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稽古にて その2


________***


『なら、僕も "リハビリ" に協力してあげる』


リアムのこの発言によりエキドナは一瞬固まった。


…………?

何言ってんだこの人。


「いやいや結構ですマジで」


「遠慮しなくていいから」


脊髄反射で即答したエキドナに、気にせずリアムが横にズイッと近付きエキドナとの距離を縮めた。


「リアム様何してるんですか!! あと姉さまとのハグは僕だけです!!!」


(聞こえてたんかーーーーいッ!!)


大声を出したフィンレーは現在イーサンと剣身をぶつけ合って動きがギリギリ止まっている状態だ。器用だな…。


「フィンレー、試合に集中しないと。…エキドナ、貴女としてはその "耐性" は弟以外にも付けておいた方が後々良いと思うんだけど」


確かにリアムの言い分はわかる。

もし本気でエキドナ自身が男嫌いを治したいのなら複数からのリハビリがあった方が効果的だろう。

だがしかし、リアムは根本的な事に気付いてなかったようだ。


そう思いながら今度はエキドナがリアムの耳元まで顔を近付け…小声で囁いた。


「…そもそも、私 "男嫌い" を本気で治そうとは思ってないよ?」


「!」


「だからこその関係じゃない。大人になったら私は結婚せず一人で生きる予定」


ヒソヒソと素早く言い切る。


そう。

エキドナがフィンレーと『リハビリ』をしているのはあくまで将来弟を自身の男嫌い故に拒絶して傷付けてしまわないため。

もちろん治せるなら治した方が良いのは重々理解しているのだが……エキドナ本人の心中が複雑過ぎて無理してまで治そうという気がとても起きないのである。


「だからその『リハビリ』は却下。わかった?」


「……」


諭すようにまた小声で呟いた後、顔をリアムから離す。

リアムは無言で顔を俯いていて表情が見えなかった。


(………あ……傷付けちゃった…かな)


エキドナは徐々に焦りが出始める。

別段リアムの事が嫌いとかではないのだ。

ただ上手い言葉が思い浮かばないが……敢えて言うなら『男と結婚する事』が全ての幸せに繋がるとは思っていない、といったところか。

だから男嫌いを治さなくても困らないというか。


前世でも当時二十四歳とまだ若かったが、男嫌い以外の諸事情も重なって半分…いや六、七…八? 割くらいは恋愛と結婚と出産・子育てを本気で諦めていた。

もし結婚出来なかったら一人暮らししながら動物を飼って幸せに暮らそうと本気で思っていたくらいだ。

持病で咳喘息があったからどの程度妥協して何を飼うかまでは決めてなかったが。


でもその話を一旦置いとくとして、リアムは複雑な立場と境遇から人に甘えるのが下手なところがある気がする。

…遠回しに甘えたかったのだろうか?

色々思いつつエキドナが心配気味にリアムの様子を見守り続けると、




「この前はあんなに僕を抱き締めてくれたのに?」


「へ?」


「えっ!!!? エキドナちゃーーんッ!!? ナニソレお父様聞いてない!!」


「そうなの姉さまぁ!!?」


「あの時の貴女はかなり情熱的だったね」


(こいつこっちが本命かぁぁぁ!!! )


リアムの爆弾発言を受けショックで試合どころじゃなくなったアーノルドとフィンレーが勢いよく振り返る。

そんな二人に気付いてない風にリアムがわざとらしく照れながらはにかんだ。


(そんな繊細な演技出来たんかいッ!! 心配して損したわ!! )


慄くエキドナを他所にリアムの悪ノリは止まらない。


「エキドナ…」


爽やかに甘く微笑みながらそっとエキドナの手を握る。


「あ"あ"あ"あ" 娘に触るなマセ餓鬼(ガキ)ぃ!!!」


(お父様言い方ぁ!!)


娘を取られた嫉妬で激しく取り乱しているアーノルドに対し、リアムはとても楽しそうだ。

…多分さっきネチネチ絡まれた事への報復のつもりなんだろうか。

タチ悪ぅ!!


「リー様やめて、落ち着いて下さい」


「エキドナ、敬語。いいじゃないか別に。僕達は "運命共同体" なんだから」


リアムがエキドナにしか見えない角度でニヤァ…と黒い笑みを浮かべる。

だから言い方ぁ!!


「この私から娘とのイチャイチャを奪った挙句早々に手を出そうとは…もう我慢ならんッ!! そこへ直れクソ餓鬼ぃ!!!」


(お父様落ち着いてーーッ!! 言い方どんどん酷くなってるからーーッ!! こんなんでも一応王族だからーーッ!!!)


自身の心の態度は棚上げで練習用の剣をリアムに突き付け今にも食ってかかりそうな半泣きの父親を止めるべくエキドナが慌てる。

収集がつかなくなり掛けた刹那、


「姉さま!! なんでリアム様をだきしめたりなんかしたの!!?」


フィンレーが勢いそのままにエキドナに大声で尋ねた。

急にしん…と静かになり何故かみんなの視線がエキドナに集まった。


(え、何でみんな私を見るの…? 何その視線)


真実を知りたい風なマジ顔のアーノルドとフィンレー(←怖い)、唯一第三者の立場で事情を知るため心配そうに伺うイーサン、…楽しそうなリアム。


(とりあえずリー様、後で覚えてろよ)


リアムを恨めしげにうっすら睨みつつ、エキドナは正直に『リアムが泣いたから慰めるために抱き締めたのだ』と弁解しようと口を開き…


瞬間、辛そうに泣くリアムの姿が脳裏に浮かぶ。


「……」


「姉さま?」


「エキドナ?」


何か言おうとしてそのまま一時停止した姉(娘)にフィンレーとアーノルドが声を掛ける。


「〜〜〜〜!」


(わかる人にはわかるレベルで)困ったような表情をしながらエキドナはゆっくり俯いて意を決したように、


「…やむを得ない事情があったんです!!」


本音をぐっと堪え無理矢理誤魔化すのであった。





その後午後の稽古を終えてアーノルドは用事が出来たので『これからの稽古、覚悟して下さいリアム様』とがっつり睨みつつそのまま立ち去った。(注:もちろん顔の影と『ドドド』付き)

……こんな調子でジャクソン公爵家への長期計画続けられるのかこの二人は。


そして現在、エキドナ、リアム、フィンレー、イーサンの四人で休憩がてらまったりお茶をしているのである。


「…貴女ならそんな風になる気がした」


リアムは未だに楽しげに下を向いてクスクス笑っている。


「…本当の事を言っても良かったんだよ?」


対するエキドナはご機嫌斜めだ。

ちょいオコである。

そんなエキドナを気にもとめずリアムはエキドナを見つめ、したり顔で微笑んだ。


「出来ないでしょ。エキドナは人が本気で嫌がる事はしない人間だからね」


「うっ」


やっぱり気付いていたか、と思っても時すでに遅し。

知られると一番厄介な相手に気付かれてしまった気がする。

そんなエキドナの複雑な心境を知ってか知らずかリアムは相変わらずにこにこしていた。正直今の彼の笑みは作ってるのか素なのかよくわからない笑い方だ。


「僕はなっとくしてませんからね!」


プンプン怒りながらフィンレーがお菓子を口に入れ、「おいしいですサン様!」と用意したイーサンに笑顔で言う。

単純かわいい。


「…でも、現実的な話これから社交で仲睦まじく見せたりダンスを披露したりしなければいけなくなるだろうから、どちらにせよ必要な事だと思うよ?」


「……えぇ〜」


その後あれこれ理由を挙げられて言い包められてしまい、フィンレーほどの頻度でなくてもリアムとの『リハビリ』も決定してしまったのだった。



「エキドナ…リアムがすまないな…」


兄として責任を感じたのであろうイーサンがしゅんと申し訳なさそうな顔をしながらエキドナに謝る。


「いえいえサン様は悪くないです! 謝らないで下さい!」


そもそも兄弟だからといって代わりに謝ったりするのは前世の経験から真剣にお勧めしない。


「あっそうだった! 安易に謝っちゃ不味いんだったなごめ…」


イーサンはハッとした顔になりそんな彼をエキドナが見る。二人の視線が重なった。


「「……ふふっ」」


何故か少しおかしな気分になったので二人で軽く笑い合ったのだった。


「…そういえば、俺も『リハビリ』? とやらに協力した方がいいのか? 」


「事情はよくわからないが」とイーサンが遠慮気味に尋ねる。


「お前はいらない引っ込んでろ」


なんかリアムが乱入して来た。幾分か緩和されたとはいえ相変わらず兄には冷たいらしい。


「酷い!!」


「まぁまぁ二人とも」


色々やり取りしたのちに、イーサンには必要時に限り『リハビリ』に協力して貰う事になった。

こうして二人の王子はアーノルドによる初稽古を終えてエキドナとフィンレーとも交流を深めた後、迎えに来た馬車に乗って王城への帰路に着いたのであった。




「…なぁリアム」


「何?」


流石お忍び用とはいえ王族の馬車は揺れが少なく静かだ。

そんな馬車にリアムとイーサンは向かい合うように座っていた。


「エキドナに『リハビリ』を言い出したのはもしかして甘えたかっ(いた)ぁッ!!!」


「ふざけた事言うからだよ馬鹿イーサン」


純粋な疑問として尋ねただけなのに、兄に対して容赦ないリアムに真顔で思い切りすねを蹴られた。

城に着くまでの間ひたすら痛みに悶えるイーサンであった…。


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