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閑話〜とある深夜〜


________***



〜〜〜〜〜〜


ガタァァンッ


「先生っ ××ちゃんが…!!」


小学生時代。

常に礼儀正しく、相手が求める振る舞いをしていた。

だから基本的におとなしくて手のかからない、しっかり者で優等生気質だったはずだ…………親や教師の、大人の前だけでは。


私はよく、男子生徒と殴り合いの喧嘩をしていた。

弱くてすぐ返り討ちにされてたけど。集団で殴られた事もあったっけ。

喧嘩の理由は単純明快。


男子が女の子のヘアゴムを取り上げてからかっていたから。

教室で暴れてみんなを困らせていたから。

女の子をいじめて泣かせていたから。

下級生に意地悪をしていたから。

動物に酷い事をしていたから。

大体そんな感じだった。


でも、内気で人見知りが激しかったのに加えてまともに話す事が出来なかった私が上手く弁解出来るはずもなく(そもそもすぐ手が出る事自体良くなかったのだけれども…反省)。

故に私はクラスの子達から、多分怖がられ嫌われていた。

……正確には『何を考えているのかわからなくて不気味』…だったのかな?


だから学校でいつも一人だった。

大人になった今なら周囲がそういう反応になるのは当然だとよくわかるのだけれども、当時はわからなくて、寂しくて、みんなと仲良くなりたくて…けれどそんな気持ちさえ言葉にして伝える事が出来ないでいた。



当時の私は、日常会話レベルの日本語が話せなかった。



帰国子女ではない。日本生まれ日本育ちだ。

ただ、身内とまともな交流がなかったから人との関わり方を知らなかったのだ。


言葉自体は発せられるし『YES』『NO』レベルの意思表示も辛うじて行えたが…今思えば恐らく実年齢よりも明らかに喋れなくて(つたな)い。


だから周囲の子達の会話のスピードについて行けなかった。

主な言語はTVと本で知る事が出来たから聞いたもの・見たものはすぐ理解出来た。

けれど頭で思っている事柄を、気持ちを、自分の口を開いて声に出す……そんな一連の流れ? 動作? が上手く出来なかったのだ。

単に会話のない家庭だったから日々の練習量が足りていなかったのだろう。

だって今は "普通に" 出来るのだから。


そして当時の周囲に対する接し方も宜しくなかった。

普段母から冷たく怒っているような態度で接せられていたから仲良くなろうとした相手にもそうした。

兄からよく汚い言葉で怒鳴られていたからそういう言葉ばかり覚えてしまって日常的に使っていた。


……なんか我ながら頭パーだったのかな…。


成績は割と良い方だったと思うけど所詮ゆとり世代だし。

今思えばゆとり教育だったからこそ "あんな状態" の私でも、授業について行けて必要最低限の学校生活を送れていた気がするんだけどね。ゆとり教育意味あったと思うよ。


話がズレちゃった。


……とにかく、そもそも良いお手本が身近に居ないのとそんな現状を理解出来ていなかったから、私は人と仲良くしようとすればするほど上手くいかなかった気がする。

今更だけどそんな自分と一緒に過ごす羽目になったクラスメイトの方に同情してしまうわ。



けれどそんな日々が… "あの時" "あんな目に遭って" からは……あんな、人格も存在も、人権さえ…………私の全てを全否定される目に遭ってからは…『寂しい』とか『悲しい』とか、そういう感情自体が消失して、何も感じなくなってしまった。


ただこの地獄から早く消えて無くなりたい、それだけを考えるようになった。


だから『誰かと一緒にいる事』以前に全てを諦めて、学校の空き時間はいつも一人でただ黙々と物心ついた時から大好きだった絵を描き続けるようになっていた。

…絵を描いている時だけは、心が安らいだ。

その時間だけは、唯一 "生きている" 心地を感じていた。


そんなある日…私が小学生四年生の頃、


『ねぇ、××ちゃん』


多分こんな感じで、ある女の子に声を掛けられ友達になった。

何故ざっくりした言い方なのかと言うと…私も彼女も、お互い最初の出会いがどんな風だったのか覚えていないのだ。

気付いた時には、当たり前のようにずっと一緒だったから。



そしてこの日を境に、私は人との関わり方や優しさや温かさを知って行く事になる。



…彼女は私の人生に多大な影響を与え、私の人には言えない苦い過去や現実をほぼ全て知る唯一無二の理解者となり、そして…… "私を人間にしてくれた" 恩人であり…親友となったのだった。


こうして彼女との日々で少しずつ少しずつ言語能力を習得して、消失した人間らしい感情も取り戻して、彼女以外の友達も…みんなすごく優しかったな…そんな良い友人達も、特別多くはなかったけれど作る事が出来たのだった。

家庭やそれまでの境遇は世辞にも恵まれていなかったが、彼女と出会った事…そして家から出た外の世界の "一部" の人達……友達には、結構、恵まれていたと思う。


『早く早く〜!』


『あははっ 待ってよ××〜!』


彼女の手を取りながら私達は笑顔で走っている。

どこへ向かっているのか覚えていないけど、きっと彼女と一緒ならどこへ行こうと何をしようと楽しかっただろう。

…幸せだっただろう。


大切な、愛おしくて……優しい思い出。


〜〜〜〜〜〜


「……」


とある深夜。

真っ暗な部屋の中で一人…目を覚ます。


「……?」


ムクリと静かに起き上がり自身の髪の色や手の平の小ささに一瞬違和感を感じながら徐々に意識がはっきりしていくのだった。


(久しぶりに… "前世(むかし)" の夢を見たな…)


ふぅ… と息を吐いた。


(最近は悪夢が多かったから助かる…)


エキドナは震える手で……掛け物をきゅっと掴んで握り締めた。



自分が死んでから、彼女は元気にしているだろうか。



願わくば、私が死んだ事をまだ知らなければ良い。

そしてそのまま自然と…私の事なんて忘れて、幸せに生きてくれればいい。


まぁそもそもあの子は私と違って世渡り上手で器用で…大人しそうに見えて意外と強かな面があるから、多分死んだ事を知ってもある程度辛さを乗り越えて幸せに生きてくれるとは思うんだけど。

あの子は優しい家族にも恵まれているしきっと大丈夫だろう。

…そういう心の強さに憧れた。

そんな逞しさを信頼出来た。


前世の親友との温かい日々を思い出しながら…エキドナはふっ…と優しく微笑むのであった。


ちらりと置き時計を見る。

まだ深夜二時。起きるには早過ぎる。


(さっさと寝なおそう…)


思いながら気持ちを切り替え、モゾモゾ動いて冷たい空気で冷えてきた身体に掛け物を掛け直した。


最近リアム達だけでなく他の友人達とも遊ぶ日が増えていたから明日…いや今日か、今日は時間をたっぷり取って弟のフィンレーと一緒に幼い妹のアンジェリアと遊ぶ約束をしているのだ。


(アンジェは私と違って環境に恵まれている分、言葉が話せないみたいな心配はないと思うけど…。でも、あの子が今何を感じて何を思っているのかちゃんと聞きたいんだよね)


例えどれほど幼い子どもでも、人間としての "心" が確かに存在するのだから。

嬉しいとか、楽しいとか、辛い、苦しい、悲しい、寂しい…沢山感じて沢山言葉にして、そんな想いを、私達も受け止める。優しく声を掛ける。

それだけでも子どもは『自分の事をちゃんと見て貰えてる』って安心出来ると思うから…。


(そもそも最近あの子に気を使わせちゃってたと思うんだよね)


フィンレーと違って『いないのいやだ』とか一度も言わなかったからこそ我慢させてしまった気がする。

だからその分、今日はいっぱい甘えさせられたらいいな。


(…それにフィンはサン様みたいな友達が出来てきたからまだいいけど、……アンジェにも…………早く……良い友達が、出来、たら…い、いな……)


そう思いながら、次第に重くなり始めた自身の瞼をそっと閉じるのであった…。


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