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閑話 〜彼女との出会い、そして変化 (リアム視点)〜


________***


僕の名はリアム・イグレシアス。

我が国、ウェルストル王国の王子だ。


僕には三年前から婚約関係を結んでいる相手が居る。

『王家への忠誠心が強く家柄も良し。そして同い年だから』という比較的単純な理由で僕の "両親" が名家の一つであるオルティス侯爵家に婚約を提案したそうだ。


この婚約は僕が正当な王位継承者としてより強固な後ろ盾を得るために決まった政略的なものだった。

王族や貴族間ではよくある話だろう。


しかしあくまで『提案』とは言え王家からの申し出を受け入れる選択肢以外無かったはずなのに、侯爵は二つ返事で了承するどころか限界まで難色を示していたらしい。

当時、侯爵の行動が僕には到底理解し難かった。

自分の娘が王族と縁続きになれば侯爵の立場はより安定するし発言権や影響力も強くなる。

侯爵家にとってメリットしかない縁談のはずなのに。


…いや、下手に出世欲がある人間よりは御しやすくて好都合か。

今考えると数多居た婚約者候補の中からオルティス侯爵家の娘が抜擢されたのは、そういう要素があったのかもしれない。



けれども正式な婚約が成立する少し前の…事実上の『両家顔合わせ』という名目で僕の婚約者、エキドナ・オルティスと初めて出会った際に、オルティス侯爵が渋っていた理由が少しわかった。


エキドナは僕と同い年の女の子で、客観的に見た限り長く真っ直ぐな金髪と金の眼が特徴の顔立ちがはっきりした綺麗な子だった。

しかし同時に彼女は…人目をひく容姿の割にかなり内気な性格をしていた。


オルティス侯爵から受け継いだ大きな瞳はややキツい印象さえ与えるのに、エキドナはこちらを見向きもせずいつも身体を縮こまらせていた。

視線を合わせようとしても顔を背けてしまうし、笑顔を作って声を掛けても表情は固く口数も少なく、声もか細い。

必要最低限の受け答えがやっとの状態だった。


けれど直後に『エキドナ・オルティスではあまりに頼りない』という名目で臣下達が自分の娘を次々に紹介し始め……仕方なく会った事で、結果としてエキドナの利用価値を思い知らされた。


他の令嬢達は皆口うるさく全体的に幼すぎたのだ。

『王子様』『リアム様』と理由無くまとわり付いた挙句に些細な事ですぐ泣き出すため理解に苦しむ。


そう、エキドナ・オルティスの最大の利用価値は物静かで欲の無い性格だった。

加えてオルティス侯爵や侯爵夫人、幼い弟妹達に対する彼女の立ち振る舞いから、今後僕の邪魔になる可能性は低いと判断した。

"人畜無害" とはまさにこの事だろう。


彼女の場合、より効率的な意思疎通の能力に関しては難ありだ。

でもこの婚約の本質はあくまで一族同士の繋がりであり、そこから生まれる利益のためだ。

そのお飾りとしての役目は果たしているので最低限の意思疎通が出来るだけ及第点だと判断出来る。

そんな内気な彼女が王家の中枢に組み込まれ利用され続けるのは気の毒な話かもしれないが、これもよくある事だ。

何も感じない。

だからこの三年間、他の娘より扱いが楽なエキドナとの婚約をずっと続けていたのだ。




……ところが最近奇妙な出来事が起こった。


それは王家、正確には "父親" が主催したお茶会での事。

婚約者のエキドナを隣に立たせつつ王族の一人として次々やって来る客人の対応をこなしていた。

余談だが、彼女の人見知りは貴族の間でも知られていたため客人達のほとんどは彼女を "居ない者" として扱い僕だけに声を掛け擦り寄ってくる。

本来なら未来の王子妃に対して不躾な扱いだろうが、これは彼女が招いた事。彼女自身の問題だ。

だから僕もたいして気に留めなかった。


しかしそんな催しが終盤に差し掛かった頃…彼女に、一つの変化が起こった。


「!!?」


ずっと俯いていた彼女がいきなり顔を上げ、金の目を大きく見開き絶句したのだ。

いつも表情が乏しく変わらないからこの時はただ『珍しいものを見たな』くらいしか思わなかったのだが、


フッ


今度は諦観したように外の景色を眺め始めるのだった。

…確かに彼女は以前から一人で曖昧に遠くを見るところがあった。

けれど、これもまたいつもとは何かが違う。

金色の瞳には生気が無く冷め切って…いやむしろ目が死んでいる。


「どうかされましたか?」


急病とはやや違う気もするが念のため僕は声を掛け反応を見る。

一応僕の声が届いたらしい、彼女は我に帰った様子で外の景色から僕とそばで控えていた侍女へゆっくり顔を向け、僕達を真っ直ぐ見つめ返した。


本当に珍しい。

彼女の顔を正面から見たのは初めて会った時以来かもしれない。


だが同時に……僕はそんな彼女への "違和感" がより強く増していくのだった。

何故なら僕達を見つめる顔はとても大人びていて、えらく達観した表情だったからだ。


「お嬢様、いかがなさいましたか?」


無言を貫く彼女に痺れを切らしたらしい侍女が声を掛ける。


(声を掛けたとしても返事は無いだろうに)


そう思っていた。


「少し疲れてしまっただけですわ。でも大丈夫です!」


「えっ…」


(喋った)


すぐ浮かんだ感想はこれだった。

いや、今迄まともに会話出来なかった事の方がおかしいはずなのだが。


(しかも笑顔であんなにはっきりと)


側から見れば少々オーバーに映るかもしれないけれど、それだけ衝撃的な出来事だったのだ。

今迄肉親以外笑顔を見せた事がなかった相手が突然僕達に微笑んでみせたのだから。


「!!?」


彼女の後ろに控えていた侍女も息を呑み固まっている。

おそらく僕と同じ感想を抱いたのだろう。


(どういう風の吹き回しだ?)


しばらく彼女の出方を伺っていたが、それ以降エキドナは何事もなく無難にお茶会を済ませて早々に自分の屋敷へ帰ってしまった。

だからあの時抱いた違和感は僕の思い違いで、エキドナが喋ったのもただの偶然だと片付けた。


けれどこの時まだ気付かなかった。

僕達の知らないところで彼女に大きな変化があった事も、このささやかで劇的な瞬間を境に彼女に翻弄される日々が始まった事も……僕は気付けなかったのだ。


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