表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/233

襲来


<<警告!!>>

残酷描写および流血描写があります。



________***


おぼろげな視界と思考、感覚が少しずつクリアになっていくのを感じた。

ミアの失踪、学園内の侵入者、そして……

今迄の事を思い出したエキドナはようやく覚醒し勢いよく飛び跳ねる。


「ミア!!!」


「あっドナ急に起きあがっちゃ…!?」


何か言い掛けているがこっちはそれどころじゃない。もう数日も行方不明だった少女が目の前に居るのだ。

焦りや心配からエキドナは彼女の両肩を掴んで遮った。


「ミア大丈夫!? 痛いところは無い!? 怖かったよね、辛かったよねっ…怪我は、…(いた)ッ!!?」


けれども突如強い痛みがエキドナを襲い咄嗟に頭を押さえてその場にうずくまる。

すると今度はミアが本気で慌てた様子でエキドナに近付く。


「大丈夫だからっ あたしは大丈夫だから!! そ、それよりドナの方がヤバいんだって無理して動かないで!! 血が…!」


我が身より自分を優先しようとする危なっかしい友人を落ち着かせるべく、ミアは現状の説明のため先ほどまで使っていたハンカチをちらりと見て……息を飲み硬直した。





((あか)…)


__真っ赤


「ッ!!!」





「?」


(ミア…?)


急に手元を凝視しながら黙ってしまった友人にエキドナはますます心配になる。

よく見るとミアの手に握られたハンカチが血で染まっていた。どうやら意識を失っている間ずっと止血をしてくれたようだ。


「……」


そこまで確認したエキドナは気付いた。

今頭部に感じる生暖かい液体の感触、鋭い痛みを実感しつつ恐る恐る触れていた手をそっと離して静かに見やる。


手のひらは、思っていたよりも血で染まっていたのだった。


「ひっ…!!?」


(わあああああ!!? 何これ怪我? 怪我ぁ!? そういえばめっちゃ痛い!! さっきから頭痛かった原因これかぁぁぁッ!!!)


流石に血の気が引いて一瞬立ちくらみを起こし倒れかけるものの、なんとか意識を持ち直そうと努めて冷静に自身を諭す。

悪い意味で心臓がうるさい。


(だ、大丈夫だ。落ち着け思い出せ。もしほんとにヤバかったら意識取り戻すなんて出来ないはず…。そうだ前世で習ったはずだ!!)


「た、確か…そう、母性看護学によると…」


ボソッと呟いたかと思えばその場で力強く高々と宣言した。


「正常分娩(注:出産のこと)なら500ml未満の出血は正常範囲!! つまり普通のペットボトル1本分ならセーフッ!!!」


「!!?」


いきなり意味不明な発言するエキドナにミアはギョッとした顔で振り返る。

しかしエキドナは気にせず赤く染まった手のひらとミアの私物と見られるハンカチを交互に目視して出血量を推測し自分の体調を判断するのであった。


(うん。あれくらいなら絞っても500はいかない。つまり理屈で言うと、この程度の出血じゃ人は死なない!!!)


大きく一度頷いてから両手でガッツポーズをする。こうしてややピントがズレた前世の知識で自身を奮い立たせるエキドナに、ミアがかなり遠慮気味な…まるで相手の出方を伺うような態度で尋ねてくる。


「だ、大丈夫なのドナ…? まだ意識がハッキリしてないんじゃ…」


「いやまぁ傍目から見たらそう映るのはわかるけれども!」


だがしかし、こうしてミアと元気にやり取りをしていても頭の傷から出ている血はそこまで大量ではないものの止まっていない。

そこで最低限の応急処置として圧迫止血では足りないと判断したエキドナは、とりあえず傷口を縫う代わりに自分の髪の毛を使って患部を縛ることにした。


(髪が長くて良かった…。でも、力が…)


目覚めたばかりなのに加えて頭を殴られた衝撃がまだ残っているのだろう、手を軽く握って開く動作は可能だが指先を使った器用な動きが難しいのだ。


「ごめんミア。悪いけど、結ぶの手伝ってくれない? 力が入らなくて…」


「え?」


「まだ血が止まらないからさ、髪の毛で傷口を縛って止血したいんだよ」


「あ、あぁなるほど。そういう事ね、わかっ…」


エキドナの控えめな申し出にミアは承諾してまた近付こうとし……未だ手に持つハンカチを見つめて固まってしまった。

血が苦手なのだろうか、段々と全身が頼りなさげに震え始め顔色も悪くなっていく。

少し間を置いたのちに、とうとう項垂れたミアから出た涙声が小さく響くのだった。


「ご、ごめんなさい…出来ない…。ごめんなさい…」


ミアの反応にエキドナはバレないよう細く息を吐いてから彼女を気遣い微笑んだ。


「……わかった。無理ないよ、こっちこそごめんね…」


(仕方ないかぁ…。こんな怪我なんて普通に生活してたら見ないだろうし)


触れた感覚と今のエキドナの意識レベル的に出血が目立つだけでそこまで深い傷ではないと判断しているがミアには刺激が強すぎたらしい。

そこまで考えてからミアに見えない角度になるよう上半身をゆっくり方向転換した後、一人応急処置を始めた。

しかしやはり指先が上手く動かず苦戦する。


「ふーっ…ぅぅ…()っ…」


呼吸を整えて何度も自身の髪に手を伸ばし、歯を食いしばり、震える指先を気力でなんとか動かしながら……時間を掛けて、ようやく傷口をある程度止血する事に成功するのだった。


(はー…やっと終わった…)


最低限の手当を済ませた事による精神的な疲労と肉体的な疲労でエキドナは傷口に当たらないよう気を付けながらゆっくり身体を横たえる。

背中に当たる僅かに柔らかい感触で気付いたが自分は一人掛け用のベッドで眠っていたらしい。

失血の所為かいまいち頭が働かずぼんやりしたままゆっくり視線を動かして今居る場所を確認する。


この建物の場所がどこなのかはわからない。が、全体的にかなり質素な一室に手足を拘束されずミアと二人きりで閉じ込められているようだ。

例えるなら…そう、前世でいうビジネスホテルのシングルルームの劣化版といった具合か。

必要最低限の清潔さは保たれているのは幸いだが、すでに日が暮れ始めていたらしく辺りは薄暗くやや埃っぽい匂いがする。

家具は見た限り一人分の古いベットと椅子、机、そして小さな灯りのみで、ミアはこちらが意識を失っていた間ずっとベッド横に椅子を置いて看病してくれたらしい。

そして唯一部屋の中にある窓には柵がはめ込まれている。…残念ながら、敵に捕まりミア共々監禁されたという事実は火を見るよりも明らかだった。


一方、身体を休めながら状況を整理しているエキドナに対してミアは血のついたハンカチを見てひどく動揺している自分に疑問を抱いていた。


(また "これ" だわ…。そりゃあんな酷い怪我なんて見た事ないからびっくりしたけど、でも血なんて月のもので見慣れてるはずなのにどうして…? ……ううん、違う。あたし、)


見た事がある?


(頭ではないけど……手のひらが染まるような血を、見た事があるの…?)


「…ミア、大丈夫?」


エキドナの控えめな声掛けでミアはハッと正気に戻り、浮かべていた疑問を横に置いてエキドナを見た。


「あっ…ご、ごめんね! 結局一人でやらせちゃって…! あ、お水貰ってるから飲んだ方が良いわよ! あと掛け物ちゃんと掛けて…じゃなくて起き上がれる?」


「う、うん。……ごめん、ちょっと手伝って?」


奥にあったらしい水差しとコップ片手にあたふたするミアに身体を起こして貰い、水を貰おうとした刹那、部屋の外から人の気配が近付いてくるのを感じ取る。

ミアも気付いたのだろう、そのままミアはエキドナを、エキドナはミアを各々庇うように身を寄せ合いながら唯一の出入り口の方を見ると、鍵を開ける音が数秒聞こえた後でガチャリと音を立てて扉が開いた。人影が複数確認出来る。


「オヤオヤ、ようやくお目覚めかい? 嬢ちゃん」


「ッ…」


やはり出て来たのは先刻戦った誘拐犯の帽子の男と自身を恨めしそうに睨む痩せ型の男……そして自身を殴って気絶させた "もう一人の仲間" であり状況からして『隠しキャラ』でもあろう男子生徒の計三人だった。


(ティア氏でもわからなかった『隠しキャラ』。てっきりメガネかギャビン君だと思っていたのに…!)


「見たところやはり大した怪我ではなかったようだな」


淡々とした口調で声を掛けて来たのはこの薄暗い空間に溶け込みそうなほどに真っ黒な髪が特徴の男子生徒だ。いつもとは違い長い前髪を下ろさずにかきあげているため印象が全然違って見える。

今迄知らなかったがなかなか整った顔立ちだったらしい。何より印象的なのはその瞳の色だった。

この世界で初めて見た……闇のような黒色。


けれどエキドナは殴られた際に一瞬見えた姿から目の前に立つ人物の正体を理解していた。


(さっき幻覚で見たばっかだから黒目に有り難みを感じない…じゃなくて。隠しキャラはあんたかよ)


ヴィンセント・モリス


我が国ウェルストル王国の名家の一つ、モリス侯爵家の一人息子でメガネことスタン・エドワーズと行動を共にしていた男子生徒である。


(ずっと謎だった隠しキャラは…ッ! 『ギャルゲーの主人公』だったのかよぉぉぉ!!!)


まさかの正体に納得出来ずエキドナはポーカーフェイスのまま心の中で叫ぶのだった。


(あのメンツ内で一番地味だったじゃんもはや空気だったじゃん!!)


『あと何かでかい事をしでかすタイプでござるな』


脳裏にセレスティアの声が蘇るけれどやはり腑に落ちず内心突っ込みを入れ続ける。


(いやしでかすとこだけ合ってるけどヒロイン誘拐? の組織のメンバーとかやらかし過ぎでしょ!? 何この『普段大人しいはずの子が凶悪犯でした』みたいな設定! リアル過ぎて笑えないから!! リー様達といいステラ達といいなんで妙に変なとこばっか攻めてんの、どの層狙ってんだよ製作スタッフゥ!!!)


「ああやっと起きたのかい。リアム・イグレシアスの代用品」


すると今度は三人のより後方から大人の女性らしき声が聞こえてきた。

同時に痩せ型の男が「お(かしら)…!」と驚いたように声を上げる。

どうやらこの組織のボスがやって来たらしい。カッ カッとヒールの音が徐々に大きくなり、その状況にエキドナはより警戒心を強めた。


(こんなタイミングで出てくる女性…。つまり彼女が『隠しキャラルート』の『悪役…)


彼女の姿を見てエキドナは目を見張る。

背中まで届く長い黒髪は細かい編み込みでドレッドヘアにされており、濃い色のアイシャドウと共にギョロリとこちらへ目を向ける明るいアーモンド色の瞳がより鋭く、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。

派手な装飾品を纏うのは上背があるが細身の身体で、しかし大胆に開いた胸元には(かま)のような入れ墨が彫られていた。

…どう見てもカタギの人間ではない。


(いや、"悪役" なんて可愛いもんだわ)


エキドナ達の視線を受けた女は余裕そうに、紅を引いた口が引き上げていた。

そんな猟奇的な笑みに一気に緊張が走る。


(本物の悪女じゃないか!!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ★多くの方にこの小説の存在を知って頂きたいので良かったら投票よろしくお願いします! 2021年6月24日にタグの修正をしました★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ