熱戦
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「ヤァッ!!」
ブンッ!!
近距離に動じずエキドナが剣を振るうもニールが宙返りで避ける。
ヒュンッ …ブンッ ヒュヒュンッ!!!
その後もエキドナの猛攻に対してニールは宙を舞うように飛んで回避し続けのだった。
「ほぅ、ニールのやつ先程の攻撃と言いかなり身体能力が高いな」
「だろッ? も〜サルみてーにぴょんぴょん飛び回るから捕まえるのは大変だぜッ!」
アーノルドが関心するようにニールの動きを分析しチャドもそれを肯定する。
ヒュンッ!!
「おわっと危ねぇッ!」
ニールが着地するため足先を地面に着けようとした瞬間エキドナが斬り掛かったのだ。
ニールがその場で両足を広げたので当たらなかったのだが。
「チッ」
当たらなかった悔しさでエキドナは思わず舌打ちする。
しかし回避を優先したため着地に失敗してニールの飛び回る動きが一旦止まった。
「お嬢ちゃんもやるなッ もうニールの動きに順応してやがるッ!」
「エキドナは賢い子だからな」ドヤァ
エキドナが足で強く地面を蹴って一気にニールとの距離を詰める。
「ハァァッ!」
ニールの顔面目掛けて連続の突き攻撃を開始した。
「おッ! やべッ! ワッ!」
速く鋭い突きをギリギリの動きでニールは回避している。
(こいつ反応速度も比じゃない…っ!!)
ニールは攻撃時の動きこそ単調だが、回避時がかなり変則的で速い。攻撃が当たらない!
多分動体視力も相当優れているのだろう。
(それなら、これはどうだっ!)
ブンッ
エキドナが上から剣を大きく振り下ろす。
「!」
ニールも応えようと剣を前に構えた…
その瞬間、
ガンッ
「イテッ」
剣の軌道を大きく変えて柄頭で相手の剣の鍔を打ったのだ。
ガシャンッ
衝撃でニールの手から剣が離れる。
(よしっ これで私の…)
そのまま追撃の構えをしようとした刹那、
ガッ
「!!?」
「オラァッ!!」
「きゃあっ!」
ニールがエキドナの身体を掴んで投げ飛ばした!!
勢いそのまま地面へ投げ出され背中に強い衝撃が伝わる。
同時に砂埃も舞った。
「うっ…!」
辛うじて受け身を取る事に成功したものの流石に無傷では済まなかった。
全身を強く打ったのだ。
試合の流れが変わった中、アーノルドが言葉を零す。
「…この試合、剣以外も有効なのか?」
「もちろんアリだぜッ! "戦場" じゃあ行儀良く戦えねーからなッ!!」
「っ…」
(エキドナ…!)
チャドの言葉にアーノルドが密かに焦り始める。
今迄エキドナは、父アーノルド達の手により実践的な "剣術" を教わってきた。
つまり剣術以外はまだ素人同然なのである。
一方ニールは、
「!!」
「もらったぁッ!!!」
エキドナが地面に叩きつけられた一瞬で剣を拾い上げ攻撃に移っている。
そう、一方のニールは……生粋の "戦士" として育てられてきたのだ。
ガンッ!!
「…っ!」
何とか横に転がる事で攻撃を避けた。
しかしエキドナは今剣を手にしていない。
投げ飛ばされ受け身を取った際に手放してしまったのである。
剣はすぐ目の前にいるニールより後方の…約三メートル先。
つまり拾うためにはまず目の前にいるニールをどうにかしなければいけない。
「どうするッ!? 降参かッ!?」
「……」
剣を向けるニールにエキドナは痛みを堪えて立ち上がりながら顔を歪める。
不利な状況なのは誰の目から見ても明らかだ。
だがエキドナは……まだこの試合を終わらせたくなかった。
許せなかったのだ。
ニールの次の動きを読み切れず一瞬油断してしまった自分に。
そう思ったエキドナの行動は早かった。
スッ…と静かに構える。
「!!」
「あれは…ッ!」
「おッ? お嬢ちゃん根性あるなーッ!!」
前世で習った…空手の構えだ。
とは言っても、経験年数がかなり短いため実はそこまで強くない。
でもそれでも良い。
狙いはそこじゃない。
「おもしれぇッ ほんとおもしれぇなぁオマエッ!!」
ダッ!!
ニールが斬りかかる。
それをエキドナは後退して躱しつつ、また一息に距離を縮める。
「ハッ!!」
右、左と中段正拳突きなどの連続技を繰り出した。
ニールはそれを避けたり剣を握っていない方の手でいなしたりして捌いている。
「エイッ!!」
左上段回し蹴りを放つ。
「っと!」
そしてその大振りな蹴りを……ニールは再び飛んで避けた。
(今だっ!!)
ニールが飛び上がった瞬間エキドナは蹴りを途中でやめて体当たりするようにニールの元へ駆け出して近付く。
ズザァァッ
「!」
ぶつかりそうな超至近距離まで走った瞬間、エキドナはスライディングで滑ってニールの足元を通り抜け後方の自身の剣まで一気に近付き拾い上げたのだった。
ハァッ… ハァッ…
荒い呼吸を整えながら再び立ち上がって剣を構える。
(こいつ…強いッ!!)
エキドナは思わず剣の柄をぐっと握り締めたのだった。
パワーもスピードもスタミナも…自身を含む同年代の子ども達の中ではダントツに優れている。
そして攻撃に勢いがあり、女に対して一切躊躇がない。
「スゲェなッ! 今滑ってそっちまで行ったのかよッ!?」
ニールはエキドナの予想外の動きに驚いたようだがまだ余裕がありそうだ。
…フゥ、
ある程度息が落ち着いたのでエキドナも言葉を返す。
「それはどうも。貴方こそすごいね。女相手にここまで容赦なく相手してくれたのは貴方が初めてだよ」
「当ったり前だろッ 強えーヤツに女も男も関係ねーからなッ!!」
屈託のない笑顔で答えるニールの言葉にエキドナは目を見開き…思わずニッと口角が上がってしまう。
先程からのニールの言動で、彼はそもそも "女" とか "男" とかそういった性別の枠組み自体を意識してないように見えたからだ。
そしてエキドナにとって『"女" として見られていない事』がどれほど精神的に安心出来るのか、周囲の人達にはわからないだろう。
エキドナの勝気な笑みに対しニールも愉しげな表情を浮かべる。
多分、今この瞬間、お互いの気持ちが一致した。
エキドナは剣を構え直しながらメラメラと闘争心を燃え上がらせるのであった。
ダッ!!!
同時に駆け出す。
「「うおおおおおっ!!!!」」
どの程度時間が経過したのかはわからない。
ただ昼過ぎに訪ねてすぐ試合を開始したはずなのに気付いた時には日が暮れ始めていたのだ。
そしてずっと……その血の運命で熱戦を繰り広げ続けたエキドナとニールは、お互い傷だらけで力尽き地面に隣り合わせで大の字になって寝そべっている。
二人の視界にはオレンジ色の空と雲だけが広がっていた。
「…オマエ、強えーなぁッ」
先に口を開いたのはニールだ。
「あんたこそ、やるじゃん」
エキドナも珍しく普段令嬢として最低限気を付けていた丁寧な言葉遣いを放棄し…砕けた口調で答える。
「へへッ」
「ふふっ」
オレンジの瞳と金の瞳が交差し…不思議とおかしな気分になって、
「「あははははッ!!!」」
二人で明るく笑い合ったのだった。
気付いた時には、隣り合う二人の手は……ぎゅっと固く繋がれていた。
「ねぇニール、私と友達になってよ。そしてまた勝負しよう?」
「何言ってんだよエキドナッ! オレ達はもうマブダチだぜッ!!」
「あははっ! それもそうだねぇ! …………あれ? 」
エキドナはふと気付いた。
先刻まで居たはずの人達の存在に。
「そういえばお父様達は?」
「そーいやいねーなッ!!」
(注:エキドナ達の熱戦に触発され余所で死闘してたそうです)