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________***


「ドナ…た、たすけ……」


(ミア…!)


か細い声が耳に入りエキドナは焦りを覚える。

ミアが帽子の男に拘束され、首にナイフを突き立てられているのだ。


「時間掛けすぎなんだよ、ヴィー」


不機嫌そうな女の声でエキドナ達はハッとし扉の方へ顔を向けた。

この場に居る人々の視線をものともせず優雅な足取りで現れたのは反王政派組織『メンテス』のリーダーにして隠しキャラルートのみ登場する悪女、ブレイク・キングだ。


「動くんじゃないよ」


咳き込みながらもすぐ立ち上がろうとしたエキドナに釘を刺し、ミア達の元まで歩み寄る。そして指先をクイクイと動かす事で帽子の男から人質のミアをあっさり受け取るのだった。


「小娘ごときに随分弄ばれたみてェだなァ。ホレ忘れもん」


「ジル…!」


一方帽子の男……ヴィーから『ジル』と呼ばれた男はミアを手放したかと思えば長剣を拾ってヴィーに近付き、気安い態度で彼の肩に腕を置いて冷やかしている。

当のヴィーは二人の登場を予期していなかったようだ。目を見開き困惑していた。


「なんで……お(かしら)達が、ここに…」


「思ったより敵に攻め込まれていてねェ…逃げてもすぐ追手が来るだろ? ならせめて人質だけでも、と思ってね」


「あ……」


どこか締まりがない反応をするヴィーにブレイクは怪訝な顔を浮かべるものの、大して気に留めず急かした。


「何モタモタしてんだい。さっさと小娘盾にしてこっからズラかるよ!」


「アンタ、本当は貴族だったのか…?」


恐る恐る尋ねたヴィーの言葉にブレイクはアーモンドの目をパチクリさせたかと思えば、呆れた風に深く溜め息を吐き、自分の額に手を当て嘆いてみせる。


「お前なぁ……オルティスの娘辺りに勘づかれたのかい? だからあれほど "お頭と呼べ" と言ったんだよ」


「アンタが…!!」


自身が元貴族だった事をあっさり認めたブレイクにヴィーが悲痛な声を上げた。ゆっくりと、しかし事実を確かめるように、黒い眼を女に向け質問を重ねる。


「アンタと、アンタの父親のキング子爵が……かあさんを…!」


「は?」


とぼけた反応をするブレイクに焦れ、ヴィーが再度問い掛けるのだった。声は震え、冷や汗をかいている。


「かあさんを、殺したのか…!!?」


決死の覚悟で問いただすヴィーに対しブレイクはというと、またキョトンとした顔をしたかと思えば今度は顎に手を添え思い出そうとする素振りをしてみせた。そして、ヴィーを真っ直ぐ見つめて言いのけるのだった。


「父親の仕事柄、人の顔を見過ぎて覚えてないねぇ…言われてみれば、何年か前にアンタみたいな黒い目のガキを見た気はするけどさァ……アタシそんな事したかい?」


「…!!!」


本気で覚えていない様子のブレイクにヴィーは立ち尽くし絶句する。けれどすぐ正気を取り戻したらしい、ジルの腕を乱暴に跳ね除けて噛みついた。


「ふざけんな、ふざけんなよ…!! 貴族だった事を隠して、しかも革命派リーダーの子孫なんて嘘さえ吐きやがって!! 本当に俺達の事を騙してたんだな!?」


「だからどうした。アンタらも楽しかったろ? "革命ごっこ"」


激しく非難するヴィーに対してブレイクは鼻で笑い軽くあしらっている。嘘を吐き騙しつづけた悪女は終始平然としており、罪悪感を抱くどころかむしろ開き直ってさえいるようだ。そんな彼女の態度にヴィーの勢いも段々削がれていた。


「そ、それだけじゃねェ! スラムの、……こ、子どもを攫っ…て、人身売買、なんて…なんでそんな事を!!?」


余程ショックだったのか、息苦しそうに必死で問い掛けるヴィーにブレイクは何故か呆れた風に一息吐いてから口を開いた。


「…金さ。アタシ達メンテスが活動するにはどうしたって資金がいる」


「金なら今迄俺が…!」


「アンタの小遣いくらいじゃいくらあっても足りないんだよ。ガキ共もきっとわかってくれるさ…アタシ達のために生贄になったんだとな」


淡々と諭すように述べるブレイクにヴィーは言葉を失い呆然としている。

するとアーモンドの瞳は悠然と、だが真っ直ぐ黒い瞳を射抜いた。


「で、これからどうするんだい? 賢いアンタなら今どう選択したら正しいかわかるだろ」


「ッ……ジル! テメェもなんとか言ったらどうなんだ!? テメェだって騙され、て…!!」


「俺ぁ面白けりゃなんだっていいんでねェ。…まァ言うことが一つあるとすりゃオメェさんに喧嘩の仕方教えたのはどこのどいつか……もう忘れちまったかァ?」


二人の会話を傍観していたジルにヴィーが声を掛けるものの結果は残酷だ。

ニヤリと笑ったままナイフをチラつかせて無言の圧を加えている老兵の姿にヴィーは息を呑んだ。


「……!」


"選択"

そう、ヴィーはブレイクとジルに試されているのだ。

真実を知った事でブレイクから離反し、何か行動を起こすのか。それとも不満や不信感を抱いたままこれまで通りブレイク…すなわち『メンテス』と命運を共にするのか。


「っ…」


ほんの一瞬、ヴィーはミアとエキドナの二人を一瞥(いちべつ)した。彼が迷っているのは火を見るより明らかだ。


「これを見なヴィー!!」


すると突然、ミアを捕らえたままブレイクが服を引っ張り胸元の入れ墨を強調してみせた。


「アタシもジルも…そしてアンタも、みぃーんな "(これ)" を彫ってんだい。家族の印じゃないか! アンタ……家族を裏切るってのかい?」


おそらく左腕(そこ)に鎌の入れ墨を彫っているのだろう、ブレイクの言葉にヴィーが反射的に左腕を庇う仕草をする。

彼の反応を見て、ブレイクの勢いが増していった。


「アタシだってやりたかないんだよこんな事!! でも仕方ないじゃないかっ…何をするにも金がいる。金、金、金! 世界を変えたくても、金がなきゃ家族(ナカマ)のメシも用意出来ない! 戦う以前に餓死させる訳にはいかない!! ……ってね」


ナイスを握る手を使いながら大袈裟に立ち振る舞ったのち、肩をすくめたブレイクがクスリと笑う。


「都合の悪いことは目ェ瞑っとくのが賢い大人の生き方さね。アンタならわかるだろ?」


「騙されちゃダメよヴィー君! こいつらは…ぎゃ!」


刹那、ガツンッと鈍い音が響いた。


「ミア!! ゔぇ」


ブレイクがナイフの()でミアの顔を殴ったのだ。ミアは小さく悲鳴を上げエキドナが叫ぶ。


「よくもうちのヴィーに色目使いやがったなこのアバズレ女が!!」


「待てブレイク! わかった!! わかったからもう…!!」


エキドナの背をヒールで踏みつけ、さらにミアへ罵声を浴びせるブレイクにヴィーが慌てて割って入る。そして無情な決断を下すのだった。


「俺はブレイク、アンタ達につく!! 冷静に考えれば当然の選択だからな」


「「!!」」


ヴィーの選択に、今度はエキドナとミアの二人が目を見開き絶句する番だった。

一方のブレイクはというと、ヴィーの方へ破顔して近付きぐしゃぐしゃと頭を撫でている。


「良い子だねぇ。アタシは信じてたよヴィー」


「うそ…」


「……」


信じられないと言わんばかりにミアが小さく声を漏らす。エキドナも厳しい表情で地に伏したまま現状を見据えていた。


「無事和解したところで、ヴィー」


上機嫌な声が静かに響く。

言いながらブレイクは少し後退し、棒立ちの状態で固まるミアを解放した。



「この小娘を殺しな。今すぐ」



「!?」


「……え?」


驚愕するヴィーとミアの反応を見たブレイクが、今度は気怠そうに手短に説明する。


「時間ねェんだいサッサとやりな! 出来るだけズタズタにしとくんだよ。下手にアタシ達を刺激したらどうなんのか、侵入者どもに教えてやらないとねェ」


紅が引かれた口元を引き上げるブレイクにエキドナは焦りを募らせる。


(不味い…!!)


ブレイクがみせしめと時間稼ぎ、そしてヴィーの支配(コントロール)を確実なものにするためにミアを殺させようとしているのだ。

元平民出のミアよりも王族の婚約者であり名家の令嬢のエキドナに利用価値があると判断され、命の選別がされてしまったという事を痛感していた。


「あんた、それでいいの!? ほんとはこいつらに利用されてるって、わかってんだろ…! ぐっ」


「足元で喚くな。殺さねーからって調子乗ってんじゃないよ "オルティス侯爵令嬢サマ"? ……アンタがもっとちっさいガキの頃に社交で挨拶したこともあったが覚えてなかったとはねェ〜マヌケなこった。まぁここでバレても意味ないけどな」


グリグリと痛みを与えつづけるブレイクに構わず、エキドナがヴィーを見て言葉を重ねる。


「い"っ…あ、あんたは…!」


ヴィーもエキドナの方を見つめていた。まるで迷子のように、どうしたらいいのかわからないと不安げな目で訴えている。

その顔を見ていると、エキドナの口から自然と言葉が出ていた。


「迷ってる時点で、答え、出てるんじゃないの…?」


「!」


「時間切れだ」


黒い瞳が大きく開いた次の瞬間、痺れを切らしたらしいジルが素早く近付きミアへ刃物を向ける。

その光景に体重を掛けられ立ち上がれないままエキドナは手を伸ばした。


「ミアぁぁぁ!!!」


(間に合わない…!!)


__金属音が大きく鳴り響く。

ミアの喉を切り裂こうとしたナイフを受け止めたのは、長剣。

そしてその持ち主は……


「違う…」


ナイフを押し退けジルが離れた僅かな隙を突いたヴィーがミアの手を引き後ろへ回した。


「ヴィーお前…! うあッ!!」


さらにブレイクを突き飛ばしエキドナを解放する。ミアとエキドナ、二人の少女を庇いながらヴィーは長剣を構えて叫ぶのだった。


「違う! こんなの間違ってる!! 俺はこんな世界を作りたかったんじゃない!!!」


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