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バトル勃発


________***


「どうしよう…どうしよう…」


「ドナ氏ぃ落ち着くでござるよ」


「落ち着けって言われても…ッ」


友人たるセレスティアが冷静な声色で宥めるけれどもエキドナはソワソワと狼狽えたまま、短い距離を行ったり来たりしていた。


「だってさぁ、これ空回りじゃん…完っ前に空回りじゃん。良かれと思ってした行動が全力で空回りしてんじゃん。どうしよこれ、これじゃただの卒パで浮かれた変人だよぉ〜…。めっちゃ恥ずかしいやつ…」


「……」


これまでの自身の言動を振り返っては羞恥しているエキドナの今さら発言に、セレスティアは何もフォロー出来ずただ苦笑いを浮かべていた。

すると、


「あっ あの! エキドナちゃん!!」


「あ! 先輩、ご卒業おめでとうございます♡」シャキッにこっ


「切り替えはやッ!」


横に居たセレスティアが思わずツッコむほどの反応速度である。

以前から社交等で交流があった先輩(注:女子生徒)に声を掛けられたエキドナは即座に直立し、紳士的な笑顔を向ける。

対するご令嬢はにこにこと可憐な笑みを浮かべながら、少し恥ずかしそうに口を開いた。


「ありがとう…あのね、卒業パーティーの思い出として、私とも一曲踊ってくれないかしら?」


そう。相手は卒業生だ。

もともとお祭り好きな面があったエキドナは、その申し出に口元を上げて答えるのだった。


「えぇもちろん!」


「本当っ!? きゃー♡」


「えっずるいわたしも!」

「次あたくしで!」

「いいえ私とですわ!」

「ぜひわたくしと!!」


「わっ…」


気付けば周りにいた卒業生達(注:全員女子)に囲まれ退路を塞がれていた。

黄色い歓声を全身で軽く受けつつエキドナが一人一人に声を掛けるため動き出すと、「ヒュー♪ やるじゃん色男☆」と揶揄う男の声が前方から聞こえてくるのだった。


「フランシス様!」

「まぁっフランシス・リード様だわ!!」

「宰相閣下のご子息の…!」


淑女達の熱を帯びた悲鳴と共に、どこぞの仙人の如く前方の人だかりが左右真っ二つに割れる。

エキドナの目の前に現れたのは派手な赤毛が特徴でありこの世界によく似た乙女ゲーム『乙女に恋は欠かせません!〜7人のシュヴァリエ〜』の攻略キャラの一人、フランシス・リードである。


(赤…)


かなり他人事に知識を振り返りながら、エキドナはチラリと、フランシスの燃えるような赤毛を見た後で自身を包む真紅の衣装を見つめて胸のうちで独りごちる。


「これはこれはご機嫌麗しく……美しいお姫様方」


パチンと片目を閉じる彼の言動で再び悲鳴が上がる。女好きチャラ男キャラであるフランシスらしく、両サイドには華やかな美女達がフランシスの腕やら肩やらに手を回し意味深なほど密着している。


(女性にモテモテ…)


そして当の本人もパーティーらしく黒と金を基調とした豪奢な装いをしていた。何よりフランシスのトレードマークたる赤い薔薇が…


(赤い薔薇…ハッ…!)


「この国は恵まれてるなぁ…。光り輝く宝石達に目眩がしちまう。……この後、俺とどう?」


考え事をしている合間にフランシスはスマートな身のこなしで周囲の女子生徒達に一輪の花を手渡しては甘い言葉を囁いていた。


「君、可愛いね」


キメ顔と共にフランシスが女子生徒達に配りまくってるのは赤い薔薇。


「名前教えてよ♡」


そしてエキドナの胸に飾られているのも、赤い薔薇。

刹那、目の前のチャラ男との事実にエキドナは愕然とした。


(キャラが被ってる…ッ!!)


「にしてもよく胴体を平らに揃えたなー。ドナ」


複雑な心情になっているとは露ほども知らずに、フランシスが歩を進め気さくに話し掛けてくる。

手を自身の顎に触れたままエキドナの胴回りをジロジロ遠慮なく見つめるのだった。


「…………まさか、潰した?」


『もったいない』と言外に訴える視線と言葉に、エキドナは顔を顰めつつ自身の腹回りをポンポンと軽く叩いた。


「胸は軽く押さえる程度だよ。やろうとしたら色々と不安になったからやめた」


「ほー。ならどうやって?」


「ウエスト部分を布で補填して平にした。…間違っても悪ノリで摘んでみたり、腰掴んで回ってみたりとかしないでね。内臓飛び出て大惨事だわ」


「布を内臓って言うヤツ初めて見たわ」


「もぉ〜! フランばっかずる〜いっ」


淡々とツッコむフランシスのすぐそばから声がしたかと思えばドンと押すような音が聞こえ、エキドナの周りを華やかな美女達が取り囲んでくっつき始める。


「男装なんて素敵ー♡」

「あたし達とも踊って〜♡」

「エキドナサ・マ♡」


「ッ……」


ベタベタ密着する美女達に対して同性相手とは言えエキドナはゾワッとしたまま僅かに硬直する。

そんなエキドナの心境を知ってか知らずか、フランシスの焦った声を出した。


「ハァ!? ちょっ何してんだよジェシカ、マリリン、アナスタシア(以下省略)…!!」


フランシスの言葉に彼の取り巻きだった女子生徒達がエキドナに枝垂れかかりながら口を開けた。


「だってぇ〜……エキドナ様の方が男前な感じがするもの♡」


「うっ」


「わかる〜! 変なチャラさが無くて上品な色気…って感じよねぇ! もともとエキドナ様は流行りの香水や男装をしなくてもフランには無い不思議な色香があったけどぉ…」


「うぐっ」


「フランもイケメンだけどぉ〜やっぱ正統派イケメンには勝てないよねー♡」


「うぐぐっ…ぐはぁ!!」


「「「ねー♡」」」と笑顔で頷く取り巻き達の辛辣な言葉が、大きな矢印と化してフランシスをグサグサ容赦なく突き立てる。


「ッ……!」


音も無くフランシスが膝から崩れ落ちた。


「〜〜っ」


だがしかし、フランシスだって結局はいい男だ。


「…………」


いい男であろうと、日々努力しているのだ。

密かに歯を噛み手に力が篭るものの表面上はそれを出さずにまた音も無く立ち上がる。


「……っと、」


内心普段から親密にしていた女達を取られた悔しさ、裏切られた怒り、男装エキドナへ対する嫉妬心等が激しく渦巻いていたとしても、『女性に八つ当たり』など彼の辞書には存在しない。


「す…すっかりモテ男だなぁー」


引き攣った笑顔ではあるが、揶揄い混じりの口調で拍手し好敵手(ライバル)に賞賛の言葉を送る。


「…!!」


その瞬間ッ

エキドナの胸の辺りに、熱く奇妙な気持ちが込み上げた!

フランシスの言葉に、エキドナはサラッと白っぽい金髪をかき上げ妖艶に……ドヤ顔で微笑む。


「一人勝ちしちゃって……ごめんね?」ドナァ


それは優越感! 男としての自信!!

"女性を惹きつける魅力がフランシスよりも優っている" という、まごうことなき事実による完全勝利である!!!


「うっぜーッ こいつマジでウッゼぇぇッ!! 調子乗んなやこのどチビがァァァァァ!!!」


フランシスの理性が秒で崩壊する瞬間だった。先刻のスタンらのように嫉妬に狂い、床を激しく踏み鳴らす。

そしてエキドナを指差したかと思えば悔しそうに叫ぶのだった。


「そりゃそうだろーがよぉ!! 男装なんてなんかレア感あるし?? なんならアイドルっぽいしぃ〜??? ……でもなぁっ! 本当に女にモテるのは俺みたいなチャラさと誠実さの両方を併せ持つ男なんだぜ〜! 俺の方が結局モテるんだよなー!!!残念でしたァァァァァ!!」


「うっわ、フランのヤツ嫉妬よ嫉妬」

「カッコ悪ぅ。男の嫉妬ほど見苦しいとはよく言うわよね〜〜」

「サイテー。…え? てか泣いてない?」

「あっホントだ半泣き。かわいそー」


「うるせぇ!! ずっと『フラン♡』『フラン♡』って寄ってきたあんたらにだけは言われたくねぇよ!!」


言いながらフランシスが袖で潤んだ目元を拭き、エキドナをもう一度睨む。


「…つーことでドナ、俺と勝負しろ!!」


「お、おう」


チャラ男の闘争心に火を付けてしまったらしい。こうしてフランシスとドナルド(注:エキドナ)による、どっちがよりたくさんの令嬢達と踊れるかを競った……要するにナンパ対決が始まったのである。


「ショーブすんのか!? 面白そーだなッ! ならオレもオレもッ!!」注:よくわかってない。


「えっ じゃあ俺も…??」注:よくわかってない。


すると状況を知ってか知らずか、たまたま近くに居たらしいニールやイーサンが名乗りを上げエキドナ達の元へやって来た。


「また馬鹿な事始めてるなぁ…。どうします? リアム様」


「放っておけば良いよ」


「ですよね〜…」


エキドナ達から少し離れた場所でフィンレーとリアムの二人が呆れ気味に短い会話を交わす。

まるで保護者のように、飲み物片手にエキドナ達の言動をそれとなく見守っていたのだ。


「セッカクだから何か賭けようぜッ! 『敗者はユーショーシャの言う事何でもきく!』とかさーッ!!」


「よっしゃ乗ったァァァ!!」

「う、うむ…!」

「いいよ〜」



「「ッ__!!」」



恐らく深く考えてないのであろう、エキドナののんびりとした声にリアム達がギョッとした顔で振り返る。

そして、


「ハイハイハイ! 姉さま、僕も参加したいなぁーーッ!!!」

「……」


フィンレーが焦った声で挙手をして参加し、リアムもそれに続くのだった。


「どんどんオカシな方向行ってない!!? なんだそりゃー!! 」


この世界のヒロインであろう、ミアの激しいツッコみが辺りに響く。


「あらあら♪ サン様ったら楽しそうですこと。少しだけ羨ましいですわ〜」

「フランったらみっともないわねぇ…そんな中途半端だからいつも間男扱いなのよ。ドナちゃーん♡ 何か協力出来ることはあるかしらー?♡」

「フォッフ…『何でも』……ナ・ン・デ・モ!!!? wktk(ワクワクテカテカ)

「な、何考えてるのかしらドナったら…殿方に混じってはしたない……。こんな事、淑女(レディ)がする事ではないですの…」


そんな中ミアの後方からやって来たステラが、エブリンが、その他各ルートの悪役令嬢達が各々に反応を示すのだった。


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