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お揃いといじめ対策


________***


某日…。

私の元にステラから『エキドナさえ良ければエキドナのお家でクッキー焼いてサン様達に差し入れしませんか?』という旨の手紙が届いた。

最近リアムやイーサン…特にフィンレーから『(エキドナ)が居てくれなきゃ困る』と言われていたところだったので丁度いいやと思って快諾した。

……快諾したのだが。


「見てくださいませエキドナ! 我が家御用達の業者さんに頼んで作って頂いたのです! (わたくし)とお揃いですわ!!」


「……うん」


死んだ目をして返事するエキドナとは正反対にキラキラ無垢な笑顔でそう語っているのはイーサンの婚約者でありロバーツ伯爵家のご令嬢な美少女、ステラ・ロバーツである。

そして彼女の両手が握っているものは……二人分のワンピース。


(いやいやそれ特注品(オーダーメイド)だよねぇ!? 私のサイズどこで知って…)


ハッ! と気付いて疑わしき人物に視線を向ける。

エキドナの視線を受けた人物……エミリーは親指を立てながら『やり遂げましたよ!』と言わんばかりのドヤ顔だ。


(情報を売られたぁぁぁッ!!)


しかも当のエミリーは悪意ゼロなのである。

そして目の前にいるステラも悪意ゼロだった。


「さぁっ! エキドナも一緒に着替えてサン様達をびっくりさせちゃいましょう♡」


「お嬢様折角ですから髪型もステラ様とお揃いにしてはいかがですか?」


「まぁっ それは素敵なアイディアですわね!」


「……」


無言のエキドナそっちのけで二人は残酷なまでに楽しくスピーディな会話を進めている。

結局そんな空気の中、元々『女性と子どもとお年寄りには優しく』がモットーのエキドナには悪意ゼロな女性達のお願いを断るなんて不可能であった…。



ステラが用意したのはお揃いの上質な白いワンピースである。

しかし施されている刺繍が各々違う。

ステラのワンピースは胸元に銀糸の大きな星の刺繍が散りばめられ、エキドナは…同様に胸元に、でもステラとは違って金糸の大きな月の刺繍が散りばめられている。


……奇妙な既視感を感じたが、その既視感はエミリーの手によってエキドナの真っ直ぐなプラチナブロンドをステラとお揃いの…お団子のアレにした事で確信へと変わったのだった。


(いやもうアレだよ私の髪の色も相まって完全にアレだよほぼセー○ームーンじゃんッ!!!)


♪チャンチャラ チャンチャラ チャーチャンッ♪

♪チャララ チャンチャンチャチャーチャン♪


懐かしい音楽(メロディー)が脳裏で(よみがえ)る。現在頭の中で『ムー○ライト伝説』が流れているのだ。何故なら前世のエキドナにとってモロ世代のアニメだからである。

いい加減気付いている人も居るかもしれないが前世のエキドナはCM大好きテレビっ子だった。

子どもの頃はビデオテープでよくアニメ見てたな…。


そしてやり場のない羞恥心と苦悶を心の中で頭を抱えて叫ぶ。


(下ろしてる髪ツインテしたら完璧月○うさぎじゃんッ!! 何だろうこのもどかしさっ 何この謎の焦燥感は…ッ!! とりあえずちっちゃい頃めっちゃ見てたわ!!)


余談だが幼少期からエキドナが一番好きなセー○ー戦士はセー○ーヴィーナス一択である。


(ステラはアレかな? 髪色的にセー○ーマーキュリー…? いや、ゆーて薄い水色っぽい銀髪だし、髪型と雰囲気的にはセー○ー……なんだっけあの海王星のお嬢様っぽいキャラ。うんどちらかと言えばそっちっぽい)


思わず現実逃避を始める。

ステラは可愛いから似合うし良い。

目の癒し目の保養目のお薬ありがとういい薬です。

だがしかし、猛禽類目のキツい迫力顔なエキドナにはステラほど着こなせてない事なんて百も承知であるのだ。だから余計に開き直って堂々としづらい。


「さぁっ バッチリ決めましたし皆さんの所へ参りましょう!!」


言いながらステラは先程まで二人で焼いたクッキーをバスケットに入れ始める。

まだお菓子作りに慣れていないエキドナに合わせて初心者向けな型抜きや絞り出しなどのクッキーを沢山作ったのだ。

お菓子作りが得意なステラ指導の元作ったので前世とは違い炭のような黒焦げクッキーを作らなくて済んだ(注:なんかレシピ通り焼いても生焼け? 半生? になったので追加で焼いたら焦げてた)。我ながら綺麗に美味しそうに焼けている。


(……さっきまでは、ただただ平和にお菓子作りしてたんだけどなぁ…)


そう思いながらステラがルンルン♪ と周りにお花を咲かせエキドナの手を引いていて、こんな上機嫌な子を悲しませるのも忍びなかったのでエキドナは考えるのを……やめた。



そしてステラ、エミリーの三人で剣の稽古中のリアム達の元へ向かったのだった。


「わぁ! 姉さまかわいい!!」


「髪もお揃いか…新鮮で良いな!!」


「うふふっ そうでしょう? 似合ってますでしょう?」


「「うん似合ってる!!」」


「…ありがとう、ございます」



やはりイーサンとフィンレーは優しいので二人の装いを絶賛してくれた。


(流石二人共すっかり紳士教育を受けて…フォローありがとう…)


心の中で改めて礼を言う。別の意味で。


「おやおや、エキドナ様とても可愛らしいですな」


「ありがとうございます師範様」


今日はアーノルド不在のため師範が稽古をつけていたようだ。

まぁ年配の師範様なら元教え子の(アーノルド)の娘が何を着てても可愛いく映るだろう。

でも実際の評価はリアムを見ればわかる。


「……」


なんか珍しくポカンとした表情で固まっている。

多分私がこういう格好した事ないから想定外で固まってるのではなかろうか。


「ほらリアムもッ!」


『何か言え』と言わんばかりにイーサンがリアムの肩を押す。気を取り直したリアムは鬱陶しそうにイーサンを見つめ返し、そのままエキドナへ向き直った。


「…うん、よく似合ってると思うよ」


にこにこ微笑んでいる。…嫌な予感がする。


「毎日これでも良いんじゃないかな?」


ニヤァ…とリアムがわざわざ黒い微笑みに直しやがった。

エキドナの心中を…内心まーまー嫌がってるのを、察して出た言葉のようだ。


(あんたって人は…あんたって人はぁぁッ!!)


『この鬼ぃッ!!!』と心の中でディスったエキドナであった。

目で訴えてるからきっと本人(リアム)に届いてるはずこの(のろ)い。

……結局ヤツはいつまでも楽しげなままであったとさ。



その後ステラと一緒にリアム達の剣の稽古を見学し師範と別れてから、男子達の休憩がてら最初の目的であるクッキーの差し入れをしたのであった。


「うふふっ♪ フィンレーくんはやっぱりお姉さま大好きなんですね〜」


差し入れのクッキーをみんなで食べている中、ステラが微笑ましそうに言った。


「……う〜ん、」


エキドナが困ったように思わず唸る。

しかし無理もないだろう。


ピタァァァァ


レジャーシートの上で食べているので体操座りや女の子座りと各々好きに寛いでいた。

そんな中で横坐りするエキドナの真隣にフィンレーが体育座りでくっついてクッキーをもぐもぐしているのだ。それもエキドナの足が向いていない側にくっついている。

…現在側面の密着度百パーセントである。


「ほら、そういう所が赤ん坊みたいなんだよフィンレー」


「うっ うるさいですリアム様!!」


からかうリアムに対してフィンレーが顔を赤くしながら大声で言い返し睨むのでエキドナがギョッとする。


「フィっ フィン、」


「大丈夫だエキドナ。…いつもの事だから」


慌てて弟を止めようとしたエキドナにイーサンがストップをかけた。

……なんだか彼の表情がやつれて見えるのは気のせいだろうか。


「……えーと、私が居ない間にすっかり仲良くなったようで…?」


「そうだね」「ちがうっ!!」


にこやかに返すリアムと本気で反発するフィンレー。

…大体状況がわかった。


「……リー様、うちの弟いじめ過ぎ」


未だ隣で密着するフィンレーの頭をよしよしと撫でながらエキドナがジト目でリアムに文句を言う。

まぁ当人(リアム)は本気でフィンレーを傷付けようとか危害を加えようとかではないのだろうが、


「いじめだなんてそんな…。面白い反応をするからついからかってしまうだけだよ」


「だからなんですかそれ! いいかげんにして下さい!! 」


キラキラといい笑顔で言い放ったリアムの言葉にフィンレーが反応して怒る。

そのまま二人は軽く口論(?)を始め出した。


……はぁ。


思わず溜め息が出た。

エキドナは空いてる方の手で頭を抱える。


(この人腹黒にジョブチェンジしてからキャラ変わり過ぎでしょ…。なんでだろ、今迄 "良い子" してた反動が出てるのかなぁ?)


フィンレーをいじめたくなる気持ちは少しわかる。

見た目の可愛らしさや素直で真っ直ぐな反応も相まって……例え怒っていても、なんか子犬のポメラニアンとか小型犬がキャンキャン吠えてるような可愛らしさがある。正直全く怖くない。なんならちょっと楽しいと思う。

だがしかし、理解はしてもエキドナがフィンレーをいじめるはずもなければいじめを黙認する気もさらさらないのだ。


そしてリアムはリアムでジョブチェンジした後、どうも『人を観察する』楽しさだけでなく『人をからかう』楽しさを発見してしまったようなのである。

…やはりこいつは生まれながらのドSか。

更にリアムは元々地頭が良いため同年代のフィンレーが反論しようにも限度がある。よって太刀打ち出来ないのだろう。

だからこの間『姉さまいなくてリアム様といっしょはいやだっ!!』と言っていたのか。

その時は単にリアムへの反発心から来てるのかなあらら〜、くらいに思っていたのだが、蓋を開けてみたらまさかこういう状況だったとは。

……タチ悪ぅ。


現状を整理しつつエキドナは未だリアムと口喧嘩(?)を続けるフィンレーを手で制止して、改めて弟に向き合った。

両手で優しく彼の小さな肩を掴みながら淡々と説明を始める。


「いい? フィン。これからはリー様が意地悪な事言っても無視するんだよ」


「『むし』…?」


流石に今迄知らなかった単語なのだろう。

今迄同年代の他人との交流自体ほとんどなかったし。

フィンレーがキョトンと見つめ返すのでエキドナは出来るだけ幼い彼にも理解出来るようわかりやすく丁寧に教えた。真顔で。


「『相手にしない』『相手を見ない』『言い返さない』……あとは何かな『居ない者として扱う』かな? とにかくリー様は貴方が怒るのが面白いから意地悪してるの。なら反応しないのが一番」


「おっおいエキドナ…っ」


イーサンの焦った声が聞こえるが無視する。

姉として、腹黒リアムの所為で天使のように可愛い弟の性格が歪んでしまったら堪ったもんじゃないからだ。

ブラコン上等である。


「今からお姉さまのいう言葉を繰り返してね…『リアム様の意地悪は無視』」


「『リアム様のいじわるはむし』!!」


「もう一度、『リアム様の意地悪は無視』!」


「『リアム様のいじわるはむし』!!!」


素直で元気いっぱいに反芻するフィンレーにエキドナが「よく出来ました」と頭を撫でる。


「……」


「あらあら…」


「んん"っ…いやまぁ、アレだな。……今回はリアムが悪い」


リアムの目の前で行われた『いじめ対策』のやり取りをするエキドナ・フィンレー姉弟にリアムは無言でなんとも言えない表情をしステラは少し困ったように微笑み、イーサンは咳払いしつつもボソッと気不味そうに呟くのであった。


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