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争闘 後編


<<警告!!>>

流血表現があります。

苦手な方はご注意下さい。



________***


状況は混乱を極めていた。

ミアはエキドナから事前に手渡されたダガーナイフ二本分の存在を思い出すも使いこなせず、ひたすらブレイクから走って逃げつづけている。

そしてエキドナ達はというと…


ヒュンヒュンっガッ…キン!


ジルが左右へ斬り込み、突き技から刃を翻してヴィーを襲う。


「……」


しかし顔に触れる寸前で止まった。ジルが真正面から金の目で己を睨む少女を見つめかえして煩わしげに顔を顰めるのだった。


(ヴィー殺そうとするたびに嬢ちゃんが前面に立って庇う…どころか、テメェの急所に当たるよう動いてやがる)


ヴィーの胴体を刺そうとすればエキドナがこちらへ迷いなく前進し、喉笛を掻き切ろうとすれば今のように顔や頭を差し出す…。このようなギリギリの駆け引きを繰り返され、ジルとしても誤って人質の価値が高いエキドナを殺す訳にもいかず、それ以上追撃出来ないでいた。


(見事に妨害されてんなァ)


だがしかし、ジルはあまり焦っていなかった。

結果として妨害されているのはジルだけじゃないからだ。


「っ…」


先刻エキドナにけしかけられた形でジルを討とうとしているヴィーは、エキドナの後ろで歯痒そうにしている。攻撃したくとも目の前のエキドナが巻き込まれないよう長剣を振るのは至難の業であり、さらに攻撃や牽制を行っても距離が空きエキドナのガードが外れた瞬間を狙ったカウンターが返ってくるため上手く立ち回れないでいた。

互いにジリジリ距離を詰め、牽制し、また離れる……刻一刻と時間が流れたままそんな緊張状態が続いているさなか、ジルが動く。


ヒュオン


地を蹴り素早く接近する。

けれど彼のナイフも視線も、後方に居るヴィーには向けられていない。


「「!」」


(俺を倒す発言が嘘と仮定すると、嬢ちゃんの本当の狙いは "時間稼ぎ" 。ならまず嬢ちゃんを斬るしかねェよなァ? こちとら『生きてりゃなんでもいい』って言われてるしなァ♪)


ザッ!


抑揚なくエキドナへ斬りかかろうとした刹那、ヴィーが彼女の腕を掴み後退する事で辛くも回避する。


「ボサっとしてんじゃねえ!!」


「ご、ごめ…っ」


怒鳴るヴィーにエキドナは弱々しく謝るけれど、ヴィーは内心エキドナの体力の限界を察して焦れていた。


(ヤベェなアイツもう保たねぇ…限界ギリギリだ!)


気丈に振る舞っているがエキドナの声は以前よりか細く震え呼吸も荒い。顔色も悪く、何より自身と戦った時に比べ反応速度が明らかに鈍くなっている。

そもそも頭部の傷が癒えていない怪我人の状態で剣を握っているのだ。さらに先ほどジルに腹部を殴られ、ブレイクに踏みつけられたダメージも重なりいつ倒れてもおかしくないとヴィーは考えていた。またヴィー自身も、左足首の痛みや腫れで身体の重心を掛けられず満足に動けているとは言えない。

彼もエキドナの意図は薄々気付いているものの時間の経過とともにこちらが不利になっていく現実に不安と危機感を抱いていた。


(俺がやらねぇと…ジルを…)



早く!!!



「邪魔だ退け!!」


焦りからヴィーはついにエキドナを押し退けでジルの前に立ち塞がった。


「おおおおおっ!!!」


足の痛みを忘れ、猛攻を仕掛けるヴィーに対してジルは二本のナイフで受け止め捌く事で対応している。

しかし早く勢いがあるヴィーの斬撃を受け止めるのに精一杯なのか、少しずつ後ろへ下がっていた。


(ここだ!!)


ブォンッ


僅かな隙を見つけた瞬間、ヴィーは横へ大きく剣を振る。


「っと!」


「!!」


が、ジルは何の気なしに上半身ごと大きく後ろへ逸らして避けるのだった。

帽子の下に隠れた目がこちらを見て細めた。


(しまっ…!)


ジルの策略に乗せられた事に気付いた時には、ヴィーの首元へ冷たい鉄が光りながら近付いていた。


「うおォ!!?」


しかし次の瞬間、風音と共にジルが慌てた様子で大きくしゃがみ込む。

なんとエキドナがいつの間にかジルの背後へまわり首を跳ねようとしたのだ。


ガンッキンキンキンキンキン!! ガンッ!


突如始まったエキドナの無言の攻撃にジルも慌てて応戦する。


(オイオイオイ、さっきまでのしおらしさはどうした嬢ちゃん!? つゥか傷口開いてんぞ…!!)


頭から血を流したまま構わず繰り広げられるエキドナの特攻にジルは驚愕していた。

そして同時に悟ったのだ。


『私はあんたの盾とサポートに徹する…。だからあの男は、あんたが倒して』


(アレは俺を欺くための虚構(ブラフ)!!!)


前もって裏方を名乗り上げてジルの意識や警戒心を自然と主戦力のヴィーへ誘導させ、さらに終始盾役に徹する事で "こいつは防御しかせず攻撃しない" という認識を刷り込ませて油断させるのが本命だったのである。

つまり最初からヴィーをアテにしていた訳でもなく援軍目当てで時間を稼いでいたのでも無かった。あくまでヴィーを(おとり)に、エキドナ一人の力ででジルを討つ気だったのだ。


「人をっ! あぶね!! …殺す、覚悟ッ…うお! 決めんのっ……早す、ぎねーかい! …嬢ちゃん!!!」


(感覚イカれすぎだろマジで貴族かよ!?)


けれどもジルは前から目の前の令嬢に抱いていた違和感の正体にようやく気付き、ゾクリとする。


(この女…自分に対する生存本能だけがガラッと抜け落ちてやがる。たまに居るよなァ…こういうぶっ壊れたヤツ)


そしてこの手の人間の厄介さをジルは経験則で理解していた。

理解し、警戒を深めたからこそ……もう一人の敵への関心が無意識に薄らいでいたのだ。


ヒュン!!


「ッ…!」


死角を狙ったヴィーの攻撃を紙一重で回避するも僅かにかすり傷を負う。

エキドナがなんとか手にした勝利への糸口にヴィーも必死で食らいついていた。


(俺もやらなきゃ…!)


覚悟を決めさらに勢い増してこちらへ向かう青年と少女に、ジルは口元を上げてナイフを構えるのだった…。



________***


遠巻きからジルがエキドナ達に押されはじているのを見たブレイクは苛立ちを隠せずにいた。


(どいつもこいつも使えねぇ!!!)


しかしながら湧き上がる新たな怒りと同時に、ブレイクは少しずつ冷静さを取り戻していた。


「さっさと、このガキとっ捕まえて人質にして、体勢立て直さねーと…!!」


息を切らしつつもさりげなく、ブレイクは追いかけながらエキドナ達から離れた一角へとミアを誘導していたのだ。

若さやすばしっこさではミアに分があるけれど建物内部の知識に関してはブレイクが上手だった。


「え!? 嘘もうこんな近く…!?」


ミアも確実に距離を縮められ恐怖と焦りを感じていた。

ブレイクとの距離をもう一度確認しようとミアが後ろへ振り返った…次の瞬間、ミアの視界が反転する。


「きゃああ!!?」


ミアの悲鳴にエキドナとヴィーも驚く。よそ見した間に自身の足を引っ掛けたのだ。転んだ勢いで両手で持っていたナイフも音を立て手から離れてしまう。


「ミア…!」

「ミアさんっ!?」


だが未だにジルとギリギリの攻防を続けており、一瞬ミアへ視線を向けるだけで精一杯だった。

再び金属音が激しく鳴り響く中、ブレイクがゆっくりとミアへ近づいていく。


「余計な手間、取らせやがってクソ餓鬼…!」


荒々しい息遣いのままアーモンドの目はギラギラ輝き、チャンスと言わんばかりにミアへ手を伸ばした。


「ひっ…」


その目と手の恐ろしさにミアは咄嗟に身を丸めて頭を両手で覆い、そんなミアの反応に勝ちを確信したブレイクの笑い声が響く。

あと少しで女の手がピンクの髪に触れようとした……その時だった。



ドゴオオオン!!!!



前触れも無くブレイクが大きく吹き飛ばされた。

否、正確にはブレイクの真横の壁が弾け飛んだのだ。


「ぎゃあ!!」

「もう! 今度は何ぃ!!?」


衝撃音とともにブレイクが短く悲鳴を上げ、ミアは半ばパニックに陥ったのか座り込んだまま泣きながらキレている。

いきなり起こった壁の部分的な崩落にエキドナやヴィーはもちろんジルさえ驚きで動きを止めた。


「…!」


けれど砂埃が舞う中でエキドナは穴の外側からやって来た男の影象を見て息を呑む。

それは筋骨隆々な大男であり、煙が徐々に薄くなるにつれ目に入るのは色鮮やかなオレンジの短髪。


「……あッ! 居た居た探したぜッ!!」


見慣れた人懐っこく快活な笑顔。

明るいオレンジの瞳は珍しく真剣な眼差しをしていたけれど、こちらと目があった瞬間、安堵からか目を細めて綻ばしている。




「やっと見つけた」




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