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愛おしかった幸福 後編


<<警告!!>>

残酷描写および鬱描写過多です。



________***


息を飲み驚いたような素振りを見せるけれどもすぐに私に向かって彼女は笑った。

柔らかくて神聖ささえ感じる "きれい" な微笑み。

懐かしい親友の姿に嬉しさで胸の辺りがぱああっと明るくなるのを感じる。


(さち)だぁ〜!! やっほ〜!」


無邪気に手をふりながら私は制服のスカートが揺れるのも気に留めず、子犬のように笑顔でパタパタと彼女の元へ駆けて行く。

…が、また頭の痛みやふらつきで足元から崩れかけるのだった。

すると支えるように慌てて自身の腕を掴む感触がする。


「久しぶりだね!! ずっと会いたかっ…… って大丈夫!? フラフラしてる…! もしかして "まだ" 調子悪いの?」


昔を思い出させるおっとりしたソプラノが耳に入った私はまだ夢見心地なまま言葉を返す。


「うん…まぁ私の事は気にしないで…」


「気にするよ〜。ほんとに大丈夫なの? それともソファーで横になる??」


甲斐甲斐しく声をかけながら自身を気遣う祥の視線を辿ると、いつの間にか何も無かった空間に薄鼠色の小さなソファーが置いてあった。

あの大きさなら二人なら余裕で座れそうだ。

それを確認してから私は祥に微笑んで応える。


「ううんなんとか平気だから…。でも、ソファーに座れたら助かるな。ちょっと肩にもたれてもいい?」


「もちろん!」


そう言って親友はまだ本調子じゃない私を寄り添うようにソファーまで手を引いてくれた。

背もたれに身体を預けた後で、甘えるようにちょこんと彼女の肩に頭を乗せる。ベリーショートの髪がサラッと音を立て彼女のセーラー服の襟に掛かった。

そんな私に祥は笑いながら手を握ってくれた。


「……あったかい手だねぇ。ちっちゃくてぷにぷにでかわいい♡」


独り言のように呟く祥の言葉に私もゆっくりした口調で返答する。


「『赤ちゃん手』だって大学の友達に笑われたよ〜」


「可愛いから良いじゃん! 私この手好きだなぁ〜」


「私は祥の手の方が好きだけどなぁ。スラッとしてて指輪もネイルも全部映えそう」


何気ない会話で私達二人は自然と笑い合った。

温かくて、穏やかで…涙が出そうなくらい愛おしい時間。

途端に私は喪失感で悲しくなった。


(そうだ、私は祥との…こういう和やかな時間が好きだったんだ…)


"おばあちゃんになってもずっと一緒に居ようね"


小学生の頃に出会ってから、何気ない口約束を当然のように交わし続けた。

『彼女と共に生きる未来があったのかもしれない』という考えが頭を過ってはやるせ無さを覚える。


(あの時、死ななければ…)


__私はとっくに気付いていた。

この居心地の良い場所も、目の前に居る彼女の優しい手の温もりも……全てまがいもの。どれだけ探したってどこにも無い。

前世の世界で生きた "××" という人間は、とっくに存在しないのだと。


(ようやくわかった)


ずっと、心の中で後悔しているんだ。

兄や親友…周りの人達を置いて行ってしまった事。


(未練たらたらじゃないか…私、)


顔を下に向けて彼女に見えない角度で自嘲する。


先程の兄との会話は、きっと日常的なやり取りの走馬灯だろう。

そして今この場に居る親友もまた願望によって出来た夢といったところか。


(馬鹿だな)


和やかな今この瞬間、私の脳裏に浮かぶのはフィンレーやリアムといった今世の人達だ。

未だに前世を払拭出来ない自分の弱さに反吐が出る。


(本当に、馬鹿だなぁ……)


罪悪感や自己嫌悪で顔を歪め、悔しさで歯を噛んだ。

すると何か気付いたのか、横で座る祥が遠慮がちに声を掛ける。


「…大丈夫? やっぱり横になった方が…」


こちらを気遣う声に私はつい顔を上げた。

強張る身体が安堵で緩んでしまい、同時にまた惨さを覚える。


(情けない…)


私にとって、前世で特に忘れられない人間が兄と親友の二人だった。


兄は言葉で言い表せない厄介さがあったけど、例え歪な絆だったとしても…兄妹として一緒に生きてきたんだ。

何も知らなかった幼な子の頃のようには、もう簡単に好きにはなれない。

だけどもしまた誰かが兄を虐げたら、その時は相手に対して全力で牙を向け退けようとするだろう。

…そう思えるくらいには、その辺の人達よりは兄の苦しみや孤独を知っているつもりだから。


彼女の顔を見つめながら心の中で呟く。


(そして祥は、私があの世界で最も心を許した人間だった)


もちろん恩師にあたる保健室の先生だって大切な人の一人でとてもお世話になった人だった……でも祥は、例え一度離れたとしても、私の生き地獄を知った上で結局最後までそばに居てくれた子だから。


そこまで思い至って私は力無く顔を下げた。


(でもどうしたって、前世の世界では私は死人だ)


兄や親友と……一緒に生きていく資格を失っている。


(それにこんなの、今世の人達を蔑ろにしてる)


『ドナ』

『姉さま!』

『ドナ』

『ドナ氏ぃ』


また瞼の裏に浮かぶのはリアムやフィンレー、ステラ、セレスティア……と自分を大事にしようとしてくれている人達の顔ばかり。

私の中で、前世の人達への未練と今世の人達に対する罪悪感がせめぎ合う。


(前世ばかりに未練が行って今世の人達と向き合えてない。私は…全然向き合えてない!!)


「ねぇもしかして、悩みがあるの?」


「…どうしてわかるの?」


ふと横から聞こえてきたソプラノに私はポツリと返した。

すると祥はしたら顔で柔らかく微笑む。


「わかるよ。何年親友やってきたと思ってるの」


その人好きする微笑みを浮かべる祥に釣られて私も笑う。

彼女の無償の優しさが胸に温かく沁みてとても嬉しかった。


(この穏やかで優しい笑顔が大好きだった)


祥の問い掛けに頷き、私は友人が攫われたのも含めて今世の事を話した。


(ミア…貴女は今どれほど恐ろしい思いをしているだろう)


姿を消したミアについて話すたびに彼女の身を案ずる。


(リー様もだ。無事逃げられたかはわからない)


突然不条理な目に遭って…二人の立場を想像するだけで自分の事のように悲しくなって、胸がキリキリ、ズキズキと痛んだ。

けれどそんな私とは反対に祥は首を横に振って諭すように話し始める。


「無理だよ…危険だよ! どうしてそこまでするの? なんで、身を挺してまでそんなっ……私にはわからないよ」


親友の何気ない問い掛けに私は自然と口元が引き上がるのを感じた。

彼女の目を見ながら今迄の静かで穏やかな声から一転……皮肉混じりの冷めた声で断言する。



「こういう時は、絶対誰も助けてくれないからだよ」



普通ならこの発言を聞けば誰しも『そんな事無い』と反射的に言い返すだろう。或いはハッキリ断言する私を理解出来ず、得体の知れない存在としてただ嫌悪するのだろう。

だけど祥は何も言わずただ少し悲しそうな目で私を見ている。


親友の彼女だから包み隠さず言えた本音だった。


(こんな事が言えるのは祥だけだ)


祥だけが、唯一周囲に隠している秘密の全てを知っている理解者だから。

そして唯一私が心から信じた時期があった人だから。


思いながら言葉を紡いだ。

自然と繋いだ手が音も無く外れる。


「ねぇ祥…。貴女は、どれだけ絶望して、助けてほしくても誰も助けて貰えなかった経験がある?」


「え…?」


急な質問で戸惑う祥に対して、私は短く続ける。


「私は二回ある」



『泣くのをやめなさい』



一回目は六歳の時に男に襲われた直後、母親に見放された時。


(祥、貴女に出会えた事が不幸中の幸いだったけど、出会うまでの四年間は生き地獄だった。そして二つ目は…)



『××が辛いのはよくわかってるよ…。でもごめん。これ以上は、一緒に居られない…!』



貴女が私から離れて行ってしまった時。

恩師に出会うのはその状況からまた数年先の話だ。


(もちろん祥は何も悪くない。むしろ被害者だし、あんな状況の私から離れるのは当然のこと。そんな事で被害者ぶるなんて身の程知らずも甚だしい)


淡々と過去の出来事を受け流しながら、けれど我慢出来ず俯いて無意識にキュッと唇を引き結んだ。


(それでも…あの時まで貴女を信じて…!)


一瞬本音が溢れそうになり私はハッとする。

そして静かに小さく首を振った後、気付かれないように隠れて一呼吸置き頭を冷やす。


(……私はかつて、(さち)や先生に支えられ救われた。でも彼女達は意図して私を助けようとした訳じゃない)


祥との友情は、たまたま私の描いた絵を祥が見つけて…私に興味を持ってくれた事が切っ掛けで始まったものだ。

先生もそう。体調不良にならなければ、きっと保健室に足を運ぶことも無かっただろう。



つまり偶然が積み重なった結果……『救われた』という形を成しただけ。



襲われた直後から親友と出会うまでの約四年間は苦しいのも悲しいのも何も感じない廃人状態で、救いのためだけに死を求めた。

祥が離れて行った後も同じ。

体調を崩すまでの間は意図して人を避けてきた。気配を消して、身を硬くするのが精一杯だった。


祥はじっとこちらを見つめていた。

続きを促すように見つめるその視線からそっと前を向いて私は話し続ける。


「こっちが『助けてほしい』と思う時こそ、助けなんか絶対に来ない…!! 人は他者の不幸に、特に危機的な状況に陥っている人間には近付かない。むしろ逃げて、離れて行くものだよ。きっと防衛本能だろうね」


誰だって厄介ごとは嫌いだ。だから助けない。

そして助けようとせず終始見て見ぬふりをした傍観者達は、大体のことが終わった後で同情めいた顔をして寄ってくるのだ。


(経験的に何もかもに絶望して、諦めて……壊れて、最後に何も求めていない、空っぽになった時になって初めて、)


"まぐれで助けが来るかどうか" …それだけだから。


息を詰め、私は自分で自分の手のひらを握り締める。


「誰にも助けて貰えないのは、酷い目に遭った時以上に苦しいものみたいだよ…。少なくとも、私にとっては」


助けて貰えないのは仕方ない事だ。普通なんだ。

それくらいわかってる。




…だからこそ、強く思った。


「助けて貰えない苦しみを知っている私が、誰よりも早く動かなきゃ」




親友の顔を見ながら迷いなく宣言する。


「……」


祥は何も言わなかった。

しばしの沈黙の後、寂しげに彼女を目で見つめながら立ち上がる。

すると俯いたまま祥がポツリと言い放った。


「『メサイアコンプレックス』って知ってる?」


身に覚えのある単語に私の身体がピクリと止まる。

こちらに視線が向くのを感じなら今度は親友が言葉を続けた。


「ううん、あなたなら知ってるはずだよ…。"自分が苦しいから、代わりに誰かを救う事で救われたい" って思ってる心理状態のことなんだよね? それだけあなたはずっとずっと苦しくて辛い思いを抱えてて……ほんとは誰よりも独りぼっちが嫌で、寂しくて、悲しくて…助けを求めてる」


容赦ない指摘で思わず泣き出しそうになって顔を歪ませると、祥は私の手を取りギュッと握った。


「祥…!」


「もういいんだよ」


両手で包み、まるで祈るように祥は私の手に額を押し当てる。

そして力んで強く握り締めている私の手から一本一本の指を解きほぐすように触れるのだった。


「あなたはもう、ずっと一人で頑張ってるよ。偉いよ…本当に偉いよ…自分だってたくさん傷付いて重たいものを抱えてるのに、ほんとは大変なのに……どうして他人に無償で優しく出来るの? 優しくしようと思えるの? 私には真似出来ない!」


開いた手のひらに自分の手を柔らかく覆いながら祥は切なそうな顔で優しく微笑む。


「もう良いんだよ楽になって……今度こそ、私があなたを救ってあげる。ずっと一緒に居て、今度こそ私が守ってあげるから!!」


「…?」


祥のふとした一言で私は何故か違和感を覚えた。


(祥は… "あげる" なんて言い方したっけ…?)


刹那すぐさま思考を切り替え自分に言い聞かせる。


(いや、元々そういうところはあったか)


四人姉妹の長子ゆえの面倒見の良さや責任感の強さ、真面目さ。

何より恵まれた者ゆえの物事の見方と価値観。


(でもどことなく大人っぽくなったような…?)


そこまで考えてから私は思案するのをやめた。

寂しさを感じつつフッと微笑む。


「わかってる」


自身の手を労るように握り締める祥の手に、空いていたもう片方の手のひらを重ねて姿勢を低くする。

祥を目を見つめながら私は思っている事を打ち明けた。


「よくわかってるよ、祥。私のこの善意とか助けなきゃっていう使命感とかは…… "優しさ" なんかじゃなくて、結局私の弱さとエゴだよ。……良かれと思って動いた結果、兄ちゃんを苦しめてしまったから…そんな経験をすれば嫌というほどによく思い知らされる。自分の醜悪さも、身勝手さも…厄介さも」


「そんなっ…お兄さんの件はどうしようも出来なかったと思うよ? あなた一人の所為じゃない!」


「それも理解してる。だから、大切にしたい人はもう二度と傷付けたくない」


そこまで言ってまた立ち上がった。


「でも後悔もしなくないの」


そして逃げる事なく祥の目を射抜いて… "笑った"。


「例えメサイアコンプレックだろうとエゴだろうと関係ない。むしろ上等だよ。誰か大切な人の苦痛が少しでも和らぐのなら…」


手が震える。

しかし構わず縋るように私は彼女の手を握って吐露する。


「何もしないで傍観するより、よっぽどマシじゃない…!」


「!! っ…それは…っ」


自分の言葉で動揺する彼女に向かって頭を下げた。


「ごめん。貴女を傷付けたい訳じゃない。1ミリもそんな事は思ってない。神ではなく、親友の貴女に誓って」


(祥…貴女は私にとってただ親友としてだけでなく、お姉ちゃんとか姉妹みたいに、肉親のように慕っていた…)


目の前の親友の事を思いながらスルリと彼女の手から自身の手を自由にする。


「ごめんね…最後までわがままで、身勝手で。素直に言うことを聞けなくて」


(そして恩人のようにも思って、憧れて、盲信してるところがある。自分の意志で…ずっとずっと)


「……でも、行かなきゃ」


言い切った私はくるりと踵を返して後ろ向いた。

出口があるのかはわからない。

でも出られるはずだ。所詮私の夢の中だから。


「待って…私はまだっあなたに…!!」


祥の声に私は一度だけ振り返り彼女を包み込むように抱きつく。

背中をトントン、と軽く叩きながら今の気持ちを伝えた。


「祥…また会えて嬉しかった」


(わかってる。きっとこれは、私にとって都合の良い夢)


繰り返し釈明するが、兄とのやり取りは走馬灯で目の前のこれは…あんな最後じゃなくて『もっとちゃんとお別れを言いたかった』というただの願望であり、ただの自己満足が生んだまやかしだ。


(…でも、ただの夢であっても)


思いながらつい指先でキュッと彼女の服を軽く掴む。


「貴女が居たから頑張れた…。私はただ、あの時、」


言いながら手を親友の両肩に置き直して彼女の顔を真っ直ぐ見つめた。


よく知る懐かしい彼女の顔。

出会ったばかりの頃の幼い彼女の顔が脳裏に蘇る。

何もかもが嫌になって絶望して、一人暗くて冷たい場所で立ち尽くしていた時、



『ねぇ、××ちゃん』



二人で一緒に居た日々は、全てが煌めいていた温かく愛おしい記憶だ。


(祥…貴女は真っ暗な闇から引き上げてくれた、一条の光だった)


込み上げてきた感情から涙が出そうになったけれど、必死に堪えて微笑んだ。

きっと唇は不恰好に震えているだろう。


「貴女が私を……人間として扱ってくれて、本当に嬉しかったの…」


彼女はただ呆然と私を見ていた。

夢の中でさえ勝手な私にきっと呆れているんだ。

しかし構わず、もうこれ以上未練が残らないよう、後悔しないように、胸の奥に秘めていた感謝の想いを言葉にした。


「お別れが言えなくてごめんね…大好きだよ。本当に本当に、貴女のことが大好きだよ。貴女に出会えて、友達になってくれたから、こんな私を、……なんだかんだ受け入れて最後まで一緒に居てくれたから私は…」


溢れ出る感情でまた泣きそうになってしまい咄嗟に顔を下に向け、絞り出すように小さな声で叫ぶ。


「ここまで生きられたんだ…!!」


(例え二度と会えないとわかっていても、貴女との優しくて温かい記憶が、フラッシュバックや孤独に苦しむ私を支えてくれていたんだよ…)


結局声も指も全部震えてしまった。

でももう満足だ。


そう思った私は、またゆっくり顔を上げてにっこりと笑ってみせた。

出来るだけ、最大限の優しさを込めて。

親友へ最期の別れを告げるように。


「ありがとう。どうか幸せに生きて」


言いたかった事すべてを言い切った私は、そのまま彼女とは逆の方向へ向かって走り出す。


「嫌っ…行っちゃ嫌だよぉ…! せっかく会えたのに…ッ!!」


今正気に戻ったかのように、祥の弱々しい呟く声が聞こえた。

足が地面に着く振動と共にピキッ パキッ と白い世界がひび割れ壊れて行く。


「待って!! 行かないで!!!」


「!!」


思いがけない悲鳴のような彼女の声で私は足がもつれて顔から転んでしまった。


(動揺しすぎだ馬鹿)


まだ息は浅く早い。

未練を断ち切るように頭をぶんぶん振ってから、震える足を気力で動かしまた立ち上がる。


その瞬間、気付けば腰まで届く金の髪が視界に入った。

服装も全部全部変わっている。前世の物から今世の物へとすべて。

膝から手を離して…… "エキドナ" はまた駆け出すのだった。

そんなエキドナに祥は何ふり構わず大声を出し続ける。


「行かないで!! 行かないでよぉ!! また離れ離れなんて…会えなくなるなんて嫌だよぉ…! お願い行かないで!! み…っ」





「______!!!!」





親友が、私の名を呼ぶ。何度も何度も。

目立つのを嫌う子なのに大きな声で。


(その名前で呼ばれるの、久しぶりだなぁ…)


なんて都合の良い夢なんだろう。

そのまま振り返らず走り続ける。


(ありがとう、祥)


貴女に出会えた事が、私の前世で一番の幸福だったよ…。


________***


ハッと気付くとあたりは一面の暗闇だった。


(多分まだ覚醒していない。身体が鉛みたいに重い、寒い。きっと意識を失った状態で、少しずつ浮上しているんだ)


けれど目覚める前の段階から、エキドナは覚悟を決めていた。


(未練たらしく泣くのはもうやめよう)


今度こそ自分の意思で、自分の足で。


(動け。目を覚ませ…今度こそ、守る!!)


"ドナ…"


気付けば誰かの声が僅かに聞こえてくる。


"ドナっ…"


徐々に聞き慣れた声が外側からこちらに向かってやって来るのを感じた。

そして……



「ドナぁ…お願いだから目を覚ましてよぉ…ッ!」



エキドナは力無く薄く目を開く。

ぼやけた視界に映るのは弱々しい声と共にボロボロと大粒の涙を溢すミアの姿だった。


目元に、ぽたぽたと水滴が当たる感触がした。


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