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"王を演じた人"


________***


ヴィンセントの言葉にミアの宝石のような瞳が輝いた。そして即座に彼を説き伏せようと口を開く。


「思い出してくれたのねヴィー君! そうなの、あなたの本当の敵は隠しキャラルートのみ登場する『悪女ブレイク』よ! だから…!!」


「え、今二人とも『ブレイク』って言った?」


けれども勢いに乗ったミアのヒロインムーブは拍子抜けした声によって遮られてしまうのであった。

声の主の方へミアだけでなくヴィンセントも怪訝な顔を向ける。


「ちょっとドナ邪魔しないでよぉ!? ガチで大事な場面(シーン)なのに盛り下がるんだが〜!」


「ご、ごめんミアつい…」


両手を上下に振ってぷんぷん怒るミアにエキドナは謝るが、思わず会話の邪魔をしてしまうほどに『ブレイク』という名には聞き覚えがあったのだ。


(確かに昔名簿で……)


四年前のことを思い返しながらミアに慎重な口ぶりで確認する。


「ミア、『ブレイク』ってもしかして組織(ここ)の女ボスっぽい人の名前? あとフルネームはまさか…『ブレイク・キング』??」


「そそ! てかよく知ってたわね。あっ! まさかドナも全ルートプレイ済み的な!?」


「ううんゲームじゃなくて…」


「さっきから訳わかんねぇんだよテメェもミアさんも!! なんでブレイク…… "お(かしら)" に、貴族特有の家名があるんだ…ッ」


テンション高めなミアにエキドナが押されている横でヴィンセントの声が響く。先ほどまであった戦意は失せたらしく、ただただ動揺や困惑、そして苛立ちが混ざった表情で自身の黒髪をぐしゃりと掴んだまま首を小さく横に振っている。


「……」


彼の危うげな姿を見たエキドナは戸惑いがちにチラリとミアへ視線を送る。

そんな二人の視線を受けているにも関わらず、何故かミアはいつもの明るい笑みを浮かべるのだった。


「あたしのネタバレより、まずドナの話が聞きたいなー♡」


いたずらっ子なとても可愛い笑顔に思わず見惚れそうになるものの首をぶんぶん振って気を取り直したエキドナは、努めて冷静に先ほどの話題に触れた。


「貴方やミアが言った『ブレイク』の単語を耳にした時、ふっと『ブレイク・キング』……正確には『キング子爵家』が昔あったな〜って思い出したんだよ」


「ハァァア!? テメェ何でまかせ言ってんだふざけやがってッ!!!」


エキドナの言葉にヴィンセントがすぐさま噛み付くがエキドナも負けじと強気で言い返す。


「ふざけてないわ!!! どちらかと言えば『破壊王(ブレイクキング)』なんてキラキラネームの方がふざけてるわ!! お陰で私の記憶力でも覚えたくらい印象強かったんだから!!」


「ドナちゃ自分の事棚に上げててホント草」


「そりゃ『悪魔(エキドナ)』…も同類だけれども!! …じゃなくて、ねぇ」


隣でぷすーっと小馬鹿にしたように笑うミアにツッコんだ後で、エキドナは再度ヴィンセントの黒い目を真っ直ぐ見つめながら淡々と説明するのだった。


「昔リ……リアム王子の親戚筋の『ジャクソン公爵家』が国王に謀反を企てて取り潰されたのは知ってるでしょ? それで公爵家以外にも他にも怪しい貴族は居ないかって(おおやけ)にしてないけど大規模な調査が行われたんだよ。その時見せて貰った名簿の中に『ブレイク・キング』って名前があった。確か父親のキング子爵が人身売買に関与したって…」


「人身売買!!?」


ヴィンセントが顔を青ざめ叫ぶ。しかしながら簡単に納得出来ないのだろう、顔を下を向せワナワナ震えたかと思えばまたエキドナに食ってかかる。


「嘘を吐くんじゃねぇぞこのアマ!!!」


「嘘じゃない! 国の公式な記録としてちゃんと残ってるよ!! スラムの子どもを誘拐して外国に売ったって話だったはず!!」


「……!!!?」


エキドナから伝えられた事実が余程ショックだったらしく今度は目を見開いたまま言葉を失い身を強ばらせ、かと思えばその場で力無く崩れ落ちてしまうのだった。


「ヴィー君…っ」


「待ってミア。もう少し様子を見よう」


遠慮がちに彼へ近付こうとするミアの腕を取り静止を促しつつエキドナは四年前の事を改めて思い返していた。


今から四年前、秘密裏に行われた……正確に言うと "ジャクソン公爵家を処罰する直前に" 行われた調査により、一部の貴族らの間で不正や横領などの問題が発覚し王家や王家に与する重鎮達は対応に追われていた。

そんな中、特にキング子爵家が悪質だったらしい。キング子爵家は表向き目立った特徴の無い貴族だったけれど、裏で人身売買や麻薬、武器の密輸などの違法な取引きに手を染めていたため当主は投獄、子爵家そのものも取り潰しになった。


だがこの家には一つ大きな問題があった。十年ほど前に起きたリアム暗殺未遂で使われた毒蛇の入手ルートに、なんとこの一族が関与していたのだ。つまりキング子爵家とリアムの母親の生家たるジャクソン公爵家には後ろ暗い繋がりがあったという事である。

さらに慎重な調査を行った結果、ジャクソン公爵家が人身売買等の非人道的な行為に直接関わった訳でも上から指示していた訳でもない事が判明し、さらに他の貴族らとも怪しい繋がりを持っていた事から、キング子爵家を特に重用していたのではなく、いつ切り捨てても困らない末端の捨て駒として扱っていたのだろうと結論づけた。



しかしながら…キング子爵家の悪事をジャクソン公爵家が黙認していたのも間違いない事実だろう。



そのためこれらの情報が少なからずともリアムの "弱点" になってしまったため、キング子爵家の罪は別件として処理しジャクソン公爵家はリアムに危害を加えた件を敢えて伏せ『国王への謀反を企てた』と簡素な理由のみ公表する事により、この二家の関係を周囲に悟られないようにしたのである。


エキドナが回顧している一方、ヴィンセントは未だ床に膝を付いたまま呆然としていた。


(嘘だ。あり得ねぇ。俺を撹乱させるための罠だ…!)


何度も自身に必死に言い聞かせる。けれど、瞼の裏に残っている鮮烈な記憶が偽物なんかじゃない事もヴィンセントはよくわかっていた。


(髪型や身なりで印象が全然違うが……あの顔、目や髪の色は間違いなくブレイクだった)


「…ハハッ、つまり、なんだよ」


掠れた笑い声が小さくこだまする。悔しそうに拳を握り、ヴィンセントは歯を噛み締めた。

脳裏に蘇るは出会ったばかりの頃のブレイクの言葉と笑顔だ。


『アタシはさァ…ヴィー。貴族も平民も、みーんな身分関係なく平等であるべきだと思ってるんだ。アタシ達の夢に、協力してくれるかい?』


(俺の事をわかってくれている…そう信じていた)


『黒の目? 良いんじゃないのかい。ここは不揃いな人間の寄せ集めさ。みぃーんな何かしら欠けてんだ。気にするだけ無駄さね』


(信じていた)


『なァに水臭いこと言ってんだい! アンタはとっくにアタシ達平民と同じ。仲間じゃないか』


(信じて、いたのに…!!!)


「あの女……元は貴族だった癖にずっと俺を騙してたんだな!!?」


「その通りよ!! 貴方はいいように操られていたの!!」


「あっミア!」


ヴィンセントの悲痛な叫びにエキドナの呼び掛けに構わずミアがヴィンセントの元へ歩み寄る。

ゆっくり頭を上げるヴィンセント……もとい、ヴィーの目を見つめ返しながらミアは口を開いた。


「隠しキャラルートの悪女『ブレイク・キング』は、かつて犯した罪で実行犯だった父親を牢屋に入れられて身分や財産を剥奪されて平民堕ちしたから王族を恨んだ!! だから復讐と自分の地位を取り戻すためだけにモリス侯爵家の財力を持つあなたに近付いて利用したのよ… "革命派リーダーの子孫" なんて真っ赤なウソだわ!! しかも未だに国境で人身売買を続けているの!」


「なっなんでそこまで知って…!?」


新たな情報にヴィーが狼狽えるがミアは胸に手を当て堂々とした態度で宣言するのだった。


「とっくの前世(むかし)に知ってるからよ! ヒロイン舐めんじゃないわよ!!」


「ひろ…?」


「まぁ気になるんなら後でよく調べればぁ? ゲーム通りならあたしの言ったまんまのはずよ!! だってこれハピエンで追加されるエピソードだもの!!」


「はぴ、えん…? えぴ…??」


「ついでにあたしは全シナリオの台詞完コピでキャラのプロフィールも覚えてるわ!! てかヴィー君身長あるのに体重軽くてマジ裏山(うらやま)っ! 好物がりんごとかギャップ萌ええぐいて!!」注:一息


「は!? な、なんで、アンタが俺の食いもんの事まで…!?」


(意外ッ! まさかのガチ勢!!)


心の中で叫んでみるもののBLネタ探しでプレイしていた友人(セレスティア)以上の熱量で早口に語るミアの姿にエキドナは慄くのであった。

しかもよくわからない火が着いたらしい。『あたし今めちゃヒロインっぽい!』と言いたげなキラキラオーラと笑顔でヴィーとの距離を物理的に縮め、対するヴィーはやや及び腰になって後退っている。二人のやり取り(?)はどう見ても神経質なインドアとそんな彼に迫る陽キャギャルにしか見えない。


(本来なら、前世ゲーム知識を活用するヒロインに救われた? 事で惚れてもおかしくないのに。そもそもゲームなら追いかけられる側の美少女ヒロインポジのはずなのに…)


突然訪れたカオスな空気にエキドナは思わず苦笑するけれどこのままでは埒があかない。

そう判断し一歩前に出て声を掛ける。


「ちょっと二人とも__」


掛けようとした、その時だった。





(たの)しそうじゃねェか。オジサンも混ぜてくれよォ」




気配が無かった。

背後から触れられた男達の手の感触にエキドナは固まる。


「ぐっ…!」


一瞬の硬直から即座に持ち直し対応しようとした時には、腹部を殴られていた。


「ドナぁ!! ひっ…」


「ミアさん!!」


倒れ込み激しく咳き込む最中、ミアの短い悲鳴とヴィーの声が聞こえる。……身体が震え、心臓がうるさいほどに鳴り響く。

痛みと吐き気を堪えながらエキドナは顔を上げた。

するとそこには帽子の男に後ろから押さえつけられナイフを首元に当てられたミアが、立たされていたのだった…。


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