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-α閑話〜アンジェちゃん 彼氏が出来る 前編〜


________***


これは、エキドナ達が聖サーアリット学園入学後に初めて迎える長期休暇での出来事である。


「ドナ、フィン。課題は順調か?」


オルティス侯爵邸の客間にて、冷えた果実水を口元に運びながら質問するのはイーサンだ。

エキドナは斜め向かい側に座る彼に対して、弟のフィンレーと答える。


「半分くらい終わりました!」

「フィンと一緒に計画を立てて取り組んでるので、休暇最終日に泣くことは無さそうです。リー様の方は…」


正面を見直しながら尋ねると、リアムはとても涼しそうな顔で短く述べる。


「終わった」 「「でしょうね」」


「反応早くないか!!?」


オルティス姉弟(きょうだい)のリアクションにイーサンがすかさずツッコみを入れるのだった。


「だってわかり切ってますし」

「ねー」


「なら何故聞いたんだ…」


しかしエキドナ達も動じていない。飄々とした態度で姉弟同士顔を見合わせて笑っている。

そんな二人に対してイーサンは小さく息を吐いた後、コホンと軽く咳払いをして話題を変えた。


「にしても、年子とは言え同学年の姉弟が居ると課題が捗りそうで良いな。なんだか楽しそうだ」


眩しそうにこちらを見つめる夜色の瞳に滲み出るものは憧憬(しょうけい)


(まぁリー様の方が頭良いし、サン様には塩対応だし、夢のまた夢だろうな…)


エキドナはイーサンの気持ちを理解しつつも果たせない夢である事もよくわかっている為、軽く目を逸らすのだった。そんな姉の心中を知ってか知らずか、フィンレーが楽しそうに会話している。


「姉さまと僕の得意分野が違うから重宝してますよ〜。何より、今しっかり学んでおけば将来リアにも教えてやれますし」


フィンレーの『リア』と言う単語に反応して、イーサンが納得した表情を浮かべながら言葉を返す。


「あぁ、アンジェか。今幾つになったんだ?」


「もう十一歳になりました」


「そんな歳に…。大きくなったなぁ…」


「ですよねぇ…」


「ドナはわかるけど、何故お前が感慨深そうにしてるんだ?」


末子の成長に対して、感動した風に目元を指で拭うイーサンと染み染みした表情で何度も頷くエキドナの二人に、今度はリアムが淡々とツッコむのだった。



________***


「わぁ! サン様、リアム様、お久しぶりです!」


パアッと顔を明るくしたアンジェリアが、王子達の元へ小走り気味に駆けていく。

と言うのも、フィンレーの「なら会います? 多分今暇だと思います」の一声でオルティス三姉弟妹末子、アンジェリアが客間へやって来たのだ。


「久しぶりだなアンジェ」


「背が伸びたね。(ドナ)を追い越すのも時間の問題じゃない?」


「いい笑顔で怖い事言わないで」


相変わらず隙あらば嫌がらせ発言なリアムに、エキドナがジト目で睨んで抗議する。


「まぁまぁ…。ところで、アンジェも少し見ない間にすっかり大人っぽくなったな。前から愛らしかったが…今ではもう、立派なレディの仲間入りか……」


エキドナとリアムを宥めつつ、再び親戚目線になったイーサンの言葉に、アンジェリアも満更では無い笑みを浮かべてはモジモジしていた。その微笑ましい光景に、エキドナもリアムの存在をガン無視してニヨニヨしはじめる。


「かっっわいいなぁ…うちの妹は♡」


「声出てるよ」


リアムがまた冷めた声で指摘するのだった。

さらにすぐそばで「姉さま僕は!!?」とフィンレーの声が聞こえたため、エキドナは特徴的な無表情(ポーカーフェイス)を崩したまま、弟の方を振り返り軽い口調でフォローに入る。


「いつも可愛いよ〜。…あれ?」


言いながら、再度妹に向き合う事で気が付いたのだ。オルティス侯爵家の特徴的なプラチナブロンドを彩るが如く、彼女のサイドの髪に明るいオレンジの髪飾りが付いていることを。


「そう言えばアンジェ、その髪飾りどうしたの? あんまり着けないタイプの色じゃない?」


「似合ってるよ」とエキドナは言葉を続けながらにこにこと微笑んだ。

だが不思議なことに、アンジェリアはラベンダー色の瞳を一瞬大きく見開いたかと思えば、何故か覚悟を決めたような顔をしはじめる。


「あ、あの…お姉さま」


「ん? なぁに?」


「実は、その……。私、好きな人が出来たの」


視線を外しつつも頬を赤らめ、恥ずかしそうに指を交差させるその姿は、まさしく可憐な天使。そんな感想が頭を過ぎるけれども、エキドナは破顔したまま妹の顔を覗き込むように近付け、素早く反応した。


「…ん? 好きな人? 誰かなぁ、お姉さまかな?」


すぐそばで「僕にはその距離感しなくなった癖に〜!」「落ち着けシスコン」と言うやり取りが聞こえて来るが、気にしない気にしない。


「そうじゃなくてぇ〜。もちろんお姉さまも大好きだけど…そのぉ……」


モジモジしながらも徐々にエキドナと目を合わせたアンジェリアは、幸せそうな笑顔でハッキリと答えるのだった。



「私、好きな男の子が出来ました♡」


「「「「……」」」」注:1カメ・2カメ・3カメ



刹那、一帯に沈黙が落ちる。

ポッと赤く染まった頬を両手で押さえ、照れてるアンジェリアは年相応の少女らしい可愛らしさがあった。

だがしかし、姉たるエキドナはそんな妹とは正反対の反応を示した。顔を青ざめ冷や汗をかき、呆然とした足取りで数歩後退している。さらに『この世の終わりか』と言わんばかりにガタガタブルブルと全身を強く震わせ、元々大きく目力のある金の目をカッと見開いたまま、口元を両手で押さえるのだった。


「え"…? なに幻聴…??」


「現実から目を背けないで」


思わずリアムがツッコむのだった。


「ドナ、落ち着いて。貴女らしくも無い」


「そ、そそそ、うだよね…。落ち着かなくちゃ……」


リアムに諭され、エキドナはキョドりつつもテーブルまで足を動かし、紅茶を飲もうとティーカップに手を触れた。


パリンッ ガシャーーンッ!


「あぁっ高そうなカップが…! いやそれ以前にドナ、手、手!! 血ぃぃッ!! 君っ、手を怪我して…!」


今度は食器が割れる音とイーサンの悲鳴混じりの声が響く。エキドナがティーカップの持ち手を握り潰したのだ。中に入っていたであろう紅茶がカップだった物から溢れ、絨毯にシミを作る。

イーサンの指摘に対して、エキドナは未だに固まったまま棒立ち状態だ。


「本当に何やってるんだよ。全く…」


本気で呆れた様子のリアムがハンカチを取り出してエキドナに駆け寄り、慣れた手付きで止血しはじめるのだった。


「う、うむ…。まぁ、アレだよな」


そんな二人を見たイーサンは動揺を隠せないなりに場の空気を変えようと話を振った。


「取り乱しまくってはいるが、きっと妹可愛さからなんだろうな。……とは言っても、いくら何でもちょっと動揺し過ぎだよなぁ。そう思うだろう? フィン」


「本当ですよ。姉さまったらもう」


イーサンの言葉に賛同するように、フィンレーは短く息を吐いて答える。そして無音でイーサンの背後へ近付いた。


「ところでサン様」


ポン、と軽い力でフィンレーの手がイーサンの肩に置かれる。



「良い毒を置いてる店、知りませんか?」


「君も重症だったッ!!!」



二度目の叫び声が響く。

というのも、後ろに立つ人物が死人のような顔でゲボォ…と口から血を吐きながら尋ねているからだ。異様な状況にも関わらず、貼り付けた笑顔で尋ねているので余計に狂気を感じる。


「おっ落ち着いてくれ! フィン…痛っ…俺の肩を、潰そうと、するなぁ!!」


『メリメリメリ』と肩付近から物騒な音が聞こえて、イーサンはさらに狼狽する。対するフィンレーは中性的な美貌をかなぐり捨てて、ギリギリと歯軋りしながら相手の嘆願ガン無視で手の力を強めるのだった。


「フィン! アンジェがっ、アンジェがぁぁ」

「姉さま! リアが…!!」


イーサンから離れたフィンレーは姉と互いに手を取り合いオロオロし始めた。その姿は同じ髪色をした者同士、つまり姉弟らしくて和むなぁとイーサンは思った。当人らはそれ所では無いのだろうが。



「今の話は本当かァァァァァッ!!?」


「オルティス侯爵地獄耳過ぎぃぃ!!!」



『ドドドドド』と言う異音と共に、扉を壊す勢いで部屋に乱入するのはオルティス姉弟妹の父親たるアーノルドである。彼が居たであろう執務室と現在地の距離を考えてイーサンが叫ぶのだった。しばらくして、


「うん。取り敢えず姉さまは、その好きな男の子とやらに会ってみたいな〜♡」


エキドナの言葉や笑顔とは裏腹に、ボキッバキッと指を鳴らす音が響いた。次第に顔が不思議な影が覆われ、背景からは父親同様『ドドドドド』と謎の威圧音が現れていた。「可愛い妹を誑かすとは許せん!」と言う心の声がダダ漏れである。


「そうだね。まずは顔を見て話を聞かなきゃだよね。…詳しく」


怪しげな笑みを浮かべるフィンレーまでもが、父姉同様の影と威圧音を纏うのだった。


(毎度毎度、この家の血筋はどうなってるんだ)


「オイ、大丈夫なのか? これ」


独りごちるリアムの横で、イーサンが不安げに声を掛ける。このままだとオルティス侯爵邸で殺傷沙汰が起こりそうだと思ったからだ。イーサンとしては噂の男児の命を守るため、積極的に止めておきたいのだが、自分では役不足と考えるので、何か思い浮かびそうな(リアム)に尋ねたのである。


「大丈夫でしょ」


対するリアムは兄の予想に反してけろっとしている。彼の反応に、イーサンは希望を感じて明るい笑みを浮かべた。


「そうだよな! いくらあの三人でもそんな…」


「相手の家格によるけど、オルティス侯爵家なら死体の一つくらい隠蔽出来ると思うよ」


その言葉にイーサンが固まる。見ると、リアムは何か秘策あるのでは無く、今の状況にただ呆れていただけだった。よく見ると顔に『面倒臭い』と書いてある。


「おいぃぃッ! それは『大丈夫』とは言わないだろッ!! むしろ王族としてより止めなきゃだろうがッ! 」


「イーサンうるさい。それにしても…」


叫ぶイーサンを嗜めるリアムであった。


「血で血を洗う決戦じゃアアアアア!!!」

「「うおおおおおおおおおお!!!!」」


拳を天に突き刺し雄叫びを上げる婚約者及び父弟をスルーしつつ、リアムはアンジェリアをチラリと見やる。


「もぉ、お父さま達ったら心配し過ぎですよ〜。私のためってわかってますけどぉ」


武闘派一族の血を引く父親を筆頭に、姉、兄が殺気立っているにも関わらず、話の中心人物たるアンジェリアは終始照れながらニコニコしているだけらしい。単に周りが見えていないだけかもしれないが、身内の反応を楽観的に受け取る彼女の姿に、リアムとイーサンは少し引いた。


「この状況で肝が据わっているな…」


「う、うむ。きっと自己肯定感が高い子に育ったんだろうな……家族に溺愛されまくって」


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