友達
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無事リアムとイーサンの複雑な兄弟関係修復に貢献したエキドナは、アーノルド指導の元稽古に励んだり弟のフィンレーと共に王城で定期お茶会(四人バージョン)をしたり…と平和に過ごしていた。そんなある日、
ふと気付いた。
「あれ? 私女友達いなくない?」
思わず呟き愕然とするエキドナにリアムが
「今更?」
と呆れ気味に呟く。
本日は定期お茶会(四人バージョン)である。
オルティス侯爵邸ばかりだとジャクソン公爵家に怪しまれるという理由から今回は王城でお茶会をしている。
「いや今更っちゃ今更だけど…。だって今迄はフィンやアンジェとばかり遊んでたし」
「僕がいるからだいじょうぶだよ姉さま!」
現実を再確認するエキドナにフィンレーがラベンダーの目をキリッとさせて言った。
ありがとう我が癒しの天使。
思わず頭をナデナデするのだった。
「うん…気持ちは有難いんだけどねフィン、ある程度女のコミュニティに属しとかないとこの先大変なんだよこっちは」
「大変そうだな…」
「無駄に武闘派な貴女が女性のコミュニティに属せるか自体疑問だけどね」
「……」
気遣う兄と毒づく弟、相変わらず正反対な兄弟である。
(……なんかアレに見えてきた。そう、カフェ○ーレのCM。強いコーヒーと優しいミルク。見た目 "だけ" ならサン様がコーヒーでリー様がミルクだけど中身は絶対反対だ。うん、絶対反対)
そんな事を考えながら、今あの軽やかなCMソングが脳内で思い切り再生されていた。
「何か失礼な事考えてない?」
「…気の所為だよっ☆」
テヘッ☆ とエキドナが誤魔化す。
ここ最近リアムはエキドナの無表情を見破れるようになったのでやり難い。
そしてつい思った事を口にした。
「でもリー様も友達いなさそうだよね」
「おっおいエキドナっ…リアムが気にしてたらどうするんだ!!」
「……」
ポツリと呟いた言葉にイーサンが椅子から立ち上がりアワアワする。
対するリアムは無言の笑顔を作るのだった。
それでもリアム本人には悪いのだが……彼は『未来の国王』で『天才』と言われてきた人間だ。
立場や能力的に気軽に仲良くなる友人が出来難そうなイメージがある。
「ご歓談中失礼しますリアム王子」
「なんでしょう?」
「サウデード王国の王子様方からいつものお手紙が届いております」
「ありがとうございます。後で読むので僕の机に置いて下さい」
「畏まりました」
「「…………」」
コメントに困るタイミングでやって来たリアムと侍女のにこやか且つスマートなやり取りにエキドナとイーサンは無言になる。
ちなみに『サウデード王国』とは我が国ウェルストル王国の南隣りにある友好国だ。またの名を『南の国』。
余談だがウェルストル王国は周辺国から『西の国』と呼ばれているそうな。
「…で、誰に友人がいないって?」
「「ごめんなさい」」
低い声のリアムに二人はすぐさま謝るのだった。
「…嘘でしょ? "あの" リー様でさえ友達がいるのにいない私って一体…ッ!」
「そうだよな。王子同士の交流…友情…普通にあるよなそうだよな」
「僕に対する認識が酷過ぎないかなエキドナ? ……イーサン後で覚えてろよ」
「何で俺だけっ!!?」
受け入れ難い現実に絶望で目を見開き頭を抱えるエキドナ、両手を前で組み死んだ目をしてぶつぶつ呟くイーサン。
各々失礼過ぎる反応を取った事により軽くリアムの怒りを買い、一人当たられるイーサンであった。
「ゔ〜〜ん参ったな…自業自得とは言え今更女の子の友達作る切っ掛けがないんだよな〜」
そんな兄弟のやり取りに気付かないほど悩みながらテーブルの上に顎と両腕を乗せてエキドナが嘆いた。
そう、まだ八歳とはいえここは貴族社会。
早い段階で家同士の繋がりやそれぞれが主催するパーティと言う名の社交場から……すでにある程度のコミュニティの輪が出来上がってしまっているのだ。
当時の…前世の記憶を思い出す前のエキドナとて友達がいらない訳ではなかった。
だがしかし、人見知りと内気な性格故に声を掛けるタイミングを見失ったり…勇気を出して声を掛けても声が小さ過ぎて相手に気付いて貰えなかったりと作りたくても作れない状態だったのだ。
しかも当事者達が内心どう思おうが五歳の頃からエキドナはリアムの婚約者。
その事実により実は一部の……いや下手したら大半の令嬢を敵に回してしまっており、余計に友達作りが困難なのであった。
「…確かに、今からパイプ作りは難しいかもしれないね」
色々察したらしいリアムが納得した様子で頷く。
……いや『パイプ』じゃなくて『友達』がほしいんですけどね…。
「じゃあ俺達の共通の友人伝手で作ったらいいんじゃないか?」
「サン様の?」
「お前友達いたっけ?」
「おい……でもあれだな、友達というか正確にはリアムの幼馴染だな」
「最近リアムに紹介されてな」とイーサンが照れ臭そうに笑う。
その言葉に何故かリアムがピクッと反応した。
「女の子も居たはずだしエキドナにも丁度いいと思うんだ。宰しょ…痛っっっった!!!」
「あぁごめん蹴り易いところに足があったから蹴ったよ馬鹿イーサン」
「急に何するんだよお前!」
「ちょっとリアム様! サン様をいじめないで下さい!!」
ずっと三人のやり取りをお菓子を頬張りながら興味深げに見ていたフィンレーがイーサンを守るようにリアムを怒る。
「あ、ありがとうフィン………………俺リアムにいじめられてるように見えるのか」
そんなフィンレーの言葉を受けてお礼を言いつつなんとも言えない表情で呟くイーサンであった。
「こちら側の事情があったんだよフィンレー。…話を戻すけど、それならイーサンの婚約者を紹介した方が早いんじゃないかな?」
「サン様の婚約者様?」
「あぁ…そっか。それもそうだな。俺と同い年で年も近いし…」
「"王子の婚約者" って共通点もあるから仲良くなれるんじゃない?」
「わぁ! いいですね! サン様さえ良ければぜひ紹介して下さい!!」
『今世で初めての女友達が出来るかもしれない』と希望が見え笑顔になったエキドナがイーサンにお願いする。
そんな珍しく素直な笑顔を見せながら自身を頼ってくるエキドナに対しイーサンは、
「!! …あっ あぁ任せてくれ!」
頬を染め嬉しそうに応えるのであった。
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こうしてイーサン経由で婚約者の令嬢と会う予定が組まれ王城にて対面する事になった。
そんなある王城の一室にて。
「…初めまして。エキドナ・オルティスと申します」
珍しく緊張気味にエキドナが頭を下げる。
「貴女がエキドナちゃんですね。サン様から話は聞いておりますわ」
おっとりした口調でエキドナを迎えたのは水色っぽい銀色の髪と目を持つ令嬢。
ツーサイドアップの髪は三つ編みでお団子状にまとめており、残りの下ろした髪は毛先だけカールしてふわふわと広がっている。
エキドナだけでなく四人の中では一番背の高いイーサンよりも僅かに背が高いので大人っぽい印象さえ感じるがその顔立ちは良家のお嬢様らしいお淑やかさと可愛らしさを有する美少女である。
「ロバーツ伯爵家の娘、ステラ・ロバーツと言います。よろしくお願いします」
にこっ と微笑む姿は『可憐』の一言で。
そんな彼女に微笑まれたエキドナは、
「はいっ よろしくお願いしますステラ様♡」
秒で懐いたのだった。
にこ〜♡ とエキドナも微笑み返しつつ周囲にたんぽぽ、パンジー、コスモス、あじさい、マーガレット…と多種多様な大量の花を咲かせる。
そのキラキラした微笑みは…もはやメインヒーローに恋するヒロインレベルの輝きだ。
それを見た男子ズに衝撃が走ったッ!!!
「おいなんだあのキラキラ可愛い笑顔は!! 俺でさえあんな笑顔見た事なければあんなに懐かれた事もなかったのにッ!!」
「色々うるさい肩を揺らすな……僕もだよ」
「僕はあります!!」
ショックで動揺を隠せないイーサンと内心衝撃を受けているのに表には出さず呆れ気味を装うリアム、そして唯一肉親の特権で見た事がありドヤァとするフィンレーと各々バリエーション豊かな反応を示す。
説明しようッ!
エキドナは原則男嫌い。
でも排他的な過激派ではないため対応はある程度マイルドでもある。
また友人枠兼まだ幼い子どもだからという理由により(現時点では)リアムとイーサンとも仲良く出来ているのだ。
だがしかしッ!!
女子に対しては素が出てかなり対応が甘くなるのである!!
つまり『デレ』が発生するのだ!!
そして今迄の男子ズに対する対応は実は結構冷ためな『ツン』だったのだ!!!
また可愛いもの大好きな面食い故にステラのルックスはエキドナの好みであった!!!
つまり今目がとても幸せなのである!!
「『様』だなんてそんなっ…私の事は『ステラ』と呼び捨てして下さいませ♡」
「では私も『エキドナ』と♡」
騒めく男子ズに気付いてないのかガン無視なのか、ステラとエキドナは手と手を取り合いにこにこのんびりと微笑ましいやりとりを繰り広げていた。そしてそのまま趣味やお菓子の話と言ったガールズトークに突入している。
(もし仮にこっちが彼女の本来の姿だとすると…エキドナって本当に "男嫌い" だったんだな……)
未だ衝撃が消えないままリアムは悟るように心の中で呟くのだった。
こうしてエキドナとステラは友達になり仲良くなった。
しかも元々男嫌いだからこそ、女子ばかりの世界で生きてきた経験と……さらには前世で実習やグループワーク過多により百人以上の同級生全員と会話する機会が多いため必然的にコミュ力が上がる特徴を持った看護女子大出身のエキドナである。
切っ掛けさえあれば後はこちらのもの。
ステラ伝手で紹介されさらにその女友達から紹介され……雪だるま形式でゴロゴロどんどん女友達を増やしていったのであった。
結局男子ズそっちのけで女友達とばかり遊ぶようになり、とうとうリアム達に『こっちの存在忘れ過ぎ』『いい加減帰って来い』とクレームを入れられるのは割とすぐの話である。