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直談判


あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。



________***


エキドナが拐われた翌朝、リアムは生徒会室で新しい情報を待ちつつこれまでかき集めた情報を精査していた。

翌朝とは言うものの正確には深夜と早朝の境の刻ゆえに校舎内は自分と秘密裏に手配された護衛以外居らず静かだ。


(誘拐犯のうち二人の身元は特定出来た。でもそれ以外進展無し…か)


自警団、騎士団、ホークアイ伯爵家等の隠密やカーター伯爵家のコネクションなど…考え得る限りの人脈を駆使して情報収集を行なっているけれど、未だ煮え切らない状況が続いている。


誘拐犯二人の身元がリアムの推測通りミクスダウン出身の出稼ぎ労働者である事が判明したのだが、数日前からどちらも職場へ来なくなったのと以前からどこかに通っている姿が多数目撃されたにも関わらずどこで何をしていたかは不明。エキドナを拐って以降行方がわからない。

リーダー格と思しき帽子の男もまた然り。その男らしき情報を貧民街(スラム)で掴んだ反面未だ正体は謎のままである。

また凶器の購入経路に関しては誘拐犯らしき男や不審な人物が購入した、あるいは不自然に大量購入した店を多少絞れたものの店側の記録の管理が一部 杜撰(ずさん)だったり店主達が購入者の特徴をほとんど覚えていなかったり、まだ他店舗の情報が手元に無いなどの理由で継続して調査中である。


(不確定な情報が多すぎる。もっと早く効率的に……いや、時間が掛かっているのはその分慎重に動いているからだ。犯人側にこちらが探っている事を悟られる方がリスクが高い)


「うっわマジビビった…!! 明かりついてるし護衛居たからまさかとは思ったけど、お前ちゃんと寝てんのかよ?」


一人思案している中、聞き慣れた声が耳に入りリアムは顔を上げた。見るとフランシスが出入り口の扉を開けたままランタン片手に驚いた表情でこちらを見つめていたのだ。

彼の姿を軽く目視したのち、リアムは再度書類に視線を移し淡々と問い掛けに答える。


「問題無い。休息は十分取れているよ」


「いやいやいやいや。俺達が仮眠入った時もまだ残って…ってまさか昨日あんだけの書類捌きまくって完徹(オール)じゃないよな? 頭おかしくなるだろ」


銀朱の目を大きく開き疑うフランシスにリアムは僅かに動きを止める。そしていつも通りの、他愛もない様子で口を開いた。


「普段から四時間前後の睡眠で足りているから数日寝なくても業務に支障は出ない」


「は???」


今度はフランシスが固まる番だった。一瞬呆けて言葉を失い、そして大袈裟にため息を吐いたかと思えばガシガシと自身の鮮やかな赤髪を掻く。


「リアムお前さぁ…早死にすんぞそんな生活してたら。身体に悪すぎ。つーか今まだ日も出てないし俺だってただ忘れ物取りに来ただけだし……。ドナは、この事知ってる訳?」


「『日常生活に支障が無いなら』って一応納得していたよ」


「"一応" ねぇ…」


ひたすら無機質に、平然とした態度を貫く友に対しフランシスはつい物言いたげな視線を送る。

確かに目にクマがあるとか顔色が悪いといった不調は見受けられない。本人の言う通りいつもとさして変わらないのかもしれないが、それでもリアムの体調と精神面が気になるのは幼馴染だからこそである。

…異才が垣間見える彼に時折ゾッとするのはここだけの話だ。


「エブリンが予想より早く回復して動いたのは助かった。リベラ嬢も」


「アイツあんなでも学年ニ位の才女だからな〜。途中お前らの会話ついて行けなかったわマジで」


二人で軽口を叩いていると軽快に扉を叩く音が響いた。そちらを見やればよく知る人物が何食わぬ顔で入室する。


「あ、やっぱり居た。おはようございます」


「おはようフィンレー」


「はよ。お前にしては早えーな。てかどうしたんだよその格好。随分めかしこんでんじゃん」


「おはようフラン。どう? 似合う?」


挨拶を交わしつつフランシスの尋ねる声にフィンレーはその場でくるりとターンして応えて見せた。

いつもなら…まるで姉の服装のデザインや色を模倣したかのような上品ながらシンプルなデザインの服装に加えて瞳と同じ色のクラバットが特徴であるのに対し、今彼が身に付けているのは細やかだが目を引く刺繍が施された上着に華奢な宝石の飾りボタンで彩られたシャツ、同じ紫でも華やかかつ艶やかな色合いのラバリエールだ。

豪奢だが決して見せびらかしているような低俗さは無くフィンレーの中性的な魅力をより引き立てている。


「おー似合う似合う。典型的な貴族のボンボンって感じ(適当)」


「そっか、なら良かった」


いくら女顔とは言え同性のフィンレーを褒め称える気が1ミリも無いフランシスの言葉にフィンレーも素っ気なく言葉を返した。かと思えばリアムの方へ身体を向き直す。彼の顔は真剣そのものである。

不思議そうな顔で動向を伺うフランシス達に構わずフィンレーは堂々たる態度で宣言するのだった。


「僕、フィンレー・オルティスはリアム・イグレシアス王子が大嫌いです!!!」


「!?」

「……」


ドギャアアアンと効果音が付きそうなくらい勢いに乗った大胆告白にフランシスは驚き、リアムは思わず沈黙した。

二人の反応を無視したフィンレーは容赦なく早口で捲し立てる。


「だってリアム様昔っから性格悪くて陰湿ですしいじめっ子気質で腹黒ですし! 自分が天才なのをいい事に周りに同じレベル求めようとするの傲慢だと思いますし、人使い荒くて腹の底見えにくくて何考えてるのか全くわからないし!! 普段からサン様には冷たいのも酷いと思います何より一番腹立つのは姉さまの婚約者だってことです!!!!」


「おっおいフィン…!! お前マジで何がやりてぇんだよ!!? こんな時に第二ラウンド仕掛けようとすんじゃねーよ他所でやれッ!!」


情け容赦なくリアムをディスり続けるフィンレーにフランシスは狼狽ながら宥めようと間に割って入る。

しかし、軽く息を切らしたフィンレーはフランシスの事などお構いなしにそのまま少し黙った後、言葉を続けた。それは先ほどの激しさとは全く違う、冷静な声色だった。


「でも、頭が良くて冷静で…………僕が知ってる同年代の男子の中で、誰よりも出来る人だと思ってます。…とても不本意でムカつきますけど!」


言い切ってすぐフィンレーは拗ねたようにぽかんとした顔で自身を見つめる二人に顔を背けた。

だが気不味さや劣等感、なんとなく生まれる恥ずかしさを堪えながらも最後まで心の奥で思っていた素直な言葉を伝えたのである。


「本気で腹が立って悔しくてムカつきますけど、割と、その…僕にとって貴方は信頼出来る人間です」


「…フィンレー」


「そんなリアム様に一つだけお願いがあります」


未だ信じられない風に己をマジマジと見るリアムに対してフィンレーがまた一言短く申し出て、背中に隠していた物をリアム達の前に出して見せた。それはこの場にも今のフィンレーの格好にも合わない、大きく無骨なペンチである。


「少しでも今回の誘拐事件に対して、姉さまに対して、……僕に対して、後ろめたさを感じているのなら協力して下さい」


フィンレーが真っ直ぐリアムを見つめる。

射抜くような瞳にはもう迷いや弱さが微塵も無い。ただ強く大きな覚悟だけを抱いてそこに立っていたのである。


________***


時間が進み太陽が南の空で眩しく輝いていた頃、ステラは女子寮に居た。

しかしその建物はステラが生活する伯爵家の令嬢だけが入る寮でも、エキドナが住んでいた侯爵家の子女用の寮でもない。

王家を除けば貴族制度の頂点に立つ、公爵家の令嬢達が住まう特別な女子寮である。

そんな寮内にあるサロンで専属のメイドを一人だけ側に置いて対面に座る令嬢と向き合っていたのだ。


「『不審火及び不審者の目撃情報が出て校舎を調査中』だから生徒達は皆自分の寮で待機しているのに、わざわざ公爵寮(ここ)のサロンでお茶に誘うなんてどういう神経をしているのかしら…」


「ごもっともな意見でございますデイヴィス様。お忙しい中、(わたくし)に貴重な時間を割いてくださり感謝致しますわ」


不機嫌そうに呟くアデラインに対してステラは慇懃(いんぎん)すぎるくらい深々と頭を下げた。

しかし相手はそれだけでは気分が晴れず眉間のしわを深めるばかりである。


「っ…」


下げたままの頭を僅かに上げてステラはアデラインを盗み見る。明らかに苛立っている彼女の姿が目に入って手に冷や汗が滲み、全身が震えて強張るのを感じた。

しかし無理もないだろう。ステラはずっと……このアデライン・デイヴィスという女を恐れ、逆らえないのだから。


「あ、あの…! お話というのは不審…」


カラカラに渇いた喉に力を込め決死の覚悟で声を掛けるものの、突如鳴り響いた食器が床に当たって割れる音と紅茶や菓子が飛び散る音で掻き消されてしまう。

アデラインが侍女の用意したティーセットを手で払い除けたからだ。


「あら、手が滑ったわ。片付けなさい」


眉一つ動かさず命令するアデラインに侍女が顔を真っ青にしてすぐさま駆け出し、掃除具を手に取り戻って来た。そんなよく知る侍女の姿にステラは申し訳ない気持ちでいっぱいになってスカートの上で組んだ状態の指をギュッと握る。

けれどそのまま落ちた食器や菓子を片付けようとした侍女に対してアデラインは手で制し、ステラの方を向いて再び口を開いた。


「貴女に言っているのよステラ。…いいえこう呼ぶべきかしら?」


まるで虫を見下ろすように冷たく蔑んだ目で、アデラインは言葉を続けるのだった。


「古くから王家に仕えているのに伯爵の称号しか得られず "初代当主の名" さえ残せなかった、哀れで無能なロバーツ家の娘」


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