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甘えん坊とリハビリ


________***


エキドナから『いじめ対策』を伝授されたフィンレーはその後も姉にベタベタと甘えまくっていた。


まだ七歳と幼いし、おそらく周囲の人間に姉を取られるのが嫌なのだろう。今迄身内以外の子どもとほとんど交流した事もなかったし。

そんな風に冷静に受け止められているのはエキドナ自身も前世で経験しているからだ。

"幼い頃は" お兄ちゃん子で三つ上の兄にベタベタくっついて甘えていたし、従兄弟(いとこ)が兄に懐いた時はヤキモチ焼いて喧嘩したしで身に覚えがありまくりなのである。

そのため、そんな甘えん坊なフィンレーをエキドナは特に咎めもせず膝枕して頭を優しく撫でるのだった。三人の目の前で。


「…エキドナ、貴女も貴女で弟を甘やかし過ぎじゃない?」


「いいんだよリー様。甘えてくれるのなんてこの時期ぐらいだろうし。いずれ大きくなって反抗期が来たら『姉さまウッザ! あっち行け!!』…みたいに……な、る…」


「自分で言った言葉で自滅しないで貰える?」


絶望で目を見開きゲホォッとダメージを食らうエキドナにリアムは本気で呆れているようだ。


「……でも、少し羨ましいですわっ (わたくし)は一人っ子ですから "きょうだい" というものに憧れますもの」


遠慮気味にステラが言う。

確か前世でも先程登場した従兄弟(いとこ)が一人っ子で似たような事を言っていたなとエキドナは思い出すのだった。

何でも『家に居る時遊び相手がいないからつまらなかった』とか何とか。


「確かに、兄弟とは良いものだよな…! なぁリア「確かに(うえ)を『鬱陶しい』『ウザい』って思う時は頻繁にあるかな」


「……」


生き生きと兄弟の良さを説こうとしただけなのにバッサリ笑顔で(リアム)に振られたイーサンは『ショボン』の顔文字が頭上に浮きそうなくらいに凹んでいる。

そしてリアムはあいも変わらず……もういいや、通常運転で(イーサン)に容赦なかったのであった。


「あらあらサン様…」


ステラが困った笑顔を浮かべながら傷心中のイーサンの肩にそっと手を置く。慰めているのだろう。


「…まぁアレだよ。色んな "きょうだい" の形があるって事で」


そんなやり取りを横目で見ながらエキドナはフォローのつもりで呟いた。


(…でも、本当に世の中には色んな "きょうだい" の形が沢山あると思う)



……フィンレーが、心身共に健やかに生まれて育ってくれて本当に良かった。

今度は過ちを犯さないように、この子の姉としてちゃんと支えて行こう。



エキドナは未だ自身の膝の上で安心して笑っている(フィンレー)に、にこっと微笑み返しながら気持ちを新たにするのであった。





そしておやつタイム終了後にて、


「人前であそこまで甘えられるなんて…フィンレーは随分神経が図太いんだね」


「……」


「"王子(ぼく)" 相手に無視か…。(エキドナ)の言葉を真に受けて実行するなんてやっぱり面白いよ貴方は。将来が楽しみだな」


「……」


「いやリー様しつこ過ぎでしょ。どんだけうちの(フィン)に恨み? 持ってるの」


「誤解だよエキドナ、僕はただフィンレーを褒めてるんだよ。この子はきっと将来大物になる。……身長は伸びないかもだけど」


「のびます! あなたよりも大きくなってみせます!!」


「! …ありゃ〜」


「ははっ やっと反応したねフィンレー」


「ほんとにしつこいんですよあなたはッ!! もうがまんできない!! 僕には『むし』なんてできない!!」


我慢の限界に達しムキーーッ!! と怒りを露わにしたフィンレーがリアムに食って掛かった。

しかしリアムは自身に突進しようとするフィンレーの頭を両手で抑えて余裕で動きを封じている。

フィンレーが「うわ〜ん!」と悔しそうに声を出しながら両手をブンブン振り回しているが距離がありリアムに当たず空を切っていた。


結局『いじめ対策』はフィンレーの年相応な幼さとリアムのしつこさ故に失敗に終わったのだった。

無視を維持し続けるまでが当分は難しそうだ。


(あとはフィンの我慢強さ次第か…頑張れ、フィンレー)


そしてごめん…ッ! と心の中で謝罪するエキドナであった。

身代わりになれるなら代わってやりたいが、あの様子だとリアムは一度狙った獲物は逃さないしつこいタイプなようである。

リアムが一人で勝手に飽きるか、フィンレーが塩対応を続けてリアムに諦めて貰うかのどちらかしか根本的な解決法はないと思うのだ。

もちろん、ブラコンなエキドナとてリアムに一回本気で怒ろうかとも思った。


……でもよくよく考えてみれば、フィンレーにとっても自分に都合の悪い相手へのあしらい方を学ぶ良い機会だと思ったのだ。

リアムの言い方は確かに悪意あり意地悪ありだろう…けれど本気で相手を陥れようとはしていない。

だから今のうちにリアムで慣れた方がフィンレーが大きくなった時に役立つのでは……と考えたのである。



『とりあえずリアムの意地悪がフィンレーの成長の妨げになるくらい度を越えた時は本気で怒ろう。それまでは見守ろう』

そう一人で結論付けたエキドナであった。






「それではお邪魔しましたわ!」


「またねエキドナ、フィンレー」


「もう来なくてけっこうです!」


「まぁまぁ…また来てもいいか? フィン」


「サン様は来ていいです!!」


こうして賑やかに別れを告げ本日のリアム、イーサン、ステラ三人による訪問は幕を閉じようとしていた。

…ちなみに『せっかく着替えたのだから』とステラのお願いでエキドナは着替える事も出来ず剣の稽古も延期され終始セー○ームーンの格好のままだった。もう考えるのはやめた。



「…あぁそうだ、エキドナちょっといい?」


「うん?」


リアムに手招きされトテトテそばまで歩み寄る。

すると、


ギュッ


「「「「!!?」」」」


リアムにいきなり抱き締められた。


「は!? ちょ!? リアム様姉さまに何して…「気持ちはわかるが落ち着いてくれフィン!!」


即座に反応し飛び掛かろうとしたフィンレーをイーサンが慌てて必死で抑える。


「あらあらぁ…!!」


ステラは両手を口に添えて目を輝かせて興奮気味にきゃーきゃー言っている。


各々反応している中エキドナは、


「…………え、あ」


「ふっ…身体ガッチガチ」


リアムの笑い声がすぐそばで聞こえる。

急にされたからドギマギして緊張で固まっていたのだった。

カァッと顔に熱が集まる。


「『リハビリ』一度もしてなかったでしょ? ……気付いてるだよエキドナ。貴女はスキンシップが…厳密には『他者(ひと)から触れられる事』が特に苦手なんだよね?」


「!!」


こそっと耳元で囁くリアムの言葉に思わずエキドナの肩が跳ねる。

明らかな図星だ。

そんな正直な反応を示すエキドナにリアムはくつくつ笑う。

軽い振動が身体越しに伝わった。


「エキドナから僕を抱き締めた時は何ともなかった癖に…変な子」


リアムがそう言いながら背中を優しくポンポンと叩く。

そしてすぐさま解放された。


エキドナは急にやられた恥ずかしさや悔しさで赤面し、涙目になりながらリアムを軽く睨む。

そんなエキドナの反応に……リアムは楽しげで満足そうな顔をするのであった。

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