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初訪問


________***


リアムの本心を知ってから一週間後。


「こんにちはオルティス侯爵、侯爵夫人。本日はお招き頂きありがとうございます」


「俺…じゃなくて、そ、その、ぼぼ僕達への心遣い、感謝っ…します…!」


場慣れしているリアムに対してイーサンは赤面しながら挨拶を噛みまくっている。

無理もない。

彼にとって人生で初めて離宮から外へ出たのだから。


「ようこそお越し下さいました。リアム様、イーサン様」


「お二人がお越し下さるなんて大変喜ばしく思います。本日は我が家のようにごゆるりとお過ごし下さいませ」


そんな二人に目を細めながらアーノルドとルーシーが挨拶し返した。

今日は初めてリアムとイーサンがエキドナの実家であるオルティス侯爵邸へ遊びに来たのである。

表向きは『オルティス侯爵であるアーノルドに剣の指南を受けるため』。

そして裏の目的は大きく二つある。

一つ目は『以前あった騒動には何も問題なく関係は良好』という世間へのアピール目的だ。

もう一つは後で説明しよう。



「……ようこそリアム様、サン様。こちらは私の弟と妹です。ほら、二人とも挨拶して」


「アンジェリア・オルティスです! はじめまして!」


笑顔で元気いっぱいの挨拶をするアンジェリアは相変わらず天使である。百点満点だ。(←シスコン)

一方同じく天使枠の弟はというと…


「……フィンレー・オルティス…です」


ぎゅうううううう〜〜と(エキドナ)にしがみ付いて離れない。しかも二人を軽く睨みながら嫌々挨拶している。


(…この子こんなに人見知り激しかったっけ?)


余談だがフィンレーは私より僅かに背が低いので今フィンレーの顔は私の首筋にぴったりくっついている状態である。

かわいい癒される守りたいこの癒し。

いずれは抜かされるんだろうけど。



「……弟が居るとは聞いていたが、随分お姉さんっ子なんだな」


少し戸惑いながらもイーサンは苦笑してフィンレーを受け入れている。


「姉離れしなさ過ぎでは?」


対するリアムは容赦ない。笑顔でばっさり言い切るのであった。


「ちがいます! 今の僕は姉さまを守ってるんです!!」


未だエキドナにしがみ付きながらもフィンレーが二人の方へ顔を向け反論する。

…… "守る"?



「姉さまのほっぺた…すごく痛そうでした」


(エキドナ)を想う(フィンレー)が真剣な表情で二人の王子に訴えた。

その言葉にイーサンもリアムもハッとして申し訳なさそうな顔をする。


(あぁ…あの時の怪我の事ね)


結局頬の怪我は完治に一週間かかりその間フィンレーはかなりエキドナを心配していたのだ。

傍目から見たらアレだがフィンレーなりにエキドナを守るためリアムとイーサンを警戒していたらしい。

……そもそも殴ったのは二人ではなく父親(アーノルド)だしエキドナ自身が招いた結果なのでリアムとイーサンは全然悪くないのだが。


「フィン、私のほっぺた腫らしたのはお父様だから」


「でも! 原因はこの二人なんでしょ!」


「こら、人を指さしてはいけません」


こつんと軽く頭を小突いて王子相手に指をさすフィンレーを止めさせる。


「すみませんうちの弟が無礼を」


「良いんだよエキドナ。彼が言ってる事も一理ある」


「元々俺達の関係にエキドナを巻き込んでしまったからな…」


「そうですよ! 姉さまのほっぺた真っ赤に腫れてその後青くなってました!」


リアムとイーサンが非を認める発言をした事でフィンレーの勢いが増した。

(エキドナ)を想っての行動なのは理解出来るが気持ちだけで十分だ。


「ごはん食べるの痛そうでした」


「フィン…もう大丈夫だから」


「姉さますごく落ち込んでて時々『あああーやってしまったーっ!!』とか変な声出してました!! キノコ生やしてブツブツ言ったり「うんそれ以上は喋らなくていいよ愛する弟よ」


エキドナが素早くフィンレーの口を片手で塞ぐ。

ご丁寧に頭を抱えて涙目で困った顔やウジウジキノコを生やしているところまで再現してみせた。

恐らく本人は至って真面目に話してるのだろうが、そんな個人情報を二人に知られるのは軽く生き恥である。


「っ……」


リアムが笑いを堪えて小刻みに震え始める。

震える王子久しぶりの再来だ。


(ほら〜早速リアム様ツボ入ってるじゃんか!)


「何で笑うんですか!!」


しかしリアムの反応が気に食わなかったのかフィンレーはリアムを睨みながらエキドナから余計に離れようとしない。

プンプンしてるのは可愛らしくて和むがこのままだと話が進まない。


「フィンレー、いい加減エキドナから離れなさい」


アーノルドがフィンレーを嗜める。


「構いませんよオルティス侯爵」


フィンレーを庇ったのは意外にもリアムだった。


「フィンレー、折角ですからオルティス侯爵との話が終わったら皆でお話ししませんか?」


リアムがにこやかにフィンレーに話し掛ける。

……しかしエキドナは感じていた。

リアムの愛想が良い時はほぼ何か裏があると。


「貴方も(エキドナ)と同じで面白そ…いえ見どころがありそうですからね」


(玩具(おもちゃ)認定してるーーーーッ!!!!)


いや私はドMじゃないから自分自身を "リアムの玩具(おもちゃ)" とかカケラも思ってないけどね!!

しかも『見どころ』って単語のチョイス!!

『観察したら面白そう』って意味じゃんか悪意しか感じないわッ!!!


「リアム様ダメです。弟はダメですからね」


エキドナがリアムを真顔で牽制する。

今度は逆にエキドナがフィンレーを守るようにぎゅっとフィンレーを抱き締め返すのだった。

だがそんな状況にも関わらず、リアムは楽しそうににこにこし続けている。

多分、姉弟(きょうだい)セットで反応を楽しんでいるようだ。

恐ろしい子…!


ぐぬぬぬとリアムvsエキドナ&フィンレーの謎の攻防劇が火蓋を切って落とされようとした刹那、


「リアムいい加減悪ふざけはやめろ…俺の弟が色々失礼したなフィンレー」


イーサンがリアムを嗜めつつフィンレーとエキドナの目の前まで歩み寄って来た。

四人の中で一番背が高いイーサンが少ししゃがんで一番背の低いフィンレーの目線に合わせ、穏やかに微笑む。


「大丈夫だ。もうエキドナを傷付けたりはしない」


「……」


イーサンの真摯さを帯びた優しげな表情と声で『この人はリアムの兄だが性格は違うのかもしれない』と感じたのであろう、フィンレーが警戒しつつも大人しくイーサンの顔をじっと見つめている。


「このイーサン・イグレシアス、誓って君の大切な姉上を悪いようにはしない。…だから少しだけエキドナを貸してくれないかな?」


「……わかりました」


こうしてフィンレーが渋々エキドナから離れたのでリアム・イーサン・エキドナはアーノルドと一緒にもう一つの目的を果たすため場所を移したのだった。




________***



「_____なるほど。ジャクソン公爵家が貴方にそのような暴挙を…」


勤めて冷静に対応しているが正義感の強いアーノルドである。怒りで両手の拳を強く握り締め震えている。

今エキドナは人払いが済まされた一室でリアム達と一緒に話をしていた。


これまでのやり取りから現在リアムはジャクソン公爵家に『駒を増やすため』と説明してイーサンと交流する旨を伝え、向こうも納得したらしい事がわかった。

だから今後は一応イーサンと行動を共にしても怪しまれない環境を作る事が出来たのである。

しかしながら、肝心の『ジャクソン公爵家がリアムに暗殺未遂を行った』確固たる証拠がないまま。


今回リアムとイーサンがオルティス侯爵邸を訪ねたもう一つのそして最大の目的……それは、


「ええ、ですからオルティス侯爵にも僕の計画に協力して頂きたいのです」


先程とは打って変わってリアムが真剣な表情で話す。

対してアーノルドは未だ厳しい表情を変えずにいた。


「……お言葉ですがリアム様、我がオルティス侯爵家ではジャクソン公爵家を相手にするのはいささか分が悪いと思われます」


オルティス侯爵家はその家格や歴史の長さからこのウェルストル王国の名家の一つとして挙げられている。

しかし相手のジャクソン公爵家は現当主ニコラスから始まっているので歴史自体かなり短いが侯爵家よりも家格が上の公爵家。

そしてニコラスは王族の血を引く先王の実の弟であり、その娘ビクトリアは現国王の従妹で尚且つ目の前にいるリアムの生みの親…つまり国母である。

この国でどちらが強い影響力を持っているかと言えば間違いなく後者だろう。


「いいえ、厳密には "オルティス侯爵家" の力を借りたいのではありません」


リアムが不敵な笑みを浮かべる。


「…ホークアイ伯爵家は『隠密』もされているのですよね?」


「!! …なるほど、そういう事ですか」


「話が早くて助かります」


後で知った話だが、アーノルドの実家であるホークアイ伯爵家は過去に武功を挙げた騎士を数多輩出した武闘派一族である一方で…その鍛え上げられた強靭な肉体と王家への忠誠心が買われ、ごく一部の人間に限り裏家業として『王家専属の隠密』の役割も果たしていたらしい。

歴史が長く数々の武功を立てているのに昇格せず現在も『伯爵家』を名乗っているのは他の高位貴族から警戒されない目的もあったとの事。

蛇足だがアーノルドもまだ跡取り息子だった時代に隠密の実践訓練を受けたそうだ。

後継者とはいえまだ王子の立場であるリアムにとって本来なら知り得ない情報らしいが、そこはリアムが独自で調べ上げたそうである。




……しかしこれらは後から知った話である。


「「……?」」


なので現在リアムとアーノルドで勝手に話を進めており、裏事情を知らないエキドナとイーサン二人は完全に蚊帳(かや)の外だった。


(……不味い。なんかお父様とリアム様がかなり難しい話をしてる)


エキドナは二人の会話について行けず頭の中がクエスチョンマークで満席になっていた。


「……」


チラッ…


(エキドナ、今の状況がわからないんだが…)


同じく困惑した様子のイーサンが目線で伝えてエキドナはイーサンの思考を感じ取る。


「……!」


(大丈夫ですよサン様…私もわかりません!)


エキドナもイーサンにメッセージを目線と表情で伝えようとした。気持ちキリッとしてイーサンを見つめる。


だがしかし、所詮エキドナは表情の変化がわかりにくいポーカーフェイスなので、


((…………))


金の目と紺の目が交差する。


「……」


……フイッ…


(……ダメだ。エキドナは表情が変わらないから何考えてるのか全くわからない)


イーサンが諦め、申し訳なさそうな顔でエキドナから視線を逸らしたのだった。


伝わらなかった。


「ふっ…」


エキドナとイーサンの切ないやり取りをリアムが見ていたらしい。

ツボに入ったのかまた小刻みに震えている。


「? リアム様どうされましたか」


「いえ…っあまりにも楽しそうなやり取りを見てしまったので」


うん、リアムはとても楽しそうだ。

私は楽しくない。


「……」


エキドナはやり場のない虚しさをリアムに訴えかけるために、無表情死んだ目で見つめながら無言で首をふりふり左右に振り続けたのであった。

…結局リアムは楽しそうなままだったよチクショウ。




その後やっと先述のホークアイ伯爵家の裏家業と共にリアムによる『ジャクソン公爵家取り潰し計画』の説明を受けた。


少々難しい内容だったので詳細はよく覚えられなかったが、ざっくり結論だけ言うとエキドナとイーサンの役割は『リアムとホークアイ伯爵家が裏で繋がっている』という事がジャクソン公爵家にバレないように誤魔化す……いわゆる "隠れ蓑" らしい。


例えばホークアイ伯爵家が何か情報を掴んだ時の報告。

王城だとそれこそジャクソン公爵家の目があるのでバレるリスクが高い。

そこで『アーノルドに剣の指南を受ける』という名目で定期的にリアムがオルティス侯爵家を訪れて侯爵邸内で情報交換を行う。


またリアムによるホークアイ伯爵家への資金提供のルート問題にもこの隠れ蓑は有効活用される。

王子の立場故に個人の資産がある程度与えられているのだが…一定の額を超えると随時王宮の役人に報告書を出さなければいけないらしい。

そこで "婚約者のエキドナへのプレゼント" などと偽ってエキドナもといアーノルド経由で資金を提供し外部への情報流失を未然に防ぎつつ円滑なやり取りを進める事が出来るのである。


…要するにエキドナもイーサンも特にする事がないのだ。

リアムとアーノルドとホークアイ伯爵家の一部の隠密だけで成り立つ。だからあくまで "隠れ蓑" なのである。


エキドナがリアムの説明でわかったのはとりあえずこんな感じなのだが……かなり綿密そうな長期計画を立案し、アーノルド及びホークアイ伯爵家へ協力を要請する辺りにリアムの本気度の高さが伺える。



本気で、ジャクソン公爵家を潰そうとしているのだ。



((やっぱりリアムだけは敵に回したくない))


普段通りのにこにこ笑顔を浮かべながらそんな長期計画を話すリアムを見てイーサンとエキドナは内心慄いたのであった。


「そういえば…この間オルティス侯爵がエキドナを殴った後は王宮内がその話題で持ちきりだったのでとても動きやすかったです」


「ウグゥッ!!」


良い笑顔でリアムが謝辞を述べ、アーノルドが心のダメージを負って血を吐く。


エキドナ当人は謹慎兼療養中だったので知らなかったが、その時の王宮内では『不仲説があるリアムとイーサンが一緒にいて一瞬口論になった』事よりも家族想いで有名な "あの" オルティス侯爵が『勘違いで愛娘を殴って殺しかけた』事がパワーワード過ぎて瞬く間に広がって盛り上がりまくっていたらしい。


「ああいう目立つパフォーマンスを今後もして頂けると僕としてはかなり動き易いんですけどね」


「ンン"ッ……お戯れをリアム様。その話題で持ちきりだった間、私は同僚達に冷やかされ続けて肩身が狭かったのですよ」


「え、待ってまた私は殴られろって事?」


「リアムそれは流石にちょっと…」


「……そこまでは求めてないよ。二人共僕を何だと思ってるの?」



腹黒王子に進化してからリアムへのマイナスイメージがより強まってしまったエキドナとイーサンである。

呆れ気味のリアムにエキドナとイーサンは困ったように笑って誤魔化したのだった。


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