ともかくストーリーは
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ある日、エキドナは新たな習慣と化しているニールと真剣勝負をするためケリー子爵邸まで遊びに行っていた。
「たのも〜」
「あっ! ドナおねえさんいらしゃーい!」
「こんにちはドナ姉さん」
「こんにちはレクシー、ルイス。ニール知らない?」
すっかりケリー四兄弟の弟妹達とも馴染んで挨拶を交わしつつニールを場所を教えて貰うと…珍しい事に彼は屋内に居た。
しかも女の子連れで。
「おうドナッ!」
「やっほ〜ニール。その子は?」
「あぁ会った事ないっけ? オレのイトコだぜッ!!」
後ろを向いていた女の子がくるりと振り向く。
「……お初にお目にかかりまする。あなたが、"あの" エキドナ・オルティス侯爵令嬢様ですかな?」
"あの" …うん、キラキラネームの事ね。(遠い目)
「ワタクシ、ニールの従妹でありまするリベラ伯爵家の次女、セレスティア・リベラであります!」
……そしてニールの血縁故かこの子はえらくキャラが濃い気がする。
『まする』『であります』と癖のある口調に加え…特筆すべきはその見た目だろう。
やはりニールと血の繋がりを感じるオレンジベースの茶色の真っ直ぐな髪をぱっつん前髪にしつつ残りは後ろで一つに束ねている。そこは良い。
問題はメガネだメガネキャラなのだ。
そのメガネに違和感があるのだ。
彼女が掛けている丸ブチメガネは、度が強くレンズが分厚いのかこちらから瞳が確認出来ない。
……た○ちゃんだ。
メガネの感じがちび○子ちゃんのた○ちゃんなのだ。
こんな令嬢初めて見た。
ニールの従姉妹だからなのだろうか。(←失礼)
「…お初にお目にかかります。エキドナ・オルティスです」
色々突っ込みたいところを素早く脳内処理しつつにこやかに挨拶し返したのであった。
その後はニールを間に挟みつつ三人でしばらく談笑していたのだが……セレスティアは見た目とヲタ口調はパンチが強いものの貴族にありがちなお高さがなく飾らない性格で付き合いやすい、しかも口調も相まって明るく面白い子だった。
「そっか〜! じゃあティア氏のお母様がニールのお父様やチャド様の妹さんになる訳ね!」
「いかにも! 従兄妹で同い年という事で昔からニールとはちょくちょく交流しているのであります!!」
「おうよッ! いわゆる "幼なじみ" だぜ!!」
その話を聞いた時エキドナは『まさかティア氏も武闘派なのではッ!?』とだいぶ期待したのだが……後で尋ねたところ残念ながらセレスティア本人はそこまでケリー子爵家の血は濃くないらしく武術未経験な読者家だった。
しかしながら、そもそも男子よりも圧倒的に女子に心を開きやすいエキドナは三人で話すうちにすっかりセレスティアと仲良くなり、『ティア氏』と呼ぶようになったのである。
何故『ティア氏』かと言うと…セレスティアからエキドナの事を『ドナ氏』と呼び始めたのでそれに合わせたのである。おっそろい♪
「……それにしてもドナ氏ぃ、見目麗しき王子様方や天使のような弟、ついでにニール…そんなイケメン達に囲まれるなぞあっちでカップリング! こっちでカップリング!! 実に妄想し放題で作業が捗りサイコーでありますな!」
「は…はぁ…?」
フンスフンスとやや鼻息荒く興奮気味にまくし立てるセレスティアにエキドナもつい押されて生返事をしてしまう。
(何か聞いてはいけない単語が聞こえたような…? ……きっと私の心が汚れてるからそう聞こえたんだろう。うんきっとそうだわ)
一人勝手に納得していると、
「そうそう! こちらお近付きの印に差し上げまする!」
「えっ 本なんてそんな…貰えないよ」
初対面でいきなり本なんて高価な物は貰えないとエキドナが遠慮の姿勢を示す。
「無問題!! ワタクシの自作本でござる!」
「あっそういう事!? …へ〜すごいね〜」
セレスティアの言う通り自作本なら問題ないなと思い今度は素直に受け取るのだった。
薔薇色の布で覆われた分厚く立派な表紙には金の刺繍で『ボクとアナタの愛迷宮』と施されている。
流石は貴族、自作本の質が高い。
…そして題名からして恋愛ものだろうか?
「読み終わった暁にはぜひ感想よろしくであります!!」
「うんわかった〜」
「オッ! "また" 本あげてんのかッ! オレには難しくてよくわかんなかったけどティアのダチの間では人気らしいぜッ!!」
「いやはや照れまする」
「それはすごいねっ! 読むのが楽しみだよ」
賑やかな会話が続いた後、セレスティアが見学する中で迎えの馬車が来るまでニールと恒例の真剣勝負を行うのであった。
そして帰宅し、夕食や身支度を済ませ……寝る前の時間の事。
(あ、そうだ貰った本読んでみよ…)
エミリーが用意してくれた好物のジャスミンティーを片手にベッドそばの椅子に座る。
優雅にジャスミンティーを飲みながら本を開き…
「ぐっ!!?」
吹き出しかけた。
ゲェホゴッホ!! と激しく咽せるエキドナ。
表紙をめくった途端…初っ端から男同士でうっとり見つめ合ってキスしようとしてる絵が出てきたのだ。
…背中には大量の薔薇を背負っている。
『ボクとアナタの愛迷宮』…。
いやいや『僕と貴方』って意味かよっ!!
エキドナは激しく動揺するのであった。
(えっ? えぇ!? この世界、BL文化存在してたの…? いやそれ以前に……ティア氏目覚めるの早くない? ……BL沼の業の深さよ…)
本を開いたまま、エキドナは遠い目をして屋内で黄昏るしかないのであった。
個人の趣味をあーだこーだ言うつもりはない。
BLが好きな事を否定する気も一切ない。
前世の友人にも腐女子は何人か居た。
だがしかし、男嫌いのエキドナがBLを嗜めるかと言われると…『NO』なのである。
他の男嫌いはどうかは知らないが、エキドナの場合そもそも男に興味がないので男しか出てこない絵面は正直なんとも言えないのである。
単純なギャグなら『ウケる(笑)』で済むから良いがガチ恋愛ものは……ほんと腐女子及び腐男子の皆様に申し訳ないけれど特にテンションが上がらないのだ。
百歩譲って百合の方がまだマシかもしれない。
読んだ事ないけど友情の延長と思えばなんだかいけそうな気がする。
……ちなみに余談だが、おっ○んずラブは結構好きだった。
ネタとしてすごく笑えて面白かったしザ・ムービーも映画館で見た。笑った。
……ドラマを見始めた時は一途な部長の恋を笑いながら応援してたはずなのに、気付けば○くんをハラハラしながら応援していたなぁ…。
主人公と結ばれて良かったね、○くん。
結局、セレスティアに『感想頼む』と言われた時了承してしまったので、男同士の友情の延長をベースにアレな場面はヒロインポジション? …『受け』だっけ? の男子を女の子と思い込む事で辛うじてBL本一冊読み切る事が出来たエキドナであった。
R18モノじゃなくて良かった…。
男同士はともかくストーリーは面白かったです。日記。