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二者面談、そして


________***


「_____それでだな、私はリアムの事をすっかり誤解していたとは言え…」


「……はい」


今何時だろ……。

感覚的に三十分超えたと思うんだけど。


思いながらチラッと国王の後ろにある時計を盗み見る。

…嘘でしょ…? まだ十五分も経ってないの……?


軽い絶望を感じながらエキドナは目の前にいるバージル国王が話した内容を改めて整理した。(注:また現実逃避です。はい)


うだうだうだうだ話してる国王の話を要約すると…、


①バージル国王は今迄リアムが母親…前王妃ビクトリア譲りの "天才" だったため勝手に『こいつ性格が悪い』と思って王様として必要最低限しか関わらなかった。(→性格悪いはまぁまぁ合ってるけど貴方の所為でもあると思う)


②リアムがイーサンと交流を持ち始め、イーサン伝えで…リアムが実は人並みに悩んだり苦しんだり寂しがったりしていて、しかもジャクソン公爵家からの干渉及び束縛で一人辛い思いをし続けていた・精神的に追い詰められていたという事実を知った。そしてリアムと関わらなかった事を今現在酷く後悔している。


③今迄の事をリアムに謝りたい。出来るなら親子関係も修復したい。……でもそれはリアム本人にとって虫が良すぎる話ではないか、父親としてこれから息子とどう関わって行くべきなのか…うだうだ。

(↑現在ここである)


更に話をまとめるなら『リアムと仲直りしたいけど本人的にそれを望んでるかわからないから困っている』…と言ったところか。


エキドナは心の中で盛大に溜め息を吐くのだった。


(いやそんな話私じゃなくてまずリー様に言って…今迄の恨み辛みをリー様から受けなきゃ始まらないと思うんだけど)


「……それで今さりげなく少しずつリアムの元へ通う頻度も一緒に居る時間も増やしているのだが、やはり今迄の関係もあって会話も弾まなくてな…」


「……そうなんですね…」


(あぁうん陛下の最近の奇行はそういう理由だったのね。…そんな気はしてたけど)


以前リアムから『何故か父親が長居するようになった』と相談を受けた際、エキドナはリアムには『王位継承権絡みの偵察目的では』と言ったものの同時に……どっかの異母兄の王子様みたく『リアムと仲良くなりたい目的では』とも思っていたのだ。

ただ今迄のバージル国王の…威厳と風格のあるザ・王様なイメージ的にイマイチ根拠が弱かったからリアム本人には言えなかったのである。


(……いやさぁ、バージル国王がまさかここまでサン様似……逆か…とにかくキャラ被りが起こってたなんて誰も気付かないって…)


思わず遠い目をして室内で黄昏たくなるのをエキドナはグッと抑えた。

そして直感する。

『このままではラチがあかない』と。


「…私は誤解していたとは言え…「すみません一度御前を失礼しても宜しいでしょうかッ!!」


王様相手にヤバいかもしれないが勢いをつけて無理矢理にでも一旦話を区切らせる。


「あ、あぁ…どうした?」


「お花を摘みに行ってきます!!」


「あっ お嬢様っ!」


『お花を摘みに…』つまりトイレの隠語だ。

エキドナにとってもなかなか恥ずかしいセリフだったので言いながらダッシュで退出する。

そんな主人にエミリーも慌ててお辞儀してエキドナの後を追い、部屋にはバージル一人がぽつんと残されたのだった。


「……腹の調子が悪かったのか? もともと内気な娘だったし無理をさせてしまったか…」






しばらくして、


「すみません陛下。突然退出してしまいまして」


「いや構わない。腹の調子は大丈夫か?」


「ご心配をお掛けしました。大丈夫です」


「そうか良かった。…ではまた先程の話の続きに付き合ってくれないか?」


部屋に戻って来たエキドナをバージルが穏やかに手招きをする。

しかしエキドナは未だ扉を開けたまま出入り口に立っていた。


「…その前に、恐れながら一つ陛下に確認させて頂きたい事がございます」


「…何だ?」


「陛下が私をお呼びしたのは、イーサン様伝えで現状を知るまでリアム様を誤解していたから距離を置いていた。そしてその事を今後悔されていてリアム様と仲直りがしたい。でもリアム様の今のお気持ちがわからなくて困っている。……大体こんな感じで間違いないでしょうか?」


「ウ、ウム、確かにその通りだ。だからこれからリアムとどう「だそうですよリー様」



ピシッ とバージル国王の周囲の空気が固まった。

しかしそれは逆鱗に触れたとかそういう物騒なものではない。


『え? 今何て言った??』


そんな動揺による固まり方だった。

リアムが遠慮気味に扉の外から姿を現わす。

後ろから更にイーサンも顔を出した。リアムを心配して付いて来たのだ。


先程トイレを理由に退出したがエキドナはその後すぐに二人を…特にリアムを探した。

運良く二人はまだ先刻までいた部屋で話していたので『貴方がたのお父様から伝書鳩にされかけてるので来て下さい』と死んだ目をしながら呼び寄せたのだ。

こういうのはエキドナに話すよりも結局は当事者同士話し合うのが早いだろうし良いだろう。

あと王様との不毛な二者面談を終わらせたかったし。


「……僕の婚約者を巻き込まないで頂きたいのですが」


「……」


リアムから苦言を受けたバージル国王は気不味そうに顔を少ししかめた。


「では私達はこれで〜」


「えっ 俺も?」


言いながらエキドナはイーサンの背を押して退出しようとする。

ここからは私達が居ても話しづらいだろうし…「いや待ってくれ!!」


バージル国王のだいぶ焦った声に思わずエキドナとイーサン……そしてリアムが固まる。


「ンン"…いやその……せっかくだからサンもエキドナ嬢も座りなさい」


思わず立ち上がったバージル国王は咳払いし、視線を右へ左へ泳がせながらエキドナ達を誘った。

……いや『誘った』じゃないかこれは。

本物の王様による『お願い』もとい『命令』だ。


「……畏まりました」


「は、はい父上…」


再び死んだ目で返事をするエキドナ。

戸惑いつつ素直に父の言う事を聞くイーサン。


「……」


先程から僅かに困った様子のリアム。


「「「「……」」」」


国王、王子1、王子2、その婚約者E。

こうして世にも気不味い四者面談が幕を開いたのであった。


「「「「……」」」」


(……私、()るのかこの状況で)


未だに気不味い沈黙が続く四者面談のテーマは『リアムと仲直りしたい(by バージル国王)』。

バージル国王の息子でリアムの異母兄のイーサンならまだしもただの…しかも上辺でしかない婚約者のエキドナが同伴すれば、本音とか色々話し合いづらいのではなかろうか?

ちなみに今バージル国王の隣の一人掛けの椅子にはイーサンが着席し、そしてイーサンと向かい合う形でリアムが座っている。

……つまりエキドナはまたバージル国王の向かい側に座っているのである。いや私の位置完全に邪魔だろ!!

そう思ってるのだがこの席しか残ってなかったからどうしようもなかったのだ。

このメンツに後ろで控えるエミリーもカチコチを通り越して石化してしまっている。

生きてるかなぁ…。


「…陛下が僕の自室に滞在していたのは、王位継承権に関する偵察だと思っていたのですが」


気不味い沈黙を破ったのはリアムだった。


「そんな必要はない。次の国王はお前でいい」


僅かに焦った様子のバージルがリアムに答える。


(……『お前 "で" いい』…か。なんか微妙な言い方だなぁ…)


エキドナは複雑な気持ちを独りごちる。


「そうだぞ。俺よりもリアムの方が良い王様になれると思う」


父親の言葉にイーサンも賛同する。


(…まぁサン様は前々から同じ事を言ってたから本音なんだろうけど)


「本当に、そう思っているのですか?」


「!」


リアムの声が低く、冷たいものに変わりバージルが少し動揺した。


「陛下がそう仰っていても…本心では違うのではないのですか?」


「……どういう意味だ。はっきり言いなさい」


リアムの醸し出す冷ややかな空気とバージルの(わざとではないのだろうが)王たる威圧により気不味い空気がよりギスギスし始めてきた。

エキドナとイーサンはそんな二人をただ心配そうに見守る。


「僕と『仲直り』なんて…どこまで本気なのかがわからない。別の目的があって仕方なくやっているのではないのですか?」


「何?」


「今迄ずっと "国王" と "その跡継ぎ" としての関係だったではありませんか。イーサンに何を聞いたのか知りませんが…… "父親" としての貴方と『親子の関係を築く』…僕には、言葉通りに受け取れません」


「……!!」


「リアム…お前…」


「!」


淡々と冷め切った表情で述べたリアムに、バージルがショックを受けて言葉を失くしイーサンとエキドナが息を呑んだ。


多分私達三人が思っていた以上に…リアムは "国王" としてならまだしも、"父親" としてのバージルに対する不信感が強かったのだ。

しかしながらリアムを責める事は出来ない。

何故ならリアムが一人苦しんでいた時に…バージルが父親として守らなかったのは事実なのだから。


「っ……」


バージルも今それを痛感しているのだろう。

眉を下げ、鎮痛な面持ちで言葉に詰まってしまっている。


「…それでは失礼します」


「あっ リー様…」


リアムはやや強引に話を終わらせてエキドナの手を引きながら部屋から退出したのだった。



パタン


扉が閉まる音が聞こえた後で……また気不味い静けさだけが室内に残った。

そんな空気の中で、





「……え? 俺は?」


イーサンは置いて行かれたのだった。






「「……」」


しばらくリアムに手を引かれながらエキドナは黙ってついて行った。…勢いで出たのでエミリーも置いて行ってしまった。

先程の部屋からある程度の距離まで歩いた後に手を離される。

リアムはエキドナより数歩先にいるので表情が見えない。

……でも、俯いている彼が今何を感じてるかはなんとなくわかる。


「エキドナ、また僕の "身内" 関係に巻き込んでしまってごめん」


「…! いや、私こそごめん」


リアムからの真面目な謝罪が人生初だったので思わず衝撃を受けつつエキドナも謝る。



良かれと思ってやった行動が、間違いだったと気付いたから。



「……エキドナ」


「うん」


「この件に関しては、これ以上関与しないでくれ」


「うん…わかった。ごめんねリー様、嫌な思いをさせて」


もうそう言うしか、エキドナには出来なかったのである。



私は単純に考え過ぎたのかもしれない。

リアムがああやって国王を突き放していたけれど……本当は父親の愛情を求めているのはわかっていたから。

当たり前だ。親に愛して貰いたいと思わない子どもなんていない。

だから、父親であるバージル国王がイーサンと似た系統の人間だと知ってすぐに行動に移したのだ。

今のイーサンとリアムの関係を知ってるから…きっと上手く行くと。

お互いが素直な気持ちになればきっと、と。


……でも私は、リアムの複雑な葛藤を読み取り切れていなかったのだ。

彼を苦しめてしまったのだ。


それもそうだ。

だって相手が自身の産みの親だからこそこだわる。執着する。一つの動作、言葉が深く心に突き刺さる。

辛い思いをしたらずっと心に残って、その時の気持ちや記憶は痛みとなって(くすぶ)り続けるのだ。

私だって "昔" は、そんな葛藤に苦しんでいたはずなのに…。


しかしそんなリアムの背中を私は触れて慰めたりこれ以上謝ったりする事は敢えてしなかった。

……これ以上は逆にリアムの負担になってしまう。

私に情けない姿を見せまいと今必死に耐えているリアムのプライドを傷つけてしまう。

そして何度も「ごめん」と謝罪の言葉を繰り返して私が被害者ぶるのも論外だ。こちらの気持ちが楽になるための謝罪は絶対やってはいけない。……相手を苦しめるだけだから。


…だからリアムが自室に戻るのを黙って見届けた後で、イーサン同様置いていかれ私を探し回っていたエミリーと合流し、静かに離宮を後にしたのだった。


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