聞いた事がある単語だ。


確か良心がそもそも無い上に感情が希薄で利己的、他者への思いやりがない反社会的な人格を持つ人間の事である。

例え傍目から見たら親切にしている場面でも、実は何らかの目的のためにそう振る舞ってるだけだったり周囲にサイコパスである事を悟られないための演技だったりするそうだ。


確かドラマの殺人犯とかによく出がちな設定だが…実際はかなり頭が良いのでそんなヘマをする人は少数派らしく、前世の現実世界だと医者や弁護士、国会議員、経営者など…高い地位に君臨する人間にも一定数存在するらしかった。



(確かにぱっと見た感じはリー様にも当てはまる要素が多い)


次期国王や天才の肩書き。

年齢以上に賢く冷静で、大人相手でも堂々と渡り合える社交性の高さ。

そしてイーサンとの交流が始まる前までは…ずっと他者への興味関心が薄くて、いつも貼り付けたような笑顔だった。


(…でも、今迄見てきた "リー様" は、)



…楽しそうな顔、呆れた顔、不安そうな顔、怒った顔、泣く顔、腹黒い顔…………嬉しそうな笑顔。


そう。

今迄この世界で "目の前にいるリアム" と関わり…ずっと見てきたエキドナにとっては、


(……あの人振り幅は小さいかもだけど、人間らしい感情自体はちゃんとあるよねぇ? あと他者への関心とか思いやりみたいなものも少しずつ増えてる気がする)


いまいち決め手に欠けるのであった。

う〜〜ん? と未だに首を傾けて唸る。


「……とりあえず殺される前に夜逃げでも何でもして逃げる事にするわ。あの天才(チート)に勝てる気がしない」


エキドナは現在、剣術に関してならリアムを凌駕しているがそれも今だけだと考えている。

現実的な話、大人になれば男女の体格差や筋力差でこちらがどれだけ努力し工夫を凝らしたとしても一気に不利になるのだ。

勝てる気がしない。


冷めた表情で言い捨てるのであった。


「ドナ氏ぃ…リアム王子とはめっちゃ冷め切った関係なのでありますなぁ…」


何かを察したらしい、片手で口元を覆う仕草をするセレスティアから同情の視線を受ける。

コメントに困る反応をされてしまったので、ひとまずセレスティアにはリアムとの偽の婚約関係と今は多分友達同士である事を説明するのだった。


「____そんな訳だから、リー様とはその気になればいつでも婚約破棄出来るし今のところ大丈夫じゃないかなぁ? あと何度も言うけどサイコパスとは思えない」


「……ナルホド。とりあえず様子見でありますかな?」


「りょ」


リアム対策は一旦保留になった。





「……まぁドナ氏がその調子なら! 他のキャラより難易度高いけれども『リアム王子』よりはちょっぴり低くなる『フィンレールート』もどうにかなりそうですなぁ!! ちなみに遠慮せず申しまするが『フィンレールート』の『エキドナ』は毒殺されるのであります!!!」


「え〜やだマジでー? そう言えばあの子理科の勉強一番得意だわ〜こわ〜」


「あいも変わらず反応が緩いでありますな…逆に不安でござる」


「これでもそれなりには驚いてるんだよ。相手が可愛い弟だもの」


「そうでありますか〜…。まぁこのルートは今のまま姉弟(きょうだい)仲が良好であれば破滅回避出来るかもしれませぬ。ゲームの『フィンレー』は『ヤンデレキャラ』でありますから」


「…………え"?」


サラッと言われた衝撃事実に今迄の冷めたり緩かったりな態度が全て吹き飛んで…エキドナは再び思考がショートするのであった。


(え、フィンが? )


「「……」」



〜〜〜〜〜〜

(注:以下エキドナの走馬灯をお送りします)


『姉さま♡』にこっ


『姉さまあそぼ〜! おんぶして〜♡』キラキラ〜


『…姉さまがいないとさみしい!!』ぷんっ!


『ねえさまけっこんしよー♡』ほわわ〜ん

(↑フィンレーくん当時三歳)


〜〜〜〜〜〜



(あのマーベラス可愛い天使のような無垢で可愛い大事な可愛い弟が…ヤ ン デ レ ?)


「あ……う…」


そ……。


「始めは小悪魔的な魅力でヒロインと接しまするが、バッドエンドの場合『エキドナ』を毒殺した後ヒロインを地下牢に監禁エンドだったはずですぞ〜」


(いやいやいや地下牢ってオルティス邸にそんな物は…)


思いながらエキドナはハッと気付く。


「そういえば、お祖父様の代に折檻用の地下室があったとか…」


現在では『危ないし怖いだろうから』と、現当主のアーノルドが主に使っているらしい。

もちろんアーノルドはそんな陰惨な使い方なんてしない。

健全に物置兼筋トレルームと化している。

しかし地下空間自体が広いらしいので、多分探せば地下牢とやらもありそうだ。


「うっ…」


「う?」


冷や汗を滝のように流し、エキドナは震える。


「嘘だああぁぁッ!! うちの天使のように可愛い弟がヤンデレ監禁エンドなんて!! 前世で私が何したって言うんだあああぁぁッ!!!」



う"あ"あ"あ"あ"ぁぁ〜〜!!!!



エキドナは発狂し絨毯に拳を打ち付けながら崩れ落ちて泣き叫ぶ。

ガチ泣きだ。


「ドナ氏ぃ〜。リアム王子の時と反応が違い過ぎますぞ」


セレスティアはツッコミつつ信じ難い未来に絶望するエキドナの背中をヨシヨシと撫でて落ち着かせようとする。


「リー様はアレだから! 偽の婚約関係だからいつでも破棄出来るしっ! そもそも今は違うけど少し前までサイコっぽいとこちょいちょい出てたからダメージ無いの!! …でもフィンは私の可愛い弟なのぉ〜〜!!」


言いながら金の髪を振り乱し両手で顔を覆う。

大事な弟のブラック過ぎる面に耐えきれなかったのだろう。


(なんか推しアイドルの裏の顔知ってショックを受けるガチ勢に見えてきたであります…)


セレスティアは正直にそう感じたが、未だ取り乱しているエキドナが気の毒だったので黙秘した。


「……あの、ドナ氏はそもそもフィンレー殿の "秘密" を知っておりまするか?」


未だほろほろ涙を流しつつもエキドナが顔を上げてセレスティアを見る。


「…ひょっとして、養子の事?」


「それでござる!! 今はどのような状況でっ!?」


「変わらず仲良し姉弟だよ〜。サンさ…イーサン王子とも仲良しだし。リアム王子とは毎回口喧嘩してるけど」


涙を手で拭い、微笑んで答えた。

その回答にセレスティアが少し考える素振りを見せる。


「ウウム…ではギリセーフでありますかな?」


「その………………うちの可愛いフィンちゃんが何ゆえヤンデレ堕ちするのか聞いても?」


「良き良き。……ゲームにおける『フィンレー』は幼少期に偶然自身が養子である事が発覚しまして、それを以前からフィンレー殿の美貌を妬んでいたゲームの『エキドナ』によって陰で虐められ…「美貌は虐めるものじゃなく崇めたてるものだーーー!!!!(注:重度の面食い)」


「ドナ氏うるさいであります」


「すみません」


「…とにかく、フィンレー殿のヤンデレ堕ちは自身の出生に対する孤独や劣等感をひたすら『エキドナ』に虐められた結果らしいですぞ。だから現時点ではとりあえず大丈夫かと…」


「…そっかぁ〜。あ"ぁ〜うちの(てんし)がヤンデレ堕ちしたらと思うと…!!」


再び頭を両手で抱え悲痛な表情で首を振るエキドナに対してセレスティアは、


(先程のリアム王子とのこの扱いの差…。リアム王子、ドンマイ☆)


今世でまだ会った事もないリアムについ同情するのであった。




「ねぇちょっと!! 私の担当だけ攻略難易度高くないッ!? 『サイコパスとヤンデレとバッドエンド』ってッ!! また人生ハードモードかよ!!」


あまりの状況にエキドナは思わず突っ込む。

…キツい言い方してごめんなさい。


「『部屋と○シャツと私』みたいに言われましても…。ですが心配ご無用! セレスティア担当のニールはキャラの中で最高難易度ですぞ!!」


「えっそうなの? 意外」


(まさかニールにも何か事情が…?)


一気にニールが心配になる。


「ニールは史上最強のお馬鹿キャラ故恋愛自体に発展する事が出来ないのであります!!!」


「ごめん別の意味で心配だわ」


「『#こいつ頭おかしい』『#もう剣と結婚してろ!』と大炎上しておりましてっ! ニールのハッピーエンドはファンの間では "幻の両想いエンド" と呼ばれているのであります!!」


「ニールの頭はほんとに大丈夫??」


「…例えばゲーム内では!!」


〜〜〜〜〜〜

☆実例その1☆

『きゃあ!!』『うおッ!!』


ドサッ… (事故チューイベント発生!!)


『あっ そのっ…』


(どうしよう!! 事故だけどキスしちゃった!!)


『おぅ大丈夫かッ?』ケロリ


『……。あの…』


『ん? どうかしたかッ?』


ニールのそのキラキラと輝くオレンジの瞳は……穢れも下心も知らない無垢な瞳だった。


『……ううん、何でもない』



☆実例その2☆

(三年生の卒業式終了後、二人きりの教室にて)


『今日で一年生も終わりだね…』


『あぁそうだなッ!』


『あの…これからも、あたしとずっと一緒に居てくれる…?』


『……!!』


『『……』』

(夕日バックに無言で見つめ合う二人)


『もちろんだぜッ!!』


『!! え、ほんと『これからもオレ達はずっとマブダチだッ!!!』超笑顔


『…………うん』


〜〜〜〜〜〜


「え、待ってそれほんとに乙女ゲームなの? ニールのとこだけバグ発生してるんじゃなくて?」


「ニールのところと言うよりはニール本体が最初からバグってるであります」


「そんなんアリかッ!!!」




意外ッ!

ニールは史上最強フラグクラッシャーだった!!




「…ワタクシとてここまでのフラグクラッシャーを見た事なかったでありますから期待したんですぞ。『もしや "BLルート" があるのでは…ッ!』と」


「いやあってたまるかッ!!」


「……攻略サイト片手にニールルートだけはかなりやり込みましたがどれもノーマルの…友情エンドばかりでありました…」


「え、ハッピーエンドほんとにないの?」


「噂によればハッピーエンドにたどり着ける確率0.001パーセントらしいですぞ」


「何そのノンアルビールみたいな表示」



……ちなみにハッピーエンドが実質ゼロな分バッドエンドもないそうなのでセレスティアは死ぬ心配がないらしい。

うん、もちろん友達(セレスティア)が危険から遠ざかってるのは喜ばしいよ?

身の危険がなくて良かった。



……ただ、ニールの将来が切実に心配です。

強さ(物理)と引き換えに何か大事な物落っことして来たのかなあの子…。


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